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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 4章《残虐の女王が求めるもの》
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124話【紫紺の陽炎】



紫紺(しこん)陽炎(かげろう)


 昼食は、ようやくサクラに(ゆる)されたエドガーが座席(ざせき)につき、メイリンの誤解(ごかい)をローザが()いてくれたおかげで始まった。


 メイリンが持ってきたのは、人数分の(どんぶり)

 エドガーもローザも、不思議(ふしぎ)(うつわ)に小首を(かし)げてしまう。

 メルティナだけはこれが何だか分かっているようだが、サクラほど関心(かんしん)はなさそうだった。

 この料理に一番関心(かんしん)を持っていた筈のサクヤが、この場にいないという事だけは本当に自業自得(じごうじとく)だろうが。


「あ~これこれ!完璧(かんぺき)だよ、メイリンさん!」


 メイリンにこれをオーダーした張本人(ちょうほんにん)は、甘じょっぱいタレの匂いに(なつ)かしさを感じる。

 (どんぶり)(ふた)を開けると、細切れの肉に玉葱(たまねぎ)、糸こんにゃくが入っている。

 どれも茶色く煮込(にこ)まれており、一見(いっけん)地味に見えるが。


 サクラは目を(かがや)かせる。これが食べたくて、わざわざ(かばん)から魔力を使ってまで取り出したのだ。

 ――【地球】の食材を。


 牛肉はこの世界にもある。玉葱(たまねぎ)も、代用(だいよう)できる食材がある事を確認した。

 だが、糸こんにゃくと醬油(しょうゆ)味醂(みりん)、ショウガ、そしてお米はこの国、というかこの世界では流通(りゅうつう)していなかった。当然と言えば当然だが。

 サクラはどうしても、どうしても食べたかった。

 好物(こうぶつ)である――牛丼が。


 しかし、サクラとて理解し始めている。(かばん)から取り出した物体(ぶったい)は、サクラの魔力で出来ている。

 食材を、魔力を消費(しょうひ)して食べている時点で、意味のない事をしていると。

 サクラ以外の人は、食べれば栄養(えいよう)()れるだろうが、サクラ本人は一切の栄養分(えいようぶん)摂取(せっしゅ)出来ないのだ。

 なにせ自分の出した魔力を、体内に戻しているだけなのだから。

 しかし、それほどの事をしてでも、恋しかった。自分の世界の味が。


「あとは~、この(たまご)を落・と・し・て……――いっ!?」


 身体ごとフリフリしてノリノリだったサクラが、(たまご)を割ろうとしていた手をピタッ!と止める。

 違和感(いわかん)(ひたい)の《石》を()けて、あちらを見ろと警報(けいほう)を鳴らしたからだ。


 エドガー達は、一気にテンションをガラッと変えたサクラが見ている先。

 食堂の西側、ロビーの階段に近い扉を、全員つられて見た。


「……サクラ?」

「どうかしましたか?」

「どうしたのよ急に……?」


 サクラは、何かいけないものを見てしまったかのような顔をしていた。

 だが、エドガー達が見ても何もないし、何者かの気配(けはい)勿論(もちろん)ない。

 ローザですら、何もないわよと《石》を確認していた。


「い、いや~……気のせいかな。誰かに見られてた気がしたんだけど……あはは」


 そう言った瞬間(しゅんかん)、サクラが持っていた(たまご)するりと手から(すべ)り落ち、割れてしまった。


