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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 4章《残虐の女王が求めるもの》
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136話【魔王降臨(おまけ付き)】



◇魔王降臨(こうりん)(おまけ付き)◇


 全員が配置について、やっと【異世界召喚】の最終準備が(ととの)った。

 つい数刻(すうこく)(数分)前にいろいろあったが。

 それはそれで、フィルヴィーネに自分の世界での準備をさせるものだとすれば、ご愛敬(あいきょう)というものだろう。

 そう思う事にしよう。


「……()せぬ」


 一人、絶対に納得(なっとく)しようとしない者もいるが。

 魔法陣のど真ん中で、座禅(ざぜん)を組むように座り、精神を落ち着けようとするサクヤ。

 その視線はサクラに向けられ、先程言われた言葉を心の中で反復させる。


『あんたは深く考えたらダメだって……いいとこが消えちゃから。【忍者】、あんたはエド君の影なんでしょ?なら、エド君の考えを理解できなくてもいいから。ただ、その()で、脚で……エド君を支える気持ちを持てばいいのよ』


 確かにサクヤは忍び――【忍者】だ。

 (あるじ)の影になり、(あるじ)に尽くし、(あるじ)の為に死ぬ。

 それがサクヤが教えられた、忍びとしての本懐(ほんかい)


(本当に、サクラは似ている……同じ事を言いおって。不覚にも笑顔になる所だったぞ……)


 サクヤは嬉しかった。

 言われた事は、素直に心に効いた。

 その言葉が、かつて大切にしていた人物からの言葉と酷似(こくじ)して、口端(くちはし)が緩みそうになった。

 左眼の【魔眼】にサクラを映して、サクヤは思い出す。その言葉を。


『……お眼が綺麗です。きっとその眼は、人を支える事の出来るお力なのでしょうね……姉上(・・)


(――コノハ(・・・)。やはり、サクラはお前なのだな……でも、でも……それでもわたしは……)


 サクヤは、(そば)に居たいと、エドガーの隣で並んでいたいと考え始めていた。

 一歩後ろで、(あるじ)の背を見つめるだけでは嫌だった。サクラの言葉通りにすればいいのかもしれない。

 忍び失格かもしれないが、それでもサクヤは初めて“恋”をしたのだ。エドガーと言う、自分を必要としてくれる少年に。


 家族に見限(みかぎ)られたと言う境遇(きょうぐう)を同じとした貴族の元令嬢(れいじょう)ルーリアと、その従者(じゅうしゃ)だったボルザを見て。

 (うらや)ましいと思った。自分も、こんなにも誰かに思われたい。

 大切にされたい。そう、思い始めていたのだ。





 エドガーは魔法陣の正面に立つ。

 メルティナは後方。サクヤの後ろに立っていた。

 回復したばかりのサクラも、サポートをすると言ってエドガーの本に目を通していた。

 “召喚”に使用される【ルーンス文字】だけは、まだ読めないが。


「それじゃあ、本当に始めるけど……」


「承知です」

「イエス」

「オッケー」


 エドガーは【異世界召喚】をする前に、ローザに【心通話】を送る。


<ローザ。聞こえる?……これから【異世界召喚】をするよ。一応、報告をと思って……>


 返事は無い。やはり、先程メルティナとの衝突(エドガーにはそう見えた)が原因(げんいん)で怒っているのか。

 エドガーは目を(つぶ)り、【心通話】が届いてほしいと念じて送る。


<もしかしたら、ローザは勘付(かんづ)いているかもしれないけど……“召喚”するのは《石》の、【女神の紫水晶(ネメシス・アメジスト)】の所有者だよ。名前は……フィルヴィーネさん、魔王様らしいよ>


 ローザに初めてあった時に聞いていた、“魔人”や“天使”の情報。

 忘れたわけではない。ローザは、“悪魔”や“魔人”は()だと言った。

 フィルヴィーネは“魔王”、簡単に言えば、“魔人”や“悪魔”、“魔族”の親玉になるはずだ。

 でもエドガーには、フィルヴィーネがそういう存在(・・・・・・)には見えなかった。

 だから、“召喚”を躊躇(ためら)う事なく、(みずか)らを【召喚師】だとも言えた。


<ローザ。僕は、“魔王”を“召喚”するよ……後で、沢山怒られるから……だから>


 気持ちを尊重(そんちょう)してほしい。

 しかし、それは言えなかった。ローザにだって、きっと言いたい事が山ほどあるはずだから。

 だから、言わない。

 ただ、この【心通話】が届いている事を願って。


「……よし。始めようか」


 エドガーは本を開く。

 先程の時間に書き出した、フィルヴィーネをイメージした祝詞(のりと)

