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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 4章《残虐の女王が求めるもの》
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122話【再出発】



再出発(さいしゅっぱつ)


 ルーリア・シュダイハ、()子爵令嬢(れいじょう)


 結論から言ってしまおう。

 シュダイハ子爵家は、爵位剝奪(しゃくいはくだつ)、そして家名ごと取り(つぶ)された。

 “悪魔”騒動(そうどう)の主犯である、嫡子(ちゃくし)セイドリックは死亡、当主(とうしゅ)デトリンクは、主犯であるセイドリックの罪の(せき)を取って投獄(とうごく)された。

 残された娘のルーリアは、跡目(あとめ)()ぐとは言わずに、誰もいなくなったシュダイハ家は、そのまま取り潰しとなったのだ。


 父デトリンクの責任(せきにん)は非常に重かった。

 ある日の事情聴取で、セイドリックが使用した【魔石(デビルズストーン)】を入手したのは、デトリンクだったと判明。

 しかしそれを問い(ただ)されても、憶えていない(・・・・・・)一点張(いってんば)りだった。

 そして、リフベイン王家の(もよお)し物である決闘。

 これを台無しにしたことが、最大の(せき)になった。

 爵位は剥奪(はくだつ)の上、投獄(とうごく)。処刑されないのは、尋問(じんもん)の為だ。


 そんな顛末(てんまつ)がある中で、ルーリアは。


「……お世話になりました」


 近いうちに取り壊されるであろう屋敷(やしき)に、深々と頭を下げる。


「お嬢さん……」


 ルーリアの元・恋人、ボルザ・マドレスターも、ルーリアに合わせて礼をする。

 一刻(いっこく)(一分)ほど礼をして、ルーリアは顔を上げた。


 晴れ晴れした顔だった。弟は死に、父は投獄(とうごく)

 残された資産(しさん)は銅貨1枚もない。


 だが、悲観(ひかん)はしない。

 この状況を(のぞ)んだのは、自分でもある。

 確かに、家族を失ったことは悲しい。悲しいが、自分を命がけで助けてくれた人もいる。

 家が取り(つぶ)されると聞いた時も、不思議(ふしぎ)と驚かなかった。

 新しい一歩を()み出す為に、自由になる為に。前を向く。


「――さ、行こっかボルザ……(やと)(ぬし)が待ってるわよ!それと、私はもうお(じょう)さまじゃないから、呼ぶときは名前になさいっ!」


 笑顔を見せて、ルーリアは笑う。

 屋敷(やしき)で働いていた使用人たちには申し訳ない気持ちがあるが、ここ【貴族街第四区画(サファラス)】を取り仕切っていたシュダイハ家が(つぶ)れた以上、第四区画は生まれ変わるはずだ。

