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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 3章《近未来の翼》
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117話【禁呪の緑石】

多少過激な言動が含まれております。



禁呪の緑石(カース・エメラルド)


 身体をバラバラにさせたセイドリック・シュダイハは、死を(むか)えたことで変貌(へんぼう)させた姿を元に戻した。だが、その命は戻らない。


 エドガーの新たな(ちから)の前に絶命(ぜつめい)したセイドリックの遺体(いたい)は、もう完全に肉塊状態(にくかいじょうたい)だった。

 その肉の塊は分解され、ひたひたと大理石を()らしていた。


「……」


 無言のまま、悲痛(ひつう)面持(おもも)ちでその遺体(いたい)を見つめるエドガーを、上空で意識を取り戻したエミリアは見下(みお)ろす。


「……エ……エド……」


 エドガーに人を――殺させてしまった。

 エミリアの心中(しんちゅう)は、自分の結婚や人生の事など、最早(もはや)関係なかった。

 最愛(さいあい)の人に、人を殺させてしまったと言う罪悪感(ざいあくかん)と自身の無力さ。

 この二つが、同時にのしかかってくるようだった。


「――ノー。彼は最善(さいぜん)()くしたと結論(けつろん)。それに……対象(たいしょう)セイドリックは、(すで)に人間ではなかったと推察(すいさつ)出来ます……エミリア・ロヴァルトが気に()む事ではありません」


 メルティナは言う。

 しかしメルティナ自身、人を殺したことはない。

 メルティナは【惑星外生命体(グリューン)】と戦う為に作り出された兵器、人工知能だ。

 得体(えたい)の知れないモンスターは何百、何千と殺してきたが、殺人はしていない。


 そんなメルティナが、エドガーの気持ちが分かるのかと言われれば、答えはノー。

 【機動兵装ランデルング】の搭載(とうさい)インターフェースであったメルティナには、(はか)りえぬ感情(かんじょう)だ。

 それでも、殺人の(とが)を理解する事が出来るのかと言えば、答えはイエスになる。


 何度も、何度も()かれた禁忌(きんき)の説明。

 人間だったら、耳に胼胝(タコ)ができると言い出すくらい、メルティナは学習している。

 マスター――ティーナ・アヴルスベイブによって。


「エドガー・レオマリスの心境(しんきょう)は、彼にしか分かりえぬでしょう……それでも、殺す(・・)という事がどれだけの(とが)なのかは、当機(とうき)も学習しているつもりです」


「メルティナさん……」


 ()きかかえられたまま、エミリアはメルティナを見上げる。

 どこか物憂(ものう)げで、だが何も感じていないような、無機質(むきしつ)表情(かお)


「そろそろ降りましょう……戦いも終局(しゅうきょく)で――!……いえ、まだのようです……」


 メルティナの視線(しせん)の先には、学校の外壁に()もれた“悪魔”バフォメット。

 エドガーがセイドリックと戦い、ローザがアルベールを援護している間、瓦礫(がれき)()もれていたバフォメットは、ようやくそこから抜け出すと咆哮(ほうこう)を上げる。


