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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 4章《残虐の女王が求めるもの》
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144話【本領】



本領(ほんりょう)


 メルティナを待つ間、サクラは何か思いついたように()られ、長椅子(ながいす)を机代わりにして何かを書き始めた。

 (かばん)から取り出した大学ノートに、愛用のシャープペンシルで、スラスラと書き始め、舌をぺろりとさせている。


「《石》次第(しだい)で理想の車が出来そう、キャンピングカーみたいなのもいいねっ!人数はエミリアちゃんとかも(ふく)めて、結構乗れる方がいいから……ワゴン車もありかも。馬車よりは大きくしないと」


「……どのくらいの物を作るつもりなのだろうか……あやつ(サクラ)は……」

「さぁ。けれど……やる気があるのはいい事でしょう?」

「そ、それはそうだが……わたしには不安しかない」

「……私は楽しみだわっ!異世界の馬車……あぁ、私も行きたいなぁ……」

「……ローマリアはダメよ。せめて休日になさい」

「うぅ……ローザが言うなら、(あきら)めます……」


 サクラの様子を見るサクヤ、ローザ、ローマリアの三人は、口々に物を言って話をしていた。

 王女はどうしても一緒に行きたいようだが、流石(さすが)にローザにもダメと言われて(あきら)めてくれた。


「……それにしても、ローザ殿はどうして場所を探しているのだ?」


 ローザが戦える場所を求める真意(しんい)を知りたいと、サクヤは聞く。

 言いたいことは分かる。

 サクヤはきっと【召喚の間】を使えばいい、と言いたいのだろう。

 【召喚の間】は歴代の【召喚師】が使用してきた特殊(とくしゅ)な“魔道具”だ。

 大掛かりな“召喚”を行う(さい)に使用されてきたその場所だが、エドガー程の“召喚”、【異世界召喚】をしたものはいない筈だ。


 【召喚の間】、その最大の特徴(とくちょう)は、物凄く頑丈(がんじょう)だという事。

 特殊(とくしゅ)な専用の(かぎ)があり、それを使うことで異常なほど頑丈(がんじょう)な壁を作り出して、外であろうが内であろうが、その扉は【召喚師】にしか開けられなくなる。

 それは、ローザの炎であろうと、メルティナの銃火器(じゅうかき)であろうと(やぶ)れはしない。


「【召喚の間(あそこ)】は、私と相性が悪いわ……防壁(ぼうへき)を重ねても、炎の威力が下がるわけではないし、部屋の広さが取れる訳でもない。とにかく、私が最適(さいてき)に戦える場所は……広い場所。なのよ」


「そういうものか……?」


「そういうものよ。毎日のように訓練しているのだから、なんとなく気付きなさいよ……」


 「うぐッ!」と、サクヤは(のど)を詰まらせる。

 もう(すで)に、朝の訓練は日課に近い。

 ローザ、サクヤ、エドガーの三人は、早朝トレーニングと(しょう)して訓練することが増えてきている。

 その時ですら、ローザは剣しか使っていない。

 迂闊(うかつ)に使えないからだ。

 それほど、ローザの《魔法(・・)》は広範囲(こうはんい)高威力(こういりょく)なものばかりだった。


 ロザリーム・シャル・ブラストリアは、剣士ではない。

 ――魔法使いだ。以前の戦いで使用していた【炎の矢(フレイムアロー)】【防火の壁(ブレイズ・ウォール)】【炎で覆う柱(ブレイズ・ピラー)】は、《魔法》ではなく、ただ単に炎を発生させていただけ。【炎の剣舞(ブレード・ダンス)】は、剣を動かす念動力(ねんどうりょく)に近い。

 つまりローザは、この世界に来てから全力の炎(・・・・)は使用していない。

 ただ()()らかしていたのだ。【消えない種火】から産まれる、炎を。


「――私が本気になるには、この街は密集(みっしゅう)しすぎている……これでは、全部燃やしてしまうわ……(いく)ら炎を制御(せいぎょ)できるとは言え、見えない範囲(はんい)の燃えるものを識別(しきべつ)はできないもの……」


