表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 4章《残虐の女王が求めるもの》
170/383

156話【マジック・アンプル】



◇マジック・アンプル◇


 現場に到着(とうちゃく)したメルティナは、()ずはエドガーに報告をした。


『マスター』

『メルティナ!意外と早かったね……』

『イエス。プリンセスの護送、完了しました』

『うん。助かったよ……ゆっくり休んで――』

『いえ。早速ローザのもとに向かいたいと思います』

『……なんで!?――ちょっとメル、もしかしてあんた……』

『――その通りですサクラ。ワタシは、ローザに助太刀(すけだち)します』


 空中に(ただよ)ったまま、メルティナはエドガーとサクラに言い放った。

 ローザを助ける、のだと。


助太刀(すけだち)って……ローザさん、そんなにピンチなの?』

『いや、だが先程ローザ殿は、物凄い炎を使っていたが……』


 先程リザに、フィルヴィーネが得意な《魔法》を聞いていたエドガー達でも、そこまで深刻(しんこく)だとは思えなかった。しかし、メルティナは違う。


 ――ローザの状況を。

 ローザが能力、【孤高なる力】の影響(えいきょう)で弱体化していることを知っている。

 それをメルティナは、エドガーに言うべきかを(まよ)っている。


『……いえ。それは違います――マスター』


 メルティナはサクヤの言葉を否定し、そしてエドガーを見る。

 その視線(しせん)は、(まよ)いを(はら)んでいることが明白(めいはく)だった。

 エドガーもそれに気づき、言う。


『……分かった、行ってあげて。ローザを頼むよ』

『――イエス!感謝します、マスター!!』


 一言それだけを言って、メルティナはローザとフィルヴィーネの戦いに向かっていった。

 エドガーは、《契約者》の少女達の考えや行動に、自分から進んで(かか)わって行くことは少ない。

 それは、不安と信頼、双方の表れでもある。だがそれと同時に、“恐怖”を感じているからだ。

 異世界人の異能(いのう)の力に、ではない。彼女達に否定(ひてい)される事が――怖いのだ。





「ワタシも混ぜて頂きます……ローザ、フィルヴィーネ」


「メルティナ……貴女(あなた)、こんなに早く……」


 ローザの()(そば)に着地し、メルティナはローザの様子を見て確信する。


「ローザ、あなたはやはり……“力”が弱まっているのですね……?」


 ローザの顔が、見る間に不機嫌(ふきげん)なものになる。


「……――メルティナ、やっぱりあの時……挑発(ちょうはつ)してきた理由はそれなのね」


 メルティナの言葉に、ローザは刺すような視線(しせん)(にら)む。

 しかし、メルティナはその視線(しせん)を受け止めて頭を下げる。


「――イエス。それについては……申し訳ありません。ワタシには、個人の戦闘能力を判別(・・)する《能力(ちから)》があります……それであなたの現在の力を知りました」


 謝辞(しゃじ)()げるメルティナの真剣な姿勢(しせい)に、ローザは怒気(どき)(しず)めて気を抜かれる。


「……そう素直に(あやま)られたら、怒る私がバカみたいじゃない。怒る気も無くなるわよ……でも――力を見ることが出来る……便利(べんり)な力ね」


 メルティナはエドガーに約束していた。ローザに(あやま)ると。

 頭を上げたメルティナは、【クリエイションユニット】の収納(しゅうのう)モードからあるものを取り出し、それをローザに渡す。


「……これは――【マジック・アンプル】じゃない」


 フィルヴィーネを“召喚”した(さい)(しょう)じた溢れ出た魔力(オーバーマジック)、それを回収し、魔力の回復薬とした物だ。

 ローザはそれを受け取りながらも、この数が(かぎ)られたアイテムを、メルティナがローザに渡してきたことを(あや)しむ。


「……これは、貴女(メルティナ)が予備で持っているのではなかったの?」


 そう。この【マジック・アンプル】は、6本しかない。

 一人1本を所持(しょじ)し、残りの1本はメルティナが予備として持っている。という事だったが。

 何故(なぜ)メルティナはローザにその1本を渡したのか。


「……どうせ、渡していた分を使う気でいたのでしょう?」


「……」


「目を()らしても見ればわかります」


 メルティナのセンサーは、滝のように流れていたローザの汗の中に、新しく反応を(しめ)した()や汗を確認した。

 そこに、いつものようなクールな姿は無かった。


「し、仕方がないでしょう……《石》の力が弱まっていて。今じゃこの世界の人間とそう変わらないわよ……」


 ローザの《石》、【消えない種火】は、自然干渉(しぜんかんしょう)効果が多い。

 汗が蒸発(じょうはつ)する。体温が異常に高くなる。

 エネルギー消費(しょうひ)が高く、空腹になりやすい。

 顔色が変わらない。その他いろいろだ。正直言ってデメリットはかなり多い。

 それでも、戦闘面では無類(むるい)の強さを発揮(はっき)するし、今まで何度もローザを助けてきたことに間違いはない。


「――イエス。了解しました……ですので、この【マジック・アンプル】を使用して回復してください」


 メルティナはローザが持つ【マジック・アンプル】の針を出して、打とうとする。

 だがローザは。


「ちょ、ちょっと待って!自分でやるわっ」


「そうですか……?では、どうぞ」


「……」


「……?」


 メルティナの疑問(ぎもん)を浮かべた視線(しせん)に、ローザは目を()らして(つぶや)く。


「……わ、分かってるわよ……ふぅ~――んっ!」


 ローザはふぅ~っと息を()いて、(いきお)い良く腕にぶすっと針を刺す。

 顔が青いが、本当に大丈夫?子供のように目も(つぶ)ってもいる。


(……こんなにも、普通の少女の様な反応をするのですね……)


