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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 4章《残虐の女王が求めるもの》
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142話【ブーメラン】



◇ブーメラン◇


 堂々(どうどう)と全裸で食堂を闊歩(かっぽ)する《残虐(ざんぎゃく)の魔王》フィルヴィーネさんは、自然とローザの正面に座った。

 歩いている間、サクラとサクヤの二人が、大事な所を隠す(なぞ)の役目を(にな)っていたけど、僕は目を閉じていたから見てはいない。本当だよ?


「――お願いだから服着てぇ!」


五月蠅(うるさ)い小娘だ……そんなに着て欲しくば、用意せよ」


「――なぁんで上からぁっ!?」


 ローザの正面という事は、実は僕の真隣(まとなり)になるのだが、僕は顔を()らしてフィルヴィーネさんの裸体を極力(きょくりょく)見ない様にしていた。


 それは、ローザから無言の圧力(あつりょく)をかけられていたからだったからだけど、フィルヴィーネさんはそれに気付いてか、「ほれほれ」とローザをからかう。


 ――ああ、嫌な予感が。


「お~お~。随分(ずいぶん)とご執心(しゅうしん)ではないか、【滅殺紅姫アナイアレイション・プリンセス】よ……」


「……その名前は止めてくれないかしら。虫唾(むしず)が走る」


「ん?何故(なぜ)だ。カッコイイではないか」


 ローザは、フィルヴィーネさんが自分を【滅殺紅姫アナイアレイション・プリンセス】と呼ぶことを嫌がっている。

 僕達はまだ知らぬことだが、【滅殺紅姫アナイアレイション・プリンセス】とは、ローザが元の世界で呼ばれていた異名(いみょう)だったらしい。

 赤い髪を(なび)かせて、《広域殲滅魔法こういきせんめつまほう》で、跡形(あとかた)もなく(ほろ)ぼす。

 その光景(こうけい)を見た、どこぞの“天使”が付けた異名(いみょう)は、あっと言う間に世界中(《人間界》《魔界》《天界》)に広がった。

 まさか《魔界》にまで知れ渡っていたとは、ローザも思っていなかったと後に聞いた。


「いいから止めて。嫌いなの」


「ほほう、それなら……――余計(よけい)に止められぬなぁ」


「――ちっ!!」


(にく)たらしい程の()みにローザがキレた。


「……ほっ」


 一瞬で持っていたパンを投げ、見えない速さで飛ぶパン。

 ヒュー―――ン!がぼっっ!!


「――!!――もがっ!?」

 

