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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 4章《残虐の女王が求めるもの》
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173話【一日の終わり】



◇一日の終わり◇


 エドガー達に少し遅れて、フィルヴィーネ達が【ランデルング】に乗車して来た。

 しかしその時見たものは。サクラの胸に飛び込むリザと、そのリザをよしよしと()でるサクラ。

 そして「冗談だよ」と(なご)やかに笑うエドガーの姿だった。


「……何をしているので――あ、いえ……なんでもありません」


 一番初めに乗り込んで来たサクヤは、三人の様子を不思議(ふしぎ)に思いつつも、もしかして聞いてはいけない事を聞いたのではと、【忍者】の(かん)を働かせて質問を(みずか)らシャットアウトした。空気を読んだのだ。


「今、ふいるび……ひるびぃ……“魔王”殿が、ローザ殿メル殿を連れてまいりますので」


 フィルヴィーネと言う事を(あきら)めた。

 むすっと、言いにくい名前に(うら)めしそうにするサクヤ。

 サクラは「慣れなさいよ……」と言いたそうにサクヤを見ている。

 そして、その言いにくい名前のご本人は。


「おいこらっ……シャキッとせぬか!お主等(ぬしら)……」


 肩にローザを(かつ)ぎ、小脇にメルティナを(かか)えてやって来た。

 随分(ずいぶん)と面倒見のいい“魔王”様だ。


「……荷物(にもつ)の様にするんじゃないわよ……」

「……想定外(そうていがい)です……」


「――なら歩けっ!!」


 メルティナを降ろして、空いた手でローザの尻を叩く。

 ペッシーーーン!と気持ちのいいくらいの音を鳴らした。


「――きゃ!……ちょ、ちょっと!何するのよっ!?」


 ローザらしくない「きゃ」と言う可愛(かわい)らしい悲鳴に、エドガーは意外そうにローザを見る。サクラやサクヤも同じく見ていた。


「――ふんっ。尻の青い小娘が……色気(いろけ)づくのは早くはないか?」


「あ、青くないっ!!」


 フィルヴィーネに取っては誰もがそう取れるだけで、ローザの尻が青くない事はエドガーも知っている。見てしまっているから。


「い、いいから降ろしなさいよっ!いつまで私を……――わっ!いったぁ……何するのよっ!!」


其方(そなた)が降ろせというから……」


 ドスン――と、尻から落ちたローザ。

 隣にはメルティナがへの字に()れ曲がっている。


「……想定外(そうていがい)ですね……」


「――い、一緒にしないで」


 二人は魔力の大半を使ってしまい、まともに動けないでいるようだ。

 その証拠(しょうこ)に、ローザは汗を()いているし、メルティナの背の《石》は(かがや)きを失っている。

 そんな二人を見て、エドガーが近付き手を差し伸べる。


「大丈夫?二人共……」


「マスター……お帰りなさい」


 自分で置いて行っておきながら、そんな事を言うメルティナ。


「エドガー、わ、私は平気だから!」


「あはは……無理があるよ、流石(さすが)に……ほらっ」


 ローザの強がり?を笑顔でスルーして、手を(つか)んで起こす。

 立ち上がりは出来なかったが、ローザのいい香りが(めず)しい汗と混じって、エドガーの鼻腔(びこう)をくすぐった。


「もう……本当に平気なのに」


 ローザの顔が赤い。それを見ただけで、エドガーも赤くなる。

 【消えない種火】の内包(ないほう)された魔力を失っているから、ローザの《石》の加護(かご)も無くなっているのだ。


「……う、うん。それなら、いいんだけど……ははは」


 どうしても()れてしまう。普段は見れないローザの姿に。

 しかし、そんなエドガーの緊張を打ち消すかのように。


主様(あるじさま)……」


「うわぁっっ……!サ、サクヤ?」


 いつの間にか隣にいるサクヤ。

 視線(しせん)はローザとメルティナを見ているが、声はエドガーにかけられている。


「“魔王”殿の準備が(ととの)いましたゆえ……お話するとお聞きしましたが」


「……あ。そ、そうだね!ありがとう」


 エドガーは、さささっと移動する。

 どことなくサクヤの雰囲気(ふんいき)に押されてしまった。


「あ、あの子……私を威圧(いあつ)してきた……?というか、胸を見てた?」


「ワタシも感じました。その……臀部(でんぶ)に……視線(しせん)を」


「な、何を考えているのか時々分からないわね……サクヤは。はぁぁ」


 ため息を落として、ローザはメルティナと共に休む。

 (ざつ)(あつか)いに怒りはしたものの、取り()えず外に放置されなくてよかったと、心から思ったのであった。





