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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 4章《残虐の女王が求めるもの》
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125話【逃げる《石》】



◇逃げる《石》◇


 【召喚の間】に入った紫紺(しこん)の影を、頭部高度センサーは認識(にんしき)しなかった。

 しかし、人間の目を持ったメルティナは視認(しにん)した。

 メイリンと共に居たメルティナは、彼女の悲鳴(ひめい)でその気配(けはい)察知(さっち)し、咄嗟(とっさ)に追いかけては来たものの。

 その影は何処(どこ)にもなく。《石》の反応も皆無(かいむ)だった。

 暗い地下室内で、暗視(あんし)センサーまで起動(きどう)するが、影は見えない。


「――反応なし。不愉快(ふゆかい)ですね……」


 苛立(いらだ)ちを隠そうともせず、メルティナは周りにある塗料(とりょう)の空き缶を()とばす。物凄く人間らしい。


「……これでは、折角(せっかく)マスターに()めて(いただ)こうと思っていたのに、意味がありません」


 滅茶苦茶(めちゃくちゃ)不純な理由で苛立(いらだ)つメルティナだった。

 少しして、ローザとサクラがやってくるが。そのいなければいけない人物がいない。


「……ローザ、サクラ、来ましたか……?――マスターはどこですか?」


 機械に頼り気味のメルティナは。

 契約効果の一つ、【存在感知(そんざいかんち)】をまだ使えていない。

 その為、ここにエドガーがいないことを不思議(ふしぎ)に思う。


「え……?――あっ!」

「……ぁ」


 三人共が不覚(ふかく)

 ローザとサクラも、エドガーがいない事に、今気づいたようだ。

 サクラは口に、ローザは(ひたい)に手を当てて。

 しまったと、“契約者”の少年を置いてけぼりにしたことを反省(はんせい)する。


「――ま、まぁメイリンの事もあるし……エドガーの事だから対処(たいしょ)している事でしょう……決して(ないがし)ろにしたわけではないわっ」


「だ、だね!忘れたわけじゃないよっ!?エド君にメイリンさんを任せて来たの!」


 二人は結託(けったく)した。

 メイリンという一般人を理由に。


「……サクラの発汗性(はっかんせい)を確認。ここの温度は20℃前後のため、そのような汗の量は《(うそ)》と断定。ローザもこちらを見ようとしない事から、視線(しせん)を見られたくないと(うかが)えます」


「う、動いたからだし」


 階段を一階分降りて来ただけだ。

 普通の地下室よりは、確かに長めの距離(きょり)だが。


「こちらを見て言ってはどうですか?」


 ローザもサクラも、メルティナを見なかった。

 図星(ずぼし)をつかれたのだろう。

 そんな微妙(びみょう)な空気を作る三人に、そのエドガーから【心通話】が送られてくる。


<ローザ、サクラ……メルティナもいるよね、三人共、聞こえるかな?>


<マスター!聞こえます、薄情者(はくじょうもの)の二人は知りませんが……>


 メルティナは二人を見る。


<――き、聞こえてるわ……どうしたの?>


<……ごめんね、マジで……ごめん>


 やけに二人に当たるメルティナ。

 しかし、そうしてくるならばローザにも考えがある。


<それはそうとエドガー、抜け駆け(・・・・)をして()められようとしたメルティナはどうするのかしら?>


「――!?」


 ローザは一つ確信(かくしん)している事がある。

 それは、メルティナ・アヴルスベイブのエドガーとエミリアへの依存度(いぞんど)だ。

 メルティナはエドガーに(みと)めてもらう、()いては()めてもらう事が現状の目的だと、ローザは(にら)む。今回の抜け駆けもそうだろうと。

 メルティナの今の顔を見て、ローザは内心(ないしん)で笑う。


(本当にいい表情(かお)をするわね)


 口をあんぐりと開け、両手を()げて否定(ひてい)する。

 エドガー本人はいないのにだ。


<マ、マスター!違います、これには事情(じじょう)があるのでして、独断専行(どくだんせんこう)をしたのは……その……えーっと>


 人工知能が言い(よど)んでいる。

 【心通話】が心の会話で助かった。


「――ロ、ローザ。ここは後で決着をつけましょう。今は……優先順位が違うと思われます」


 エドガーを最優先に設定した女が何か言っている。

 ローザが一枚上手だったようで、エドガーも特に何かを言う訳でもないのに、勝手にアタフタする人工知能さん。


「<――ふっ……いいわよ。とにかく今は、謎の影……私は見ていないけれど、メイリンもメルティナも見てるし。サクラは《石》で感じてもいる……三人でそれを探すわ>」


<……?――まぁ、何でもいいけど、僕は(ねん)の為にメイリンさんを家に送ってから、サクヤと合流してから地下に行くよ。それまでは、何かあっても無茶しないで……いいね?>


