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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 4章《残虐の女王が求めるもの》
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148話【荒野へ向かう】



◇荒野へ向かう◇


 “魔王”フィルヴィーネは、装甲車【ランデルング】を製造(せいぞう)している最中(さいちゅう)、誰にも(さと)られない程の魔力を行使(こうし)し、この王都一帯を《魔法》で(うかが)っていた。


 その結果、北門と城壁が思いのほか小さく、この【ランデルング】が通れない事、そして荒野がありえないほどの広さだとも知った。

 フィルヴィーネからすれば、ある《魔法(・・)》で()ぐに解決出来る事柄(ことがら)であるが。

 それを踏まえても、エドガーの問いに『無理』だと(うそ)を言ったのだ。


 だが結果、エドガーの新たな能力【真実の天秤(ライブラ)】によって、その『無理』と言う(うそ)は、看破(かんぱ)されてしまう。

 そうして仕方なく、“魔王”フィルヴィーネはエドガー達に、正確には自分がローザと戦う為に力を貸すことにしたのだった。




「このままこの鉄屑(てつくず)を外に移す(・・)。それからはもう勝手にしろ……いいな。それだけしか力は貸さぬからな」


 フィルヴィーネは【ランデルング】を鉄屑(てつくず)と呼ぶが、メルティナがムッとしている。


「は、はい……」


 エドガーはメルティナを(なだ)めながら、自嘲(じちょう)気味に返事をする。


「――でも、(うつ)すって……どうやってです……?」


 もう一つの座席、助手席とでも言える場所に座るサクラが、フィルヴィーネの言葉に疑問(ぎもん)を持つ。

 それはエドガーも思っていた。サクラが聞かなければ、エドガーが聞いていただろう。


「文字通りだ。コレを――転移(・・)させる」


転移(てんい)ですって……!?」


 一番(おどろ)いたのは、ローザだった。

 《転移(てんい)魔法》は、超高難度の《魔法》だとローザは認識(にんしき)していた。

 それをそんな簡単にも言い放つこのフィルヴィーネに、疑心(ぎしん)の目を向ける。


「《転移(てんい)魔法》……私も、使ってる“天使”を見たことがあるけれど……そんな簡単に出来るものではないと言っていたわよ?」


 転移(てんい)は“神”の専売特許(せんばいとっきょ)だと。

 “天使”はその“神”の加護(かご)のお陰で、恩恵(おんけい)的な《転移魔法》を使えるのであって、“魔族”の転移とはそのもの自体が違うものだと言っていた。


「……ほう。確かにな、《天界》や《魔界》、《人間界》を行き来するには、転移(てんい)は必須だ。我ら“魔族”は、“魔道具”を使う事によってそれを可能にしていた……」