 ローザの炎は、自由自在に消す事が出来る。

 逆を言えば、並の人間にはローザの炎を消すことは出来ない。

 水を掛けようが砂を掛けようが、ローザの意思が全てだった。


「なるほど……わたし達の世界とは、随分(ずいぶん)規模(きぼ)が違うのだな、ローザ殿のお力は」


 サクヤは、戦国の世と比べて「うむむ」と考え込む。


「ふふ、そうよ。ただ……」

(その《魔法》を使う為の魔力の枯渇(こかつ)と――私自身の弱体化が、最大のポイントなのよね……今のままでは、アレ(・・)を一発撃てるかどうか……か)


「ただ?」


「……あ、いえ、なんでもないわ――ほら、エドガーとメルティナが来たようよ」


「おお。本当だ……あ、主様(あるじさま)……?」


 サクヤに返答せず、ローザは自分自身の問題を心に仕舞(しま)う。

 この先魔力が回復できても、弱まっていく自分が、どこまでエドガーの役に立てるのかと、思わずにはいられなかった。





 メルティナは大きめの木箱を(かか)えていた。

 その後ろから来たエドガーは、ガックリと肩を落として、絶望すら(にじ)ませているように見える。

 これは、相当(そうとう)コレクションを持ち出されたのだろう。残念ながら。


「お待たせしましたサクラ。【心通話(テレパシー)】でも(つた)えましたが、この(くらい)あれば(よろ)しいでしょうか……」


「――え~っと……うん!あたしの方も設計図描いてたからさ、これを見て作ってくれる?」


 サクラは箱の中身を確認して、メルティナに大学ノートを渡す。

 車の図形(ずけい)が描かれ、見事にびっしりと埋められていた。


「これは……張り切りましたね」


「まあねっ」


 サクラは、メルティナが持ってきた木箱をガサゴソさせながら、想像を(ふく)らませる。


「正直、魔力がどうとかはよく分からないけどさ……数を増やせば何とかなるかな?」


「……はは……もう好きにしていいよ……」


 エドガーは、もう完全に(あきら)めていた。

 少し申し訳なさそうにするメルティナが、エドガーの頭を()でる。

 その様子を見てローザが眉根(まゆね)を寄せたが、気付いたのはローマリアだけだ。


「安心してくださいマスター。《石》が有効に使えれば、《石》そのものよりも素晴らしいものが作れるのです。きっと、マスターもお気に()すはずです」


「……そうなのかな?」


 子犬の様に、エドガーはメルティナを見上げる。

 エドガーはしゃがみ込んでいる為、メルティナは中腰状態だったのだが、エドガーの視線(しせん)はメルティナの心臓(コア)動揺(どうよう)させるには十分だった。


「そ、そそ、そうです……です、す」

<……可愛(かわい)い!マスター。年頃の少年の、困った顔が、す、素晴らしい……!これがマスター・ティーナの言っていた、(とうと)いと言うものでしょうか……!>


 メルティナは、前マスターのティーナ・アヴルスベイブをベースに身体を生成(せいせい)されている。

 肉体年齢は、(おおよ)そ21歳。そして残念の事に、その趣味嗜好(しゅみしこう)までが反映されてしまっていた。

 つまり簡単に言うと、年下好きなのだった。


<感情が駄々洩(だだも)れよ?メルティナ>

<へぇー、へぇー>

<確かに、主様(あるじさま)可愛(かわい)らしいところもある>

(われ)にはよく分からぬが、この【心通話(じゅつ)】は興味(きょうみ)深いな、念話(ねんわ)の様なものだろうが……>


「はっ!――!?ワタシは、口にしていましたか?……それとも【心通話(テレパシー)】に?」


 イラっとしてそうなローザが。ニヤニヤするサクラが。

 同意して(うなず)くサクヤが。そして、初の【心通話】にもすんなりと対応(たいおう)するフィルヴィーネが、狼狽(ろうばい)するメルティナを見ていた。

 (さいわ)い、エドガーには【心通話】は届いていなかったようだ。

 心が弱っているからだろうか。


「ノー!!ち、違います!」


「――えっ、何が?」


 状況理解をしていないエドガーは、突然否定的(ひていてき)な言葉を(はっ)したメルティナに(おどろ)いて声を上げるが、そのメルティナは。


「マ、マスターには関係性は皆無(かいむ)です!」


「ええぇ……」


 エドガーは、更にへこんだ。

 何故(なぜ)かローマリアが、エドガーの肩を叩いた。ポンポンと(なぐさ)める様に。

 それを見て、他の異世界人達は笑う。