「あぁぁぁぁっ!!」


「あ~あ。勿体(もったい)ない……何だっけその(たまご)、【トルジョ鳥】?だっけ……貴重(きちょう)なんでしょう?」


 椅子(いす)背凭(せもた)れに身体を(あず)けるローザが、本当に残念そうに()べた。

 この【トルジョ鳥】の(たまご)、ローザの言う通り二つしかないのだ。

 もう一つは、作ってくれたメイリンに食べてもらいたいとサクラが言い出している。

 サクラが持っていた鶏卵(けいらん)によく似た白い(たまご)は、綺麗に切断(・・)したかのように割られていた。


「――あたし……(たまご)にヒビ入れてないんですけど……」


「……え?――あ、あれ……僕の皿……肉がない!」


 サクラの言葉も気になったが、エドガーの(どんぶり)には、きれいさっぱり牛肉だけが無かった。

 それに合わせて、ローザとメルティナも(どんぶり)(ふた)を開ける。

 するとローザが、忌々(いまいま)しそうに言う。


「……私のは、お米?が無いわね……」


「ワタシは、液体(えきたい)がありません」


 これまでバラバラに足りないものがあるだろうか。そうなると、作った(さい)不手際(ふてぎわ)とも言えない。

 そもそもメイリンが、(いく)ら虫の居所(いどころ)が悪いとはいえ、そんなことをするとは誰も思っていないが。


「私のも……【玉葱(コールサ)】がないわ……なんでかしら?みんな一緒にしたのに……」


 メイリンの(どんぶり)からも、綺麗(きれい)に一種類だけがなくなっていた。

 サクラが持つ、割られた可能性がある(たまご)(から)を全員が見る。

 (たまご)の中身も、勿論なかったからだ。


「――え、ちょっとやめてよ怖いっ!!」


 (から)はテーブルの上でクルンと回って止まった。

 ドーム状になった(から)を、全員が不思議(ふしぎ)に見つめていた。

 ――ロビーの階段の(かげ)から、紫紺(しこん)()らめきが見えた事には、誰も気づかないまま。




 不完全燃焼(ふかんぜんねんしょう)に終わった、故郷(こきょう)の世界の食事。

 あの後、結局ローザやメルティナが《石》の力まで使って調べたが、【福音のマリス】自体に何らかの影響(えいきょう)が与えられた痕跡(こんせき)は無かった。


 ただ唯一(ゆいいつ)、サクラがサクヤを(あや)しんでいた。

 それこそ「不条理(ふじょうり)だ!」と怒り出しそうだが、サクヤは関係なかった。

 わざわざ【心通話】で確認したのだから、間違いはない。


「――おかしいと思いませんっ!?」


「……何がよ」


 二階の休憩スペースのソファーで休むローザに、サクラが詰め()る。

 食材が無くなったことに一番苛立(いらだ)っていたのはローザだったが、食事が終わった後は、何故(なぜ)かサクラがヒートアップしていた。


「だって材料だけですよ?それも一種類ずつ、合わせたら牛丼食べられるんですから」


「……サクラは何ともなく食べられたはずだけれど?」


「いや(たまご)!!」


 サクラは、(たまご)を落としている。その中身も空になっていた。

 ただ、牛丼自体に被害(ひがい)は無かったのも事実。

 米が無くなったローザからしてみれば、何が不満なのかと言いたくなるレベルで不満を()らすサクラのテンションについていけない。


「あたしだって、『ふふんふ牛丼♪』とか言って堪能(たんのう)したかったですよ!それどころじゃなかったのは分かってますよね?――とにかく調べましょうよ、色々な場所を!」