 ローザは脳内に【バカ天使】の顔を思い浮かべて、ほんの少しだけ感謝をした。

 しかし、フィルヴィーネは続ける。


「――だが、だ。(われ)にとっては容易(ようい)な事よ……“神”にできて、(われ)にできぬ訳がなかろうが!ハーハッハッハ!!」


「どれだけ自信過剰(じしんかじょう)なのよ……まぁ、何となくそんな気もしたけれど」


 ローザは思う。この“魔王”はどれだけ自分の強さに自信を持っているのかと。

 少なくとも、今の自分を(はる)かに超える力を持っているのは確かだ。


 それでも、ローザは(いど)まなければならない。

 この“魔王”フィルヴィーネに。そうしなければ、自分の矜持(きょうじ)が許されない。

 (たと)え負けることが前提(ぜんてい)でも、無様な戦いを、エドガーに見せる事だけは出来ないのだ。





 エドガーとメルティナ、そしてローマリアは、【ランデルング】から降りていた。

 ローマリアを送っていく為だ。


「それじゃあメルティナ。ローマリア殿下(でんか)をよろしくね」


「イエス。城に届けた後、全速力で向かいます。フィルヴィーネに【ランデルング】の有能性を見せなければいけません。ですので飛行許可を、マスター」


 まるで王女を荷物(にもつ)配達(はいたつ)か何かの様に言うメルティナに、苦笑いを浮かべながらも、エドガーは許可を出す。


「……う、うん。なるべく見られないようにね……?」


「イエス、マスター。心得(こころえ)ました」


「名残惜しいけど……私も帰らねばならないのね。非常に残念だわ……」


 ローマリア王女は、しゃがみ込みながら地面に指で文字を書いていた。

 非常に分かりやすくいじけていて、少し申し訳なくなる。


殿下(でんか)、また今度……次はちゃんとお誘いしますから、エミリアやハルオエンデさんも誘って行きましょう」


「――本当!?」


「え、ええ。勿論(もちろん)ですよ」


 ぎこちなくも笑いかけるエドガーに、ローマリアは喜ぶ。

 が。その時が来てしまった。


「ではプリンセス。(まい)りましょう」


「――え、あ!ちょ……まだ話は……あっ!!」


 メルティナはローマリアを小脇(こわき)(かか)える。

 随分(ずいぶん)とぞんざいな(あつか)いだ。本当に荷物(にもつ)の様に持つとは。


「ではマスター。行ってまいります」


「ちょっ、もう少しゆっくり――あ!!――あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 背中の《石》を発光(はっこう)させて、メルティナは緑色の光翼(こうよく)を展開させる。

 あっと言う間に上空に舞い上がって、メルティナはそのまま王城方面に向かっていった。

 王女の悲鳴を完全に無視して。





 メルティナを見送ったエドガーのもとに、ローザやフィルヴィーネ達全員が【ランデルング】から下車してくる。


「あれ、どうしたの?」


「……転移(てんい)するから、降りろってさ……」


 答えたのはサクラだったが、何だかとても疲れているように見える。

 もしかして、何かあったのだろうか。


「……やるなら早くしなさいよ。“魔王”なんでしょ?」

()くな。全く……どうしてそう生き急ぐ、そこまで(われ)(なぶ)られたいのか?」

「――はぁ?」

「――んん?なんだ?今ここでやるか?」


「もぉぉぉぉ!またそうやって()めるー!エド君とメルが降りて数分で、三回目だよ……はぁ、疲れる」


 ローザとフィルヴィーネの関係性は、どうやら一筋縄(ひとすじなわ)ではいかないようだ。

 サクラも、きっとエドガーのいない時は苦労(くろう)する事だろう。確定だ。


「フィルヴィーネさん、よろしくお願いしますね……――ローザもさ、戦う本番前に無駄に(から)まない方がいいよ――って、ローザが一番分かってるよね。ごめん」


「……」


 ローザは無言だったが、それ以上フィルヴィーネに突っかかることはなかった。

 背を向けてサクラと話をし始めている。エドガーの言葉が、やはり一番効果があるようだ。


「……はぁ、仕方が無いな。(われ)も《契約者》の言葉に逆らう気はないしな……(われ)が引こう」


「ありがとうございます、フィルヴィーネさん」


 そのフィルヴィーネの言葉に、ローザは小さく舌打(したう)ちをしたが、(さいわ)いサクラがローザに話しかけていてくれたおかげで、小競(こぜ)り合いが再開されることは無かった。


「――北の門、その前でよいな?」


「はい。でも……どうして?」


 フィルヴィーネの言う転移(てんい)なら、もしかしたら瞬時に荒野まで行けるのではと、若干(じゃっかん)甘めの考えを持っていたエドガーは、“魔王”様の返しに反省(はbbせい)する。


(われ)も出来るのならばそうするがな……エドガーよ、折角(せっかく)小娘と機人(マキナ)の民が作ったこの鉄屑(てつくず)を、有効活用せずどうする。勿体(もったい)なかろう」


「確かに、そうですよね……」


 フィルヴィーネにどういう意図(いと)があるかは分からないが、折角(せっかく)サクラとメルティナが生み出してくれた、この【ランデルング】を、(ないがし)ろにする訳にもいかない。


「それじゃあ北門の外まで、お願いします……その後は、ローザが操作するってことでいいんだよ、ね?」


「そだね」

「ええ、そうよ」


「わたしも参加したかったです……主様(あるじさま)

