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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 4章《残虐の女王が求めるもの》
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166話【夜戦】



夜戦(ナイトバトル)


 夜空に咲く、赤色の閃光(せんこう)

 高笑いを浮かべるフィルヴィーネに向かって、ローザが()ちだした炎の球体。

 フィルヴィーネが()け、いなし、防いだその炎弾は、消えることなくふわふわと(ちゅう)(ただよ)い続けている。


 不思議(ふしぎ)現象(げんしょう)だ。

 巨大な物から小さい物まで、どこかのテーマパークにあるゴムボールだらけのアトラクションのようだと、観戦者(かんせんしゃ)少女(サクラ)は思っている事だろう。


 “魔王”フィルヴィーネも、自身の周りに浮く赤い球体を(あや)しむが、只々浮かんでいるだけでなんらダメージは無く、地に立つローザは他の攻撃を()り返していた。


「――なんだなんだっ?先程から、全く攻撃にメリハリがないぞっ!」


「うるさいわねっ!だったら降りてきなさいよっ!」


 ローザは飛べない。

 短時間ならば炎の魔力で上昇する事が出来るが、それだけだ。

 滞空(たいくう)することも下降することもできないので、飛行と言うには程遠い。


「クックック!それもいいがなっ、それでは其方(そなた)の《魔法》が見れぬだろう?」


「そんな理由でっ……!」


 フィルヴィーネを楽しませるために《魔法》を使っているのではない。

 あくまでも、ローザが壁を()えていく為に戦っているのだ。

 それにそもそも、今は《魔法》を使っていない。


 ローザは右手の《石》から炎を生み出して、それをドンドン大きく膨張(ぼうちょう)させていく。

 やがてそれは、小さい太陽の様な真っ赤な炎の(かたまり)となった。


「【陽光爆炎弾(サン・バースト)】!」


 その大きな炎弾は、今までの炎弾とはサイズも威力(いりょく)桁違(けたちが)いに大きかった。

 その割にローザの魔力消費(しょうひ)は少なく、詠唱(えいしょう)も無い事から、《魔法》ではない事が(うかが)えた。


「ほほぅ。《魔法》ではないな、これも技の一つか……だが、つまらぬ!」


 フィルヴィーネは更に上空へと上昇し、迎え撃とうと下を見る。

 今にも(せま)ってくる巨大な炎弾を、フィルヴィーネは中心部の魔力(かく)を目掛けて魔光(まこう)を放つ。

 フィルヴィーネは、このローザの攻撃を「随分(ずいぶん)御座(おざ)なりだ」と感じていた。


 魔力の(かく)である中心点を隠す事もせず、ただ単に大きく大きくさせた魔力の(かたまり)を、怒りのままにぶつけて来た。そんな感覚だ。

 事実魔力の(かく)は簡単に見破られ、大したスピードも無く、威力(いりょく)に任せた強引な一手だった。


 魔力の(かく)とは、魔力攻撃を構成(こうせい)する為の心臓だ。

 その心臓が意味を無くせば、魔力による攻撃も全くの威力(いりょく)を持たない。

 フィルヴィーネはその魔力の(かく)を、一点への攻撃だけで無効化した。


 それにも理由があり。本来ならば魔力による攻撃(魔法も同じ)は、この魔力の(かく)を隠し、(さと)られない様に隠蔽(いんぺい)してから作り出すものであり、今のローザのように只々魔力を叩きつけるような攻撃は、悪手(あくしゅ)としか言えないのだ。


「――っ!!」


 だが(おどろ)いたのは、ローザではなくフィルヴィーネだった。

 フィルヴィーネの魔光は、ローザの【陽光爆炎弾(サン・バースト)】の中心点、魔力の(かく)を的確に(つらぬ)き通し、霧散(むさん)する――はずだった。


 しかし、爆炎の球体は霧散(むさん)することなく、バラバラになって弾け飛び、まるでこうなる事を想定していた(・・・・・・)かのように、次々と分裂(ぶんれつ)して空中を(ただよ)い。