 【消えない種火】の効果が、ローザを完璧な存在にカモフラージュしている。

 顔色も変えず発汗もしない。常に冷静に見えて、戦いでは一番の功労者になる。

 そんなローザの意外な一面に、メルティナは思う。

 きっと本来、感情の起伏(きふく)が激しい、表現(ひょうげん)の豊かな女性なのだろうと、そう思った。


「――!!……魔力が、一気に……」


 ローザ自身の空っぽな魔力を、一気に回復させて、【マジック・アンプル】は(から)になる。

 《石》の魔力は自然回復が通例なので、【マジック・アンプル】では回復しないが、それでも戦う事が出来る。ローザは()ぐに行動に移ろうとする。


「“魔王”フィルヴィーネ!――もう一度っ!」

「――ロ、ローザ!?」


 回復するなり、ローザはフィルヴィーネに喧嘩腰(けんかごし)になる。

 メルティナはローザの腕を(つか)んで静止する。


「クックック。気概(きがい)は認めるがな……二人共少し休むがいい。特に其方(そなた)はな」


 フィルヴィーネが、座った丸太から足でローザを差す。

 それを見たローザは、当然ながら不愉快(ふゆかい)に感じ、一歩、また一歩と()み出してメルティナを引きずっていく。


「ロ、ローザ!あなたは本当に……魔力の有無(うむ)で全く変わりますねっ!?」


 引きずられながらも、何とかローザを抑えるメルティナ。

 身体をくの字に曲げて、脚甲(ソルレット)足裏の小型ブースターを点火させてまでしても、ローザは止まらなかった。


「――本当に弱まっていますか!?ローザ……!」


「ハハハハハ!狂犬(きょうけん)めっ、いい加減大人しくしていろっ!」


 フィルヴィーネは、愉快(ゆかい)そうに笑みを浮かべながら、人差し指を(はじ)く。

 するとローザの(ひたい)に。


「――あぐっ!」


 バッッシィィィン――!と衝撃(しょうげき)が走り、ローザはそのままメルティナを下敷(したじ)きにして倒れた。


「なっ!――ロ、ローザ!?」


 ローザは、きゅ~っと目を回して気絶(きぜつ)していた。


(……ローザを一撃で!?しかし、一体何が……)


「デコピンだ。魔力でのな……」


「デ、デコピン!?――まさかっ!それだけでこのローザを気絶(きぜつ)させるなんて、出来るわけが……」


 ローザを木の根に寝かせ、メルティナはフィルヴィーネの言葉に反論(はんろん)する。

 確かに、今までのローザの戦いを見ても、デコピン一発で気絶(きぜつ)するとは考えにくい。

 そんなローザが、完全に目を回して倒れているのだ。エドガー達が見ても、きっと目を見開いて(おどろ)くだろう。


「簡単な事だ。……その【マジック・アンプル(くすり)】は、体力は回復しないだろう。魔力を戻せても、疲弊(ひへい)した体力は変わらぬのだ。それに、《魔法》による脳の疲労感(ひろうかん)は、普通の白兵戦よりもずっと多い。その娘(ローザ)は、絶えず《魔法》を打ち続けていた……疲弊(ひへい)してへたれている脳を揺さぶることなど、容易(たやす)いという事だ」


「……脳震盪(のうしんとう)、ですか。それでも……ローザが一撃でなんて」


「それだけではなく三半規管(さんはんきかん)を……――いや、まあいい。2~30分は目を覚ますまい。それまではお前が楽しませてくれるのだろう?機人(マキナ)の民……メルティナだったか……?」


 値踏(ねぶ)みするような“魔王”の視線(しせん)に、メルティナはローザの眠る木の根元から立ち上がる。

 身体をゾッとさせて、楽しそうに笑みを浮かべるフィルヴィーネを見るメルティナ。

 無意識(むいしき)に流れる汗は、(ほほ)や背中から(つた)う。

 (ふる)える足は、(さと)られない様に必死に力を()める。

 腕の(ふる)えは、片方の手で押さえる事で何とか自分を誤魔化(ごまか)す。

 しかしメルティナには、この症状(しょうじょう)知識(ちしき)として覚えがあった。

 それは――恐怖だ。


(これが恐怖……ですか、マスター)


 元・人工知能であるメルティナが感じた、初めての恐怖。

 それは、同じ異世界人であり、仲間であるはずの“魔王”フィルヴィーネ・サタナキアからもたらされたものだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