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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 4章《残虐の女王が求めるもの》
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167話【紫の月】



◇紫の月◇


 グッチャグチャになった“魔王”フィルヴィーネ・サタナキア。

 その身体は細切(こまぎ)れとなり、(うごめ)く肉片が乾燥(かんそう)した大地を()っていた。


「――これで死んでないとか……本当に“魔王”と言うのは規格外(きかくがい)ね……」


 その地を()う肉片を見ながら。

 この惨状(さんじょう)(まね)いた張本人、ロザリーム・シャル・ブラストリアことローザが言う。

 しかし、そのローザの心の中に語りかける声が。


<お前がここまで(われ)(はい)したいと願っていたとは、思ってもいなかったぞ……>


「――!?……【心通話】?」

<……これで話せる精神があるの……?>


<“神”や“魔王”は、“精霊”と同じ精神体(スピリチュアル)でもあるからな……肉体が(ほろ)んでも生きていくことは出来る。だからその証拠(しょうこ)に……《石》は焼けずに落ちているであろう?>


「……そうね」


 ローザは見つけた。肉片にくっつく【女神の紫水晶(ネメシス・アメジスト)】を。

 光り(かがや)くその《石》は、明滅(めいめつ)して何かを知らせようとしているようだ。


<これが本体(・・)とも言えるからな。我等(われら)は……>


 このフィルヴィーネの言い分には、ローザも納得(なっとく)するところがあった。

 ローザも、自分は【消えない種火】がなければただの一般人だと、そう思っている。


前提(ぜんてい)で言えば……この特殊な《石》は壊せない(・・・・)ものね>


<そういう事だ。其方(そなた)が【女神の紫水晶(ネメシス・アメジスト)】を壊そうとしても、無理な話なのだよ……――ただ、今の戦闘は(われ)の負けでいい……見事な戦略(せんりゃく)だったぞ>


 初回の戦闘を()て、全てを今の戦闘に(そそ)ぎ込んだ。

 フィルヴィーネは見事にローザの術中に(はま)り、ローザが苛立(いらだ)っていると言う錯覚(さっかく)を起こした。

 演技を(つらぬ)いたローザは、休憩中の食事や先程の話し合いですら、フィルヴィーネに敵意(てきい)()き出していたのだから、余程(よほど)周到(しゅうとう)さだと言える。


「<で、これからどうするのよ……?戻るのなら早く戻りなさいよ>」


 観戦者(かんせんしゃ)のサクラとサクヤにも聞こえるように、声にも出して(つた)える。

 もしかしたら、フィルヴィーネが死んだと思っている可能性もある。

 念のためだ。


<まぁ……あの子達も《石》の共鳴(きょうめい)感知(かんち)を覚え始めているし……死んだとは思わないかもしれないけれど>


<うむ。(われ)も戻りたいのは山々なのだがな……>


<……なによ?>


<……少し待て。月が出る(・・・・)


 ローザは空を見上げる。


<月?>


 夜なのだ。月などもう出ているだろうと思い、不審(ふしん)なものを見るように目を細めて、雲に隠れている月を待つ。


「……なっ!――()が!」


<――やはり、何百、何千年()とうと……月は変わらぬな>


「<そう言えば聞いたことがあるわ……【紫月(しづき)の神ニイフ】は、死に(ひん)すると……妹神(まいしん)である【月光の神ルナリア】の力を借りて、その命を回復させると……>」


 ローザが学んだ、師匠(ししょう)からの教えだ。


<そう――(われ)加護(かご)は……“魔王”になっても変わらぬ>


 フィルヴィーネが“神”だった頃。

 その加護(かご)慈悲(じひ)(あふ)れたものだった。

 瀕死(ひんし)の重傷を負っても、月さえ出ていればどんな傷も(いや)す。

 慈愛(じあい)加護(かご)


<どうやら、月の【戦略機械(システム)】は生きているようだな……>


「<システム……?>」


<ああ……【月の金木犀(キンモクセイ)】……【天の岩絡(いわがら)み】……【地の珊瑚樹(さんごじゅ)】……【魔の花水木(ハナミズキ)】と言ってな、四つの世界にそれぞれ造られた、機人(マキナ)の民が“神々(われら)”に協力して完成したものだ……>


 フィルヴィーネは続ける。


<月が色を変えたという事は、その金木犀(キンモクセイ)がまだ生きているという事だ。本来は紫になどならぬがな……ルナリアの奴が、魔力が足らないと言うのでな……多少協力してやったら紫になった>


