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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 4章《残虐の女王が求めるもの》
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135話【見た目はちんまり、頭脳はポンコツ、その影は蜃気楼】



◇見た目はちんまり、頭脳はポンコツ、その影は蜃気楼(しんきろう)


 【召喚の間】で、フィルヴィーネを“召喚”する最終的な準備を終えて、待機していたエドガーは。

 突然、胸を()め付けられたような感覚に(まゆ)を寄せる。


「マスター。どうかしましたか?心拍(しんぱく)が上昇しましたが……」


 エドガーの心拍数(しんぱくすう)を秒単位で計測(けいそく)しているメルティナが、一瞬で()ね上がった(マスター)を気にして声を掛けた。

 そのエドガーは少し間を置いて、メルティナに笑顔を見せる。


「いや……何でもないよ。少し緊張してるのかな……?」


 痛みにも似た感覚は、心を(むしば)むように、黒く黒く、染め上げそうになる。


(……何だこの感覚……どす黒い、怒り(・・)の様な)


 まるで自分が何かに怒っているかのように、沸々(ふつふつ)()え上がってくる。

 胸を押さえて、上手く背を向ける。少女達に(さと)られないように。


(もしかして、“魔王”を“召喚”しようとしてるから……とか?)


 “魔王”=闇という安直(あんちょく)な答えのせいにして。

 エドガーは胸の痛みを誤魔化(ごまか)した。




「主ど……主様(ありじさま)。そろそろ良いのではないですか?」


 エドガーは“召喚”の本を読んでいた。

 初めて【異世界召喚】をした(さい)に読んだ、“精霊”が描かれた本だ。

 パタンと本を閉じて、サクヤの言葉に(うなず)く。


「そうだね。フィルヴィーネさんも……自分の世界でやる事あると思って時間を取ったけど」


 上に一人でいるローザの事も気になる。

 “魔力切れ(マジックダウン)”で未だ眠るサクラも早く運んであげたい。

 そう考えて、エドガーは手作り感満載(まんさい)木の椅子(スツール)から立ち上がる。


「それじゃあ、始めようか」


「イエス。サポートします」

「はい!お手伝いします」


「――!?」

「――!!」


 ギリリ――と、(にら)み合うメルティナとサクヤ。

 どうやら二人共、エドガーを補助(ほじょ)しようと考えていたらしい。

 しかし、無情(むじょう)なる主人の一言。


「――いや、メルティナにお願いするよ」


「ガーン!!何故(なぜ)ですかっ!?主様(あるじさま)ぁぁ!」


 エドガーにすり()って泣くサクヤ。

 なぜ忘れているのだろうか。自分の右手に何がついているのかを思い出してほしい。


「ちょっ……サクヤ、君は魔法陣の中央に立たないとダメなんだから、手伝いはそれだよ?」


 エドガーに言われて、サクヤはハッとする。


「……そう、でした。わたしは……(のろ)われていたのでした」


 ガックリと肩を落として、絶望に(ひし)がれる。

 どうやらサクラの魔力吸収で、仕事を終えた気になっていたらしい。

 それでも、この【忍者】は《石》と《石》をくっつけただけだが。


「サクヤが一番重要(・・・・)なんだからね?」


 エドガーから受けた言葉に。

 絶望から一転、一気に顔を笑顔にするサクヤ。


「わたしが……一番――わたしが!?」


「え……う、うん。そうだね」


 背伸びをしてまで、エドガーに切迫(せっぱく)するサクヤに、思わず身を()らしてしまうエドガー。

 それでもズズイと顔を近づけるサクヤの笑顔は、本当に嬉しそうだった。

 (たと)え、一番の意味を()き違えた勘違(かんちが)いであろうとも。





 紫水晶(アメジスト)を持つサクヤが中心に到着すると、魔法陣内に自然と微量(びりょう)振動波(しんどうは)が発生した。

 ピリピリ感を肌に(まと)わせながら、サクヤは中心部でそわそわしている。

 視線も、どこを見ればいいのかと彷徨(さまよ)っていた。

 何もしなくていいと頭で理解していても、どことなく不安なのだろう。その不安が(やわ)らげるようにと、エドガーは声を掛ける。


「大丈夫だからねサクヤ……メルティナ、一応周囲の警戒(けいかい)……頼むよ」


 優しくサクヤに目配(めくば)せをして、メルティナには警戒(けいかい)を強めて貰う。

 その言葉で、サクヤも胸を()で下ろしてくれたようだ。


「イエス。お任せください」


 【悪魔の心臓(デモンズハート)】を持つ役目があるメルティナは、それが入れられた木箱をもつと、サクヤのもとに向かう。


「どうぞ、サクヤ」


「……はい?」


 意味が分からず、首を(かし)げるサクヤ。

 そう言えば、説明もしていない。


「この【悪魔の心臓(デモンズハート)】は、フィルヴィーネの身体を形成する魔力に使われると思われます。【女神の紫水晶(ネメシス・アメジスト)】と共にある事で、成功確率が上昇し……より元の世界の状態に近づける、そう推測(すいそく)されます……しかし、【悪魔の心臓(デモンズハート)】の性質上、暴走の危険性がありますが……《石》である【女神の紫水晶(ネメシス・アメジスト)】は対象(たいしょう)になりません。他の“魔道具”は、それなりの危険性がありますので、中央に集めた方が(もっと)も効率がよろしいかと」


「……――す、すまぬ……分からぬっ!!主殿(あるじどの)……じゃなくて様!」


 もうそのままなのだが、サクヤには(むずか)しかったらしい。

 メルティナは、何故(なぜ)分からないのです?と言いたそうにサクヤを見ていた。


「そ、そんな目で見られても、分からぬものは分からぬのだっ!」


「あはは……メルティナ。もっと分かりやすく、簡潔(かんけつ)にお願いするよ」


 (かわ)き笑いをしながらも準備が(ととの)ったのか、エドガーは魔法陣の正面に。

 丁度(ちょうど)、サクヤとメルティナを見据(みす)える形になっていた。

 メルティナはほんの少し(ほほ)を引きつらせて、目を細めつつも承諾(りょうしょう)する。

 もしかして、不服だった?


