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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 4章《残虐の女王が求めるもの》
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131話【魂の器】

脱字修正しました、報告ありがとうございます。



(たましい)(うつわ)


 ――ローザが苦しむ、少し前。

 【召喚の間】では、エドガー達がフィルヴィーネを“召喚”する為の触媒(しょくばい)を探していた。

 サクラが通訳となり、あーでもないこーでもないと言いながら、様々な“魔道具”を集めていたのだが。


「こんなものかな。どう?フィルヴィーネ……さん」


 サクラがフィルヴィーネに、【召喚の間】の中央付近に置かれた数個の“魔道具”で大丈夫かと確認する。


『ウ~ム。確カニ相当良質ナモノガ多イ……シカシダナァ……我ハ魔王ゾ……肝心ノ魔具ガナケレバナ……』


「魔具って、“魔道具”と同じですよね……?何が足りないんですか?」


『……(タマシイ)ダナ』


「そんなもの用意しようがないですよ……(あきら)めようエド君」


「……(たましい)……(たましい)か……」


 サクラは無理でしょと、(あきら)めている。

 フィルヴィーネに何か言われているようで、ムッとしながらサクヤの手を取って(にら)んでいた。

 だがエドガーは、顎先(あごさき)に指を()わせ。考え込むように【召喚の間】の左右にある、(たな)を行ったり来たりする。


「マスター。何か考えがあるのですか?」


 律儀(りちぎ)に後をついて歩くメルティナが、そっと声を掛けた。


「……まぁね。でも……そんなもの(・・・・・)でどうにかなるのかなって……」


「そんなもの……?」


 エドガーは、(たましい)に関する“魔道具”を知っているようだった。

 しかし確信がないのか、考えがまとまらないのか、右往左往(うおうさおう)をする。

 見かねた《石》のフィルヴィーネが、サクヤの手にくっついたまま無理矢理移動を開始し。


「――ぬあぁっ!ちょっ!……勝手に……」


 フィルヴィーネに引っ張られるように身体を走らせるサクヤ。

 エドガーに迫ってくるサクヤの手は、波を打つように上下に揺れながら近付く。

 どうやらフィルヴィーネが()ねているようだ。


「こらこらぁっ。あたしがいないと伝わらないっての!」


 現状フィルヴィーネの通訳、サクラもついてきて。

 全員が左の(たな)に集まる。


(ヌシ)、何カ思イ(イタ)ルモノガアルノカ?』


「だってさ」


 サクラが伝える。


「……ええ。一つだけ。【(たましい)(うつわ)】……古き時代の石像(せきぞう)なんですけど、いわくつき(・・・・・)と言いますか……呪われていると言いますか……」