 メルティナとローザの前半の会話が意味不明(いみふめい)だったエドガーだが、自分が言わなければならない事を理解していた。


「<了解しました>」

「<分かっているわ>」

「<オッケー!>」


 三人共が、口でも【心通話】でも返事をして、エドガーは【心通話】を切った。




「さぁ、探しましょうか――と、言っても。サクラ」


「――うん、今やってる」


 (ひたい)の《石》が一瞬(いっしゅん)(きら)めき、共生反応(きょうせいはんのう)を探す。


「――()った!左の(たな)の奥。広い方にあるよ……紫の《石》に近付いてる!」


「《石》――ですか?そのような反応は……――っ!!」


「いたわね。本当に影、いえ……幽体(ゆうたい)?それとも【精神体(スピリット)】かしら……」


「ゆ、幽体(ゆうたい)!?それって……もしかして、ゆ、幽霊(ゆうれい)?」


 ゆらゆらと()らめく紫紺(しこん)の影は、何かに(みちび)かれるように左段の棚へ隠れた。

 【明光石(めいこうせき)】を誰かさんが訓練(くんれん)で壊してしまったので、今は松明(たいまつ)とサクラの【スマホ】の(あか)りが頼りだった。


「――ああぁ!――何か(うごめ)いてるぅぅ!」


 紫紺(しこん)黒紫(こくし)に近いくらいに(よど)んだ影は、()いずる様に、前回使われた魔法陣の(あと)をなぞりながら()らめく。


 ローザが言う幽体(ゆうたい)霊的(れいてき)な何か。

 ローザは(はら)いの力、【破邪炎掌ヒート・エンシュライン】を(かま)えるが、影は敏感(びんかん)察知(さっち)して(うす)くなる。


「ちっ!――サクラ……影は?」


 薄くなられると、ローザにもメルティナにも視認(しにん)は出来なかった。

 《石》にも反応は無しだ。メルティナはきょろきょろと部屋中にライトを当てながら、辺りを見渡す。


「そっちに行ってる!」


「――どっち!?」


 あっちそっちでは分からない。

 サクラだけが見えている、紫紺(しこん)の影。

 その動きは不規則(ふきそく)で、まるで生物が逃げ回っているかのようだった。


「そっち……(たな)の、《石》の方に向かってる!!」


「そこですかっ!」


 メルティナは、背の《石》から出現させた【エリミネートライフル】を()とうとするが、サクラが止める。


「ああっ!“魔道具”があるからダメだってメル!エド君に怒られるよっ!」


「むっ!それはいけません……いやしかし、あの影は……」


「あっ!」


 影は、(たな)の方向に()い込まれるように消えていく。

 三人は下手に動けず、見ている事しかできなかった。

 そして紫紺(しこん)の影は、(しず)かにその存在を消滅(しょうめつ)させた。


「……どうするべきかしらね。あの《石》を――壊す?」


「いや……でもエド君のものでしょ?」


「そうなのですか?――ワタシが“召喚”された(さい)配置記憶(はいちきおく)では、あの《石》の有無(うむ)は記憶されていません。ここ数日で入手したのなら別ですが……」


 「え!?」と、メルティナの言葉に(おどろ)くサクラ。

 ローザは、考えるように(たな)に近づく。


「……これは……紫水晶(むらさきすいしょう)――アメジストね。これまた貴重(きちょう)なものを……これが新しく入手したものなら、私も諸手(もろて)()げて喜こんでいるわよ……」


「それじゃあ……いつ?――って言うか、高いものですか?」


 ローザはまじまじと《石》を見つめて感嘆(かんたん)とする。

 そんなローザに、サクラはローザに近づきながら値段(ねだん)を気にした。


「【女神の紫水晶(ネメシス・アメジスト)と呼ばれる、古代の水晶ね。値段(ねだん)は……どうかしら。私やメルティナの物と変わらないはずよ……?」


 それは【消えない種火】、【禁呪の緑石】と同等(どうとう)の存在の価値を誇る《石》だと、ローザは言う。


「ちょっと確認を……」


 ローザが“魔道具”マニアの血に耐えられず、【女神の紫水晶(ネメシス・アメジスト)】を手に取ろうとした瞬間(しゅんかん)


