エピローグ【成長】
◇成長◇
全員が寝静まった深夜の【福音のマリス】地下、【召喚の間】。
【召喚師】と“召喚”された異世界人しか入れないはずのこの場所に、人影が二つあった。
勿論、自室で眠っているエドガーではない。
そして異世界人の少女達の誰か、でもなかった。
とても白い、穢れの知らない深雪の様な白銀の髪をもった、大人の女性と。
そして、灰色の髪に大きな獣の耳をぴょこぴょこ動かす、幼女だ。
二人は、棚に置かれた様々な“魔道具”を見やると、女性はそこにまた“魔道具”を混ぜる。
ことりと置かれたそれは、紫色の《石》だ。
前に置いた《石》は、見事“召喚”に使われたみたいだと、白銀の髪の女性は笑う。
その胸元には、光り輝く《石》、【水晶】があった。
「――ウフフ……本当に成長しましたね……それに、前に置いた《石》も、正常に機能したようですし、《魔法》も気付かれてはいませんね――これで4人目……フフっ。もう並びましたよ?」
「んもー!当ったり前じゃん!何言ってんのスノー。彼は、アタシらの主だよ?そんなの当然だよっ、これからもっともーっと強くなってもらわないとさっ」
灰色の髪の幼女は、主人の成長を喜ぶように、にっこにこしながらスノーと呼んだ女性に食って掛かる。
この幼女にも《石》があった。おへそに、チョコンと乗る様に着けられた【インカローズ】が光っていた。
「ふんふんふ~ん♪」
幼女は、所かまわず置かれた“魔道具”を物色していたが、それを見ていた女性は、首根っこを掴んで持ち上げた。
「フフっ。ダメよノイン……余りおいたが過ぎると、バレてしまうでしょう?帰ったら――またあの人に叱ってもらいますからね?」
「――う、うげぇぇ……うざぁ……まぁでもそれは嫌だから黙っとく~」
非常に嫌な顔をして、ノインと呼ばれた幼女は頭上の獣耳をしな垂れる。
二人は凸凹の身長ながら、長年にわたって行動を共にするバディのようだった。
「……おや?……ノイン、誰か来ますね……早いうちに帰りますよ?」
「……」
こくこく頷く、ノインと呼ばれる幼女。
「では……今度は、会えるといいですね……我が主……」
そう言って、スノーと呼ばれた女性は《魔法》を唱える。
瞬間、二人の姿は、気配すらも無く完全に消え去った。
まるで、初めから何もなかったかのように。
“魔道具”を置かれたことも、全ては初めから、そこにあったかのように――
◇
「……――あれ?」
「ん?どうした、サクラ?」
「あ、う~ん……気のせい、かなぁ?」
「なんだそれは……お主が練習をしたいと言うから、こんな深夜に付き合っているのだろうが……」
深夜の【召喚の間】に訪れた、もう一組のコンビ。
異世界人サクラとサクヤは、サクラの能力【ハート・オブ・ジョブ】を使うための訓練に来たようだが、サクラが何かを不審がる。
「いや、そうだけどさぁ、なんか……変じゃない?違和感って言うか……何と言うかさ。なんか……間違い探し的な?」
「……はぁ?分からぬが」
サクヤは地下室内を一通り見渡すが、それに気づかない。
「――あっそ……じゃあいいや……始めましょ。ここなら、魔力を気にしないでいいんでしょ?」
「うむ。ローザ殿がそれらしいことを言っていたな。だが、ローザ殿がいないと結界が張れない。あまり過激なものは駄目だぞ?」
「オッケー」
鈍感なのか鋭いのか分からないサクヤの事を、サクラは諦め。
心を鎮めて、なりたい自分を想像した。
◇
鳥が舞う庭園で、一人の男性が本を読んでいた。
「――ん?……帰って来たか……」
本を閉じると同時に、床に魔法陣が展開されて、二人の影を現す。
白銀の髪の女性と、灰色の髪の幼女だった。
「あら?……これはシュルツ様……わざわざお待ちいただいたのですか?」
「――シュルツ様ただいまー!」
「やあ、おかえり二人共……どうだったかな、聖王国は……」
シュルツと呼ばれた男は、薄っすらと生えた顎髭をなでると、マッチに火を点け本を燃やした。
「ウフフ――まあ、楽しかったですわ。相変わらず、魔力の枯渇は深刻でしたが、転移《魔法》が使えただけマシですわね」
「アタシは暇だったなー」
燃える本を見ながら、シュルツは二人の言葉を聞くが、まるで興味を待たないかのように言う。
「で、何人だった?」
スノーと呼ばれた女性は、嘆息気味に笑いながら答える。
「――4人……ですわね。一人はおそらく、私やあの魔女と同じ世界からの客人でしょう……それ以外は、分かりませんわ」
そう言って、スノーと呼ばれた女性は胸元の《石》に魔力を籠める。
【水晶】が発光し、背からばさりと真っ白な翼が広がり、魔力は頭上にリングを作った。
「ふぅ……やはり、落ち着きますわね……この姿は」
「ああ。美しいね……流石、異世界の“天使”だ……スノードロップ」
「ウフフ……心にもない事を」
シュルツの感情の籠らない言葉に、スノードロップは少しの怒気を孕んだ顔を見せるが、それでもノインは、スノードロップを褒めるシュルツに、文句があるようで。
「シュルツ様ー、アタシはー?」
棒読みながらも、シュルツの膝に乗り、見上げる。
「ははは、勿論可愛いよ……ノインも」
「うわー、超棒読みー……」
「ノイン。今そんな事をしていたら……後で自分に嫌気がさしますよ?」
「……そ、それもそうかもー」
そう言われて、ノインはシュルツの膝から直ぐに下りた。
一頻りの冗談を終えて、満足そうに二人の異世界人は頷き合う。
「シュルツ様?今度はどうしますか……?」
「あ!――アタシは戦いたいなぁ、あの赤髪とは、いい勝負できると思うんだよねぇー」
二人の言葉に、シュルツは顎に手を当てて考える。
これは昔ながらの、考えていなかった場合の癖らしい。
「そうだね……もう直ぐ彼女達も帰ってくるし……それから決めようか」
「――はい、シュルツ様」
「――はーい!」
そう言って、二人は自室に戻っていった。
残されたシュルツは、独り言を言い、空を見上げる。
「――さぁ、まだまだ踊ってくれよ……――エドガー・レオマリス」
~近未来の翼~ 終。




