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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 4章《残虐の女王が求めるもの》
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150話【思い揺られて、回る】



◇思い揺られて、回る◇


 流れる景色(けしき)を見るエドガーの(ひざ)には、目を回す“悪魔”リザが。

 その隣では、サクヤが気分悪そうに顔を上げていた。


 時に早く、時に(ゆる)やかに。

 ローザの運転する装甲車【ランデルング】は、非常に順調(じゅんちょう)に進んでいた。

 出発して()ぐに【ルド川】に着いて、メルティナが【クリエイションユニット】で作ってくれていた給水タンクで水を補給(ほきゅう)し、シャワールームを使えるようにした(冷水のみ)。


 その間、リザが目を覚ましたことは全員が知ったが、如何(いかん)せんまたもや目を回しているので、話は出来ていない。

 “魔王”の一撃(デコピン)は、眷属(けんぞく)の“悪魔”を一撃で昏倒(こんとう)させた。

 無論(むろん)、最小限でだ。


 そのフィルヴィーネに喧嘩(けんか)()っ掛けたローザは、相当運転する事を楽しんでいるようで。

 「もっとスピードを出したいわね……」と、メルティナに言われた事に異議(いぎ)申し立てをしていた。

 もう()れたのだろうか。非常に不安である。

 そしてその考えは、助手席に座るサクラも(かか)えているらしく。


「右、右です!そこは左ぃ!ああ、岩があるよローザさん!気を付けて!」

「もう!!うるっさいわよ、サクラ!」

「だって!怖いんですけど!」

「私だってそこまで言われたら不安になるでしょう!もっとどっしりと構えなさいっ」

「ああぁ!今()ねた!!ジャンプしたっ!?」

「うっっっっっるさいっっ!!」


 と言う会話が、後部の部屋に(ひび)いて来ていた。

 サクヤはそれに嫌気がさしたのか、後部の部屋に逃げ込んでエドガーの隣で(ふれ)えていたのだ。そしてついでに、物凄く車酔(くるまよ)いしていたのだった。


「――大丈夫かい?サクヤ」


「うぅ、あ、はい……主様(あるじさま)……ううぅっぷ」


 エドガーはサクヤの背を(さす)ってあげている。

 サクラに貰ったエチケット袋なるものを(つか)んで、サクヤは真っ青な顔を気丈(きじょう)に笑顔に変える。

 しかし、エドガーに顔を向けた瞬間。


「――うぷっ!おえぇ~~~~っ!」


 エドガーはサッ!とエチケット袋を差し出し。

 セ-フ、間に合いました。


「ふふ……駕籠(かご)にも乗ったことが無いわたしが……まさかこんなにも目を回すとは、はは、ははは……おえぇ」


 泣きながら笑い、嗚咽(おえつ)する。

 絶望感に襲われながら、サクヤは自分を情けなく思っていた。


(嗚呼(ああ)……主様(あるじさま)……わたしの背を(さす)ってくれて、何とお優しいお心をお持ちなのだ……)


 自分の背を(さす)ってくれているエドガーを横目で確認しながら、何度も嗚咽(おえつ)を鳴らす。

 本当に、情けなくて涙が出て来る。


(わたしは、こんなのばかりだ……肝心(かんじん)な時に役に立たぬ)


 (ふる)える肩を、エドガーは優しく(ささ)えてくれているが、自分自身の葛藤(かっとう)は消えなかった。

 ルーリア・シュダイハを助けると息巻(いきま)いて毒を()び、エミリアのピンチに参戦出来なかった。

 それはサクラが出場してくれたおかげで事なきを()たが。

 その後の、セイドリック・シュダイハ――バフォメットとの戦いでは、《石》の共鳴(きょうめい)()わされ、今のように胃の中を戻していた。


 そして何より、自分の無知(むち)が情けない。

 ローザ、サクラ、メルティナ、そしてフィルヴィーネ、同じ異世界人でありながら、サクヤは全く話についていけていない時が多々あった。

 自分は学ばなければならない。それは(あせ)りとなって(うそ)となる。

 心配してくれた(あるじ)エドガーに、サクヤは(うそ)()いている。

 「大丈夫」だと、「心配いらない」と。

 本当は、とても苦しい。とても悲しかったのに。


「……――!?」

(……これは……も、紋章が……)


 サクヤの背を(さす)るエドガーの右手には、うっすらと光る紋章がある。

 ローザの紋章とフィルヴィーネの紋章が合わさった紋章は、光とともに形を変えて、円形状だったローザの炎の紋章は赤い天秤(てんびん)の形を(かたど)った。フィルヴィーネの紫の二つの三日月上下から左右に移動し、皿のように並んだ。

 その三日月皿には、炎が揺らめくように描かれている。


 【真実の天秤(ライブラ)】は、サクヤの(うそ)を見抜き、天秤(てんびん)(かたよ)り、エドガーに知らせる。


(これって……サクヤの、感情?なんだよ、どうしてこんな……)


 そう、筒抜けなのだ。

 サクヤの大丈夫だと言う(うそ)を、強がりを、エドガーは知った。


「……大丈夫?」


「は、はい……すみません。主様(あるじさま)


