164話【魂が巡る場所2】
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◇魂が巡る場所2◇
――異世界人達の話は続く。
「あの不思議な存在は……私に《能力》を与えた。皆もそうでしょう?」
一様に頷く女性陣。
「……あたしは、この【忍者】に負けない力が欲しいって願ったよ……力って言っても、何がどれだかわかんないけど――【スマホ】かな?あ、鞄かな……?」
「わたしもだ。何故だろうな……お主には負けられぬと、その時は対抗心で一杯になった記憶があるぞ」
サクラとサクヤの場合。
どうやらイレギュラー的な何かが発生したのか、その光の塊(サクラ達の時は声だけ)は姿を現さなかった。
ローザの時は人の形を模した光の塊。
メルティナの時もそうだ、薄っすらと形を保った、希薄な存在だった。
その存在の明確な姿形を見ているのは“魔王”フィルヴィーネただ一人。
「貴女は姿を見たのでしょう?――どうだったの……?」
ローザは冷めきったコーヒーを口につけて、視線をフィルヴィーネに送る。
そのフィルヴィーネは、腕を組んで何かを考えるような仕草をし、部下の“悪魔”リザを見る。
「……?」
(……リザは、あの状況が無ければここにはいないだろうな。あののっぺらぼうが、どういう理由でリザをこちらに送ったのか……理由は分からぬが、何も出来なくなったリザを送るメリットなどない。敢えて言うのならば、我に対する枷……のっぺらぼうもそう言っていたしな)
リザは、フィルヴィーネ“召喚”の魔法陣に無理矢理ついてきた。
あの場所、【魂再場】でリザを見つけた時、既にリザは小さな身体になり、魔力は残りカスのようになっていた。
フィルヴィーネは、自分の話よりもリザの話しを重要だと感じ、ローザの問いを制して。
「我の話はまず置いておいて……リザよ、お前は……我に無理くりついて来たであろう?あの時、何が起きた……?」
果物を丸齧りしていたリザは、その口を果汁で汚しながら答える。
「……あの時私は、フィルヴィーネ様の足元に出現した魔法陣に、共にいました」
「ああ」
「……魔力がゴリゴリと削られていく感覚、心と身体を分離される痛み……私は、急激に減っていく魔力が無くならない様に、自分の身体を魔力に変換して対抗しました。そして気付けば……こちらの世界にいました」
「なるほどな。それで小さくなっていたのかお前は。削られたのは、本来持つリザの最大魔力だろう……今のリザは、そこらの子供よりも弱いからな」
「それって、リザちゃんは元々すっごい魔力があったってことだよね……?それってもしかして……」
「リ、リザちゃん……?」
サクラのフレンドリーな呼び方に、リザは果実を落とす。
だが、サクラが言う事はその通りで。
削られて削られて、自身の魔力と身体をも対価にしてまで耐えきったリザだが、もし他の人が同じことをしたら?
「――小娘の思っている通りだ。リザでなければ、消滅は免れないだろう。リザが“召喚”の対象ではなかったからだろうが……そうでなければ、小娘二人も、機人の民も、【滅殺紅姫】も、朽ち果てているさ」
続けて、フィルヴィーネはローザを見て言う。
「其方も言っていたが……やはりあの場は……魂をそのままに、身体を元の姿と同じくする再構成を行う場所なのだろう」
「再構成……ねぇ」
先程も少し話をしていた。身体を作り直す再構成。
「そうだ――この世界に対応できるように……元居た世界の身体を捨て、この世界に適した身体に作り直されたと考えるのが妥当だ。元の世界での最後の瞬間、身体を消失する感覚があったからな」
「……そういう事ね」
「……あっ」
「う~ん……」
ローザとサクラは思い当り節があるのか、思い出す。
サクラは“召喚”される瞬間、光に包まれた。
ローザは自身の炎に焼かれ、元の世界を去った。
きっとサクヤとメルティナにも、似たような現象があるはずだ。
“召喚”対象者は、特殊な条件を持っていた可能性がある。その条件が何かは分からないが、何らかしらの工程は確実にあったと考えられる。
フィルヴィーネ“召喚”の間に割って入って来たリザが、やはりイレギュラーなのだろう。
その工程を無視して【魂再場】に侵入したことが、魔力を削れられた原因の可能性もある。
「……」
メルティナは無言のまま、以前の【解析】の結果を再表示する。
魔力(MP)だけを表示して、調べた事のある分だけを見比べる。
・エドガー:247(+200)
・ローザ:1208
・サクラ:398
・サクヤ:449
・メルティナ:578
やはりローザの数値だけは別格だ。
それにしても、フィルヴィーネの言葉だけで考えて見て。
フィルヴィーネとリザは、確実にローザ以上の魔力があるのだろう。
リザの場合は、あった。だろうが。
「その“悪魔”が貴女のおまけだとしても、エドガーの魔力を分け与えられた存在には変わりない……関係の無いその“悪魔”があの場所を渡ってこれただけで、凄い執着心の持ち主なのは分かるわ」