「……想定外(そうていがい)です」


「でしょうね」


 ローザが前と同じ台詞(セリフ)を言う。


「あたしは想定してたけどねぇ」

「わたしもだ」

(うそ)でしょ?」

「――なぜお(ぬし)はそういう事ばかり言うのだぁ!」


 サクラは、自分に同意するサクヤを(うたが)う。

 フィルヴィーネはもう興味(きょうみ)なさそうにしていた。


「――と、とにかく!【クリエイションユニット】起動(きどう)します!」


 メルティナは、手足に付けられたリングを(ちゅう)に浮かせて連結(れんけつ)させる。

 人間サイズ以上に大きくなったリングは、空中でゆっくりと回り始めて、やがて停止する。


「サクラ。設計図を!」


「あはは、あ。はい……」


 まだ笑っていたサクラはメルティナの剣幕(けんまく)に押されて、素直に大学ノートを渡す。


「……インストール開始……終了」


 早い。


「はっや!」


「続けて作成を開始します……」


 どうやらもう、メルティナは全員を無視(むし)する事にしたようだ。

 そもそも自滅(じめつ)だったが。そんなにもダメージを受けたのか。


 サクラは苦笑いを浮かべながら、メルティナの隣に立って(なだ)める。

 ローザはエドガーを(なぐさ)めるローマリアの隣に。

 サクヤも、関心(かんしん)がありそうに【クリエイションユニット】を見ていた。

 見事にバラバラ、協調性(きょうちょうせい)の欠片もなかった。

 そんな人間達を、“魔王”フィルヴィーネだけが見ていた。


(――あほらしい……が。退屈(たいくつ)はしなさそうだ。これから、大いに期待させてもらうぞ)


 そう心で(つぶ)き、自身の(ひざ)の上で眠る、“悪魔”リザを()でたのだった。





 作業は淡々(たんたん)と続き。


「終了まで残り三分。想定よりも大きくなったため、【クリエイションユニット】のゲートを広げます」


 空中に浮かぶ【クリエイションユニット】は、スライドギミックにより幅を広げた。

 連結(れんけつ)した4機は、ひとつひとつが可動して、大きくなる。


 4機の【クリエイションユニット】は連結を解除して、レーザーで(つな)がれる様に変化しており、少し()れたら(くず)れそうに感じる。とは、エドガーの意見だ。


 しかしその間に、しっかりと作成は完了した。

 後は完成品を出現させるだけのようだとメルティナが言う。


「――完了しました。多少距離(きょり)を取ってください」


 メルティナの言葉に(したが)い、エドガー達は離れる。

 すると【クリエイションユニット】は小さく振動(しんどう)し始めて、レーザーで作られた薄い(まく)の中から、巨大な物体が出現する。


「――えっ!?」


 エドガーは、完全に馬車を想像していた。

 木と鉄で出来た、無骨(ぶこつ)なデザインを。

 しかし、現れたのは想像とは真逆。

 流線形(りゅうせんけい)のフォルムに、馬など付ける場所など全くない完全な金属製。

 木の車輪ではなく、黒い材質(ざいしつ)(かたまり)


「「す、凄い!!」」


 エドガーとローマリアの現地民(げんちみん)は目を見開いて(おどろ)く。

 それは、数人いた通行人も同じだったが、どちらかと言えば恐怖しているように見えた。

 しかし意外にも、サクヤはそうでもなかった。


「あんた、(おどろ)かないのね。絶対エド君と同じ反応するかと思ってたけど……」

「……」

「【忍者】?」

「あ、ああ。何というか……想像していたものと同じ過ぎて、(おどろ)きがなかった」

「……は?」


 サクヤが想像していたものと、同じ。

 それは、サクラが設計したものと同じだという事。


(どういう事?……時代的に、この子があたしと似たような造形(ぞうけい)を考える事なんてできないでしょ……)


「ん?」


(……とぼけた顔して……(にく)たらしいわね)


 真剣に考えるサクラに対して、サクヤは然程(さほど)気にしていない様子。


(……あたしと同じ(たましい)だから思考(しこう)が同じ?――いやいや、この【忍者】にそんな考え無理でしょっ)


 何気に失礼だ。

 サクヤの発想(はっそう)は、失礼だが幼稚(ようち)稚拙(ちせつ)だ。

 戦闘面に関しては言う事は無いが、それ以外は、正直子供以下だとサクラは思っている。

 ――本当に失礼な話であった。


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