 しかしフィルヴィーネさんは軽く()けて、パンは背後にいたサクヤの口に突き刺さった。


「【忍者】ぁぁぁ!?」


 スットーーンと、綺麗に後ろに倒れたサクヤをサクラが介抱(かいほう)する。なんだかオーバーアクションだ。


 だから、これは二人共がふざけていると()ぐに分かった。

 僕は二人を静観(せいかん)した。正直それどころではないし。


「むが……むむ……がくっ」


「死ぬなぁぁ!に、【忍者】ぁぁ!!」


 パンを(くわ)えたまま、ガクリと(くず)れるサクヤ。

 サクラは悲痛に(さけ)び、涙を見せる。というかよく涙出せるね。怖い。

 悪ノリを続けるサクラに、メルティナが脳天にチョップをする――バシッと。


「……ふざけている場合ではありません。サクラ」


「ってて……わ、分かってるわよ」


 片目を(つぶ)り、頭を(さす)りながら言うサクラ。

 分かっているならやめてほしかった。


「……どうするつもりでしょうか。あの二人は」


 メルティナの言葉に、サクラは真剣な顔で返す。


「あたしは取り()えず、フィルヴィーネさんに服を着て欲しい」


 僕もだよ。どこ見ていいか分からないからね。

 ――いや、見てないよ?ローザが(にら)むから。


「――エドガー。聞きなさい」


「え、あ。う、うんっ……何?」


 フィルヴィーネを警戒(けいかい)しながら、ローザは僕を呼んだ。

 意表を突かれて変な声を出した僕は、ローザを見る。


「お願いがあるわ……戦える場所を用意して」


「――え、ええっ!?」


 戦える場所。まさかフィルヴィーネと戦うつもりなのか、ローザは。


「ローザさん!ど、どうしたの、急に」

「ローザ。落ち着いてください」


「そうだよ!なんで戦いなんて……」


 サクラ、メルティナがローザを止める。

 僕も当然そんなのおかしいと思ってるから、止める。けどローザは。


「この変態(へんたい)を……少し(だま)らせるだけよ……」


 全裸のフィルヴィーネを視野(しや)に入れて、ローザは僕に笑う。

 え、ちょっと待って。ローザの今の言葉、かなりブーメランじゃないかな?


「ローザさんだけは言えないでしょ、全裸の人を変態(へんたい)って……」


 僕が言う事を我慢(がまん)したのに、サクラが言っちゃったよ。

 ツッコミ気質(きしつ)なサクラには、言わざるを()なかったのかな。

 そのツッコミに、一瞬だけローザの片眉がつり上がった。

 どうやら、自覚はあったのかな。僕は思ってないよ?本当に。


「と、とにかく……戦える場所、それも広範囲(こうはんい)で炎を使える場所がいいわ」


 誤魔化(ごまか)した。視線(しせん)(かわ)して、僕たちを見ない。


「……でも、広く戦える場所なんて……僕には心当たりないよ?」


 僕だけじゃなく、この【王都リドチュア】に生まれた今の若い人は、王都から出たことがない人が大多数を()めているはずだ。

 それはこの王都が、下町と貴族街、合わせて10区画の街が合わさった大都市だからだ。


 下町の一区画から六区画までだけで大抵の物は(そろ)うし、子供達が遊ぶ公園や、大人が集まる飲み屋なども、全区画にそれぞれある。

 無駄に広いこの王都を、出る理由がなかった。

 しかし、武力に関する施設(しせつ)は、この王都にはなかった。

 騎士学校【ナイトハート】ですら、訓練施設(くんれんしせつ)(かぎ)られており、演習(えんしゅう)には公園や空き地のようなところで(おこな)っていた。

 つまり、ローザが求める“広くて戦える場所”など、王都内には無いんだ。


「――そう。なら……ローマリア、貴女(あなた)はどうかしら」


「――えっ!?」


 ここは出番ではないな。殿下(でんか)の今の返事からは、そういう色が見えた。


「わ、私ですか……?」


「そう。貴女(あなた)はこの国の王女でしょう?……なら、多少は知っているのではない?」


 確かに、ローマリア殿下(でんか)は第三王女だけど。

 国の地理を知っているのは当然なのだろうが、この王女さまは、最近まで公務を一切してこなかった事情があるから、王都外の事など知らないのでは?


「え、えーっと……しょ、少々お待ちくださいね……?」


 やっぱり。

 必死に思考(しこう)(めぐ)らせる姿は可愛らしいが、少し気の毒だ。

 申し訳ありません、殿下(でんか)


「「……」」


 ああ、ローザとフィルヴィーネさんが(にら)み合ってる。

 ローザは完全にフィルヴィーネさんを敵視(てきし)しているし、フィルヴィーネさんはフィルヴィーネさんで、ローザをからかう気満々だ。


「――あっ!そうか、そうだわっ!」


 殿下(でんか)何処(どこ)見当(けんとう)があるらしい。

 大変嬉しそうにはしゃぐ。ピョンピョン()ねて、なんか、何というか。

 ――子供の様だ。


「ローザのご要望(ようぼう)、私には心当たりがあるわっ!」


 なんだか最初から知ってましたみたいに言うけど。

 数刻(すうこく)(数分)待ちましたよ、殿下(でんか)


「あら。じゃあ聞きましょうか、ローマリア王女」


 笑顔で言うけどローザ、若干(じゃっかん)顔が邪悪(じゃあく)だよ?