ローザの言葉に、少し驚いた表情を浮かべるフィルヴィーネ。
フィルヴィーネをかなり敵視しているローザが、リザを少しでも認めているという事に、驚きと嬉しさを覚えたのだ。
「……ふっ……」
フィルヴィーネがクスリと笑う様に息を吹く。
すると――パキンっと、焚火の木が鳴り響き、それに気付いたエドガーが慌てて。
「――あっ、木を焼べないと……ちょっと行ってくるね」
と、焚火の方に行ってしまった。
それに気が付かなかったのはサクヤのみ。
ローザ、サクラ、メルティナは、どうやらフィルヴィーネの意図に気付いたようだ。
「貴女……」
「フフフ……流石に、我の話は聞かれない方がいいと思ってな……」
「……エド君に?」
「ああ。そういう事だ」
エドガーに聞かれたくない話。
それは、光の塊――のっぺらぼうの事だ。
エドガーがいる事で、フィルヴィーネが言いにくくなっていた事。
「我が見たお主等が言う光の塊……我は魔力の可視化で見たと、そこまでは言ったな」
「うん、あたし達の話はしたから、後はフィルヴィーネさんだけです」
「そう……だからエドガーを……」
勘付いたのか、ローザは焚火を焼べるエドガーを見ながら、右手の指をパチンと鳴らす。
「――ええっ!?」
火を操って、焚火を消したのだ。
絶賛燃え始めていた焚火が一瞬で消えたことに、エドガーは声を出して驚いている。
サクラはクスリと笑い、サクヤは「何故そんなことを?」と不思議そうにしている。
メルティナは立ち上がり、まるで都合を合わせるように動く。
「マスター。枯れ木が足りませんね……拾いに行きましょう」
<誰でもいいので、【心通話】で教えてください。ワタシはマスターを引き付けておきます>
「え?……うん。分かった」
エドガーは一人でも大丈夫だったが、メルティナがズイズイと進んで行ってしまう。
「そ、そこまでするの……?」
その様子を見て、サクラは「流石にやり過ぎじゃ……」と苦笑い。
しかし、事はそれだけ重要だと言う事だった。
「……行ったわね。それじゃあ“魔王”……貴女が可視化で見たあの光の塊の正体……聞かせてくれるかしら」
新たに薪代わりになる木を探しにいくエドガーとメルティナを見届けて、ローザが進行を再スタートさせる。
「そうだな……まず、あまり驚かぬようにな……特にそこの小娘」
「……だそうだぞ、サクラ」
「――いや、あんたの事だって……」
テーブルに顎をついてだらけるサクヤと、ツッコむサクラ。
「どちらもだぞ……」
「「ええっ!?」」
「――いいから進めて頂戴……早くしないとエドガーとメルティナが戻ってくるわよ?」
黒髪の少女二人は申し訳なさそうに平謝りしつつ、フィルヴィーネは笑う。
しかし話をする瞬間、その笑顔は真剣なものに変わる。
「……我が見た、あののっぺらぼう……お主等の言う光の塊か……その魔力を可視化した姿は――人間そのものだった」
ローザ、サクヤ、サクラの三人は、ピタリと止まる。
少しの間で、ローザはコーヒーを飲みだすが、サクラは険しい顔をしている。
だらけていたサクヤも、フィルヴィーネを真剣な眼差しで見ていた。
「……まあ聞け。あくまでも我が見た見た目の話だ……姿形は、紛れもなく人間に見えたと言う話しだ――だがな……」
「だが?」
「……魔力の質や、その異質な雰囲気は……到底人とは思えぬものであった……」
「貴女も人ではないでしょう」と言いたそうに、ローザは呆れつつフィルヴィーネを見る。
「――アッハッハッハ!それもそうだなぁ!」
意図が伝わったのか、フィルヴィーネは笑い出す。
一頻り笑うと、フィルヴィーネはコーヒーを口にし。
「……お主等が見聞きしたものと、大して変わらぬよ……残念ながらな」
一つ噓をついて、この場を締めにかかる。
エドガーにバレなければ、それでいいのだ。
(貸し……と言ってしまったからな。我が破る訳にもいくまい……)
あののっぺらぼうは、エドガーの姿形をしていた。
魔力の質や内に溢れるオーラが、ほぼ本人と同じ。
だが、言動や態度から見て、決してエドガーと同一人物とは思えない。
(もしあの場が……魂の巡りゆく場所だとすれば……“召喚”をするエドガーの魔力が形になった存在の可能性もある。しかし、“召喚”が《魔法》の一つだとしても、人を模した……意志を持った《魔法》などという事が可能か?……いや、“神”にすら……そういった《魔法》は作れていない)
フィルヴィーネは背凭れにのしかかって、訝しむローザに言う。
「――なんだ?元“神”であり“魔王”の我だって、分からないことくらいあるぞ。アーッハッハッハ!!」
不自然なフィルヴィーネの態度に。
――はぁ。とため息を吐くローザ。
(……それ以上は聞くなって。って事ね)
“神”や“魔王”など、日本人からすれば中二と言われそうなワードを惜しみもなく言うフィルヴィーネに、若干引き気味のサクラ。
「格好いい!!」と、目を輝かせるサクヤ。
それぞれの感性で、魂が巡る場所――【魂再場】の話は終わっていった。




