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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 3章《近未来の翼》
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118話【輝きの道標】

誤字修正いたしました。報告ありがとうございました。



(かがや)きの道標(みちしるべ)


 バフォメットの咆哮(ほうこう)と同時に、メルティナ・アヴルスベイブはシステムを起動(きどう)する。


「【天空支配(グラスパー)システム】起動(きどう)!」


 背中の《石》【禁呪の緑石(カース・エメラルド)】が急激に発光(はっこう)し、粒子(りゅうし)を発生させた。

 その粒子(りゅうし)はメルティナの全身を(つつ)み、エドガーとエミリアは目を()らす。

 粒子(りゅうし)の中のシルエットは、角張った装甲などが削られていく様子が見られた。

 それに(ともな)って、粒子(りゅうし)が物質化を始めていた。

 新しい装甲、新しい皮膚、新しい関節、新しい髪が形成され、生まれ変わる様に、見る見るうちにメルティナの姿を変えていった。


 やがて発光(はっこう)は終わり、そこには真に異世界人となった、メルティナ・アヴルスベイブが立っていた。


「……」


「メルティナ?」


「綺麗……」


 エミリアが見るメルティナの(ひとみ)は、無機質(むきしつ)な銀色から、温かみを()た桃色に変わった。

 緑の髪の毛も変わり、エメラルドグリーンのように明るく変化し、しかもほんの少しキラキラと発光(はっこう)している。

 と、そんなメルティナの変化に驚いているエドガーとエミリアに、現在バフォメットを足止めしてくれているローザが、限界を迎えそうになっていた。


「……悪いけれど、私はもう限界よっ……くっ!早くしてくれるかしら!」


 ローザは、魔力の限界が近づくも、何とか時間をと、バフォメットを引き付けてくれていた。


「――今、行きます【緑翼展開(ウイング・ブースト)】!」


 翼を展開(てんかい)させる。

 飛行の為に展開(てんかい)していた銀色の金属翼は、完全に破壊されて無くなっている。

 ローザの【炎熱爆発(エクスプロード)】を防ぐ時に、身代わりにして破壊されているからだ。


 メルティナの言葉に反応して新たに展開(てんかい)されたのは、光の翼(・・・)だった。

 緑色の出力光(しゅつりょくこう)(たぎ)らせて、メルティナは飛翔()ぶ。


「――メルっ!!」


 友達、エミリアは心配そうに飛翔(ひしょう)するメルティナを呼ぶ。

 エドガー、新しく(みと)めたマスターも、危うい意識(いしき)でメルティナを見ていた。


「心配いりません!ワタシが――終わらせます……【禁呪の緑石(カース・エメラルド)】!」


 背中の《石》は、ブースターの役割も果たしている。

 膨大(ぼうだい)な魔力を推力(すいりょく)に変えて、メルティナは直進する。

 セイドリックが投げた槍など対比(たいひ)にならない速さで、ローザを(ねら)うバフォメットの左腕に突撃していく。


「ルオォォォォッ!!」


 バフォメットも、メルティナの突撃を(むか)()とうと黒い翼で(ふせ)ぐ。

 だが、威力と(いきお)いは(はる)かにメルティナの方が高かった。

 黒い翼は、穴をあける事は無かったが、バフォメットはその巨体を()き飛ばされた。

 ズッスゥゥゥゥン――と、バフォメットは仰向(あおむ)けに転ぶが、翼を(じく)にして立ち上がり、メルティナを(にら)む。


器用(きよう)真似(まね)をしますね……ですが、これをどう防ぎますか!?」


 光翼(こうよく)(ちゅう)で羽ばたかせ、地に立つバフォメットを見るメルティナは、《石》を発光(はっこう)させて、武装を形成(けいせい)する。

 再構築(さいこうちく)された【クリエイションユニット】だったが、大きさが桁違(けたちが)いだった。

 前までの【クリエイションユニット】は、手足にはまるリングだったが、新たに作り出したユニットは、完全に人を囲えるほど大きなサイズだった。


「【アトミック・レールガン】!――【エリミネートガトリング】!」


 左手には、身の(たけ)()える電磁砲(レールガン)

