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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 4章《残虐の女王が求めるもの》
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119話【これがワタシの日常】



◇これがワタシの日常◇


 異世界の魔王が“召喚”される前日、【火の月53日】。

 【召喚師】エドガー・レオマリスの眠る管理人室(かんりにんしつ)に忍び寄る、一つの影。

 影は(ゆか)からほんの少しだけ浮き上がり、足音を立てない様に新しい(マスター)が眠る部屋へと侵入(しんにゅう)しようとしていた。

 その背中に存在する《石》からは、緑色の噴出光(ふんしゅつこう)()っすらと()れて、音もなく(きら)めいていた。


「……コンプリート。成功です。今、行きます……マス――」


「――どこに行くつもりよ?」


 不意(ふい)()けられた声に、メルティナは(おどろ)いて固まった。


「……そ、想定外(そうていがい)……」


 センサーに反応しなかった。おそらく《石》の力だろう。

 メルティナは機械に頼り過ぎていたために、気付けなかったようだ。

 

 気付けないのも無理もない。ローザはともかく、サクラもここ数日で《石》の使い方が飛躍的(ひやくてき)向上(こうじょう)していた。

 認識(にんしき)遮断(しゃだん)する(すべ)を覚えたのだ。

 メルティナの高度センサー対策(たいさく)で。


「どこがですか~。これで三日連続ですよ?メルさ~ん……?」


 メルティナを(かこ)むローザとサクラの二人は、(あき)れる様に言う。

 サクラは寝間着(ねまぎ)で、ローザはなんと全裸だった。

 もう()れてしまったらしいサクラは、ローザの姿に何か言うわけでもなく、メルティナを連れていく。


「――ちょっと待ってくださいサクラ……ワタシは、マスターにお休みの挨拶(あいさつ)を……」


「はいはい、それはさっき皆でしましたから、【忍者】はもうぐっすりですよ」


 サクラに首根っこを(つか)まれるメルティナは、外装を身に着けていない。

 球体関節(きゅうたいかんせつ)なども無くなり、素肌も完全に人間のそれで、背中にある《石》以外は、もう完全に人間といえるだろう。

 今()ているのは、サクラが(かばん)から出した服だ。


 ローザ程ではないが、メルティナもかなりスタイルがいい。

 本当に、エミリア(前世のティーナ・アヴルスベイブ)の情報を(もと)に作られたのかと(うたが)いたくなるレベルで。


「まったく……油断(ゆだん)(すき)も無い……ふ、ぁぁぁぁ……」


 全裸で大欠伸(おおあくび)をする赤髪の女性、ローザは、最近こうしてメルティナがエドガーに夜這(よばい)?をかけようとする(たび)に、無理やり起きて撃退(げきたい)している訳だった。


「……眠ぃ……」


 ローザは、メルティナが毎日のようにあの手この手を使ってくるので、寝不足だった。

 それはサクラも同じはずなのだが、なぜか彼女はぴんぴんしている。


「ほら、ローザさんも……行きますよっ!」


「……分かっているから……大きな声を出さないで」


 別段(べつだん)大声では無かった気もするが、深夜でのサクラの元気さに、げんなりするローザだった。





 翌日53日。


 日の光を受けて、エドガーは目を覚ます。

 ゆっくりと背伸びをする。と、それと同時に「――あああああああああっ!」と悲鳴(ひめい)が響いた。


「……ロ、ローザか……」


 エドガーは完全に寝坊であり、どうやらメイリンに起こされるローザと同じタイミングで起きたらしい。なんとか身体に(むち)を打って、まだ眠い身体を無理矢理おこす。

 管理人室から出て、水桶(みずおけ)のある洗面所(せんめんじょ)へ行くと。


「……」


 むすっとしたローザと鉢合(はちあ)わせた。

 とても不機嫌(ふきげん)だった。しかもローザの後ろにドン!と仁王立(におうだ)ちするメイリンが、それ以上に不機嫌(ふきげん)そうに言う。


「あら、おはよう……異世界人の主さん(・・・・・・・・)……今日は(めず)しくお寝坊ですねぇ」


 ジト目の視線(しせん)が、心に突き刺さるようだった。


「……お、おはようございます……メイリンさん、その、すみません……」


 メイリン・サザーシャークは怒っている。

 今日だけではない。メイリンは、ローザ達が異世界人である事を隠していたことを怒っているのだ。


 決闘の翌日、【魔石(デビルズストーン)】で(あやつ)られていた事、ローザやサクヤ、サクラにメルティナが、この世界とは別の世界の住人、異世界人である事を(つつ)み隠さずに(つた)えた。

