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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 4章《残虐の女王が求めるもの》
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179話【望んでいたもの】



(のぞ)んでいたもの◇


 (さわ)がしい音が宿の入口で止まると。

 外の人だかりは(うし)のように()っていく。

 人が(はな)れる気配からそう(さっ)し、フィルヴィーネはベッドに腰を下ろしたまま、先程のリザの言葉を脳内に入れ。待つ。


 すると、()ぐに足音はこの部屋の前で止まり。

 コンコン――。ノックされる扉に向かって、フィルヴィーネは返事をする。


「……入れ」


 テーブルの上では、リザが直立(ちょくりつ)で扉を見つめている。

 リザも分かっているのだ、扉の向こうにいるのがエドガーだと。


「――失礼します……あ、良かった。起きてた」


 急ぎの用があるのを隠しもせず、エドガー・レオマリスは(ほほ)一筋(ひとすじ)の汗を流してやって来た。

 ベットに座ったままのフィルヴィーネも、その様子に合点(がてん)がいく。


(この様子……外の(さわ)がしさが原因(げんいん)か……先程(さきほど)音も(おさ)まった……音の反響と規模(きぼ)振動(しんどう)からして真下……来客か。まったく、魔力がないこの国の人間を感知する事が出来ない以上、急ぎ感知系の解析を進めたいところだが……)


 馬車の車輪と地を()み鳴らす馬蹄(ばてい)の音、(かす)かに伝わる微細振動(びさいしんどう)で、フィルヴィーネはこの場に来客が来たことを推測(すいそく)する。

 遠くの(さわ)がしさは分からなかったが、近くまで来た車輪の音とエドガーの緊張感から、それだけの人物が来たことが分かる。


「どうしたエドガー……(われ)に何か用か?」


 半分(とぼ)けて、フィルヴィーネは笑いながらエドガーを見据(みす)える。

 その黄色い(ひとみ)は光を(うつ)しているが、反射して映り込むエドガーにはとても心地の悪いものだった。


「え、えっと……この間、この国の王女殿下(でんか)がいらしていた事、覚えてますよね」

(た……(ため)されてる……?多分フィルヴィーネさん、大体の事は(さっ)してる)


「うむ。記憶にある……ローマリア、だったか。それが来ているのだな?」


「はい」


「で――だ、(われ)を呼ぶ理由はなんだ?大方、先のロザリームへの依頼(いらい)ではないのか?……それを抜きにしたとしても、(われ)を呼ぶ理由は読めぬが……」


 フィルヴィーネは、関係性の浅い自分は呼ばなくてもいいのでは?と言いたいのだろう。

 あったとしても、オマケ程度だろうとも思っている。その上で、エドガーに問う。


「それでも(われ)が同席する。しなければならぬ理由(わけ)を口に出来るのか?」


 しかしフィルヴィーネの予想に反して、エドガーは戸惑(とまど)う事を見せずに、不思議(ふしぎ)そうに首を(かし)げて言う。

 まるでもう、答えは出ていると言わんばかりに。


「――理由(わけ)、というか……当然のことだと思ってます」


「ほぅ。その根拠(こんきょ)は……?」


根拠(こんきょ)……ですか?」


「そうだ。根拠(こんきょ)だ……(われ)納得(なっとく)させてみよ。でなければ(したが)道理(どうり)はないな」


 冷たく言い放つフィルヴィーネ。

 それは理屈(りくつ)ではなく、この少年を真に(あるじ)と認めるために。


「そんなことなら簡単ですよ――仲間(・・)ですから」


「……」


 エドガーの言葉に、フィルヴィーネは目を見開く。

 リザですら口を開けて(おどろ)いている。


(仲間……?今、仲間と言ったのか?(われ)を?この“魔王”を?)


