176話【ショック!】
◇ショック!◇
装甲車【ランデルング】を再び操縦したローザ。
帰り道は更に慣れた様子で、荒野のデコボコ道など目にもくれず走らせた。
その結果、帰った時にはほぼ全員が車酔いしてグロッキー状態だった。
中でも、運転していたローザが一番酔っていた。
運転している間は、それはもう気持ちよさそうにしていたのをサクラが目撃しているが、王都北門まで辿り着き、【ランデルング】から降りた瞬間に。
「ぁぁ……私はもうダメだわ」と、音を上げた。
自分の魔力も【消えない種火】の魔力も回復しきっていないからか、ローザの顔は青ざめていた。
今までにないくらいに具合を悪そうに、果てには「もう二度と運転はしない」と言い出すくらいには駄目だったらしい。
しかしサクラは「このタイプは、また懲りずに運転する」と言っていたので、きっと大丈夫なのだろう。
そして、全員で帰宅し――ローザが回復するまで話しは待つことになったのだが。
なんと――十日だ。
十日間、ローザは寝込んだ。
フィルヴィーネとメルティナが、魔力以外の、何か別の原因かもしれないと、わざわざ調べてくれる事までして検査したが、診断結果は、重度の車酔い。フィルヴィーネもメルティナも、ただそれだけしか言わなかった。
これに一番ショックを受けたのは、勿論ローザ本人だとエドガーは感じたが。
多少回復したと思った数日前は、恥ずかしがって部屋から出てこなかった。
その間の数日で、フィルヴィーネをメイリンに紹介したり、リザは“悪魔”だけど害はないと必死に説明したり、マークスにエドガーが睨まれたりと、いろいろな事があったのだが。
ローザはまるで反応しなかった。
出てきたのは、サクヤと仲良くなったルーリア・シュダイハが【福音のマリス】に遊びに来た時に、散々騒いだお陰だ。
それを見たサクラが「天照の天岩戸みたいだね」と、言っていたが、エドガーはさっぱり分からなかった。
どうやらサクラの世界の“神”様のお話らしい。
エドガーは興味を示したが、サクラが「から元気で人の話を聞くのはよくないよ~」と説明を投げた為、お預けとなってしまったのが痛い。
本当は、ローザが元気がない事に対して、自分自身も戸惑っていることを知られたくなかっただけなのかもしれないと。サクラには気付かれていたのだと、エドガーは思った。
帰宅して既に十日。その間にフィルヴィーネとリザの部屋は用意された。
まるで義務かの様に、メイリンが頑張ってくれた。
申し訳ないと心底思う。
因みにフィルヴィーネとリザの部屋はローザの向かい側、201号室だった。
202号室はローザ、隣の204号室はサクラとサクヤ、さらに隣の206号室はメルティナとなっている。
分かりにくいが、最奥の角部屋が201、そして向かいが202号室。
フィルヴィーネの向かいがローザの部屋となり、サクラ達の部屋である204号室の向かい側が、203号室、空き部屋となっている。
「分かりにくい!なんで数字で並んでないの!?」とは、サクラが“召喚”されて初日に言った言葉だったりする。
順番に数えていくと、左201、203、205、207、209となり、右202、204、206、208、そして通路となっていた。
これは二階で、一階の客室も同じ仕組みになっているのだが、誰だこの構図で部屋割りしたのは――エドガーの母親。マリスだった。
客がよく入っていた昔も、「あれ?201の隣が202じゃないの?」と変な苦情が入ったことがあった。
その時マリスは「面白いでしょ?」と、ケラケラ笑っていた。
それを、エドガーはサクラのリアクションを見て思い出していたりした。
◇
そんなこんなで、フィルヴィーネとリザが【福音のマリス】に住み始めて、あっと言う間に十日が経っていた。
【火の月64日】、【ルノアース荒野】でローザ、メルティナがフィルヴィーネと戦ってから十日。
この間にもいろいろあるのだが、ローザに言えない事だったり、エミリアやアルベールが未だに来なかったりと、時間は本当に一瞬のようだった。
因みに、本当に因みになのだが。
この十日間の間に、宿屋【福音のマリス】に客は一人も来ていない。残念。
そして次の日。
王城からの使者が来るまで、ローザは引きこもりと化していたのだった。




