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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 4章《残虐の女王が求めるもの》
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140話【気まずい昼食】



◇気まずい昼食◇


 遅めの昼食を取ろうとして、エドガー達は全員で食堂に移動して来ていた。

 (みな)(みな)、無言で食事をとる光景(こうけい)は、中々にカオスな雰囲気(ふんいき)(かも)し出している。

 フィルヴィーネは、()み上がりだという事で部屋で休んでもらっている。部下のリザがまだ目を覚まさないと言うのもあるが。

 実はまだ、ローザとフィルヴィーネの話は途中(とちゅう)だった。

 そんな話を切り上げて食事を取るのだ、空気も重くなるだろう。


「……」

「……」

「……」

「……」

「……」


 カチャカチャと、食器の音だけがなる食堂の空間で。

 (みな)が気まずそうに食事をしている。

 サクヤですら、エドガーとローザを気にして、黙って(かた)いパンを(かじ)っている。


「――これは一体、どういうことでしょうか?」


「ぁ!」


 地下の残存(ざんぞん)魔力の回収を終えたメルティナが戻ってくると、食堂は静まり返っていた。

 居た(たま)れなさそうにするローマリアが、それに気付いて近付き、声を掛ける。


「えっと……メルティナさん、だったわね……」


 王女とメルティナは、合うのは二回目だ。

 初対面はエミリアの【聖騎士】正式発表の日。それ以来だ。


「イエス。プリンセス・ローマリア……何があったのでしょうか……?」


「ええっと……それは……」


 そうして、ローマリアはメルティナに説明をする。

 先程フィルヴィーネが休む部屋であった、ローザへの依頼(いらい)について。





『い、依頼(いらい)?ローザに、ですか……?』


 ローマリアは、ローザに依頼(いらい)をすると言った。

 エドガーを(かい)さず、直接ローザに、だ。


『ええ、これは……私から(・・・)依頼(いらい)です』


 王家は関係ない、と言いたいのだろう。


『それで……内容は?』


 なんだか、もう(すで)に受ける感じでいそうなローザに、思わずサクラは。


『――ちょっ!なんでそんなに乗り気なんですかっ!?』


 ベッド脇の椅子(いす)に座っていたサクラは、向かいにあるテーブルに身を乗り出してローザに問いかける。


『なんでって……話を聞かなければ何も分からないでしょう?』


 髪の毛を(いじ)りながら、誤魔化(ごまか)すように視線(しせん)()らす。


『……ローザさん?』


 不自然で、らしくない態度(たいど)のローザに、サクラは違和感(いわかん)を感じるも、ローマリアが話を進めてしまう。


『私は、ローザに(した)しみを感じています……それは、ローザがこの【リフベイン聖王国】の始祖(しそ)である……勿論(もちろん)それもありますが……』


 ローザ自身がそもそもの始祖(しそ)ではないが、血筋で言えば確かにそうなのだろう。

 きっとリフベイン王家の血筋が、生き残ったブラストリアの血筋なのは、ローザがローマリアに対する態度(たいど)で分かる。

 ローザが、不意に笑みを(こぼ)す。


『――私の子孫じゃないわよ……?』


 エドガーに向けて。


『それは……わ、分かってるけど』


 ローザが男性経験がない事を聞かされているエドガーは、少し顔を赤らめて返事をする。


『――続けても?』


 ローマリアがローザとエドガーに。

 少し熱が入っている感じだ。視線(しせん)を向けられた二人は(そろ)って。


『『ど、どうぞ……』』


 と、押され気味だった。


『では……私はローザに、指南役(しなんやく)になっていただきたいと思っています』


指南役(しなんやく)?』

『……ですか?』


『そう!!……です』


 ローザとエドガーの受け答えに、ローマリアは一瞬だけ興奮(こうふん)した様子を見せるも、()ぐに気を持ち直して話を進める。


『何をするのかしら』


⦅ローザ……なんでそんなに⦆


 進んでローマリアの話を受けるローザに、エドガーも違和感(いわかん)を感じる。

 だが、そんなことを考えている(ひま)もなく、話はドンドン進んで行ってしまう。


『私も王家の(はし)くれ……教養(きょうよう)も多少、多少はあるつもりです……お転婆(てんば)と言われても、【ビコン】と言われても、私はブレずに進んでいこうと思います』