 それを読むために。


「……な、なんだかあたしまで緊張してきた」


 サクラは立ち上がって、事前に言われたはみ出し線まで下がる。

 サクヤは座禅(ざぜん)から正座に変わって、(ひざ)の上に【悪魔の心臓(デモンズハート)】が入った木箱を乗せている。顔は青白い。

 メルティナは一番落ち着いているように見える。


 そしてエドガーは、全員を見渡してから、祝詞(のりと)(とな)え始めた。


「……レオマリスの血、【召喚師」の血が(なんじ)に問う……紫の月に照らされし、紫紺(しこん)陽炎(かげろう)よ……供物(くもつ)はここに、我が呼びかけに答え、今、姿を見せよ……!」


 伸ばされた右手には、赤の紋章が(かがや)く。

 紋章から抽出(ちゅうしゅつ)されていくように、エドガーの魔力は魔法陣の中に。

 【女神の紫水晶(ネメシス・アメジスト)】によって可視化(かしか)された魔力は、魔法陣内に(とど)まり、サクヤの頭上に浮かんでいる。


「我が名は、エドガー・レオマリス……契約を(のぞ)む者なり……姿を具現(ぐげん)させ……今、ここに降臨(こうりん)せよ!我が(のぞ)むは――異世界の魔王……フィルヴィーネ・サタナキアなりっ!!」


 エドガーが、赤い紋章の浮かぶ右手を(かか)げると、それが合図(あいず)かのようにサクヤの頭上に浮かんでいた魔力は、うねりを上げてサクヤに集積(しゅうせき)する。


「うわっ!……あ、(あるじ)さ――」


「――大丈夫!そのままだっ!!」


 びっくりして動き出しそうになるサクヤに、少し大きめの声で静止(せいし)させる。

 魔力はサクヤの(ひざ)に置かれた木箱の中に入っていき、一切の残りも出さずに【悪魔の心臓(デモンズハート)】に吸い込まれた。


「う、動いて……」


 【悪魔の心臓(デモンズハート)】はその名の(ごと)く、ドクドクと心音を激しくし、吸収したエドガーの魔力を血液に変換(へんかん)する。

 元から(たくわ)えられていた魔力は自然と形を成していき、サクヤよりも大きく(ふく)れ上がった。

 そして合わせるように、サクヤの右手にくっついたままになっていた【女神の紫水晶(ネメシス・アメジスト)】も、ようやくサクヤの手から離れる。

 それを確認して、エドガーは。


「サクヤ!お疲れ……ゆっくり、ゆっくりとこっちに来てっ」


 言葉は(おどろ)きすぎて出せないようで、コクコクと(うなず)き、サクヤはソロ~っと立ち上がって、抜き足差し足で移動する。どうでもいいが流石(さすが)【忍者】、上手い。