「うん……つ、次ね?」


 随分(ずいぶん)と大人しかったサクヤだが、内心は参加したかったようだ。

 エドガーの隣にこそっと来て、ひっそりと告げた。

 エドガーも次の機会を与えること約束したが、サクヤに何をさせる気なのか。


「では《転移魔法》を展開する――【魔核(まかく)】よっ!」


 フィルヴィーネは、自身の武具である宝珠(ほうじゅ)を《魔法》の空間から取り出す。

 (ちゅう)に描かれた小さな魔法陣に手を入れ込み、そっと抜き出す。

 すると、フィルヴィーネの手には、竜をあしらった豪勢(ごうせい)宝珠(ほうじゅ)が置かれていた。


「……それは!まさか……!」


 ローザが(おどろ)く。

 この宝珠(ほうじゅ)、【転竜(てんりゅう)の玉石】は、《天界》に伝わる《神器(アーティファクト)》だ。

 元は【紫月の神ニイフ】の所持品だと、ローザは【バカ天使(ウリエル)】に聞いていた。

 この《神器》のおかげで、“天使”達は《転移魔法》が使えるのだと。

 まさかそれが、目の前に出てくるとは。


「――【転竜(てんりゅう)の玉石】……【空間竜(くうかんりゅう)ディメンジョンドラゴン】の力を宿した《神器(アーティファクト)》だ……流石(さすが)に知っていたか。【滅殺紅姫アナイアレイション・プリンセス】」


「知っているも何も、それは秘宝中の秘宝のはず……どうして“魔王(あなた)”が所持しているのよ!」


 ローザは、あれ程呼ばれたくないと言っていたあだ名で呼ばれたことをスルーする程、驚愕(きょうがく)していた。


「どうしてと言われてもな……これは(われ)の物だしな。初めから」


「は……――はぁ!?」


 意味が分からなかった。

 だがしかし、分かることもある。

 それは、《神器(アーティファクト)》は、所有者(しょじしゃ)しか使えないという事。

 つまりフィルヴィーネが【転竜(てんりゅう)の玉石】の所有者(しょじしゃ)であり、“神”であると言う事だ。

 隠す事無く、フィルヴィーネは自分の事を話した。そもそも【真実の天秤(ライブラ)】のせいでエドガーには隠せなくなっていたが。


()……だがな」


「か、“神”様っ……?この露出狂(ろしゅつきょう)が!?」


「おい小娘、せめて言葉を選ぶがよい……」


 サクラも理解して(おどろ)くが、違うベクトルで(おどろ)いていた。

 それを言ったらローザも当てはまってしまうが。


「あ、すみません」


「あとそっちの小娘もだ。何をしている」


 サクヤは、フィルヴィーネに土下座、と言うより平伏(へいふく)していた。

 「ははー」と、(あが)める様に。


「しかし、へるびいね殿、いやへるびいね様は……」


「ちぃと待て、なんだそのヘルビイネというのは……誰の事だ!」


 サクヤは相変わらず横文字に弱い。

 ()れてくれば言えるらしいが、フィルヴィーネはメルティナよりも更に言いにくそうだった。


「やや!申し訳ございませぬ!へる……びぃね、様?ははー!」


「……いや、まぁいい……好きにせよ。それよりも、行くのだろう?」


「……え?」

「あれ!?」

「いつの間に……」


 フィルヴィーネはサクヤとの会話を投げた。

 しかしそんなことを言っている間に、【ランデルング】は姿形(すがたかたち)もなくなっていた。


「準備完了だ……ま、北門までは向かわねばならぬがな」


 フィルヴィーネは《神器(アーティファクト)》を空間に仕舞(しま)い、手をパンパンと叩く。


「凄い……本当に、“神”様みたいだ」


()だと言っているであろうエドガーよ、お(ぬし)なら、(われ)嘘偽(うそいつわ)りを()べていない事が分かるであろう?その紋章でな」


 ローザが滅茶苦茶(めちゃくちゃ)怪しんでいる目を向けていた。

 それを嫌がったのか、フィルヴィーネはエドガーに言う。【真実の天秤(ライブラ)】で確かめろと言いたいのだろう。


「……うん。本当みたいだ……紋章は何にも反応しないよ」

(なんだろう……さっきよりも右手が熱い……紋章、かな?)


「そ、そんな……」


 エドガーの言葉だけは信じられるローザ。あからさまにショックを受けていた。


「さて、向かうぞ。そのなんとか荒野に」


 こうしてようやくエドガー達一行(いっこう)は、【ルノアース草原】もとい、【ルノアース荒野】へと向かうのだった。


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