「――ルオォォォォォォン!!」


「……!!」


 咆哮(ほうこう)にハッとし、“悪魔”を見るエドガー。

 ナルザを一撃で昏倒(こんとう)させたローザも、彼をアルベール達に預けてエドガーに合流する。


「エドガー!よくや――いえ……まだ終わっていないわよっ……」


 一度は()めようとしたのだろうか。

 ローザは、頭を()でようとした手を引っ込めた。


「――分かってる。ありがとう、ローザ……」


 今この場にいるメンバーの中で、唯一(ゆいいつ)エドガーの心境(しんきょう)を知り()る者。

 ロザリーム・シャル・ブラストリア。


 ローザは、エドガーを()めるも(たた)えるもしない。

 初めて人を(あや)めた心境(しんきょう)を、胸に(きざ)んでほしい、そう思ったのだ。自身と同じ様に。


「……倒そう、あの“悪魔”を」


 エドガーはローザを一度だけ向き、“悪魔”を見据(みす)える。


「ええ、そうね……」


 二人が向き合うのは、主人を()くした“悪魔”バフォメット―





 瓦礫(がれき)を押しのけるのに時間がかかったのは、《石》の所有者(しょゆうしゃ)が何度もダメージを受け、そして死んだからだ。

 “悪魔”と化したフェルドス・コグモフの意識(いしき)は、セイドリックが死んだ事でほんの少しだけ覚醒(かくせい)する。


 しかし、変貌(へんぼう)(おさ)まった訳ではなく、声を出すこともできない。

 セイドリックだったものを見ても、涙すら流すことは出来ず、ただ()える事しかできなかった。


 黒山羊(くろやぎ)の目で、セイドリックだったはずの肉塊(にくかい)視界(しかい)に入れる。

 目に(うつ)光景(こうけい)は、“悪魔”となった自分が言うのもおかしいが、悲惨(ひさん)なものだった。

 殺したのは、【召喚師】エドガー・レオマリス。それだけは確実だった。

 だから、フェルドス・コグモフ――バフォメットは(さけ)ぶ。


「ルブオォォォォォォ!!」


 その咆哮(ほうこう)は、(あるじ)()くした悲しみか。

 はたまた怒りの威嚇(いかく)か。

 (すで)にそれを考える思考能力は(いちじる)しく低下しており“本能”と呼べるものでエドガーを(にら)む。


 自分の対戦相手であり、恐ろしく強く感じた“不遇”職業――【召喚師】。

 バフォメットは、それを殺すと決めた。絶対に生かしてはおかないと。


「――ブルォォォォォ!!ルォォォッ!!」


「……来るわよエドガー!散会(さんかい)してっ!」


「分かった!」


 ローザとエドガーは、二人離れてバフォメットを挟撃(きょうげき)しようと行動している。

 だが、バフォメットにはエドガーしか見えていない。

 ローザに目もくれず、バフォメットは一心不乱(いっしんふらん)にエドガーを追う。


「――ちっ!エドガーの方に……!!」


 先程までは自分と戦っていた経緯(けいい)もあって、ローザは自分を狙ってくるものだと思っていた。

 感が(はず)れて、ローザは移動していた脚に急ブレーキをかけて止まる。

 ブーツがキィィィ!と音を鳴らして、ブレーキ(こん)を残す。


「――来るならこいっ!」


 エドガーは、新たに()た【片手半両刃剣バスタードツインセイバー】を二刀流に変形させて構える。


<――コロシテヤルゾッ!――>


「――なっ!何だっ――声!?」


 不意(ふい)に聞こえて来た殺意(さつい)(こも)った心声(しんせい)に、エドガーは一瞬(いっしゅん)戸惑(とまど)うも、迫るバフォメットの拳を二刀流で防ぐ。

 拳を金属(きんぞく)で防いだはずなのに――ガキィィィン!と音を鳴らすエドガーの剣。


「!!」


 バフォメットの右腕に(まと)わりつく溶解液(ようかいえき)は、剣と衝突(しょうとつ)したことで(はじ)け、エドガーの身体や顔にも降り(そそ)いだ。


「――ぐっ!――ああぁぁぁっ!!」


 皮膚(ひふ)()けていく感覚(かんかく)にダメージを受けながらも、(さけ)びながらもその剣を離さない。離してしまえば、その拳を直撃(ちょくげき)させてしまう。

 ()を決して、エドガー後ろに()ぶ。

 バフォメットの大きな拳は、当然力の入らなくなったエドガーを(なん)なく()き飛ばした。


 ――ガッシャーーーン!!と、エドガーは誰もいなくなった観客席(かんきゃくせき)にぶち込まれる。


「……ぅ……ぐ、ってぇぇ……」


 仲間達の声が聞こえる。ローザも(さけ)んでいる、具合の悪いサクラサクヤもだ。

 アルベールとメイリンですら、危険を(かえり)みないで(さけ)んでくれているみたいだ。


 そして――


「――エドぉぉぉ!!」


 上空から降ってくる(・・・・・)ような声。


「……え?」


 聞こえた大事な幼馴染、エミリアの声に、エドガーは辺りを(うかが)う。