 エミリアとアルベールも同席して、メルティナの紹介などをしたのだが。

 「私はそんなに信用ないかしら……」そう言って、メイリンはアルベールをぶった。


 メイリンの事を配慮(はいりょ)して隠していたつもりだったが、完全に失敗だったようだ。

 ローザは当初「話した方がいい」と言っていたが、なんとも残念な結果になってしまった。

 しかし、いろいろな事情(じじょう)を知っても、メイリンの態度(たいど)は変わらなかった。


 「助けてもらった事は、夢のように覚えているわ」と、夢で見た内容程度(ていど)には認識(にんしき)していたらしい。全てを知って、それでも受け入れてくれている事は、素直に(うれ)しい事だった。


 「強い女性ね」と、その時ローザは言ったのだが。

 まさか自分がこんなにも彼女を苦手(・・)とするとは思わなかったのだろう。


「……エドガー……早くエミリアのお兄さんを連れてきなさい……この状況(じょうきょう)は、私には(つら)い……本当に(つら)い……」


 アルベールとメイリンは、それから会っていないらしい。

 【聖騎士】と成ったアルベールとエミリアの兄妹は毎日忙しくしており。

 幼馴染であるエドガーも、それから一度しか会っていない。

 早く二人の仲を戻してもらわなければ、ローザがいつか爆発するかもしれない。物理的に。


「さあ、ローザもエドガー君も……早く顔を洗って掃除(そうじ)よ!もうサクヤ(・・・)サクラ(・・・)も、メル(・・)も起きて(はたら)いているのだからねっ!」


 さん付けを止めたのは、ローザに不公平(ふこうへい)が無いように、らしい。なんの不公平(ふこうへい)なのかは、エドガーには分からなかったが。

 初対面(しょたいめん)のメルティナも、自分からメルと呼んでくれと言って、メイリンは受け入れた。本当に心の広いお姉さんである。

 

「――さ、早く!!」


「「は、はい!」」


 今は、とても怖いが。





 顔を洗い終えて、エドガーが掃除(そうじ)担当(たんとう)場所の二階に(おもむ)くと。

 サクヤとメルティナが正座させられていた。


「――どういう事?」


「……エド君おはよう」

「あ、主殿(あるじどの)……」

「マ、マスター……あ、足が……」


 涙目でエドガーを見るメルティナ。

 本当に人工知能なのだろうかと思えるほどに、とても感情豊(かんじょうゆた)かに顔を(ゆが)めている。

 どうやら足が(しび)れているらしい。

 エドガーを目視(もくし)して、動こうとしたのだが。


「――マスタぁあああああっ!サ、サクラぁ!何故(なぜ)何故(なぜ)その様な非人道的(ひじんどうてき)な事をっ!?」


「いやいや……メルは機械なんでしょ?なんで足が(しび)れてるわけ?それとも、機械は電気に弱いってゲームみたいな感じぃ?」


 サクヤとメルティナを正座させていた張本人(ちょうほんにん)

 サクラが、やれやれと言った感じに言う。


「――ち、違います!ワタシの身体は、今や80%が人間と同じなのです!……(しび)れるものは(しび)れるのであああああああ!やめっ……やめてぇぇ!!」


 指差(ゆびさ)し棒を持ったサクラは、メルティナの(しび)れている足裏をつつく。

 ご丁寧(ていねい)に、なぞってもいる。(ひど)い。


「……お、お(ぬし)は本当に鬼畜(きちく)だな……末恐(すえおそ)ろしい……」


 サクヤは、サクラの行動にゾッとしていた。

 サクラは、(まれ)にこういった行動を起こすのだ。


「はは……でも、ちょっと分かるかな……」


「――主殿(あるじどの)


 サクラの嗜虐性(しぎゃくせい)に少しだけ同意(どうい)したエドガーを、サクヤはジトーッと見る。

 敬愛(けいあい)する(あるじ)が、鬼畜(サクラ)(うなず)いた事に、異議(いぎ)を申し立てた。


「……ご、ごめん。なんでもないです……」


「ならばよろしいですが……」


 サクヤの黒く綺麗(きれい)なまでの視線(しせん)に、エドガーは頭を()いて(あやま)る。

 メルティナの、悲鳴と言うか泣き声と言うか、どこか人間離れしたその声に。背筋をぞくぞくとさせるエドガーであった。


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