「――こわっ!!」


 驚くサクラに対し「ほぼ同じではないのですか?」と、サクヤは疑問(ぎもん)を浮かべる。

 エドガーは「ははは、まあね」と笑いながら。


『【(タマシイ)(ウツワ)】カ……確カニソレラシイナ名ダガ……シカシ、ドコニアルノダ?』


「それで、どこにあるんだ?だって……」


 サクラが通訳。そしてエドガーは、(うなず)きながらその“魔道具”の場所を告げる。


「……うん。“魔道具”は、この地下と同じ場所にあるよ。父さん……先代【召喚師】の部屋の向かいにある部屋……そこにあるんだ。その石像(せきぞう)は」


 【召喚の間】の入り口を見つめて、エドガーはフィルヴィーネに聞く。


「とりあえず見てみませんか?どんなものか確かめて見て、使えるかどうかを判断してください」


『……イイダロウ』


「オッケーだって」


 サクラの通訳はニュアンスが同じだが、フィルヴィーネの言葉そのままを通訳していない。

 若干苛立(じゃっかんいらだ)ち気味に、フィルヴィーネは。


『オイ小娘……キチント伝エヌカ……』


「いいでしょ。意味は一緒」


『……ムゥゥゥ……ワ、我ノ威厳(イゲン)ガ……』


 サクラの、《現代日本》の言葉使いに。

 異世界の魔王は困惑(こんわく)しつつも、自らの身体が顕現(ぐげん)される事を想像した。





「……ここです」


「いや、ここって物置(ものおき)……だよね?」


「うん。そうだよ」


 サクラの心配そうな声音(こわね)に、飄々(ひょうひょう)と答えるエドガー。

 ジト目で見てくるサクラからの視線(しせん)を受け流すエドガーに、サクヤに(にぎ)られる《石》のフィルヴィーネは。


(ヌシ)……貴重ナ魔具ヲ、コンナ埃溜(ホコリダ)メニ……』


 先程【召喚の間】でも思っていたが。

 国宝級とも言える“魔道具”の数々を、エドガーは無造作(むぞうさ)に置いていた。

 フィルヴィーネの世界では考えられない事だ。


「ねぇエド君……なんかフィルヴィーネさんが(あき)れてるけど……」


「……だろうね。そう言えば、ローザも同じだったな……」


 エドガーは(なつ)かしむように、()みしめるように扉を開ける。

 キィィィィ――と、扉が(きし)む音が地下室に響き、暗い室内を見渡すサクラとサクヤは、同じタイミングでゴクリと(つば)をのむ。


「わたしはここに入るのは初めてです……主様(あるじさま)のお父上様のお部屋には、以前お邪魔しましたが……」


「あたしもだって……っていうか、なんか……怖くない?」


 エドガーの両腕にひしっと(つか)まる二人。


「……――っ」


「……――うあっ!?……って、メルティナ!?なにして……」


 エドガーの背に、のしかかる重み。

 一人でエドガーの後ろにいたメルティナが、両脇にいるサクヤとサクラを見てやきもちを焼いたのだ。両隣(りょうどなり)にいる二人も、まさかメルティナがエドガーに抱きついてくるとは思っていなかったのか。


「えぇっ!?メ、メル!?」

「メル殿……やりおるな……」


 と、驚いていたが。一番驚いたのはエドガーだったし、それに地味に重かった。

 決して口にはしないが。


「ワタシもー、怖いのですー」


 滅茶苦茶(めちゃくちゃ)棒読みだった。

 目線も()らされている事を、肩越しに確認したところで、《石》のフィルヴィーネが。


『オヌシラ……チャントセイヨ……我ノ身体ヲ具現化(グゲンカ)サセル気ハアルノカ?』


 通訳サクラは、それを無視した。

 本当に重要(じゅうよう)と判断した事しか通訳しないサクラだが、フィルヴィーネは(しん)を置けた。

 しかし、伝えたいと思った事を軽々とスルーするその性格は、ある人物(・・・・)彷彿(ほうふつ)とさせたのだが、それはフィルヴィーネだけが知る事だ。

 その人物を思い出して、フィルヴィーネは。


『……不安ダ……』


 途轍(とてつ)もなく不安に()られるのだった。





 暗い部屋でランプに火を(とも)して、壁に掛ける。

 ランプはうまい具合に部屋を明るくして、(たな)やテーブルに無造作(むぞうさ)に置かれた“魔道具”を照らす。


『……フザケテオル……何トイウ事ダ』


 サクヤに持たれた紫水晶(アメジスト)は、(ほこり)を被った“魔道具”を見て戦慄(せんりつ)する。


『――アッ!コラ小娘ェェ!』


 咄嗟(とっさ)に、フィルヴィーネは(みずか)らサクラの(ひたい)に張り付いて叫ぶ。

 勿論(もちろん)サクヤの手も一緒に。


「――ふみゅっ!!……痛ったいなぁ!」


『痛イデハナイ!ソノ手ハナンダッ!!離スガイイ……』


 サクラの手には、指でつまんだ布切れが。

 それを見たフィルヴィーネが怒っているのだが。

 エドガーには、既視感(きしかん)が。


(そう言えば、ローザもエミリアに怒ってたな……)