 右手には、長重(ちょうじゅう)機関砲(ガトリングガン)


「――な、なにそれぇぇ!!」


 傷の深いエドガーを(かか)えるエミリアは、見上げるメルティナの戦いに目を(うば)われた。

 (かか)えるエドガーの身体を、落とすくらいには(おどろ)いていた。


「ル、オォォォォ!!」


「――対象固定(ターゲットロック)……ファイアーーー!」


 メルティナは、大きく声を上げて引き金を引く。

 電磁砲(レールガン)は、音もなく()ちだされて、バフォメットの左腕をもぎ取った。

 無数(むすう)乱射(らんしゃ)された機関砲(ガトリングガン)の弾丸たちは、バフォメットの足を穿(うが)つ。穿(うが)つ。穿(うが)つ。穿(うが)つ。


「――ルアッ!!ルオォ!オォォ!ォ――!!」


 バフォメットは腕を失い、両の足には無数(むすう)風穴(かざあな)をあけた。

 しかしそれでも、セイドリックとフェルドスの統合(とうごう)された復讐心(ふくしゅうしん)(あきら)める事をせず、唯一(ゆいいつ)無傷(むきず)の黒翼を振動(しんどう)させて飛ぶ。


 全力だったのだろう。

 バフォメットは(まばた)きにも近い(いきお)いで上空に飛び上がる。

 多少進んで、メルティナと同じように滞空(たいくう)し、メルティナを(にら)んで口元を(ゆが)める。

 まるで、まだ戦えるぞと言わんばかりだ。

 だが、メルティナは違った。


「――よいのですか?――そこ(・・)にいても……」


「ルァ?」


 自分の全身をボロボロにしたメルティナを最大の敵と見たバフォメットは、気付かなかった。

 真下に、ギラギラと燃える、太陽の様な(きら)めきがあった事に。


「――ルオッ!?」


「――遅いわよ……【炎の剣舞(ブレード・ダンス)】!舞いなさいっ!剣たち!!」


 ローザが魔力をギリギリまで使用し、(つく)り出された六種類の剣は、バフォメットを(すで)(とら)えていた。


「ルオオォォォ!」


 しかし、四方八方から剣戟(けんげき)見舞(みま)い、バフォメットに傷をつける剣達、だが、大したダメージは与えられていない様に見える。が、ローザの(ねら)いはダメージでは無かった。


「――ルオ……ル、ルオオォォォ!!」


 バフォメットは空中で戸惑(とまど)う。

 自分に斬りかかって来た六種類の剣は、空中で陣を(えが)いていたのだ。

 それは、六芒星(ろくぼうせい)

 バフォメットを(ばく)する、星の(のろ)い。



「――【六芒星(ヘキサグラム)】!!」

(あ~……もうヘロヘロだわ……折角(せっかく)回復した魔力も、もう無くなる……だから頼むわよ!メルティナ!!)


 必殺技の前準備だ。だが、ローザにはもうそんな魔力は残っていない。

 ならば、誰がトドメを刺すのか。

 そんなもの、メルティナに決まっている。


「イエス。お任せ下さい――【ランデルング・バスター】起動(きどう)!!」


 メルティナの背の《石》を基準(きじゅん)として、二門(ふたもん)の大型ウイングライフルが形成(けいせい)される。

 そのウイングは以前までの銀翼に似ていたが、その羽先(はねさき)には銃口が存在した。


 展開(てんかい)されたウイングライフルはメルティナの肩口からバフォメットを()える。

 接続(せつぞく)された《石》からは、膨大(ぼうだい)な魔力が循環(じゅんかん)されて威力を上昇させている。

 そして、そのウイングと接続(せつぞく)されるのは、両手に持つ【アトミック・レールガン】と【エリミネートガトリング】だ。


「グリップ展開(てんかい)……スコープオープン……照準固定(しょうじゅんこてい)……|充填率(じゅうてんりつ)96%……発射準備を……パイロットに譲渡(じょうと)――フッ……」