 やがてその無数の火球は、フィルヴィーネを取り囲むように退路(たいろ)を断って行く。


「……これはっ……!」


 ローザは、初めから無意味な攻撃などしていなかった。

 フィルヴィーネが「御座(おざ)なり」だと思った攻撃は、全てこの為に()かれた種子(しゅし)だ。


露出(ろしゅつ)した魔力の(かく)に油断したわね……!貴女(あなた)なら、こんな初歩的なミスに気づかない理由(わけ)ないものっ!!」


 地面からフィルヴィーネを見上げるローザの顔は、してやったりと、したり顔を浮かべている。

 これにはフィルヴィーネも不意打ちだったのか、顔を引きつらせていた。


「……まさか!……――ここまでを見越(みこ)して……先程の戦いも……!?」


 ワザと負けた。

 今フィルヴィーネを油断(ゆだん)させるために。

 キチンと、最後に勝てるように。

 計算し、(みちび)き出した――ローザの答え。


 魔力の(とぼ)しかった一度目の戦いでは、勝てないのは承知の上だ。ならば初戦はくれてやる。

 敵同士ではない、殺し合いではない戦いでなければ使えぬ戦法。

 《石》はともかく、ローザは【マジック・アンプル】で魔力を回復させている。

 ならば戦略(せんりゃく)()り、一度勝てれば(・・・・・・)御の字だ。


「“魔族”を()べる“魔王”様なら、たった一度の敗北(・・・・・)だって、許せないでしょう?」


 それで充分(じゅうぶん)だ。

 この女(フィルヴィーネ)に一度の屈辱(くつじょく)を味合わせる事が出来るのなら、今のローザは満足だ。


「――貴っ様ぁ!!」


 声を(あら)げるフィルヴィーネだったが、その顔は笑顔であった。

 それはローザも同じで、戦いを純粋(じゅんすい)に楽しんでいる者の証拠(しょうこ)だった。


(はじ)けろっっ!【陽光爆炎弾(サン・バースト)】……これが連鎖の糸(・・・・)よっ!」


 《魔法》を放った一度目の戦いを、油断を(さそ)う為に捨てた。

 戦いを()て完成したローザの新技――深紅(しんく)(くさり)


連鎖(れんさ)の爆炎……()きる事無き、深紅(しんく)の炎!」


「ちぃっ!この量はマズい!……転移(てんい)を――な……何っ!?《阻害魔法(ジャマー)》が組まれているだとっ!?」


 フィルヴィーネが破裂させた【陽光爆炎弾(サン・バースト)】には、消失した瞬間に煙幕(えんまく)が出る仕組(しく)みになっていた。

 一見ただの消炎、しかしそれは、《転移(てんい)魔法》を阻害(そがい)する為だけにローザが考えた、急造の《魔法》。


「おのれぇぇ【滅殺紅姫アナイアレイション・プリンセス】!(はか)ったなぁぁぁぁぁっ!?」


 ローザは【陽光爆炎弾(サン・バースト)】の巨大な炎弾の中に、その《魔法》を組み込んだ。

 魔力の(かく)を隠さないと言う戦法で、その《阻害魔法(ジャマー)》を隠蔽(いんぺい)したのだ。


「――これで私のストレスも、少しは晴れそうだわっ!!」


 フィルヴィーネは、急いで周りに浮かぶ炎弾を魔光(まこう)で落としていく。


「数が多すぎであろうがっ!」


 右に左に、上に下にと、無数(むすう)の炎弾はどれもが絶妙(ぜつみょう)距離(きょり)(たも)ち、間の一つを消し去ろうとも、連鎖(れんさ)して爆発するように仕向けられていた。


「……どうせ死なないのだろうから、本気でいかせて貰うわっ……()ぜろっ【深紅の爆連鎖(クリムゾン・チェイン)】!!」


「ちょっ!待っ――」


 ――ドォォォン!!と、一発爆発すると。

 ――ドドドドドドドドド!!と連鎖(れんさ)して、連続で爆発していく夜空に浮く炎弾。

 まるで花火のように咲く何発もの炎。


 ローザによる《阻害魔法(ジャマー)》のせいで転移(てんい)が使えないフィルヴィーネは、何度も()ぜる爆炎に巻き込まれて、右往左往(うおうさおう)と身体を()き飛ばされる。


 ――ドンっ!!――ドドンっ!!