 そして【紫月(しづき)の神】と呼ばれるようになったという事らしい。

 (ちな)みに、他にも魔力を(そそ)いだ“神”がいる為、時と場合によっては赤や青にもなるのだとか。


<ちょっと……貴女(あなた)、月に行けるの?>


<ん……?そうだな。当時は《天界》に転移装置(てんいそうち)があってな……まぁ(われ)が作ったのだが……今は無理だろうな>


<そう……>


<“神”の存在が感知できない以上《天界》にも行けぬしな――っと、言っている間に始まるようだ>


 フィルヴィーネはそれ以上【心通話】で会話をすることがなかったが、紫の月に()らされて、フィルヴィーネだった肉片は急激に再生を始めた。


「<サクラとサクヤ……見てる?>」


<……見てます>

<……見ておる>


 【心通話】で、観戦(かんせん)しているはずの二人に声をかける。

 どうもに元気のない返事が返ってきた。

 ローザも気持ちは分かる。この惨状(さんじょう)を見れば、誰だって()き出してもおかしくは無い。


 不規則(ふきそく)(うごめ)く肉片は徐々(じょじょ)に形を作り、(ふくれ)れあがって人の形を成した。

 人の形を形成すると、紫色のオーラを放ち始めたのだが、それが【女神の紫水晶(ネメシス・アメジスト)】から出ていることも分かった。


「……すごい速度ね。今、邪魔したらどうなるかしら……」


流石(さすが)にやめてくださいよ>


「――あら……?【心通話】で。ああ……もしかして、このカメラ?って、見るだけじゃなくて聞こえるのね?」


 心を読まれたのかと一瞬思ったが、サクラに渡された物に気付く。

 胸元に(はさ)まれた小さな機材を指でツンツンとつつき、ローザは笑う。


<そういうことです。だからさっきも、ローザさんは口で言うだけでよかったんですけど……>


「……そういう事は、その前に言いなさい」


 少し恥ずかしそうに言い。

 ローザは丁度(ちょうど)よさそうな丸太に座る。フィルヴィーネの超速回復を見ながら。





「……ふぅ。どれ……」


 回復が完了したフィルヴィーネは、身体を確かめるように肩を回す。

 ゴリゴリっと肩首の骨を鳴らして、背伸びをする。


「本当に再生したのね……しぶとい訳だわ……」


<……Gみたいですね……>

<……芥虫(あくたむし)みたいだな……>


<<……えっ!?>>


「……何言ってるのよ、二人して……」


 サクラとサクヤは、二人共同じことを考えていたようだ。

 時代が違うゆえに敬称(けいしょう)が別なだけで、再生するフィルヴィーネのしぶとさをゴキブリ(・・・・)(たと)えたのは同じだ。

 (ちな)みにフィルヴィーネの頭には、二本の長いアホ毛が存在する。


「身体は万全、しかし……うまくいけばコレ(・・)も消えると思ったが……」


 身体の調子を確認し終えたフィルヴィーネが、手足の(かせ)を見ながら愚痴(ぐち)る。

 どうやらフィルヴィーネは、《能力》によって付けられたこの(かせ)を、ローザにやられることで外せないかと思ったらしい。

 本気で負ける気は無かったが、負けたら負けたで何かメリットを探していたのだ。


「その(かせ)……もしかして貴女(あなた)の能力なの……?」


「ふっ……そうなるのだろうな、残念なことに。(のぞ)まず手に入れてしまった力だ……其方(そなた)にもあるのだろう?あののっぺらぼうに(おしつ)けられた力が」


「不本意ながらね……」


「フフフ……」

「クックック……」


 お(たが)い笑ってはいるが、警戒(けいかい)し合っているのか笑顔が怖い。

 それを【簡易(かんい)フォトンスフィア】()しに見るサクラは。


<いいですか?お二人とも……>


「なにかしら」

「なんだ?小娘」


 (にら)み合ったまま、サクラの【心通話】に答えるローザとフィルヴィーネ。


<……あたし、能力について話し合おうと思っているんですけど……皆で――その覚悟、決めてくれませんか?>


 特にローザさん。とは言わなかったが、サクラの意図(いと)(つた)わったはずだ。

 向こうでは、サクヤが「何の事だ!?」と言っているのだが、それはローザとフィルヴィーネには分からない。

 サクラが何かに勘付いている事を、ローザも分かっている。

 それを(かんが)みて、先に進もうとしているのも。


「……」


 何も言わないローザだったが、先読みされたかのようにサクラが。


<……大丈夫です。エド君は混ぜませんよ……ガールズトークってやつです>


 ふとローザは、自分が(こぶし)に力を入れていた事に気付く。

 サクラの一言で硬直(こうちょく)が解かれ、手を脱力したことで気付けた。


「……分かったわ。そうしましょう……“魔王”も、いいわよね?」


(われ)は別に反対しておらぬぞ……初めから話す気でいたしな……其方(そなた)だけだぞ、怖がっているのは」


「……ぐっ……」


 フィルヴィーネの正論(せいろん)に、(のど)の奥で我慢(がまん)して、ローザは反論を(こら)えた。

 これ以上いざこざを増やすのは、()骨頂(こっちょう)だと分かっているのだ。


「――そうだ。小娘よ」


<……?――なんです?>


 月が元の色に戻り始めていく中で、フィルヴィーネがサクラに問いかけた。


リザの奴(・・・・)は何をしている?」


<え……?リザちゃん……?>

<そう言えば、見ていぬな……どこに行ったのだ?>

<あたしは知んないよ……てっきりフィルヴィーネさんと一緒だと思ってた>


 遠くにいる黒髪の少女二人は、近くに居ながら【心通話】で会話している。

 それを想像して、ローザはクスリと微笑(ほほえ)んでいた。


「……あの馬鹿……何をやっているのか。仕置(しお)きが必要だな……」


 夜戦(やせん)を開始してから、一度も姿を現していないフィルヴィーネの部下。

 “悪魔”のリザは、いない所で(ばつ)が決まってしまった。


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