 まさかエドガーが、笑顔でそんなことを言うとは(つゆ)とも思わず。

 フィルヴィーネは少しだけ混乱気味に右手で制し、左手でこめかみを押さえながら言う。


「――エドガーよ……お(ぬし)の中で、(われ)は仲間なのか……?契約しただけの、都合(つごう)の良い(こま)ではなく?」


 フィルヴィーネの言葉を一瞬分からなそうにするも、()ぐに言葉の意味を理解して、戸惑(とまど)い、追加できょどる。


「こま?――こ、(こま)!?とんでもないですよっ!どちらかと言えば僕が(こま)みたいなもので、フィルヴィーネさんはローザやメルティナよりも強くって……その――き、綺麗(きれい)だし」


 一心(いっしん)にフィルヴィーネを見据(みす)え、エドガーは視線(しせん)()らすことなく、真摯(しんし)に答える。

 その答えはとても幼稚(ようち)で浅く、青二才(あおにさい)の人間が考えるようなものだ。と、長年生きて来たフィルヴィーネは(とら)えた。


 ――だが。


(……(あたた)かい。心が、温盛(ぬくもり)に満たされる……“神”には無い感情。“魔王”でいる時にも持ったことはないものだ……仲間、か)


 満たされる心の隙間(すきま)

 覚えの無き感情。

 ――仲間。


 それは、孤独(こどく)であったフィルヴィーネには無いものであり。

 必要なかったものだ。

 数えきれない程の(いと)しき部下はいても、心から信頼(しんらい)する仲間などいなかった。フィルヴィーネに取って、それは感知しない言葉だった。


 それを、こんな少年に言われるとは。

 気恥(きは)ずかしさなど一切(おもて)に出さず、フィルヴィーネを見ながら答え続ける。

 それ以降の言葉など、フィルヴィーネの頭には入っていないのに。


 フィルヴィーネは、その様子を笑みを浮かべながら見聞(みき)きする。

 しかし、エドガーの後ろから来る気配(けはい)に、疑問符(ぎもんふ)を浮かべて(のぞ)く。

 エドガーは気付いていない。(いま)だに答え続けていて、いろいろ言葉を(なら)べつくしてフィルヴィーネに答えていた。


(む?……ロザリームか?)


 部屋にやって来たのは、向かいの部屋に住む住人(じゅうにん)

 ロザリーム・シャル・ブラストリア。同じ世界から来た先輩(せんぱい)だ。

 その先輩(せんぱい)は、口元に人差し指を()わせて「し~」と合図(あいず)する。


(……やれやれ、ようやく部屋から出て来たかと思えば……意地の悪い奴だ)