「……【下町第一区画(アビン)】の北門を抜けると、【ルド川】があります」


 それは僕も知っている。最低限、下町民はここで冷水を()むんだ。

 冷たく綺麗(きれい)な水は、下町の住民には使用する場所がなかった。

 貴族街には、王城の“魔道具”から()き出る水が流れ、それが(かわ)となって回っている。

 しかしその(かわ)は、円形状になっていて下町には流れてこないのだ。


「【ルド川】のさらに北東に、何年も何年も放置(ほうち)されたままの平原がありました。その平原は、今はもう()れ果てて、荒野となっているはずです……」


「荒野ね。都合(つごう)がいいわ」


 燃えるものがない。確かに、ローザには都合(つごう)がいいかもしれないけどさ。

 僕は、問題を口にする


「しかし殿下(でんか)……行くにも時間がかかります。【ルド川】に行くのも結構かかりますし……その平原、荒野に今から行ったとしても、着くころには夜近いのでは?」


 僕達下町の住人は、朝早くに【ルド川】に水を()みに行くけれど、往復で大体二時(ふたとき)(二時間)はかかる。それも馬車を使ってだ。

 今はこの人数だし、【福音のマリス(うち)】にこの人数を乗せられる馬車はない。

 精々(せいぜい)荷台(にだい)付きの小さな馬車しかない。

 しかも馬はレンタルだ。


「そ、そうね……そう言われればそうかも。う~ん……そうなると……」


 ローマリア王女が、また考えてくれているが。


「――マスター、ワタシが運びましょうか?」


 メルティナが言い出してくれたけど、それもあまり良くない。

 ローザとフィルヴィーネだけを運ぶ訳にはいかないからね。

 【異世界人達】は、《契約者》の僕がいないと力が弱まるらしいし、(たと)え僕がついていっても、サクラとサクヤを残してはいけない。

 長い距離(きょり)を離れられないからだ、いろいろな意味でも、バラバラになる事は出来ないよ。


「いや、メルティナには……殿下(でんか)を送ってもらわないと」


 そう。ローマリア王女殿下(でんか)をここに残しても置けないし、ましてや連れて行くことなんて言語道断(ごんごどうだん)だろう。【召喚師】の所にいると言うだけで、誹謗(ひぼう)が来そうだ。


「……む~」


 いやいや殿下(でんか)、そういう顔はやめてください。


「まさか、ついていく気だったんですか……?」


「――!……だ、ダメなの!?」


「――勿論(もちろん)、ダメです」

「そうね。流石(さすが)に」


 ダメですよ。僕が誘拐犯(ゆうかいはん)にされてしまう。

 【聖騎士】の誰かがいてくれれば、少しは可能性もあったかもしれないけどさ。


「……メル。確か……なんか作り出せるよね」


 今まで(だま)って聞いていたサクラが、メルティナに何かを言っている。

 もしかして、何か思い当たるのかな。


「【|クリエイションユニット《コレ》】の事でしょうか?」


 メルティナの武器とかを作り出してた、あの金属の輪っかの事かな。


「そう!それ!……それで、作れないかな?……車。……自動車(・・・)を」


 自動車?馬車とは違うんだろうな、サクラが言うんだ。

 きっと、異世界の乗り物だ。


「――そういう事ですか。確かに、作れはするでしょう……ですが、ワタシの世界に……自動車は存在しませんでした。ワタシ達が運用していたものは宇宙船ですから」


「ん~。なら、あたしから情報抜けない?この《石》からさ」


「……成程。やってみる価値(かち)はありそうです」


「……なんだか、サクラとメルティナで話が進んでいるけれど、これは行けるってことでいいのかしら?」


 ローザは僕を見る。


「……た、多分ね」


 こうして、ローザとフィルヴィーネさんが戦うという話が、ドンドンドンドン広がっていったんだ。

 でも、異世界の乗り物、自動車は正直楽しみだし、【ルド川】北東の荒野。

 そこに行けるかもしれないって言う好奇心(こうきしん)で、実は僕もワクワクしていたんだ、この時は。

 

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