 しかしいない。すると、それが見えていたらしいサクヤが(さけ)ぶ。


「――あ、主殿(あるじどの)!上!上!う、うぅぅっぷ!!」


 (さけ)びながら、またリバースしてしまいそうになって口を押える。

 そして最早当然(もはやとうぜん)の様に、隣の人物にも移る。


「あ、あんたねぇ……うぷっ……!」


 しかし、二人共もう何も出ないようだった。


「あ――……う、上!?」


 一瞬(いっしゅん)ジト目で二人を見てしまったエドガーも、()ぐに気を取り直して上空を見上げる。

 ――ギリギリだった。


「――う、うわっ!!――エミリアっ!?……っっとぉ!」


 ガシッと、エドガーはエミリアを()きかかえた。

 しかし、上空から降ってきた人物を何もなしに受け止められるほど、準備(じゅんび)も体力も残っていなかったエドガーは、エミリアを(かか)えてそのまま倒れる。


「うっ――ぐっ!!」

「――きゃあっ!」


 ザクッ!と何かが背中に刺さった気がしたが、今は気にしている場合ではない。


「エド!エド!!大丈夫!?」


「エ、エミリア……良かった、傷は大丈夫みたいだね……」


「う、うん!エド……は?」


 むしろ今が痛いとは言えず。


「へ、平気だよ。さ、“悪魔”が来る……エミリアは――」


 エドガーはバフォメットを見る。

 どうやらローザがバフォメットを引き付けてくれていたようだが、力を増したバフォメットの溶解液(ようかいえき)に苦戦している。服がボロボロだ。


「ううん、私も戦う!……戦わなきゃっ!」


 そう言って、エミリアは先程自分がやられた場所に向かう。

 落ちている槍を(ひろ)う為に。


「――ちょっ!エミリア……い、いや……言っても無駄か……」


 言っても駄目(だめ)なら、守るしかない。上空にはメルティナもいる、エミリアを守ってくれると言う安心材料になるはずだ。

 だから今度は、今度こそは、この(ちから)で。





「――コイツっ……さっきよりも速い!それに……見境(みさかい)なしに溶解液(ようかいえき)を!!」


 両手に持った大剣で、溶解液(ようかいえき)を防ぎつつ反撃(はんげき)をするローザだったが、攻め手に()をしていた。

 バフォメットは、確実(かくじつ)に強化されている。

 本来、《石》の所有者(しょゆうしゃ)が死んだのだから力は弱まるはずだが、何故(なぜ)そうなっているのか、ローザにも見当(けんとう)がつかなかった。


「ローザ!!ごめん……カバーありがとう!」


 エドガーが合流する。

 しかしバフォメットはそれを見て「ルオォォ!」と()える。


「――やっぱり、僕を(うら)んでるんだね……」


(うら)んで!?――そうか……(にえ)になった男の、潜在意識(せんざいいしき)……!」


 バフォメットの(もと)となったフェルドス・コグモフの意識(いしき)、それがエドガーを(ねら)う理由だ。


「……(あるじ)をエドガーに倒されたから、怒っていると言う訳ね」


 (けっ)して殺した――とは言わずに、遠回(とおまわ)すローザ。


「――ありがとう……ローザ」


 横目で見るエドガーは、何かいつもと違う風に見えた。

 やはり、進んでしまった(・・・・・・・)のだろうか。


「当然でしょう……私は、キミと契約したのだから」


 契約の異世界人、ローザはそれを多大(ただい)に理解していた。

 理解していてもグロッキーな二人もいるが。


「――それは、当機(とうき)(ふく)まれているのですか?」


「!?」

「メルティナ……」


 もう一人の異世界人、メルティナが上空からゆっくりと降りてくる。

 背中と脚のブースターを(しず)めながら、エドガーの前に降り立った。


「メルティナ……さん」


「メルティナで構いません……もしくはメルと」


 上空からエミリアが()ってきたという事で、メルティナは何をしているのかと思っていたが。

 どうやら手に持つソレ(・・)を準備していたようだ。


「――戦ってくれるようね、メルティナ」


 ローザが言う。コクリと(うなず)くメルティナは、バフォメットを黙視(もくし)すると、両手に持つ【エリミネートライフル】を連射(れんしゃ)する。

 ――いきなりだ。


「――ルオッ!ル!ルオォォ!」


 三発着弾(ちゃくだん)

 残りの七発は黒い翼で(ふせ)がれた。


「コンプリート。全ての情報を取得(しゅとく)しました」


「……い、いきなり攻撃する?」


 エドガーの疑問(ぎもん)に、メルティナは首を(かし)げる。


「あのモンスターは、完全なる敵勢力(てきせいりょく)認識(にんしき)警告(けいこく)の必要は無いと判断しましたが……」


「そうね。確かにその通りだわ」


 メルティナの意見に、ローザが(はげ)しく同意(どうい)する。

 そして、コンプリートとは?