 そう思いながらも、フィルヴィーネはエドガーの後ろに立つローザの言う事に(したが)った。

 そしてエドガーは、ローザに気付かぬまま言葉を続ける。


「後は……えっと……優しい?し……格好(かっこう)いいし……」


 そこは疑問形(ぎもんけい)にしないでと、リザの視線(しせん)を受けるも、エドガーは必死過ぎて気付かない。当然、後ろにいるローザにも気付かない。

 ()くす言葉が少なくなって来て、口籠(くちごも)るエドガーに、とうとうローザが。


「――胸も大きいし?」


 手助けするようでそうではない、余計(よけい)な一言だった。

 そしてそんな罠に、エドガーはあっさりと引っ掛かり。


「そう!胸も大きい……――って!ええっ!?」


 突然背後からかけられた声に、エドガーは()り返る。

 部屋の入口に身体を(あず)け、うんざりした顔でこのやり取りを見ていたらしい赤髪の女性。ローザが居た。


「ふふふ……やっぱり胸が好きなのね、キミは」


 (あき)れるフリをして、ローザは笑う。

 そんなローザにフィルヴィーネは。


「うむ。ロザリームか、其方(そなた)がこちらの部屋に来るとは……しかし随分(ずいぶん)と引き(こも)っていたな。もう良いのか?」


「ええ」


「――ロ、ロローザ!?ち……が、ぅ……」


 何だか久しぶりに顔を見た気がするローザに、エドガーは(おどろ)いている。

 否定(ひてい)したくても、(うそ)()けないエドガーはどんどん小声になっていた。


「だれがロロローザよ……全く。やっと体調も戻った(・・・)のよ。それにしても……はぁ。キミは、いつもそんなことを()ずかしげもなく言うわね……」


 ラフな格好のままだが、ローザは聞いていたらしい。

 そう言えばドアを閉めていなかった。


「……ええっ!?――い、いや、でもローザはどうして?」


 出会い(がしら)にいきなりそんなことを言われて、戸惑(とまど)いを隠せないエドガー。

 こんなことをしている場合ではないのだが。


「……どうして、ね……それは――こ・れ・よ!」


 エドガーの言葉に、ローザは部屋の外にいるもう一人(・・・・)の首根っこを(つか)んで引きずり出した。


「――ぬぁあっ!な、な、何を……」


 普段から着ている和服の襟首(えりくび)(つか)まれて、現れたのはサクヤだ。

 気まずそうにエドガーから視線(しせん)()らす。


「……サ、サクヤ?」


「そ。この子がね、私の部屋に入り込んで来たのよ、気配(けはい)を消してね――おかげで灰にするところだったわ」


「……す、寸前(すんぜん)であったぞ」


 よく見れば、サクヤのポニーテールの毛先が(ちぢ)れていた。

 それだけで「ああ、焼かれそうになったんだな」と理解できた。


「それで話を聞いてみれば、ローマリアが来たらしいじゃない。引き(こも)ってもいられないわ……私は、私のやるべきことをしないとね」


「……わたしもそう思って部屋に入ったのですが――まさか声をかける前に火かけに会うとは……」


密室(みっしつ)にどうやって入って来たのか。私はそっちの方が気になっているけれどね……」


 首根っこを(つか)まれるサクヤは、ローザの視線(しせん)華麗(かれい)?に回避し、野生動物の(ごと)く一回転して(だっ)する。

 どうやら初めから抜ける事だけは出来たらしい。

 そしてシュン――と、ローザの手は空を切り、そのままサクヤは消えた。


「――ぇっ……!」


 空を切る(みずか)らの手を見て、ローザは(おどろ)く。

 そしてサクヤは【心通話】で。


<わたしは先に行くので、(みな)を待っています。サクラも待っていますよ、主様(あるじさま)っ!>


 エドガー、ローザ、フィルヴィーネの三人に言葉を残して。

 (かすみ)のように、【忍者】サクヤは消えていった。


「……ん、んんっ!……私たちもいくわよ、エドガー」


 空を切った右手を誤魔化(ごまか)すように口元に持っていき、(せき)ばらいをして、エドガーに問い掛け部屋を去っていく。


「え……う、うん」


 答えるも、エドガーの視線(しせん)はフィルヴィーネに。

 まだ、答えをフィルヴィーネから返してもらっていない。


「……仕方が無い。いいかエドガー、足音の数から考えても、(われ)は行くべきではない――だが、まぁ。話は聞こう」


 現状を考えて、初めから話し合いの場に行く気はなかった。

 だが【心通話】で聞いてやるくらいはいい。そう言いたいのだ、この“魔王”様は。


「ふふふっ!――フィルヴィーネ様は、心の会話で聞いてやるといって――ぴゃっ!?」


「――言うな……この大馬鹿者(おおばかもの)がっ……」


 (にぎ)られるリザ。


「――ぴぎゅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」


 完全に巨人に(つぶ)されそうになる小人だった。


「フィルヴィーネさん……ありがとうございます。【心通話】送りますから!」


 笑顔でそう言い残して、エドガーはローザを追った。

 ()ぐに合流して、笑顔になっている筈だ。


「まったく……人間と言うものは本当に読めぬな……――仲間か……そう言ったな、あの男は」


「は……はい、フィルヴィーネ様……その、そろそろ離していただけますか……ぐ、ぐるじいのでずが」


「……仲間……仲間、か……」


 何度も仲間(・・)という言葉を()り返して、《残虐(ざんぎゃく)の魔王》フィルヴィーネ・サタナキアは、人間(エドガー)の心の(あたた)かさを知ったのだった。


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