 どうも、フィルヴィーネは“魔道具”に(くわ)しいらしい。

 それはつまり、ローザの世界と似た世界の人物な可能性が高い。

 (くわ)しくは説明されねば分からない要素(ようそ)も多々あるが、エドガーの考えは大筋が合っていた。


「あ~もう、分かった分かった……ごめんって」


 サクラは、手に持った布切れを元に戻す。

 若干(じゃっかん)面倒くさそうに、サクヤの手を離しながら。

 しかし、エドガーは。


「――あ、ごめんサクラ。フィルヴィーネさんの話を聞きたいから、頭につけといてくれるかな?」


「ええぇ……」


 実に嫌そうに、口をへの字にしながら元に戻す。


何故(ナゼ)嫌ガルッ!!オ~ヌ~シィィィ!今ニ見テオレヨ!』


「ははは……フィルヴィーネさん。この中にあるんですけど、分かりますか?」


『――ン?アア、【(ウツワ)】カ……モウ見エテオルヨ――ソコニアル。ソコノ本ガ重ネラレタ場所ダ』


 フィルヴィーネが言う“そこ”には、何重にも重ねられた本がある。

 何とも乱雑(らんざつ)に置かれた本の下に、木の箱に入れられた骨董品(こっとうひん)のようなものが出てくる。


「よっと、これ……ですね……」


 エドガーが取り出して、テーブルの上に置く。

 (ほこり)が舞って、サクヤが「ゲホゲホ」と(せき)をしていた。


「……マスター。今後はここの掃除(そうじ)もすることを推奨(すいしょう)します」


「そ、そうだね……そうしようか」


 メルティナが、今後の事(・・・・)を考えてか、それとも(せき)をするサクヤを気にしてか。

 エドガーに頼むメルティナの姿は、とても真剣だった。

 それだけサクヤ達の事を考えていてくれているのかと、エドガーは嬉しくなった。のだが。


(ほこり)や湿気は、精密機械(せいみつきかい)の天敵です。ここの湿度は75%を超えていますので。おそらくあの本の下などは、日も当たらない事を考えて、カビが大量繁殖(はんしょく)をしていると見られます」


「……う、うん。そうだよね」


 やはり、自分の事を考えていたらしい。

 それでも、掃除(そうじ)はしようと心に(ちか)ったエドガーであった。





 テーブルの上に置かれた木箱のサイズは、縦45センツ(cm)横30センツ(cm)の大きなものだった。

 奥行きは15センツ(cm)程で、【(うつわ)】が入っているにしては大きすぎるのではないかと、サクヤは言う。

 サクヤは、皿が入っているのだと思っているのだろう。

 メルティナに「話を聞いていましたか?」と言われて、顔を(しか)めるサクヤ。


「――【(うつわ)】って言っても、それは名前だけで実際は違うよ。さっきも言ったけど、“魔道具”【(たましい)(うつわ)】は……石像(せきぞう)。大昔に、大量の人が殺された殺害現場で、安置(あんち)されていたもの……らしいけど、正直僕は分からなかった」


 ごくりと(つば)を飲み込むサクラ。

 ホラーはあまり好きではないので、怪談(かいだん)はやめて欲しいと、エドガーの背に隠れる。

 ただキチンと(ひたい)にサクヤの手を付けたまま。


『ソレガドウカハ、我ガ決メヨウ……サァ、封ヲ開ケヨ……エドガー』


「分かりました。確認をお願いします」


 そう言って、エドガーは木箱の封を切る。

 (ひも)(ほど)き、まるで開封禁止と言わんばかりに貼られた札を()ぐ。


「エド君……あたしの世界だと、そう言うお札は()ぐなって言うのが、()(つね)なんだけど……」


「――あ、それは同じだね。よかった」


 何がだろうか。

 ()がされたお札は、綺麗にまとめてメルティナが受け取る。ジィっと見つめて、サクラに言う。


「ノー。サクラ、安心してください……この札に、そう言った効力はありません」


「マジで……?信じるよ!?」


「イエス。大丈夫です」


 どうやら、わざわざ霊視(れいし)センサーで確認したらしい。


『ハヨウセイ。エドガー』


 エドガーはフィルヴィーネに急かされながら、木箱の(ふた)を開ける。

 その中には。


「……うわ、ぁぁぁ……」


 サクラの(うめ)くような声に、エドガーもサクヤも似たような気持ちだった。

 メルティナはそうでもないっぽいが。


『……デモンズハート(・・・・・・・)。カ……』


「【悪魔の心臓(デモンズハート)】……心臓、ですか……?」


『――アア。ソウダ……(スデ)ニコノ部屋カラ()レ出テイタカラ、【魂ノ器(ウツワ)】デアル事ハ分カッテイタガ……』


 どうしてこんな代物(しろもの)がこの家にあるのかと、フィルヴィーネは真剣に考える。

 だが結論は出ない。当然だ。フィルヴィーネは、長い年月をこうして(たましい)だけで存在してきた。

 (ただよ)い続け、感知されず、歴史を知ることなく。

 元の世界から、(たましい)だけをこちらの世界に飛ばしていた。


 それも、盗まれた【女神の紫水晶(ネメシス・アメジスト)】を取り戻すために。

 身体は、今も元の世界にある。

 しかし、こんなに面白そうな世界は初めてだった。

 幾度(いくど)となく、《石》を探し求めて世界を渡ってきたが、ここまで不自然に集められた《石》。

 そして、自分の見知った世界の、勇者(ゆうしゃ)になり(そこ)ねた女。

 ――英雄的存在ロザリーム・シャル・ブラストリア


『決メタ……決メタゾ……エドガーヨ』


「決めた?いったい何をですか……?」


 自分の中で考えがまとまったフィルヴィーネは、《石》の身でありながら(えら)そうに答える。


『――決マッテイル……我ガ求メルノハ、コノ世界デノ熱中ダ(・・・・・・・・・)!!』


「ええっ……!?」


 魔王が求める熱中という単語(たんご)に、不安を(ぬぐ)いきれないエドガーであった。


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