「……モンスター……個体名(こたいめい)バフォメット。皮膚(ひふ)硬度(こうど)は【アーモ鉱石(こうせき)】程度、背の翼のみ、【エリミネートライフル】を防いだことから、【ルソルメタル】並みの硬度(こうど)だと断定(だんてい)。速度は【ランデルング】の足元にも(およ)びませんが、右腕部(わんぶ)から分泌(ぶんぴつ)される溶解液(ようかいえき)は、当機(とうき)の装備も()かす恐れがあります」


 いきなりペラペラ話し出したメルティナ。

 しかし、エドガーも気付く。


「……それって、もしかして“悪魔”の情報(じょうほう)……?」


 分からない用語(ようご)が多すぎて、正直(あま)り入ってこなかったが。


「そうみたいね……分からない単語(たんご)が多くてちょっと混乱(こんらん)しそうだけれど」


 ローザにも分からないらしい。

 どうやら、異世界人同士であろうとも、全ての言葉が変換(へんかん)され理解できるようではないらしい。


「――ルオォォ!ルオォォ!!」


「あら、怒っているわよ?さて、エドガーにかしら、それとも貴女(メルティナ)にかしら?」


奇声(きせい)の度合いから推測(すいそく)するに、エドガー・レオマリスの可能性が高いと思われます」


 エドガーは「だ、だよね」と言うが、攻撃したのはメルティナなのに、と内心思った事だろう。

 そんなエドガー達を(にら)みつつ、バフォメットは息を(あら)くして跳躍(ちょうやく)する。


「――飛んだ!?……いや、()んだのかっ!」

「このっ」

攻撃開始(アタック)!」


 ローザの炎弾、メルティナの銃撃(じゅうげき)をギリギリで回避すると、バフォメットは着地する。

 その場所は、槍を取りに向かったエミリアの頭上を()えた先。

 ――セイドリックの遺体(いたい)()らばる場所だった。


「な!なんであそこにぃっ!?」


 エミリアは、急いでエドガー達のもとに合流する。しかし、そんなに急がなくても大丈夫だった。何故(なぜ)ならば。


「……くっ」

「……」

「……うぅっ」

「……食べているわね……(セイドリック)遺体(いたい)を……」


 サクラとメイリンは見ない方がいい。絶対に。と、それを理解しているのか、アルベールがメイリンを、サクヤがサクラを目隠ししていた。


「なんで……セイドリックを」


 (あるじ)だった者の亡骸(なきがら)を、その()に落とし込むバフォメット。

 「ルオォォ!」と泣き(さけ)びながら、全てを食べきった。


「泣いてるの……?」


「そう、だね……そう見える」


 バフォメットの、フェルドス・コグモフの意志(いし)だろうか。

 “悪魔”は泣いていた。


「ルブオォォォォォォ!!」


 ズシン――と、一際(ひときわ)大きく足音が鳴る。

 ズシン――ズシン――と、一歩一歩エドガー達に近づくバフォメットは、雰囲気(ふんいき)をガラリと変える。


 視線(しせん)は、エミリアとエドガーを交互(こうご)に見ているように感じられた。

 しかし、エドガーには殺意(さつい)を、エミリアには何か別の物を与えているのか、バフォメットの空気は別物だった。


「――《石》の力が……統合(とうごう)されました」


「ちっ……やはり、そういうことね……」


 メルティナの言う事に、ローザだけが理解できた。

 《石》の本体はバフォメットの体内だ、しかし、《石》の本来の所有者(しょゆうしゃ)はセイドリックだ。


「つまり……所有権(しょゆうけん)が、全て“悪魔”になった……ってこと?」


 エドガーとエミリアは、嫌な予感(よかん)をさせながらローザを見る。

 その結果。


「……そう言っても構わないわね……残念ながら……」


 想像はつく。強くなるのだ、“悪魔”が。

 本来の“悪魔”の《石》の力を()た、完全なるバフォメットとなって。


「――来る!!」


「ルゴゥ!!」


 バフォメットの飛び出しは速かった。

 エドガー達の攻撃の間をすり抜け、ローザを左腕で殴る。


「――ルゴォォォ!!」


「くっ……」


 ガギン!と、防ぎながらも()き飛ばされるローザ。

 二本の大剣で防いだが、パワーアップした威力(いりょく)に押されて背中から落ちた。


「……このっ――なっ!?」


 ローザは、地面にくっついていた。

 文字通り、剣ごとバフォメットの左腕(・・)(まと)われた液体(えきたい)で。