 メルティナは笑う。

 もう、パイロットはいないのに。

 要らないのに。


「――いえ、発射準備完了!射線軸(しゃせんじく)からの撤退(てったい)を……確認(かくにん)……――ローザ、援護を感謝します!」


 展開(てんかい)までの時間を(かせ)いでくれたローザに感謝(かんしゃ)()べる。

 そのローザの指示(しじ)なのか、エドガーやエミリア、その仲間達は、一塊(いっかい)になっていた。

 それを確認して、メルティナは告げる。

 バフォメットへと、最後の言葉だ。


「さらばです!異世界のモンスター!死にやがりなさいっ!!――【ランデルング・バスター】、シューーーーーーート!!」


 緑色の魔力を前方に圧縮(あっしゅく)して、撃ち出す。

 その圧縮(あっしょく)魔力の速度は、絶妙(ぜつみょう)に遅かった。

 しかし、極大(ごくだい)な大きさとローザの六芒星(ろくぼうせい)のお陰で、絶対に外すことはない事は確証している。


「――ル……ルオオォォォォォォォォォォォォォォ――――――!!」


 上空にいたバフォメットは、かなりの高度にいた。

 しかし空は(くも)りなく()き通っていたため、(さわ)ぎがあった【貴族街第三区画(ガーネ)】の住民は見ていたはずだ。


 それは、騎士学校から逃げ出した観客(かんきゃく)達も同じ。

 光に消えるバフォメットを、この区画にいる住民全員が見ていただろう。

 もう、誤魔化(ごまか)しもできない筈だ。

 きっと聖王国は、この先動乱(どうらん)(むか)える事になる。


 “魔道具”の普及(ふきゅう)、《魔法》の認知(にんち)