 エドガーがフィルヴィーネとサクラが座る座席(ざせき)に向かうと、ダルそうにリザをむんずと(つか)む“魔王”様がいた。


「え……え~っと……」


 リザは泣いていた。しくしくと、フィルヴィーネの手を()らして。

 どうやら、エドガーがいないほんの少しの間に、相当怒られたらしい。

 何に対して怒られたのかはエドガーが知るところではないが、これで少し物を大切にしてくれれば、それでいいかとエドガーは思った。


「――おおエドガー。話だがな……今日はもうよそう」


「――えっ……はぃ?」


 つい変な返事になった。


「……はぁ~」


 サクラも、事前に聞いたのだろうがため息を()いている。

 どういう事?とエドガーはサクラを見るが「あたしに聞かれても」と降参(こうさん)のポーズ。


「フィルヴィーネさん……話ですけど、どうして急に止めるなんて……」


 夜の戦闘の前にエドガーは、フィルヴィーネから話があると持ち掛けられていた。

 先程も、自分から話しをしようと言ったにもかかわらずだ。

 エドガーはてっきり、それに合わせて戦闘も終わったものと思っていたのだが。


「疲れたからな。今日はやめだ」


 フフンと、胸を張る。

 いや、そんな晴れ晴れした顔で言われても、エドガーも納得(なっとく)できないだろう。


「理由はないんですか?」


「そうですよ。理由……せめていい訳でもいいですから、聞かせてもらわないと納得(なっとく)できないですよ?」


 言い出しっぺのフィルヴィーネが、突然止めると言い出す事は想定(そうてい)していなかった。

 サクラが、いい訳でもいいから聞かせろとフィルヴィーネに言う。

 そしてそのフィルヴィーネは。


「――言ったであろう。疲れた(・・・)のだ」


「は?」

「え?」


「ん?」


 それだけ?それだけの理由で、あんなに神妙(しんみょう)な感じになっていたのを中止にするのかと、エドガーとサクラは顔を見合わせる。


「……」

「……マジですか?」


「フィルヴィーネ様……流石(さすが)に、私達“悪魔”でも……今の彼らと同じ顔をしますよ」


 ぽかんとするエドガーとサクラ。

 リザが「この感覚は共通だ」と言ってくれなければ、“魔王”だからと変に納得(なっとく)してしまうところだったかもしれない。


「フハハハハハ!(われ)は疲れたのだ。あの二人が思ってたよりもやりおるからな……今日は随分(ずいぶん)と楽しませてもらったぞ……」


 豪快(ごうかい)に笑うフィルヴィーネは、背中合わせで休む二人を見ながら、最後は優しく微笑(ほほえ)む。まるでやんちゃな子供を見守る、母親の様に。


「フィルヴィーネさん……分かりました。今日は終わりにして……一度帰ってから話しましょう」


 エドガーも――フッと笑い。座席(ざせき)に着くとリザがビクッとする。

 あわわと(ふる)えるリザは、かなりエドガーに恐怖心を持ったようだ。


「うむ。いい判断だなエドガー……言い出した(われ)がこんなことを言うのもなんだが、本当に疲れていてな。正常な受け答えをする自信がないのだ」


 それだけローザとメルティナが善戦(ぜんせん)した、という事か。

 しかし今日を終わりにするという事は、寝るという事なのだが。

 それを初めから知っていたかのように、サクラが言う。


「……寝床(ねどこ)はともかく、寝具(しんぐ)は無いよ?」


 この装甲車【ランデルング】は、サクラが設計(せっけい)した。

 内装(ないそう)はキャンピングカーのようになっていて、実は二階もある。

 さっきの戦いの(あいだ)に使えるようになった設備(せつび)は、水が出るようになったシャワールームだけだ。


「そのまま寝ればいいではないか」


「いやいや、痛いですよ……少なくともあたしは嫌です」


 床で寝ると言い出す“魔王”様にサクラが否定(ひてい)する。

 それだけは断固拒否(だんこきょひ)だ。


「でも……帰ろうにも、ね」


 帰路は勿論(もちろん)、また運転して帰るしかないのだが。

 エドガーは、ぐったりしているローザとメルティナを見る。


 ローザとメルティナは魔力不足。フィルヴィーネに転移(てんい)を頼もうにも、本人が「疲れた」と言っている以上、恐らく【ランデルング】を(ふく)めて転移(てんい)するには魔力が足りないのだろう。

 ならばどうするのか。答えは一つしかなかった。

 サクラには申し訳ないが、今は。


(ゆか)で寝るしかないね……」


「えぇぇ……」


 こうして、長い一日が終わる。

 新たな異世界人、フィルヴィーネ・サタナキアに全員が振り回されて、大変精神を摩耗(まもう)して、あっと言う間に就寝(しゅうしん)するのだった。


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