 耳を(つんざ)き、鼓膜(こまく)が破れてもおかしくない爆音に、きっと観戦(かんせん)している黒髪の少女二人は、耳を押さえて悲鳴を上げている事だろう。


「がっ――がはっ!――ぐぅ……おっ、ぐはっっ!!」


 何度も(はじ)き飛ばされて、フィルヴィーネの身体は(ひじ)(ひざ)があらぬ方向に曲がっていた。

 どうやらかなりのダメージを与えているようだ。

 それでも、フィルヴィーネの身体は地面に落ちることなく、爆発の反動で上に上にと上がっていく。全てローザの計算通りに。


 そして最上部に光る、一際(ひときわ)大きい炎の(かたまり)

 その中に、フィルヴィーネは吸い込まれる。

 それは、フィルヴィーネが一番初めに(はじ)いた炎弾だった。

 ローザが(あやつ)るその球体は、“魔王”を閉じ込め入口を閉じる。


「……こ、れは……流石(さすが)に……」


 フィルヴィーネが目にしたのは、巨大な炎の球体の中に無数に設置(せっち)された小さな火種(ひだね)の数々だった。

 その火種(ひだね)は、フィルヴィーネの燃える身体を導火線(どうかせん)として、破裂する。

 (きら)めく火炎が夜空に(はじ)け、暗い闇夜(やみよ)は一瞬明かりを取り戻す。

 星空など目にないくらい明るくなった荒野の上空を、ローザは見上げる。

 そして、最大級に大きかった炎の(かたまり)は。

 ――大爆発を起こした。





 【簡易(かんい)フォトンスフィア】で見なくても、この光景(こうけい)は見えていた。


「……すっご……」


「これは絶景(ぜっけい)。だな」


「ええぇ……」


 吞気(のんき)に花火でも見るように(つぶや)くポニテの【忍者】に、ツインテの少女はドン引きする。

 あの爆発がただの花火なら、どれだけよかった事か。

 サクラはそれが分かっていた。


異常(いじょう)だって……ローザさん。一応味方だよ?フィルヴィーネさんは……」


 どんな理由があるにせよ、ローザのフィルヴィーネに対する感情は常軌(じょうき)(いっ)していた。


「こりゃ……話をしないとダメだなぁ……はぁ~」


 何があるにせよ、一度きっぱりと話を付ける必要がある。

 自分の心労(しんろう)の為に、エドガーの為に。

 それが、ローザやフィルヴィーネの為にもなると信じて、サクラは会議を行う覚悟を決めた。




 ため息を()きながらも【簡易(かんい)フォトンスフィア】を見直すと、爆発が(おさ)まって落ちてくる人影が。

 ――フィルヴィーネだ。多分。


「――うわ!ぅぅぅぅぅ……」


 ほぼ肉塊(にくかい)だった。

 身体は千切(ちぎ)()び、肌などは完全に炭に見える。

 サクラは一瞬見ただけで目を()らした。


「これを……ローザ殿は『死なない』と言っていたのか……?」


「死んだらエド君になんて言うのよっ!……ローザさんがエド君に嫌われることするわけないでしょっ!?」


「いや、でも……これだぞ?」


「――だああっ!見せんなぁ!」


 目元を手で隠して、制服の少女は顔を(そむ)ける。

 若干(じゃっかん)引きつるような表情(かお)で。


「……あ。落ちた」


 ドシャッ――!!と、何かが落ちた音と(つぶ)れた音に、サクヤがわざわざ実況(じっきょう)をする。


「【忍者】ぁぁっ!!」


 【スマホ】のリンクを切ればいいのだが、気になるのだろうサクラはそれをしなかった。

 怖いもの見たさもあるのかもしれないが。


「おお~。(うごめ)いておるなぁ……キモイキモイ」


「あんた言いたいだけでしょ!……って、動くのっ!?」


 覚えた現代用語は使わねば。

 それよりも、あの状態でも動いていると言うフィルヴィーネに、驚愕(きょうがく)を通り越してポカンとするサクラ。


「……それが、“魔王”と言うもの……なのではないか?」


 「ええぇ……そんな再生怪獣みたいな」と、サクラはガックリと肩を落としたのだった。


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