157話【メルティナVSフィルヴィーネ1】
◇メルティナVSフィルヴィーネ1◇
空を舞う二つの影。
一つは高速で飛翔し、もう一つは瞬間的に様々な場所に現れては消え、攻撃を回避していた。
戦闘(模擬)を初めて5分、メルティナが撃つ銃撃は、空間転移をするフィルヴィーネに当たらない。
しかし、メルティナの体内にも超感度反応センサーがある。
フィルヴィーネが転移した座標に、即座に弾丸を撃ち込む。
何度転移しても、速攻で反応をして。
それは最早先読み、未来予知に近い。
だがフィルヴィーネは、笑ってその弾丸を受け止める。
「クックック!どうしたメルティナよっ、先程から攻撃が単調ではないか!その豆鉄砲は飾りかっ!?」
「……【エリミネートライフル】の弾を軽々と……!――それならば、出力上昇!チャージ!!」
【エリミネートライフル】は、実弾とエネルギー弾を撃ち分ける事が出来る。
メルティナは何度も切り替えて攻撃をしているのだが、フィルヴィーネは、エネルギー弾を手のひらサイズの障壁で防ぎ、実弾を手足の枷で防いていた。
そんな鉄壁のフィルヴィーネに一撃を見舞う為、メルティナは【エリミネートライフル】の出力を最大まで上げ、チャージショットを撃てるように解放する。
ライフルが数秒――リィィィィィンと音を鳴らすと同時に、フィルヴィーネがまた転移を始める。
フィルヴィーネの転移は続く。
転々と空間を移動して、的を絞らせないようにしているが、メルティナは予知にも近いセンサーで感知し、その場所に向けてチャージショットを発射する。
「――そこですっっ!!」
数回の転移の兆候をメモリーに記録し、導き出した転移の癖。
現戦闘での転移の一定の距離、僅かなクールタイムを計算し、転移し終わった瞬間、フィルヴィーネの目の前には、迫る大きなエネルギー弾が。
その大きさは、軽くフィルヴィーネを超えていた。
「――ほぅ!……やるではない――」
「か」と言い終える前に、エネルギー弾はフィルヴィーネに着弾し。爆発する。
「どうですっ!!」
ヒュルヒュルと錐揉み状に回転し、爆発煙の中から落ちてくるフィルヴィーネ。
しかし、その顔は笑みで満たされている。それにメルティナも気づくと。
「――笑って……?」
落ち続けると思われたフィルヴィーネは、急停止して滞空する。
その背には“悪魔”の翼が現れ、その翼で飛行を始めたのだと理解できた。
「……いやはや、これでは転移の意味は無いな!」
「直撃したはずですが……随分とご機嫌ですね……」
滞空し、空中で胡坐をかきながら、うむうむと一人で納得する。
バサバサと広げられた翼は蝙蝠の様に鋭利であり、関節の部分には金属の様な角状の突起がある。
羽部分をよく確認すれば、蝙蝠ではなく鳥の羽のようになっていて、“堕天使”の様に見えなくもない。よくよく言えば、“魔王”らしいとも言える。
「……なんと禍々しい……これが“魔王”……ですか」
緑色の光翼を羽ばたかせて、フィルヴィーネに【エリミネートライフル】を構える。
「お主もあ奴も、楽しませてくれる!エドガーに感謝だなぁ……殺し合いが出来ぬのは、ちと残念だがなっ!」
「――なっ!――消えっ!?」
フィルヴィーネが言い終えた瞬間、その姿は消え去る。
メルティナは瞬時に超感度反応センサーで確認するも。
「……これは……!!転移ではありませんっ」
センサーには、目まぐるしく動き続けるフィルヴィーネの反応が出ている。
瞬間的に映るのではなく、移動し続けているのだ。それはつまり、超高速移動。
「目に見えず……センサーでも追い続けることは出来ない……ならば!!【エリミネートガトリング】!」
【クリエイションユニット】から、長重の機関砲を二門両手に持つ。
目に見えないほどの高速移動をするならば、広範囲の攻撃で移動を意味ないものにするか、避けきれないほどの連続攻撃で、牽制しつつ隙間のない攻撃を見舞うか。
メルティナが選択したのは、ガトリング砲による弾幕射撃だ。
ガトリング砲【エリミネートガトリング】。
6本のバレルから、毎分8000発の弾丸が撃ち出される。
射撃疲労の為、1万5000発程度で砲身を代えなければ連続使用は出来ないが、【エリミネートライフル】と同じく、実弾とエネルギー弾の切り替えが出来る。