 【ビコン】とは、【リフベイン聖王国】の森林地帯に生息する、(さる)だ。

 顔が赤く、“あほ面”と言われる動物である。

 それが分からず、きょとんとする異世界人達だが、ローザだけがクスッと笑った。

 どうやら、ローザの時代にも【ビコン】が生息(せいそく)していたようだ。


『フフッ……貴女(あなた)、自分の国の関係者にそんなこと言われているの……?今も真っ赤よ?』


『……今はいいんです!』


『フフ……そうね。続けて』


 顔を赤くしてプンプンするローマリアを見て笑うローザの顔は、本当に楽しそうに笑っていた。

 それを、エドガーと他の異世界人は不思議(ふしぎ)に思う。

 二人は、周りを気にしないかのように話を進めていく。


『……はい。それで、私を指導(しどう)してほしいのです。城に来て』


『……』


 エドガーは、無言のローザを見る。どこかで思っていたのだ、ローザは断ると。

 少しの距離(きょり)であろうと、自分の(そば)から離れる事は無いのだと。

 しかし、その思い込みは一瞬で踏襲(とうしゅう)された。


『……いいわよ』


『――ぇ?』

『ええっ!?』

『ローザ殿……』


 今はここにいないメルティナだけが、その理由を予測(よそく)する事が出来ただろう。

 ローザは、エドガーを、異世界人達を()けようとしている、と。

 自分の能力(スキル)原因(げんいん)で。


『ローザ!なんで……』


『いいでしょう少しくらい……ローマリアは、私に依頼(いらい)してきているのだし』


『ちょっとローザさん!こっち見て言ってよ!!』

『サクラ落ち着けっ!』


 決して視線(しせん)を合わそうとしないローザにサクラは(さけ)ぶが、サクヤが何とか()さえる。


『――離して馬鹿(ばか)【忍者】!ローザさん!!』


 サクラが(さけ)んでも、エドガーは何も言おうとしない。

 だから、サクラは何度でも(さけ)ぶのだ。エドガーの代わりに。


『ローザさんっ!答えてよっ!……【召喚師】を(さげす)んだ王家の、そんな事が……』


『――っ!!』


 言葉が(つな)がらず、途切(とぎ)途切(とぎ)れのサクラの声を、ローザは聞こうとしていない。

 サクラだって、ローマリア自身が悪くない事は分かっている。

 協力的である事も、エミリアの(あるじ)である事も。

 それでも、サクラは納得(なっとく)していなかった。

 それがここで、爆発してしまった。サクラは依頼(いらい)を簡単に許諾(きょだく)するローザの本心が分からない。


 サクラにとっての優先度は、エドガーが一番であり、二番目は仲間、同じ【異世界人】だ。

 今の言葉でローマリアが心を痛めたのが分かっても、自分の考えは曲げられなかった。


『す、すまない……私は、無神経(むしんけい)な事を言っているわよね……』


 ローマリアの視線(しせん)と言葉は、エドガーに向けられている。

 サクラの言葉で気が付かされた、自分のしていることが、“王家と【召喚師】の確執(かくしつ)”を、更に悪化させる可能性がある事に。


『いや……僕は、気にしていませんから……これは、ローザと殿下(でんか)のお話なのですから……』


 気まずそうに視線(しせん)()らすと、静観(せいかん)していたフィルヴィーネと目が合う。

 優し気に部下の“悪魔”、リザを()でるフィルヴィーネは、微笑(ほほえ)みを(くず)さぬまま言う。


『――この話は、良い事のように感じるがな……』


『えっ?』

『はぁ!?』

『い、痛い痛いっ!』


 静観(せいかん)していたと思っていたフィルヴィーネも、キチンと話は聞いていたようだが、この国の情勢(じょうせい)と【召喚師】の事をまだ知らない彼女が、何を言うのかエドガーは少し気になった。