「“悪魔”の伝承(でんしょう)通りなら……左腕は凝固液(ぎょうこえき)です。右腕で溶かし……左腕で固める、それが本来の能力の筈です」


 銀の翼を広げ(ちゅう)に浮くメルティナの言葉に、ローザは()やむ。


「――ぐ、油断した……!」


 知識としては知っていたはずなのに、右腕ばかりに気を取られていた。

 ()ぐに炎で()こうとするが、残り魔力が少なく、なかなかに上手くいかない。


「ローザ!待ってて!――うわっ!!あぶっ……」


 エミリアが、槍の炎で解除(かいじょ)の協力しようと移動するが、バフォメットはエミリアの進行を(はば)むように溶解液(ようかいえき)を飛ばす。


「こっちだ――“悪魔”ぁ!」


 跳躍(ちょうやく)したエドガーが、大剣状態の剣でバフォメットの背中を斬りつけようとする。だが、バフォメットは左腕で防いだ。


「うおぉぉっ!!」


 剣を合体させて大剣にし、威力重視(いりょくじゅうし)で、重い一撃だ。

 剣の熱は、凝固液(ぎょうこえき)蒸発(じょうはつ)させるが、魔力を消費し続けるエドガーの魔力も()きようとしていた。


「くそっ……剣が!!」


 凝固液(ぎょうこえき)(まと)わりつかれた【片手半両刃剣バスタードツインセイバー】の連結(れんけつ)部分が固まっていく。

 離れるエドガーに、バフォメットは追撃したが、上空から援護される銃撃(じゅうげき)のおかげで、エドガーはバフォメットから離れる事に成功した。


「――すみません!メルティナ」


謝罪(しゃざい)不要(ふよう)です……マス――!?」


 ハッとした。今――何を言おうとした?

 自分は今、この少年(エドガー)をマスターと呼ぼうとした?


「そんな……当機(とうき)のマスターは――ティーナ・アヴルスベイブだけです!」


 メルティナは加速し、バフォメットを攻撃する。

 上空から【エリミネートライフル】を乱射(らんしゃ)し、バフォメットに迫ると【クリエイションユニット】から作り出した【ミサイルポッド】を放つ。

 (ちな)みに、【クリエイションユニット】は手足四つ分の装置(そうち)連結(れんけつ)して大きく一つになっている。


「すごっ!」


 ミサイルの爆発に、バフォメットは「ゴォォォ!」と(さけ)ぶ。

 (けむり)が巻き()る中、メルティナは上空に滞空(たいくう)すると(かぶり)()るう。

 (みずか)らの言葉を、否定(ひてい)するように。


「違う……違います……当機(とうき)は……ワタシは……!――なっ!!」


 (けむり)の中から、()びてくる物。

 無防備だったメルティナはそれに巻きつかれる。

 それは、バフォメットの――腕だった。


「――の、伸びたぁ!?」

「くそっ、メルティナ!」


 エミリアは(おどろ)いていた。

 エドガーも、体勢を(ととの)えてメルティナを心配するが。


「――し、心配はありません……これくらい、当機(とうき)の……パワーならば……」


 メルティナは、全身近くに巻きつかれてなお、余裕(よゆう)を見せる。

 だがそれは、《石》だけは例外(れいがい)だった。


「な……何故(なぜ)……パワーが、ぐ、ああ……ああああっ!!」


 メキメキと音を鳴らすメルティナの装甲(そうこう)と、焼ける人工皮膚(ひふ)

 巻きついてきた腕は、右腕だ。

 溶解液(ようかいえき)が、メルティナの全身を()かし始めていたのだ。


「――メルっ!!」

「メルティナ!」

「――(ふせ)ぎなさい!――メルティナァァァ!!」


 エミリアの協力でようやく凝固液(ぎょうこえき)から(だっ)したローザは、メルティナを(しば)り付けるバフォメットの腕に炎を()つ。


「【炎熱爆発(エクスプロード)】!!」


 バフォメットの右腕付近、メルティナの目の前に作られた火種は、キィィィィン――と音をさせて、一瞬(いっしゅん)()ぜた。


 怒濤(どとう)の爆発。

 瞬間的(しゅんかんてき)に大爆発を起こしたローザの一撃は、バフォメットの腕を()き飛ばす。

 物凄い爆発だったが、標的(うで)が上空にあったことが(さいわ)いして、建造物に被害(ひがい)はない。


 だが、バフォメットの右腕から解放(かいほう)されたメルティナは落ちる。

 ヒュルヒュルと不軌道(ふきどう)(えが)き、(けむり)を上げて落下してきている。

 どうやら、ローザの言葉通りに直撃(ちょくげき)()けたらしいが、装甲やユニット、翼が無くなっていて、それを盾にして防いだのだろう。


「……ぐっ……!」

(……魔力が……キツイっ)