 それでもエドガーは、気丈にするサクヤの想いを尊重(そんちょう)して、黙っている。

 サクヤがエドガーの力になりたいと言う思いは、痛いほどに(つた)わっている。

 その思いがから回っている時も、力不足な時も、十分(つた)わっている。


 だが、サクヤが(のぞ)力になりたい(・・・・・・)は、きっと意味合いが違うのだろう。

 ルーリアを助けた。

 【大骨蜥蜴スカル・タイラント・リザード】にトドメを刺した。

 逃げ回る《石》を捕まえた。

 その前には、乱暴されそうになっていたエミリアを助けてもいる。

 細かく数えても、サクヤはエドガーの役に立てている。それでも、自分の思いとは決定的に違うのだろう。

 サクヤは、必要とされたい。エドガーに。忠誠(ちゅうせい)(ちか)(あるじ)に。


 一番になりたい(・・・・・・・)

 サクヤは、誰よりもエドガーの一番になりたかった。

 きっとエドガーは言うだろう。「順番なんて関係ない」と「みんな大事だ」と、でも違う。

 サクヤは、ローザやサクラを抜いて、一番になりたいのだ。


 エドガーの中では、きっと無意識にローザに(しん)を置いている。

 サクヤはそう感じているし、実際そうなのだろう。頼りになるし、とても強い。

 知識(ちしき)もあり、エドガーを優先させる気概(きがい)もある。

 完璧だった。まさにサクヤの理想。


 そんなローザを、サクヤは(うらや)ましく思う。

 だからこそ、そうなりたいと思って観察(かんさつ)もする。

 無言で、只々観察(かんさつ)している。

 元の世界でそうしてきたように、サクヤの修業(しゅぎょう)は、見る事(・・・)だった。

 そうして()て来た、忍びとしての力。

 それと同じように、サクヤはローザから()ようとしていた。

 しかし、それは違うのだと、薄々(うすうす)感じている。


(分かっている……わたしがローザ殿になれるはずなどない……それでも、わたしは……)


 サクヤが、考えと車酔(くるまよ)いで目を回していると。

 前方のドアがパシュゥゥ――と開き、運転席の方からサクラがやって来た。


「え、何?どしたの【忍者】……ダイジョブ?」


 サクヤの苦労など知る(よし)もなく、吞気(のんき)に棒付きのアメを舐めている。

 (かばん)から取り出したのだろう。

 しかし、自分の魔力を使う(かばん)、取り出した物は魔力の(かたまり)に近い。

 食べ物は意味がない気もするが。

 そんな事を思うエドガーの視線(しせん)に気づいてか、サクラは。


「……エド君も食べる?チュパ」


「え、あ……うん。じゃあ貰おうかな……」


「それは()いにも効くのか……?サクラ」


「効かないわよっ!って何、車酔(くるまよ)いしてんの?……()い止め飲む?」


 サクヤの顔は「そんなものがあるのなら早く言ってくれ!」と言う顔をしていた。

 サクラは(かばん)から簡単にアメと薬を取り出した。

 アメの包みを開けてエドガーに渡し。薬も開けて、コップに水を入れる。

 魔力を使う動作も無かったので、アメも薬も、もう(すで)に取り出した後だったのだろう。――つまり。


「――あたしはもう飲んでるから」


 サクヤが車酔(くるまよ)いしているのだ、同じ(たましい)のサクラも、当然車酔(くるまよ)いするタイプだった。

 しかし、サクラには現代の叡智(えいち)()い止めがあった。


「あんたの時代にも似たような薬はあったんでしょうけど……やっぱり現代医学様様ねっ」


 「ほら、水」と、サクラは錠剤(じょうざい)と共に、補給(ほきゅう)したばかりの水をサクヤに渡す。

 メルティナが事前に【クリエイションユニット】で作成してくれていたタンクには、並々と水が入っていて、小さな蛇口(じゃぐち)が付いていた。


「……すまぬ」


 ごくりと、錠剤(じょうざい)を飲み()す。


「苦くない……」


「そりゃね……あんたの時代は、丸薬(がんやく)?そんな感じでしょ……そもそも成分が違うから。後は大人しくしてなさいよ、三十分くらいで効き始めるからさ」


「そ、そんなにかっ……?」


「うん。だって本来、乗り物に乗る前に飲むものだから、その薬は。我慢(がまん)しなさいよ……って言っても、あと少しで着くんだけどね」


「……」


 無言で項垂(うなだ)れるサクヤ。


「え!?そ、そうなの?」


「うん。あたし、それを言いに来たんだよ。今(ひら)けた場所に出たから、もう荒野に入ってるんじゃないかな……後は、丁度いい場所を探してるとこだよ」


「……そっか、ありがとうサクラ。ローザにも、言っておいてくれる?」


「……そんなの自分で――や、うん……分かった。(つた)えとくね」


 エドガーはサクヤの背を(さす)っている。

 それを見てサクラも(さっ)してくれたようだ。それを告げて、サクラは運転席に戻っていった。


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