上空にいようが、後ろにいようが構わない。
メルティナは、両手に構えたガトリング砲を斉射。
けたたましい音が静寂を切り裂き、右の実弾ガトリング砲と左のエネルギー弾のガトリング砲。
メルティナの目もとに展開されたレーザーゴーグルは、丸まったハリネズミの様に弾丸の線を引く。
「これをっ!どう避けますかっ!フィルヴィーネ!!」
たった一人を鎮圧する為に、メルティナは弾丸の雨をばら撒く。
その間も、センサーはフィルヴィーネを観測し続けている。
しかしフィルヴィーネの反応は、高速移動と転移を繰り返し、弾丸の雨をすり抜けていく。笑いながら。
「――くっ……ガトリング砲の反動が大きすぎて……腕が……!」
毎分8000発の反動は数トンにも及ぶ。
装備と《石》でアシストしているとはいえ、人間の身体となったメルティナの身体が耐えられるものではなかった。
――シュゥゥゥーッと、銃身から煙が噴きあがり、弾丸の雨は停止。
メルティナの手は震えて、親指でガトリング砲のボタンを押す。
ガシャン――!と砲身だけが外れ、地面に落下していった。
地面には、右手に持っていたガトリング砲の弾丸が撒き散らかされていた。
「――なっ!?……フィルヴィーネの反応が無いっ!?どうして……!さっきまでは確かに」
メルティナは最後に反応があった個所を見る。
しかしその場所には、確かに誰もいない。
「どこに………!」
機械に頼っているメルティナには、気付けなかった。
“魔王”フィルヴィーネが、元“神”であり。
【紫月の神】が、どういった“神”であったのかを。
「――ここだよ、メルティナっ」
「!?」
空間に入る、紫色の切れ目。
空を裂く切れ目の中から、フィルヴィーネが現れる。
「は、反応が……!」
フィルヴィーネが出てきた瞬間に、超感度反応センサーは回復し、フィルヴィーネを捉える。
その場所は、メルティナの真下。
足元だった。
ズズズ―――と、頭から出てくるフィルヴィーネ。
しかし、所々傷がついている。
どうやら、完全に避けきることは出来なかったようで、咄嗟に空間に逃げ込んだようだ。
「久しぶりに【転竜の玉石】の力を使ったぞ……」
《神器》、【転竜の玉石】。
その力は、空間と時間の制御だ。
紫紺の影だったフィルヴィーネが、魂だけをこの世界に転移させられたのも、この宝珠の力だ。
今も、別空間に入り込んでセンサーから逃れたのだ。
「フィルヴィーネ……まさか、あの弾幕を……」
「フッ……数発貰ってしまったがな……」
フィルヴィーネは、指で肩と太股を指す。
そこには傷口あったが。実弾の銃創と、エネルギー弾のやけど跡が、たったの数か所。
「……あれだけの弾丸を……たったの数発……?」
「クックック……だから空間に逃げ……――いや、回避したのだ」
「……今「逃げて」と……」
「クハハハハハ!――気のせいだ!!」
仰け反らせて、フィルヴィーネは大笑いする。
メルティナはもう疲れが出て来ているが、フィルヴィーネは大したことがなさそうだ。
「いやしかし、お主も面白い戦いをするではないか……未知の武器との戦いは、心が踊る……おっ?」
「……どうしました?」
会話の途中で何かに気づいたようなフィルヴィーネは、メルティナの言葉に。
「いや、なに……力を少し解除できたのでな、10%くらいだが」
枷によって下方修正されたフィルヴィーネの潜在能力。
本来の十分の一まで下げられた能力は、ローザと戦っている間も、今メルティナと戦っている間も、それこそ【ランデルング】での移動中も解除を試していた。
それが今、10%まで解除されたらしい。
「戦いの最中に……そんなことを――ですが、抑えられているのにそこまでの戦いを……?」
「我は《残虐の魔王》――フィルヴィーネ・サタナキア様だからなぁぁぁっ!!」
「カッカッカッ!」と笑うフィルヴィーネ。
サタナキア。またの名を、サタン。“魔族”“悪魔”“魔人”を統べる――絶対王だ。
「――さぁ、第二ラウンドと行こうか、メルティナよっ!!」
“魔王”の眼光は鋭く輝き、その背には紫黒色のオーラが、並々と溢れ出ていた。