 ――快楽街(かいらくがい)ではなく、歓楽街(かんらくがい)に。


「は、はい!……ルーリア!」


 そうして向かうのは、【鑑定屋(ルゴー)】だ。

 【鑑定(かんてい)師】マークス・オルゴが経営する、“魔道具”の鑑定(かんてい)(おも)に置いた店。

 サクヤの口利きで、ルーリアは店員として、ボルザは警備員(けいびいん)として(やと)ってもらえたのだ。

 マークスも、店員を(やと)うつもりでいたらしいので、手間が(はぶ)けたと喜ばれた。

 (ちな)みに、賃金(ちんぎん)は意外と安めの一日銀貨2枚と銅貨5枚。ボルザも同じだ。




 そんな【鑑定屋(ルゴー)】の前に、黒髪の少女が居た。


「……遅いではないか。ルーリア、ボルザも……待ちくたびれたぞ」


 (ほうき)をかけながら、店の前を掃除(そうじ)する黒髪の少女に、ルーリアは(あやま)る。


「ご、ごめんねサクヤ。まさか代わりに掃除(そうじ)してくれているなんて。あ、ありがと」


 サクヤから(ほうき)を受け取ると、店の中からイラっとした声が。マークス店長だ。


「――おせーんだよお前らが!だからそいつ(サクヤ)にやって貰ってただけだろーが……」


「す、すんません旦那(だんな)!すぐに準備しますんで……」


 店内からは「おうっ、早くしろ」と、マークスが言う。

 マークスの方が年下なのだが、それは雇用主(こようぬし)と従業員の関係性だろう。

 もしくは、ボルザがそういうタイプなのかだ。


「サクヤは、どうしてここに?」


 気まずそうに、サクヤはぼそりと言う。


「――逃げて来た」


「――えぇっ!?な、何から!?」


 ルーリアは(ほうき)をカランと落として(おどろ)く。

 あの強いサクヤが何かから逃亡してきたこと自体が、ルーリアには驚愕(きょうがく)だったのだ。


「そんなに(おどろ)くことではないぞ。わたしだって何も物凄い強さなわけではない――鬼畜(きちく)がいじめるのだ……わたしをっ!」


「あ、ああ……あの子ね……」


 両手を上げて、まるでお手上げと言っているかのようにサクヤは言う。

 ルーリアも、先日初対面(はつたいめん)したサクラを思い出す。


「……それにしても」


 ルーリアはサクヤの左眼を見る。

 その片目は、眼帯(・・)で隠されていた。

 デフォルトされた黒い(りゅう)のパッチが付いた、可愛らしいものだった。


「……な、なんだ?変な目で……【キモイ】ぞ」


 ルーリアが眼帯(がんたい)を見ていることに気づき、覚えた《現代日本》の言葉を口にする。

 サクヤは、サクラの【スマホ】で動画を見るのが趣味(しゅみ)になっていた。

 だが、電波(でんぱ)がどうとか通信魔力がどうとかで、中々見せてくれない。

 だから掃除(そうじ)から逃げて来たのだ。抗議(こうぎ)の意味を(ふく)めて。


「だって……折角(せっかく)綺麗(きれい)なのに、もったいないなぁって……別に痛くないんでしょ?」


 そう言って、ルーリアはサクヤの眼帯をめくる。

 その下には、綺麗(きれい)な眼が。宝石の様に(かがや)く眼がある。


「うむ、痛くも(かゆ)くもないな……ただ、目立つことは出来ぬから、そのかもふらあじゅと主殿(あるじどの)は言っていた」


 これは、異世界人全員がする事になった。

 ローザも右手に手袋をすることにしたし、サクラは帽子をかぶることが増え、サクヤはこうして眼帯をしている。

 メルティナのみ、背中に《石》がある為、服を着るだけで()んでいるが。


「へぇ……大変なんだね……って、私も(しゃべ)っている場合じゃなかった……!」


「うむ、(はげ)むがよいぞ」


 ルーリアは店内に入っていく。

 「おら!おせーぞ!」と怒鳴(どな)る店主の声が聞こえるが、最早(もはや)サクヤには関係なかった。


「――頑張れ。ルーリア……ついでにボルザもな」


 サクヤは、真剣(ガチ)でサクラから逃げて来てはいるが。

 その理由は、ルーリアの新しい門出(かどで)(いわ)う為でもあった。ボルザは本当についでだが。


 サクヤは、ルーリアを気に入っていた。

 家族に(ないがし)ろにされた境遇(きょうぐう)に、シンパシーを感じていたのだ。


 微笑(ほほえ)みながら、店内を(のぞ)くサクヤ。

 マークス店長にこき使われるルーリアとボルザは、(あせ)ったり困ったりしてはいるが、何だかとても楽しそうだった。


「まったく、もう少し優しく言えぬのか……【鑑定(かんてい)師】殿は……――っと!この気配(けはい)……メル殿か?」


 ルーリアの仕事を見ていたサクヤだったが、急に気配(けはい)を感じ上空を見る。


「――メル殿!あまり空を飛ぶなと言われてはいなかったか~!?」


 空からゆっくりと降りてくるメルティナに、サクヤは言う。

 そんなメルティナは、服の隙間(すきま)から器用に光翼(こうよく)を閉まって降り立つ。


「ノー。大丈夫です……この世界の人間は、そもそも人が空を飛ぶとは思っていません。上を見てはいませんよ」


 そういうものだろうか。

 しかし、メルティナには高度センサーなどもあるし、大丈夫なのだろう。


「……メル殿が大丈夫と言うならいいのだろうが。ところで、どうしたのだ?」


 現在は、サクラとエドガーと掃除(そうじ)をしていると思っていたが、まさかメルティナも逃走を?と考えるサクヤ。


(ちが)いますよ」


 考えを読まれたのか、先読(さきよ)みして否定(ひてい)された。


「そ、そうか……では何故(なにゆえ)か?」


「はい。サクラに頼まれまして」


「――え」


 固まる。それはもう綺麗(きれい)に固まった。

 自分に【魔眼】を掛けたのではないかと思えるほどに固まっている。


伝言(でんごん)を再生します……『サクヤ……あたしから逃げるなんていい度胸ね、昼の食事担当(たんとう)が誰か忘れたの?』」


 ハッとするサクヤだが。


「『……あんたの昼ごはんは――無いからね』……以上です」


 メルティナの頭部(耳元)レコーダーから(はっ)せられたサクラの声に、サクヤは一際(ひときわ)(あせ)る。

 それにしても、完全にメルティナが(しゃべ)っているように見えた。

 実際、メルティナの口からサクラの声は聞こえた。


「――そんなぁぁぁ!殺生(せっしょう)な!メル殿!伝言(でんごん)はどうやって送るのだ!」


 (すが)るサクヤに、メルティナは。


「【心通話(テレパシー)】をすれば良いでしょう」


 と、あっさり流し、伝言(でんごん)を受け取ってはくれない模様(もよう)


「さ、さっきからやっているのだ!?遮断(しゃだん)しよるのだあやつめっ!ちょ~っと上手(うま)くなったからと調子に乗りおってからに!サクラのド鬼畜(ちくしょう)め!!少しばかり胸が大きいからとバカにしよって!それにあの牛乳女(うしちちおんな)もだ!乳がでかいのがそんなに(えら)いのか!!――こんちくしょぉぉぉぉ!!」


