158話【メルティナVSフィルヴィーネ2】
◇メルティナVSフィルヴィーネ2◇
怪しく眼光を輝かせて、フィルヴィーネは右手を一閃する。
お見事とまで言える高笑いをしながら。
メルティナは背の《石》を発光させ、光翼を増大させて自分を包み込んだ。
翼は光の盾となり、フィルヴィーネからの攻撃を防ぐが。
「――クッ!」
紫色のオーラに弾かれて、メルティナは吹き飛ばされる。
それでもフィルヴィーネの一閃は止まらず二度三度続いて、メルティナを連続で吹き飛ばした。
「ほれ!ほれほれ!!どうした機人の民!」
フィルヴィーネは嬉しそうに右手を何度も振るい、戻った(10%)力を楽しげに披露する。
しかし――ジュッッ!と左腕に痛みを感じ、攻撃を止める。
「――お?……やるではないか!メルティナよ……」
メルティナは、吹き飛びながらも【エリミネートライフル】で反撃していた。
そのエネルギー弾の一発が、左腕に直撃したのだ、が。
フィルヴィーネに付いた傷は、ほんの少しの火傷。
いや、火傷とも言えないような赤い点だ。
フィルヴィーネは、その箇所を虫に食われたかのように指で掻き、クックックと笑う。大変嬉しそうに。
「今の我は、全盛期の十分の一とは言え、この魔のオーラは本物。それを受けながら反撃してくるとは、いいぞ。もっと楽しませてくれっ!アハハハハハ!!」
吹き飛ばされたメルティナは空中で姿勢を整えると、恨めしいものを見るように呟く。
「……マスター、“召喚”する相手を間違えてはいないですか……?」
高笑いを続けるフィルヴィーネを見ながら、メルティナは【クリエイションユニット】から新たな装備を作り出す。
それは、身の丈以上もある巨大な剣だった。
ローザの使う大剣よりももっと大きい、片刃の剣だ。
【エリミネートソード】。
これは、【機動兵装ランデルング】の標準装備の剣だ。
剣の刃からレーザーを出し、両手で抱える様に持ってフィルヴィーネの魔のオーラを切断する。
「ほほうっ……随分と長大な得物だ……振り回せるのか?それを」
「イエス。初めて試しますが……期待には応えましょうっ!」
元々人型兵器が持つための剣を人間の手で持てる筈は無く、【クリエイションユニット】で成形し直された剣は、今のメルティナでは振るえない。
ならばどうするのか。答えは。
「――行きますっ!フィルヴィーネ!!」
メルティナは剣の柄を抱えたままに、背の《石》から噴出させた緑色の魔力光を煌めかせて、猛突進する。
剣はただ、抱えているだけだ。
メルティナの勢いの良い飛び出しに、フィルヴィーネはタイミング悪く高笑いをしていたため、一瞬視線が逸れて面を食らう。
「――ぬおっ!!」
自分の真横を、強大な剣が通り過ぎる。
身体を仰け反らせて、胸ギリギリをかすめて行った。
高笑いをしていた事が、幸いとなった感じだ。
「――くっ!……重さと噴出量のバランスが……」
背と手足のブースターを制御して器用に停止し、再びフィルヴィーネに向く。
手探り状態ながら、【エリミネートソード】を扱うメルティナ。
再度突撃。今度は上段に構え、手首のブースターの勢いで振り下ろす。
「クックック!」
大剣の上段斬りなど、本来ならば少し逸れれば避けられるはずだが、フィルヴィーネは真っ向からそれを受け止めた。
両手をクロスさせ、手枷で防御。
異音と取れるほどの金属音と、凄い量の火花が散り、肉薄する二人に降り注いだ。
景色は暗くなり始め、火花が二人を照らす。
「このっ……!重量2トンを、腕だけでっ!!」
剣の重さそのものと、ブースターの勢い込みでの一撃を、フィルヴィーネは腕だけで防ぐ。邪悪な笑みを浮かべながら。
「――クククっ!楽しいなぁ!メルティナァァァァァ!!」
ガギンっ!とメルティナ大剣は弾かれる。
「――ぐっ!」
勢いで負けて、メルティナは腕を上に弾かれる。
フィルヴィーネは黄色の眼光を歪ませ、剣の重さで隙だらけになったメルティナの腹部に、重い一撃を見舞う。
「――腹パンと言うやつだ。くらっておけ!」
ズドン――と、メルティナの背から衝撃が貫ける。
「……がっ!――ぁっ……」
メルティナは吹き飛び、岩肌に叩きつけられた。
しかし、フィルヴィーネは感心するように口元を緩めて。
「ふっ。大したものだ……あの状況で衝撃を和らげるとはな……脚、いや手もか?」
メルティナは、手足のブースターを逆噴射させて衝撃を緩和させた。
それでも物凄いダメージなのは変わりは無く。岩に叩きつけられたメルティナは、微動だにしない。
「……や、やり過ぎたか?」
頬から一筋の汗を流して、フィルヴィーネはメルティナの横たわる岩に。
「大丈夫かメルティナ……すまぬな、楽しくてやり過ぎて――っ!?」
近寄った瞬間、掴まれる腕。
何かに拘束される脚。
「これは……お主、図りおったな……!」
メルティナの腕には、いつの間にか強化アームが装着されており、フィルヴィーネの腕をガッチリとホールドしている。
足元にも、杭打機の様な小型の機械が地面に打ち込まれ、そこから伸びるワイヤーがフィルヴィーネの両脚に巻きついていた。
「……少しは知恵を働かせなければ……あなたは倒せないと思いまして。それに、ローザが弱まっている以上……ワタシが、戦いの中心になる可能性が高いのです……簡単に負けては――マスターに申し訳が立ちませんっ!!」
今後、もしまた何か困難と戦う時が来たら、対処できなくなる可能性がある。
その為には、戦力は必要不可欠。
ローザがその中枢のはずだったが、戦闘能力の低下と言う状況を考えるに、メルティナとサクヤが戦闘面でのメインとなる確率が上がっている。
その為には、自らも強くならなければならない。
このフィルヴィーネが、戦いでも優先的に協力してくれる保証はないのだから。
この気まぐれな“魔王”は、自分の裁量でものを決めるだろう。だからせめて、善戦して負けなければ。
「――【アドバンスド・バンカー】!!」
メルティナの言葉に合わせて、右腕に装着される巨大なパイルバンカー。
杭は既に、フィルヴィーネの腹の位置に展開を始めていた。
腕を引き、距離も既に計算済みだ。
「この程度では死なないでしょう……あなたはっ!」
巨大な杭を腹に打ち込んで死なないとは、如何程なものかと思うが。
それでもきっと、フィルヴィーネは大したダメージは受けないかもしれない。
「クックック……ならば打って見よ!メルティナぁぁぁぁぁ!!」
受けて立とうと言うフィルヴィーネは、胸を張って顔を笑顔に歪める。
「――望むところです!――バンカー・オン!!」
ガションッッッ――!!と、回転式のバンカーに火薬が装填され、勢い良く火を噴いた。




