表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 4章《残虐の女王が求めるもの》
186/383

172話【リザの恐怖体験】



◇リザの恐怖体験(きょうふたいけん)


 冷えて来た星空の下で話し合いをするのは流石(さすが)にまずいと思ったエドガーは、(まき)を追加しようと焚火(たきび)に向かうが、サクラがエドガーを止めた。

 何やら考えが、というか今日をそろそろ(しま)いにしたかったらしい。


「――エド君……もう遅いし、取り()えず車……【ランデルング】の中に行こうよ。ほら……ローザさんとメルも休ませないとだしさ」


 そう言うと、サクラは後方を指差す。

 そこにはグロッキー状態のローザとメルティナが、背中合わせで(たましい)を口から出していた。


「あ、あぁ……そうだね。ごめん……気を回せなかった。ありがとう」


 別にそういう意味じゃないよと、首と手を()るサクラ。


「あぁ違う違う、違うの……あたしが休みたいだけだから、それだけだからっ」


 (ほほ)を赤くして目線(めせん)()らしながら言う。

 どう見ても気遣(きづか)いだろう。そんなに()れながら言うと、余計(よけい)にそう取れてしまうのだが。


「そ、そっか……とにかく分かったよ。流石(さすが)に今から帰ることは出来なさそうだし、今日は馬車……じゃなくて【ランデルング】で寝泊(ねと)まりするしかないね」


 夏前とは言え、荒野の夜は冷える。

 二人で車内に入ろうと歩き、鋼鉄(こうてつ)の二重ドアを開けた。

 まだ何の設備(せつび)もない車内の、どこで寝ようかと考えを始める。

 すると――カツン、カツンと、【ランデルング】の車内から聞こえる音が耳に入る。


「……ん?」


 カツーン。カラカラ――。

 落ちて。転がる。小さなもの。

 それはどう聞いても、《石》の転がる音だった。


「どしたの?」


 エドガーの腕の下から顔を(のぞ)かせるサクラは、聞き耳を立てるエドガーの(そば)で、手を耳の後ろで開く。

 「聞いてますよ!」と主張(しゅちょう)するポーズで。


「……もしかして、リザさんかな……?」


「あ~多分……リザちゃん戦闘にもいなかったし、あたし達とも一緒じゃなかったから」


 フィルヴィーネさんが怒ってたと聞いて、エドガーは笑う。


「大変だねっ……」


「だねぇ」


 二人はこっそりと車内を進み、《石》が入れられた木箱を視認(しにん)すると、顔を見合わせる。


「……めちゃくちゃ落ちてるんですけど」

「……雑過(ざつす)ぎだよ……リザさん」


 見ている今も。

 木箱の中から――ぽいーん、ぽいーん。と《石》が勝手に出て来ているかのようだ。

 大切な《石》の(あつか)いに、顔を(おお)うエドガー。

 悲壮感(ひそうかん)(ただよ)わせて、ゆっくりと音をたてぬように歩いていく。


「――ねぇエド君、どうす――いっっ!?」


 サクラの横をすーっと横切るエドガーの顔は、初めて見る顔だった。

 感情の()らない死んだ目の様な、暗い影を落としたそんな顔。

 優しく他人(たにん)思いの、ちょっとむっつりな少年らしからぬ、怖ーい雰囲気(ふんいき)だった。


「……あ~あ。あたし知らないよ……?」


 もうリザがどうなろうとも知った事ではない。

 エドガーが大切にしているものをぞんざいに(あつか)ったリザが悪い。

 そう思って、サクラは見ないフリをした。





 木箱を(あさ)るリザは、自分の力を取り戻す為の《石》を探していた。

 都合(つごう)のいい事に、ここには大量の“魔道具”、《石》が山ほどある。

 小さいものから中程度(ちゅうていど)のものまで、買えばいったい(いく)らになるんだと思わせるほどの宝の山だ。

 そんな《石》の所有者(しょゆうしゃ)が後ろに迫っている事すら気付かずに、リザは物色(ぶっしょく)を続ける。


「――う~ん。これも合わないわね……これもダメ……前提(ぜんてい)として、サイズが合わないのが悪いわねぇ……もう少しまともなものは無いのかしらっ……全く!」


 《石》を両手で(かか)え、魔力の波長(はちょう)を確かめる。

 それが何度も合わずに、力任せに《石》を投げ捨ててはを()り返す。

 この木箱に入っている《石》の山は、【消えない種火】や【朝日の(しずく)】、【闇光瞳(あんこうどう)】。

 【禁呪の緑石(カース・エメラルド)】、【女神の紫水晶(ネメシス・アメジスト)】などとは、確かに比べる事が出来ないほど品質(ひんしつ)が良くない。

 それでもローザとフィルヴィーネの世界では、《魔法》の触媒(しょくばい)に使われるような高価(こうか)な物ばかりだった。

 それを「もう少しまともなものは……」と言えるリザの切迫(せっぱく)(うかが)える。が、それは所有者(しょゆうしゃ)の少年には関係のない事だ。


「さ~て、次は……ん?なにかしら……急に暗くなって。明かりが落ちたの?」


 車内にスッと影が落ち、リザの入っている木箱全体を(おお)った。

 そして何気(なにげ)なく上を見る。


「――やあ、リザさん」


「……。……。……――ひぃぃいいいいいいっっっ!?」


 一瞬の硬直(こうちょく)の後、トスンと尻餅(しりもち)を付くリザ。

 オレンジの髪が、ばさっと遅れて落ちてくる。


「あわ、あわわわわわわわっ……!」


 髪の毛は枝垂(しだ)れるように(ほほ)にかかり、冷汗(ひやあせ)()れた肌に張り付いた。

 顔面は蒼白(そうはく)。どっちが“悪魔”なのか分からないではないかと、(さけ)びたくなった。

 天候(てんこう)も悪くないのに、まるで雷が――ピシャっ!と稲光(いなびかり)を走らせたかと思うほどに、エドガーの背景が()れている。

 怒っている。と誰でもが理解できるレベルで。


「――ぁぁあのぉ、私……《石》を……ですね……」


 恐怖で、(はる)かに年長者(ねんちょうしゃ)のはずのリザが敬語(けいご)になる。

 

「――うん。何かな?聞くよ。話し……まだフィルヴィーネさんも来ないしね――そう、時間はたっぷりある……分かるかな?」


「――はわわわわわっ……」


 ブルブルと震えるリザ。

 正直、それほど怖いかと言われればそうではないかもしれない。

 だが、普段から大人しいエドガーが、大切にしているコレクションがぞんざいな(あつか)いをされている所を目撃したのだ、大人しい人ほどキレやすい的な何かが、そうさせているのか。


「……ほらこれ……傷がついてる」


 エドガーが(ひろ)い上げた《石》は、(はし)っこがほんの少しだけ欠けていた。

 宝石のオパールだが、小石と呼べるサイズの大きさで、先程リザが投げ飛ばした物だった。


「これ……リザ(・・)がやったのかな。うん、そうだよね……知ってて聞いたんだ。投げるところも見てるから……で、どうしてこんなことをしてるのかな?――ああいや。別にいいや……――許す気、ないからね……」


「――ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃいっっっっ!!」


 リザは、この時のエドガーの笑顔を忘れないだろう。

 優しさの裏に垣間(かいま)見た――狂気(きょうき)


 エドガーが本当にキレた時。力で屈伏(くっぷく)させるのではない、精神的に追い詰めるタイプの、怒らせてはいけない人だと異世界人の中で広がることになる。

 そして「恐ろしいものを見た」と、(のち)のリザは語るのだが。

 それはまた、別のお話なのでした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