 (ひざ)をついて泣く。

 思念(しねん)がこもった言葉だったが。


「……伝言(でんごん)、完了しました」


「――!?――メ、メル殿……?もしや、今の……」


「……イエス。伝言(でんごん)を頼まれましたので」


 そう言えば、嫌だとは言っていなかった。


「ではサクヤ。失礼します」


 《石》が発光(はっこう)光翼(こうよく)を広げるメルティナ。


「――え、え?――冗談(じょうだん)であろう?(うそ)であろう!?――メ、メルティナァァァァァァァァァ!!」


 伸ばすサクヤの右手は、飛び立つメルティナの足をかすめた。

 そんな絶望(ぜつぼう)するサクヤを一切振り返ることもなく、メルティナは帰って行ってしまった。

 最悪の伝言(でんごん)を持って。

 それにしても、サクヤ史上最長の横文字、メルティナって言えるようになったらしい。


「ああ、わたしは(おろ)かだ……」


 サクラの悪口ならいざ知らず、ローザのことを裏では牛乳女と言っている事がバレてしまう。

 (くず)れるサクヤを、店の中から様子を見ていてくれたルーリアが(なぐさ)めてくれた。

 昼食は、ここでルーリアと共に食べよう。





 ガタゴトと()れる馬車内で悪態(あくたい)をつく男を、(たしな)める少女がいた。

 場所は、西国【魔導帝国レダニエス】を出た、隣国【リフベイン聖王国】内。

 国境(こっきょう)に近い場所だった。


「んっだようるせーな!」


「だから、場所を取りすぎですってば!殿下(でんか)(せま)そうにしているでしょ!!」


 態度(たいど)のでかい男。レディル・グレバーンに(いか)るのは。

 リューネ・J・ヴァンガード。

 元の名を、リューグネルト・ジャルバンと言う、聖王国出身の少女。

 帝国に(うつ)った(さい)、名を変えたのだ。


 養父(ようふ)であるレイブン・スターグラフ・ヴァンガードの姓を貰い、公爵令嬢(れいじょう)ともなった。

 しかし、帝国皇女(こうじょ)エリウス・シャルミリア・レダニエスの部下はやめなかった。

 安心して暮らせる場所も、地位も与えられたが、(おん)を返すため、エリウスに忠誠(ちゅうせい)(ちか)っている。


「いいのよリューネ……レディルのことはもう(あきら)めているから」


「……ですって」


 エリウスの言葉に、リューネはレディルを見て言う。


「――るっせ!」


 帝国に帰って十日後。

 エリウス達は、また聖王国に入った。


 エリウス達、【魔導帝国レダニエス】の希望。

 シュルツ・アトラクシア軍事顧問(ぐんじこもん)要請(ようせい)で、エリウスは再び聖王国の【王都リドチュア】に向かっている。

 休みなくいけば、あと七日で着くはずだ。


「……はぁ」


 何気なく、エリウスはため息を()く。

 シュバッ!!と姿勢(しせい)を正すレディル、顔を緊張(きんちょう)させるリューネ。

 馬車を引くカルスト・レヴァンシークも緊張(きんちょう)したのだろうか、一瞬(いっしゅん)だけガタンと()れた。


「エ、エリウス……俺が悪かった」

「い、いえ……しつこく言った私が……」


「――は?」


 エリウスは分かっていない。

 自分からドス黒いオーラが出ていたことを。

 それもこれも、帝国での事柄(ことがら)起因(きいん)していたのだが。

 その原因(げんいん)になった男たちはここにはいない。

 命令をした軍事顧問(ぐんじこもん)も、(えら)そうにするリューネの養父レイブン・スターグラフ・ヴァンガードもだ。


 レイブンは、軍事顧問(ぐんじこもん)と話がある。と帯同(たいどう)してはいない。

 その代わりに、娘となったリューネをお付きにつけたのだ。

 それが、エリウスには腹立たしくてしょうがなかった。


(まるで、そのためにリューネを利用しているようだわ……)


 前回、シュルツ・アトラクシア軍事顧問(ぐんじこもん)指示(しじ)で、エリウスは【リフベイン聖王国】で(いく)つかの任務を受けた。


 一つ目が、聖王国、特に【王都リドチュア】に、無数(むすう)の《石》をバラまく事だった。その結果は、一つの《石》が異世界人を招く事になり、二つの【魔石(デビルズストーン)】は“悪魔”となって、【召喚師】を苦しめた。

 二つ目が、軍事顧問(ぐんじこもん)の古くからの知り合いである、レイブンを迎えに行く事だった。そしてそのついでに、軍事顧問(ぐんじこもん)固執(こしつ)する【召喚師】が、どのような力を持つかを調べるつもりだったのだが。

 結果は、貴重な【魔石(デビルズストーン)】を二つも(・・・)失った。

 更には、部下が一人死んだ可能性がある。

 それしか、()られなかった。いや、()たとは言えない成果だろう。


「エリウス様……」


 小声で、(あるじ)を心配するリューネ。

 エリウスは、そんな視線(しせん)に気づくことなく、窓から景色(けしき)(なが)め、その青い髪を風に(なび)かせていた。


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