「イエス……この方が、サクヤの安全性が高いと思われます」


「……え?それだけ?」


簡潔(かんけつ)にしろと要求したのはサクヤでは?」


「そ、それはそうなのだが……頼むから、その(さげす)む目はやめてくれぬかっ!?」


 背が低く、メルティナに見下(みおろ)される形のサクヤは、(さげす)むようなメルティナの視線(しせん)に涙ぐむ。

 どうも、自分が(うと)い事には気付いているらしい。


「ノー。別に(さげす)みはしていません。ただ――「覚える努力はしろよチビ助」と思っているだけです」


「「……」」


 滅茶苦茶(めちゃくちゃ)辛辣(しんらつ)だ。

 涙目で完全に固まるサクヤに、エドガーは声を掛けられない。

 指で(ほほ)をポリポリ()き、どうすればいいだろうと、思い悩むくらいしか出来なかった。


「……それくらいにしてあげてよ、メル。多分、(いく)ら言っても、(むずか)しい事は分かんないからさ、そいつは」


「……サクラ!お(ぬし)目が覚――ではない!サラリと(ひど)い事を言うな!!」


「良かった。もう目が覚めたんだね……どうだい?具合は」


 助け船が来たと、エドガーはそう思ってサクラのもとに()()る。


「……う~ん。ちょっとまだクラクラするかな」


 「あはは」と、笑って返事をするサクラ。

 エドガーは、まだ寝たままのサクラの手首で脈拍(みゃくはく)を測り、顔色を(うかが)う。


「うん。顔色はいいね……気分はどうかな?」


 “魔力切れ(マジックダウン)”で倒れたこともあり、身体的な心配よりも精神的な心配の方が色濃(いろこ)く出る。


「平気平気……フィルヴィーネさんは?」


「まだ、これからだよ。サクラがよければ部屋まで送るけど……」


 気を使っての事だが、サクラは首を横に振るう。


「ううん……見る。エド君の“召喚”……【異世界召喚】を」


「わたしだって本当は見る側がよかったのだぞ!?」

「――(だま)っていてください」


 魔法陣の上からサクヤの抗議(こうぎ)が。

 メルティナは、動き出そうとするサクヤを抑えていた。

 なんだか、どこか疲れているように見えるが。


「うるっさいわね――よっ……と。あ、ごめんエド君……ありがと」


 起き上がろうとするサクラを、エドガーは(ささ)えて起こす。

 ぐぐぐっ――と、腕を伸ばしてサクヤを見る。


「あんたは深く考えたらダメだって……いいとこが消えちゃうから。【忍者】、あんたはエド君の影なんでしょ?なら、エド君の考えを理解できなくてもいいから。ただその()で、脚で……エド君を支える気持ちを持てばいいのよ」


「――サ、サクラ……」


 まさか、サクラが目覚めざまにこんなことを言うとは。

 全員、意外だった事だろう。


 戦闘経験豊富なローザがいる。最先端AIのメルティナに、自分(サクラ)も少しは頭が回る。

 エミリアとアルベールの兄妹や、マークスだっている。

 サクヤができない事は、他が補ってやればいいだけだ。

 そう言ったのだ、サクラは。


 普段のサクラなら、恥ずかしいからとか言いながらこんなことは言わなさそうだが。

 もしかして、《聖女》のなりきりがまだ続いているのだろうかと、エドガーは考えていた。が。


「――違うから。ただ、あいつが馬鹿だと……あたしまで馬鹿だと思われそうで()なの……それだけ!」


「そ、そっか……」


 エドガーは笑顔を見せる。顔を背けてしまうサクラの(ほほ)は、ほんのりと赤い。

 それがエドガーには、どう見てもサクヤを(なぐさ)めているようにしか感じなかった。

 しかし、その(はげ)ましを受けたサクヤというと。


「……――な、な、なんだとぉ!!何故(なぜ)だ!わたしだって主様(あるじさま)のお考えを理解したいに決まっているだろうがぁ!お(ぬし)!少し頭が出来るからって、重宝(ちょうほう)されるとは限らんのだぞ!?ですよね!主様(あるじさま)!」


「――本当に落ち着いてください。魔法陣が(けず)れます」


 メルティナに抑えられなければ、サクラのところに飛んできていそうだ(いきお)いだ。


「……」


 無言で頭を(かか)えるサクラ。サクヤは、頭を使わせると動きが(にぶ)る。

 最善(さいぜん)の行動をできるようにと、サクラなりに気を使ったのだが。


「……この……ポンコツ馬鹿【忍者】ぁぁぁぁぁっ!!」


 小さなくノ一は、どうやら脳も小さかったようである。

 ――今更だが。


 だが、エドガーは見ていた。

 サクラの言葉を聞いていたサクヤが、クスリと、ほんの少しだけ(くちびる)(はし)を上げたのを。

 それはエドガーにしか見れなかったが、サクヤなりの答え(照れ隠し)だったのではないかと思うエドガーだった。


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