 異世界の少女達――そしてそれを(たば)ねる、【召喚師】と共に――





 避難所(ひなんじょ)では、逃げ()びた住人達や騎士学生達が、見てしまった光景(こうけい)(おび)えていた。

 しかし、上空での緑色の閃光(せんこう)が治まった直後、その言葉は(はっ)せられた。


 「“悪魔”は撃退(げきたい)された!!」


 その言葉を(はっ)したのは、いったい誰だったのだろうか。

 最早(もはや)誰が知る訳でもなく、騒動(そうどう)(おさ)まった区画もそうでない区画も、話題(わだい)は持ちきりだった。


 【聖騎士】エミリアが(・・・・・)、“悪魔”を退治(たいじ)した――と。

 誰が吹聴(ふいちょう)したのか、真実はエドガー達しか知らない事のはずだが。

 退屈(たいくつ)を持て(もて)す聖王国人には、もってこいの話題(わだい)になる。


 そして、“悪魔”など初めからいなかったかのように、不自然に解散してゆく人混み。

 観客だった貴族、騎士学生、下町の住人。

 誰もが、忘れてしまった(・・・・・・・)のかと思えるほどあっけなく、人々から恐怖(きょうふ)が取り除かれ、【貴族街第三区画(ガーネ)】は平静を取り戻した。


 しかし、「御伽噺(おとぎばなし)の“悪魔”は実在した」。

 「“魔道具”と言う、《魔法》を体現(たいげん)したアイテムが存在する」。

 「【召喚師】の周りにいる女の子は、全員奴隷(どれい)だ」。

 などと、真実とデマの拡散(かくさん)によって、エドガー達の生活も様変わりする事になるはずだ。


 そんな戦いから二日が()った。

 渦中(かちゅう)のエミリア・ロヴァルトは、王城にいた。

 王城の、第三王女ローマリアの寝室に。


「……すまなかったわね。エミリア……私は、結局何もできなかった……(おび)えて、逃げ出す事すら出来なかったわ……本当に、なんて情けない……」


 ベッドに()せるローマリアは、片膝(かたひざ)をついて(かしこ)まるエミリアに謝罪(しゃざい)する。

 困ったように、近くにいるオーデイン副団長に目線を送るが、()らされた。


「で、殿下(でんか)……私達は気にしていませんから……ローザ、ロザリーム殿も、別段何もおっしゃっていませんし。エド、【召喚師】エドガー殿も同じです、ですので……どうかお元気を……むしろ、あの後(・・・)来てくれた【聖騎士】の方達のおかげで、エドガー殿達は撤退(てったい)できています、針の(むしろ)にならなくて、本当によかったですから」


 オーデインに丸投げされたエミリアは、王女に元気になってもらおうと、エドガーやローザは気にしていない事を告げるが、更に元気をなくしてしまう。


「……そうか……ロザリーム殿もエドガーも、気にもしてもらえていないのね……」


「――えっ!……い、いえ……決してそういう意味では……」


 そしてようやく、助け(ぶね)が出された。


殿下(でんか)……もう二日ですよ?決闘は正式に無効になり、騒動(そうどう)を起こしたシュダイハ家は取り(つぶ)しになりました……ロヴァルト兄妹の【聖騎士】正式発表も、後五日です……こんなことをしている場合ではないのでは?」