「!!――っな!――んぐっ!」


 カッツーーンと、《石》が飛び出して(・・・・・)、ローザの顔を打った。


「……ロ、ローザさん?」

「大丈夫ですか?ローザ」


 フルフルと(ふる)えながら炎を生み出すローザに、サクラとメルティナは急いで止める。


「ストーーップです!ローザさんダメダメ!」

「落ち着いてくださいローザ、それよりも《石》が……」


 ローザを攻撃した《石》は、ローザの胸をクッションにして衝撃(しょうげき)緩和(かんわ)させて、床に転がっている。


「この……」


 意外と不意(ふい)の行動に弱いローザは、かなり腹を立てているようで、もう《石》を燃やし()くさん(いきお)いで(にら)む。

 本当に視線(しせん)で発火させそうだ。


《石》、紫水晶(アメジスト)はカタカタと音を鳴らして、怒りのローザに(おび)える様に、もしくはおちょくっている様にも見える。


「も、もしかしてさっきの影が……?」


「可能性はあります。ですが、霊視(れいし)センサーに反応はありませんので、サクラの言う幽霊(ゆうれい)の可能性は低いですが……」


幽霊(ゆうれい)じゃなきゃ何!?」


 あんな薄気味悪(うすきみわる)い影に、勝手に動き出した《石》。

 それに加えて、食材が勝手になくなっていた事やローザやメルティナには感知(かんち)できなかったことは関係あるのだろうか。


「――新手(あらて)の嫌がらせじゃないの?」


 何に?誰に?

 【召喚師】にだとしたら、確かに嫌がらせ行為(こうい)だが。

 それ以上に、今回は地味にローザが被害(ひがい)を受けているようにも感じられるが。


「エド君からしたら、嫌がらせの内にも入らないって言って笑いそうだけど……」


 エドガーは【召喚師】を()いだ日から様々な嫌がらせ、というか“不遇”な(あつか)いを受けてきた。

 それは、父を見ていても分かっていたから。だからそういうものだと、()ぐに受け入れた。


「――受け入れなくてもいいモノばかり受け入れて、(そん)してばかりなのよ、あの子は!」


 ローザは右手の《石》に集中し、炎で出来た(あみ)を作り出してそれを投げる。

 超網目(あみめ)の細かい、まるで一枚の赤い布のような繊細(せんさい)な物。


「おお、すごっ、これなら捕まえられ――」


 ()けた。スルッと綺麗(きれい)に転がって。

 無情(むじょう)にも、パサリと落ちる赤い(あみ)


「「「……」」」


 三人は、無言(むごん)で《石》を見る。


「もう……意志(いし)ありますよね……《石》だけに……」

「その可能性は大かと……――今のは何ですか?」

「……(にく)たらしいわね、捕まえてエドガーのコレクションにしてやるわよっ!!……所でそれはどういう意味?」


「ごめん忘れてくださいお願いします……」


 駄洒落(だじゃれ)と言う概念(がいねん)の無い異世界人に、サクラは顔を赤くして忘却(ぼうきゃく)(のぞ)んだ。


 一方、ローザの言葉に紫の《石》はビクッと(ふる)えた――気がした。


「コホン……――と言ってもどうします?意外とすばしっこいですよ?」


 サクラは、紫の《石》を見ながらジリリと近寄(ちかよ)ると、それに合わせた距離(きょり)を転がる紫水晶(アメジスト)


「一定距離(きょり)(たも)っているようですが……法則性(ほうそくせい)があるわけでもなさそうです」


 メルティナは、紫水晶(アメジスト)が反応しない距離(きょり)(たも)ちながら反対側に回り込み、ローザもそれに続いて三方向から(かこ)む。


「せーの!――で行きます?」


 サクラは、(かばん)から【虫取り(あみ)】を取り出し、メルティナは(うなず)く。


「イエス。合図(あいず)は任せます」


「――じゃあ、行きましょうか……せーのっ!!」


 三人は、各々(おのおの)捕獲用具(ほかくようぐ)を持って飛びかかる。


「それ!」

「はっ!」

「……!」


 三方向からの同時作戦に、紫水晶(アメジスト)は全く動かないままだ。

 これで捕獲できたと思ったのだが。


()ねたっ!?」

「このっ!」


 紫水晶(アメジスト)は飛び()ねた。

 何の助走もなく、突然真上に。


「きゃっ……ちょっ!メル!ローザさんもっ」

「サクラ!(あみ)がワタシの顔に、ワタシは(インセクト)ではありません!」

「何やってるのよ、上に()んだわっ!」


 あたふたする三人。

 サクラはメルティナの顔を捕獲(ほかく)し、ローザの(あみ)はその二人を(まと)めて捕獲(ほかく)していた。


「あ」

「ノー」

「……」


 ビヨン!ビヨン!と、《石》とは思えない音を出して、紫水晶(アメジスト)は【召喚の間】の入口へ。

 止まったと思った紫水晶(アメジスト)は、まるで入り口で三人をおちょくる様に回転して。

 そして――出ていった。


「――逃げたぁぁぁぁ!?」

「ワタシ達は、《石》相手に何をしているのでしょうか……」

「……もう知らないわ――粉々(こなごな)にしてやるわよ……」


 サクラは自然に動く紫水晶(アメジスト)(おどろ)き。

 メルティナは不意(ふい)に我に返って。

 ローザは、メラメラとその青い目を、赤く赤く変色させていた。《石》相手に。


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