「ローザ!?」


「私はいいからっ……行きなさいっ!」


 魔力不足で倒れるローザを心配するエドガーだが、ローザが(さけ)んだことで目標(もくひょう)を変える。


「……くっ――分かった!!」

「――メル!!」


 エドガーとエミリアは()け出す。

 落下地点へ、一直線に。


 受け止めたのは、早く着いたエミリア。

 しかし、その(いきお)いと重さは、エミリアが受け止められない衝撃(しょうげき)だった。


「ぐっ……受け止められな――」


 後ろは、バフォメットが突っ込んだ騎士学校の外壁。

 ――瓦礫(がれき)の山だ。

 ()ん張って()えきろうとするエミリアだが、足元の小さな瓦礫(がれき)がそれを邪魔(じゃま)した。


「……だめ、ぶつか――」


 ドシャッ――!!と、瓦礫(がれき)に突撃するエミリアとメルティナ。


「……。……え?――エド!?」


 ぶつかったのは、二人を受け止めたエドガーだった。

 追い付き、後ろに回って二人を(かば)ったエドガーは、瓦礫(がれき)を背に受けて止まる。

 その背は、流血(りゅうけつ)で真っ赤になっていた。


「……どう、して……貴方(あなた)が……」


 メルティナは、不可解(ふかかい)なエドガーの行動に戸惑(とまど)った。

 だが、そんなメルティナに、傷を負ったエドガーは言う。


「……決まってるじゃないか……君が、僕達の仲間で……エミリアの……友達(・・)、だか……ら」


 その一言で、メルティナの意識は覚醒(かくせい)する。

 (かせ)になっていた悩みが()っ切れ、マスターの言葉と、エミリアの言葉が、記憶領内(きおくりょうない)でリフレインする。


『――友達になろうよ――』

『なりましょう……友達に……』


 呼び起される、マスターの記憶。

 この世界に来る直前、自分が自爆する直前に聞いた、ティーナ・アヴルスベイブの言葉。

 ――その最後の言葉を。


『ねぇメル。私は、生まれ変わっても(・・・・・・・)、きっとあなたの(そば)にいるわ……(たと)え、私が私でなくなっても……きっと隣にいるから――友達、だものね』


「――あ……ああ、ああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「メ、メル……!?」


 頭を(かか)えるメルティナのメモリーから消えていく、ティーナ・アヴルスベイブ。

 メルティナの機械的思考(しこう)は、停止していたのだ。

 マスターと言う(かせ)と、友達と言う(のろ)いで。


 当時、メルティナは理解できていなかった。

 優れた《AI》の知能でも、分からなかった。

 理解していないまま、友達と言う言葉だけを(とら)えていた。


 人工知能【M・E・L(メル)】の本体(・・)は、その《石》にあった。


 【禁呪の緑石(カース・エメラルド)

 惑星【リヴァシウス】で発掘(はっくつ)された、奇跡(きせき)の《石》。

 たったの一つだけ、完全なる原石のまま採掘(さいくつ)された物が【M・E・L(メル)】に、このメルティナの専用回路(せんようかいろ)として使われた。


 その《石》は、メルティナの“召喚”の触媒(しょくばい)に使われたものだ。

 しかしその《石》の出自(しゅつじ)は、エドガーも知らないものだった。

 だけどもう、そんな事は関係無かった。


 理解した。友達と言う言葉を。存在(そんざい)を。価値(かち)を。

 メルティナは上空を見上げて、止まってしまっていた思考回路(しこうかいろ)をリスタートさせる。

 それは、人工知能【M・E・L(メル)】としてではなく。

 異世界人――メルティナ・アヴルスベイブとして。


「――ワタシ(・・・)が守ります――友達(エミリア)も……マスター(エドガー)も……!!」


 ()り返り、見据(みす)えるのは。

 ――隻腕(せきわん)の“悪魔”バフォメットだ。


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