 ベッドの(わき)で待機していたノエルディアに言われて、流石(さすが)にカチンときたのか、ローマリアは起き上がって(まくら)を投げる。


「――分かっているわよ!!でも……私は……」


 あの状況(じょうきょう)で、姉に見捨(みす)てられたこと。

 何もできずにエドガー達に全て(まか)せてしまったこと。

 思い返しても、()いだらけだった。

 ()いと恐怖(きょうふ)しか、残らなかった。


「それは我々も同意(どうい)ですね……あんな怪物(かいぶつ)実際(じっさい)に居たとは……本当に(おどろ)きましたし……それに」


 オーデインはエミリアを見て続ける。


「――異世界ですか……(にわ)かには信じられませんが、あのロザリーム殿やサクラ殿の力を見せられれば、納得(なっとく)もできましょう」


 エミリアは、エドガーの事情(じじょう)をローマリア達だけには話した。

 エドガーも了承(りょうしょう)してくれたので、昨日話したわけだが。

 それでもローマリアはこれ(・・)だった。


「分かっているわ……分かっているのよ……でも、ごめんなさい……(しばら)く時間を頂戴(ちょうだい)……考える時間を、欲しいの」


 そうしてその後、王女との時間は取れずに。

 火の月39日(約5月9日前後とみられる)、エミリアとアルベールの【聖騎士】正式発表がなされた。


 昨年度、騎士学校卒業生唯一(ゆいいつ)の【聖騎士】兄アルベール。

 王女を刺客(しかく)から助け、そして“悪魔”を退治(たいじ)した【槍の聖女(・・・・)】妹エミリア。


 二人の晴れ姿は、正式に発表されたばかりの“魔道具”。

 映像投影“魔道具”【フォトンスフィア】で、大々的に放映(ほうえい)された。

 まだ貴族街の区画ごとに二つ、下町には区画ごとに一つしか配置されていないが、超大型の【フォトンスフィア】は、城の式典(しきてん)を大々的に(うつ)した。


 それは、エドガー達は見ていない。

 だが、メルティナが空から撮影(さつえい)をしたらしいので、エミリアとアルベールを(まじ)えて見ようと約束をした。


 エドガー達【福音のマリス】一行(いっこう)は、あの決闘の翌日以降、宿から一歩も外に出れていない。補足(ほそく)ではないが、宿が忙しいわけでは当然ない。


 その理由は――意外にもサクラだった。

 あの戦いで、下町民に異常な人気が出たのが、サクラだったのだ。


 貴族のエミリアよりも、下町に(きょ)を置いているサクラが、下町の住人にはウケたのだ。

 一度町に出ただけで囲まれてしまうほどに。

 決闘の日の夜、メイリンと一緒にその夜の買い物に出たサクラが、冷や汗ダラダラで帰って来た時は全員で大笑いしたが、そうも言ってられないかもしれない。


 しかも始末(しまつ)が悪いのが、客を(よそお)ってまでサクラに会いに来る(やから)がいた事だ。

 大抵(たいがい)の客は、サクヤやローザ、メルティナが追い返すが、それは宿としてどうなのだろうと会議をした。

 結果。サクラには少し我慢(がまん)をしてもらう事になった。

 「非人道的(ひじんどうてき)だ!」と、サクラは(いきどお)っていたが、メルティナによれば【ハート・オブ・ジョブ】なる能力がサクラにはあるらしいので、なりきって貰うことにした。のだ

 ――下町の、アイドル的存在に。





 騎士学校【ナイトハート】が、今回の戦いで一番被害(ひがい)を受けていただろう。

 巨大な“悪魔”が壁を破壊し、騎士学生達の練習場にしようとしていた大理石の舞台(ぶたい)は、(すで)にボロボロだった。

 もし、被害額(ひがいがく)をエドガー達に請求(せいきゅう)したら、エドガーは大変だろう。

 (さいわ)いにも、請求(せいきゅう)は王家が買って出た。

 第一王女セルエリスが(みずか)ら言い出した事であり、騎士学校の修繕(しゅうぜん)までを(ふく)めて()らうと言った。


「【聖騎士】任命書、アルベール、エミリア両名……それから、新設する【従騎士(・・・)】の説明。騎士学生の修繕費(しゅうぜんひ)工面(くめん)――こんなもの、かしらね……」


「……はい。セルエリス殿下(でんか)……あとはこちらで手配(てはい)します」


「ええ、よろしく……」


 騎士ヴェインが大量の書類(しょるい)を持ち部屋を出て、セルエリスは一息(ひといき)つく。

 豪勢(ごうせい)椅子(いす)に腰掛けて、一枚の写真を手に取る。


「……あんなに立派(りっぱ)になって……でも、(さぞ)かし大変でしょう?でも、ごめんなさいね……私は、君の邪魔(じゃま)しかできない……」


 その写真には、桃色の髪の少女と二人の茶髪の兄妹が写っていた。

 後ろには二人の兄妹の両親らしき人物がいて、家族が仲睦(なかむつ)まじく写っている。


「エドガー……リエレーネ。エドワードさん……マリスさん……」


 十年前。宿屋【福音のマリス】で()った写真を、セルエリスはそっと()でる、(なつ)かしいものを()でる様に。


「……時が来れば、(おの)ずと【召喚師】は時代に飲まれる……おじいさまはそう言った。それまでは、【召喚師】を表に出してはならない(・・・・・・・・・・)……そのための、“不遇召喚師”なのだから……」


 セルエリスが窓から見下ろすのは、下町の小さな景色(けしき)

 その一部。本当に小さく、点のような家屋(かおく)だった。




 あの日、混乱(こんらん)の中で“悪魔”から逃げ出した人物の中に、エドガーの妹リエレーネ達もいた。

 実は、兄を助けようと舞台(ぶたい)に乗り込もうとしたが、避難誘導(ひなんゆうどう)を開始していた仲間三人に止められ、そのまま学校外に連れ出された。


 そしてそのまま避難所(ひなんじょ)(いの)り続けて、戦いが終わったと聞こえた後、リエレーネは真っ先に兄のもとに向かったが。

 そこには兄も、赤髪のおっぱいさんも、黒髪ツインズもいなかった。


 残っていたのは、エミリアとアルベール。

 そして()け付けた【聖騎士】の女性だった。


 兄は死んでしまったと思った。

 舞台(ぶたい)の上で戦っていること自体、夢ではないかと何度も(ほほ)を叩いたくらいなのに。

 まさかあの兄が“悪魔”と戦った?そんなバカな。


 残っていたエミリアに説明を求めたところ「あ~、えっと~……エドは……その……に、逃げた?」と言われて、「あ~やっぱりな」と、やはり兄は兄だと自分の中で納得(なっとく)した。