 サクラは怒っているが。小脇を抑えるサクヤの頭を鷲掴(わしづか)みにして、グリグリしている。

 ポニテの根元が引っ張られていて、地味に痛いヤツだ。


『落ち着け小娘……まったく、よく考えろ。この話にはな、メリットしかないのだ――エドガーが、我慢さえすればな』


『僕が?』

『エド君が我慢?』

『痛い痛い!』


『小娘。お前は本当に(かしこ)さが売りの女なのか……?考えれば分かるはずだ。ほれ、答えて見せろ』


 フィルヴィーネは、今のは完全にサクラの早計(そうけい)な判断だと言っている。

 ローザが乗り気な事に苛立(いらだ)ったせいで、冷静な判断が出来ていないという事だ。


『――うっ……そ、それは……あたし達の中で一番、戦いや国政(こくせい)、王族や貴族について理解をしていて……王女様が心酔(しんすい)していて。エド君……【召喚師】との間を(むす)ぶ事が出来る……可能性を持っている』


『それはつまり?』


 フィルヴィーネは『もう分っているのだろう?あまり我儘(わがまま)を言うな』と言いたげにサクラを見る。

 サクラも、自分で口に出して理解する。本当は(すで)に分かっていた事だ。

 それを、ローマリア王女から言ってくれたことが、どれだけ大きい事か。


『――ああ!もうっ……――【召喚師】と王家とのいざこざ(・・・・)を、内側から調べて……解決できるかもしれない……』


『そういう事ね。私は……そうするつもりよ。ローマリアが協力してくれるなら、都合(つごう)がいいと思ったのよ』


 サクラが出した答えに、ローザは答える。

 初めから、ローザはエドガーの事を考えていたのだ。

 それで険悪(けんあく)雰囲気(ふんいき)になっても、未来が明るければいいと。

 そう思って。


『分かる……分かるよ。分かるけどっ……エド君!』


『……』


 止めないの?サクラはそう言いたいのだと、言われずとも(つた)わった。

 でも、エドガーは言えない。行って欲しくはないと、その一言を口にはできなかった。





「……そういう事ですか」


「え、ええ」


 ローマリア王女から事情(じじょう)を聞いたメルティナは、食堂を(のそ)く。

 今、二人は食堂から出て、ロビーの階段に座っていた。(紫の影をサクラが見た場所)


不器用(ぶきよう)ですね。皆」


「いや、元はと言えば、私が余計(よけい)なことを言ったからで……」


「ノー。プリンセスのお言葉は、我々にとってはかなりの優先度をしています」


 【召喚師】と王家のいざこざが無くなれば、エドガーが“不遇”に(あつか)われる理由がなくなる。

 それは、エドガーが(のぞ)むことでもあるはずだし、エミリアやアルベールの兄妹も【異世界人】の少女達もが(のぞ)むことでもある。

 それを理解していながらも、ローザが離れていくことを危惧(きぐ)したサクラが、()き立てられてしまったのだろう。


「そうかしら……」


「イエス。そういう事です」


 メルティナは、予測(よそく)出来ていた。

 王家が【召喚師】に接触(せっしょく)してくることを。

 エミリアが【聖騎士】に成った時点で、何通りもの結果をシュミレートし、その中に、“王家との確執(かくしつ)を解消する”と言うものがあった。

 まさかそれが(おの)ずからやってくるとは思っていなかったが。


「そういう事ですので。是非(ぜひ)とも進めてください。マスターには、ワタシが言い聞かせますので」


「……分かったわ」


「……はっ――くしゅっ!!」


 食器の音だけが鳴る食堂で、誰かがくしゃみをした。

 そのタイミングに合わせて、メルティナとローマリアは戻っていった。


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