 (こぶし)を作って力説(りきせつ)する。

 これから、食材消失怪奇現象(かいきげんしょう)を調べようと言うのだ。

 ローザは、面倒くさそうなものに絡まれたように言う。


「……それは別にいいけれど、私の【消えない種火()】にも、メルティナの【禁呪の緑石()】にも、反応は無かったわ?これ以上どうするつもりなのよ?」


 サクラの剣幕(けんまく)に、やれやれと腰を上げるローザ。

 しかし「はぁ……」とため息を()いて、どう見てもやる気が感じられない。


「……そ、そんなに食べたかったですか?……牛丼」


「……――別に」


 どうやら食べたかったらしい。


「……で、どうするの?……サクラ」


 サクラは答えない。

 耳を()まして、何かを聞こうとしている様子だが。


「……今、何か聞こえませんでした?」


「いいえ。私には――」

「ほらまたっ!!」


 ローザの《石》には何の反応も、熱源(ねつげん)感知(かんち)していない。


「サクラ、今日の貴女(あなた)……少し変よ?」


「だ、だって!今聞こえて……ほ、ほら~!また!」


「――きゃあああああああああああ!!」


「「……」」


「ね?」


「ね?じゃない……私にも聞こえたわよ。今のメイリンでしょう」


「絶対そうだと思います」


 今の悲鳴(ひめい)がメルティナだったら、彼女は本当は人工知能ではないかも知れない。

 いや、しかし今朝、物凄い人間らしい声を出していた気もするが。





 二人は二階の階段から降りると、()ぐにエドガーと合流。

 管理人室(かんりにんしつ)(自室)にいたエドガーも、今のメイリンと思われる悲鳴を聞いたらしい。

 それはそうだ、聞こえない方がおかしいくらいの声量(せいりょう)だった。


「一階の客室……もしくは大浴場の方だよっ」


 悲鳴(ひめい)が聞こえたのは宿の東、九部屋ある一階の客室か、その通りにある大浴場。

 そして地下に(つな)がる階段だ。

 三人は(そろ)って走りながら、一階の客室を確認するもいなかった。

 直ぐに廊下に出て、大浴場に向かう。

 ――そして。


「――いたっ!メイリンさん!!」


「エ、エドガーくぅぅぅん!」


 メイリンは大浴場の手前、地下の階段付近(かいだんふきん)で腰を抜かしていた。

 赤子の様に、はいはいでにじり寄って、エドガーに抱きつく。


「――わっ!っと……メイリンさん、何があったんですか?」


「か、影が……黒っていうか、紫っていうか……と、とにかく何かいたの!!地下に、メルが追いかけていって……」


「メルティナが?」

「あの子、勝手に……」


「なんか、センサーがどうとか、反応がどうとか言ってたけど、全然わからなかったぁ!」


 異世界人のメルティナの言葉に、メイリンは疑問符(ぎもんふ)を浮かべ、腰を抜かしているうちに追いかけて行ってしまったらしい。


「ローザ、《石》は……?」


駄目(だめ)ね、反応なしだわ」


「――え?」


 エドガーとローザの会話に、サクラは戸惑(とまど)いを浮かべて二人を見る。


「サクラ……もしかして、何か感じるのかい?」


「――え、なんで?」


「なんでって……貴女(あなた)、分かっていないの?自分の状態(じょうたい)


「へ?」


 サクラの(ひたい)の《石》。

 “魔道具”【朝日の(しずく)】が、光っていたのだ。

 異変(いへん)か何かを感知(かんち)しているのか、サクラの心境(しんきょう)に合わせて光っているかは本人しか分からない。現在は本人も分かっていないが。


「もう少し《石》の使い方を教えておくべきだったかもしれないわね……」


 ローザは、サクラの(ひたい)に右手を当てる。

 熱を(はか)っているかのような仕草(しぐさ)だ。


「……何もない空間(くうかん)に色を感じなさい。サクラ」


「色……?」


 言われるままに、サクラは目を(つぶ)って(ため)してみる。

 エドガーは、やきもきしている。メルティナを心配しているのだろう。


「……何もない空間を、そうね。三層作りなさい。ここは二階と地下でしょう?」


「……はい。出来ました……あ、色……」


 サクラは心の中で、マス目の紙を三枚用意した。

 すると()っすらと色が見えてくる。


 一枚目の紙には何もない。これはきっと二階を表しているのだ。

 二枚目には、真っ赤に燃える、太陽の様な赤。

 それと並ぶように白く輝く、月光(げっこう)の様な白。遠くにも、真っ黒で、深い深い深淵(しんえん)の様な黒がある。

 三枚目の地下を表す紙には、春の風の(ごと)()き荒れる緑があった。


「分かる?私が送ってる信号(しんごう)が」


「……はい、赤と白が隣り合って、黒も遠くに……それで、緑が、下の層に……あります」


「これが簡単な《石》の反応よ。自分でも感じてみなさい……この宿には、余る程ある(・・・・・)でしょう?――《石》が」


 エドガーは「別に余ってるわけじゃないけど」と、抗議(こうぎ)するも、メイリンに「しぃぃ!」と(たしな)められて黙りこむ。


「……」


「どう?有象無象(うぞうむぞう)の《石》が沢山あるせいで(むずか)しいかもしれないけれど」


 「流石(さすが)有象無象(うぞうむぞう)はないんじゃないかな!」と言おうとしたが、またしてもメイリンに封殺(ふうさつ)されるエドガー。

 大切なコレクションを有象無象(うぞうむぞう)と言われて(いきどお)りを(しず)めるエドガーの顔は、なんだか面白い。


「うぅ……頭痛い。でも……これが、《石》の力……?」


「そうよ。貴女(あなた)の力、その一端(いったん)よ」


 【朝日の(しずく)】は、ホワイトサファイアという宝石だ。

 その効能は、“多機能”だという事だけが分かっている。

 【心通話】は、その一部だけだ。


「あたしの……力。あ、光が……これって……()!!」


 サクラは(さけ)ぶ。

 見えたのだ。この宿に、もう一つ大きな《石》の反応があることに。

 ローザとメルティナが見抜けなかった《石》を、サクラは見抜(みぬ)いた。


「――場所は!?」

「地下です!多分、【召喚の間】!」

「行くわよっ」

「はいっ!!」


「え――……あれ、僕は……?」


 エドガーを置いて、ローザとサクラは()け出した。

 ポツンと置いていかれた、そんなエドガーの肩を、メイリンは優しく叩いてくれた。


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