 それでも、無事で本当に良かった。心からそう思った。

 しばらくはまた忙しくなる、また今度、家に帰ったら(くわ)しく問いたださないと。

 そうして、兄の女性関係を洗っておこうと考えた、リエレーネ・レオマリスであった。





 【王都リドチュア】から離れた近郊(きんこう)の森で、野宿(のじゅく)をする一行(いっこう)

 西国レダニエスの皇女(こうじょ)エリウスは、(すで)に十日以上この場所で野宿(のじゅく)をしていた。


「――今日も来ませんね……連絡(れんらく)


 エリウスの新たな部下、リューネはぼそりと(つぶや)く。


「……そうね」


「――ちっ!!……やっぱり、やられちまったんだって、ユングの奴はよぉ」


 ジャーキーを(かじ)りながら、レディルが言う。

 エリウスは無言のままだ。

 数日前、ユングに持たせていた“魔道具”【声凛(せいりん)のイヤリング】の反応が無くなった。

 それはつまり、“魔道具”を壊されたか、登録者であるユング・シャ-ビンが死んだ、という事だった。


「死んだ者の事をとやかく言っても仕方ありますまい皇女(こうじょ)……迅速(じんそく)に国に帰らなければ……兄上殿は黙っていまいのでは?」


 ここで待機して十日、【王都リドチュア】から出てからは二十日以上だ。

 帝国皇女(こうじょ)としても、潜入していた事をある人物(・・・・)に報告するにしても、やはり早く帰らなければならない。


「……そう、ですわね……」


 【月破卿(げっぱきょう)】レイブンの言葉に返事をしつつ、馬車窓(ばしゃまど)から外を(なが)めていると。

 一台の馬車が近づいてくることが確認できた。


「――!!」


「おい!エリウスっ!」


 返事をする前に、エリウスは飛び出していた。




 小さな馬車の御者(ぎょしゃ)をしていたのは、カルスト・レヴァンシーク。

 自分がユング・シャ-ビンと合流しろと(めい)じた部下だ。


「――カルスト!」


「エリウス……いえ、殿下(でんか)……」


 カルストは、馬車から降りて早々、エリウスに(こうべ)()れようとするが。


「そのままで構わないわ、報告を……」


「――はっ!……()ずは――ユング・シャ-ビンですが……不徳(ふとく)ながら、合流は(かな)いませんでした……」


 やはりそうかと、無念な事に、ユング・シャ-ビンは死んだ可能性が高い。


「ですが……」


 カルストは、馬車の扉を開ける。

 そこには、少年の姿があった。


「――デュ……デュード!!」


「あっ、おねぇちゃん!」


 リューグネルト・ジャルバンの弟、デュード・ジャルバンだ。

 リューネは、涙を流して弟を()()める。


「……よかったわ……ご苦労様、カルスト。帰りの道中は休みなさい」


「いえ、もったいないお言葉です……――ユングの事は……」


「いいのよ……軍人(ぐんじん)だもの、死は覚悟していたでしょう……」


 エリウスは、ゆっくりと馬車に乗り込む。

 ユングの死を悲しんでいる(ひま)など無かった。

 そそてその悲しさを(おもて)に出すこともできない。皇女(こうじょ)として、してはならない。

 レイブン・スターグラフ・ヴァンガードの、自分を値踏(ねぶ)みする視線(しせん)を受けながら、帝国一行は帰路(きろ)に急ぐ。

 【レダニエス帝国】――いや、【魔導帝国レダニエス】へ。


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