 その間も、魔力はドンドン(ふく)れ上がることを止めず、やがて【悪魔の心臓(デモンズハート)】は魔力の(かたまり)の中に()もれて行った。

 きっとそのまま、フィルヴィーネの心臓になるのだろう。


「……すっご……紫の光が部屋中に広がって……キレ―……」


 サクラは、感嘆(かんたん)の声を()らす。

 部屋中を(おお)う紫色の魔力光は、まるで神秘(しんぴ)の光だ。

 とても“魔王”様を呼び出しているとは思えないほど綺麗だった。


「――ぐっ……」


 エドガーは、吸い上げられ続けられる魔力が底をつかせようとしていた。


主様(あるじさま)!」

「エド君……」

「マスター!」


 三人は一斉に()け出そうとしたが、エドガーに手で制される。

 その右手には、赤い紋章と――紫色の紋章(・・・・・)が、重なる様に描かれていた。


「……契約の紋章が、ローザのと同じ場所に……」


 赤い丸みを()びたローザの炎の紋章を囲むように。

 紫色の紋章は、紫の三日月が二つ、上下に描かれていた。

 それは一見(いっけん)、紫の月に太陽の炎が重なっているような、そんな一つの紋章にも見える。


「マスター、フィルヴィーネの形成が終わります」


 メルティナからの報告に、エドガーは気合を入れる。

 ここで“魔力切れ(マジックダウン)”など起こしたら、中途半端に“召喚”され(よばれ)てしまうフィルヴィーネに申し訳ない。


「ああ。もう少しだ……」


 木箱の中身はとうに空になっていた。

 【悪魔の心臓(デモンズハート)】は、形成されたフィルヴィーネの中だろう。

 今回の【異世界召喚】は、使われた“魔道具”こそ少ないものの、その魔力の消費量は今までの四人と桁違(けたちが)いに違う。

 【悪魔の心臓(デモンズハート)】が貯蔵(ちょぞう)していた魔力がなければ、エドガーだけの魔力では、腕の一本も“召喚”出来なかったかもしれない。


 他の“魔道具”もそうだ。

 【巻紫(まきし)の尾】も【黒羊皮(こくようひ)】も【バイオレットリィンの毛】も地味だが、フィルヴィーネをこの世界に呼ぶための重要なファクターだと、確信している。


「形成率95%……96・97・98・99……100%。完了です」


 メルティナの終了宣言に、エドガーも緊張を()く。

 紫の魔力光も、(まばゆ)(かがや)きを落ち着かせて、【召喚の間】は、普段の暗~い部屋に戻り、【明光石(めいこうせき)】の明かりだけが、エドガー達を照らしていた。

 ――そして、魔法陣の上には。


「あ、あれが……フィルヴィーネさんかな?」


 サクラが様子を(うかが)うように、左手で遮光(しゃこう)しながら魔法陣、フィルヴィーネらしき人物を見る。


「……倒れてない?」

「倒れています」

「……死んでいるかもしれぬぞ」


「こらこら、大丈夫……の、はず」


 魔法陣の上では、フィルヴィーネらしき人物が、一糸纏(いっしまと)わぬ姿で横になっていた。

 その姿は煽情的(せんじょうてき)であり、《石》の時に散々(さんざん)暴言を()いていた人物とは思えないくらいだった。


「――は、裸じゃん……!」


 サクラは咄嗟(とっさ)()け出して、自分の羽織(はお)っていた上着ブレザーをかけるが。


「ああ、ダメダメ!全然(しゃく)が足りない!――エド君!コートコート!」


 サクラの上着(ブレザー)(しゃく)では、肩からお腹までしか隠れず、プリッとした臀部(でんぶ)が丸出しだった。

 エドガーもメルティナも、急いで向かう。

 サクヤは、律儀(りちぎ)にまだ抜き足差し足だった。


「フィルヴィーネさん……!まさか、失敗!?」


 手応えはあった。初めて、自分で狙った対象(たいしょう)を“召喚”したのだ。

 貴重な“魔道具”の補助(ほじょ)前提(ぜんてい)の【異世界召喚】で、もし命を(うば)う事があっては、エドガーはもう一生“召喚”などしなくなる自信がある。


「――ノー。息はあります……眠っているだけかと」


「そ、そっか……よかった」


 エドガーは、脱いだコートをフィルヴィーネ(仮)にかける。

 一応名乗っていないので、(仮)を付ける。本人だろうけど。


「……エド君……あたし、変なもの見えるんだけど……」


 サクラの言葉に、全員でサクラの視線(しせん)を追う。

 そこは、胸。大きな胸。ローザといい勝負をしそうな、豊満(ほうまん)な胸だった。


谷間(たにま)にさ……ちっさい()がいない……?」


 泣きそうになりがら、指をさす。


「た、谷間(たにま)……?」


「そう、谷間(たにま)!!」


「……これは、生体反応が……二つあります!」


 もぞもぞとフィルヴィーネ(仮)の胸の谷間(たにま)からはみ出る、小さい姿。

 どう見ても小人(こびと)、もしくは“妖精”にしか見えない。

 エドガーは照れながらも、恐る恐るその小さな小人(こびと)を、フィルヴィーネ(仮)から離して、自分の手のひらに寝かす。ゆっくりと、壊れないように。


「……(あたた)かい……」


 生きている。この小さな存在(いのち)は、生きている。

 そう分かった瞬間、何故(なぜ)か安心した。


「――ほっ。よかった、生きてる……」


 息もしている。微弱(びじゃく)だが鼓動(こどう)も感じる。


「それさ――虫……って落ちは無いよね?」


「違う違うっ!……と言っても、何かは分からないけど……人の形をした、何か?」


 サクラの(ひど)い発言が聞こえたのか、エドガーの手で眠る存在はピクリと反応した。

 こうして、異世界の“魔王”は“召喚”された。

 ただ、本人の希望の登場は出来なかったであろうと、ここにいる全員が感じていた。

 《残虐(ざんぎゃく)の魔王》フィルヴィーネ・サタナキアと一匹?のおまけは、こうして異世界【リバース】に舞い降りた。

 本人は気絶(きぜつ)し、その注目すらも小人(こびと)に集まると言う、残念な形で。


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