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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 3章《近未来の翼》
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116話【想いは刃となって】



(おも)いは(やいば)となって◇


 熱いくらいの痛みと、一瞬(いっしゅん)の恐怖。

 その二つに戸惑(とまど)い、ほんの少しよろめいただけだった。

 (まばた)きするよりも短い、そんな事だけで、命取りになった。


 片目を閉じ、視界(しかい)(うつ)らない(セイドリック)何処(どこ)にいるのか。

 ローザの視線(しせん)(さけ)びで、それが何処(どこ)にいるか気づいた。

 でも、それは遅かった――


「……ぇ……?」


「――がちゅっ……ぐちゅっ……――えみぃりゅわぁぁぁぁ!!」


 (あふ)れ出る(おのれ)の血と、激痛(げきつう)

 (ひしゃ)げた顔でエミリアを見上げる――セイドリックの顔。


「――エミリアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 槍で受けた傷口に()みつかれたと気づいたのは。

 エドガーが悲痛(ひつう)(さけ)びをあげた時だった。

 ぐらつく意識(いしき)と、(わず)かな抵抗心(ていこうしん)


「こ……の……ぉ……」


 鮮血(せんけつ)舞台(ぶたい)を赤く()め上げ、その出血は異常に多く、エミリアが意識を(たも)っている事の方が不思議(ふしぎ)なほどだった。


「――エミリアを――離しなさいっっっ!!」


 顔を怒りに(ゆが)ませるローザがセイドリックを攻撃して、解放されるかに思えたが。

 エミリアは解放されなかった。


 セイドリックは、ローザの【炎の矢(フレイムアロー)】を(すん)でで回避し、エミリアを宙に蹴飛(けと)ばした。

 ()みついた口元を離し、一瞬(いっしゅん)浮かんだエミリアの身体を、思い切り蹴り上げたのだ。


「――がっ!――」


 その、人間離れした力で。





「――エミリアぁぁっ!!くそっ!くそぉぉぉっ!!」


 エドガーがむやみやたらに火球を放つ。

 火球は、エミリアを空中に蹴りあげてバランスを(くず)していたセイドリックに直撃(ちょくげき)する。しかし。


「ギャバあぁぁあぁあああああ!!――フェルドスゥゥゥゥゥ!!」


 セイドリックは、燃え上がる身体を無視して、“悪魔”と化した部下フェルドスの名を(さけ)ぶ。

 “悪魔”バフォメットは、その言葉に(こた)えて、漆黒(しっこく)の翼を羽ばたかせる。飛べないと思っていた、その翼を。


「まさかっ!?――エミリアを!」


 ローザの直感(ちょっかん)は正しい。


「――エミリアぁぁぁ!!」


 エドガーの(さけ)びも(むな)しく、跳躍(ちょうやく)するように空へ舞ったバフォメット。

 上空では、エミリアが丁度滞空(たいくう)を終えて、落下に入る直前だった。

 意識は――無い。





 ()っすらと見えた幼馴染の顔は、泣き顔だった。

 上空に投げ飛ばされ、急激な遠心力(えんしんりょく)に意識を手放した。

 大切なはずの槍も、いつの間にか手から(こぼ)れていた。


「……ェ……エド……約束……し、たの……に……」


 約束。一緒に戦うって。一緒に倒すって。

 セイドリックを倒して、帰るって。


「そう……言えば……あの人(・・・)……とも、約束……した……ん、だっ……た」


 戦いが終わったらゆっくり話をしようと、彼女(・・)に告げていた。

 あの日、路地裏(ろじうら)で会った。

 迷子になったような、悲しい目をした、緑色の彼女と。




「――イエス。そうです……約束を守っていただくまで……死は(ゆる)されません」


 迫るバフォメットは、エミリアを噛砕(かみくだ)こうとする寸前(すんぜん)で、何かに(はじ)かれる。

 バチィィン!!――と響いたバフォメットの(きば)は根本から数本()れた。

 それこそ、何本も()れたフェルドスの剣の様に。


 瀕死(ひんし)のエミリアは、空中で誰かに()()められた。

 優しく、けれどもしっかりとした感触のある、人の身体だ。


「……メ……ル……?」


 緑の髪を空に(なび)かせ、銀の(ひとみ)でエミリアを(うつ)す。

 その人、異世界人メルティナ・アヴルスベイブを、エミリアのなけなしの意識が認識した。


「――イエス」


 (すで)(なつ)かしさを覚えるほどに。

 元の世界でのマスターである、ティーナ・アヴルスベイブに酷似(こくじ)した少女を()()め、メルティナは優しく笑ったのだった。

 




 あの日、エミリアに路地裏(ろじうら)で声を掛けたメルティナは。


『イエス……質問があります』


 暗い顔のまま、メルティナはエミリアに近づこうとするが、ハッとしてその足を止める。

 (あま)りにも存在感(そんざいかん)が似ていた。

 姿形(すがたかたち)ではない。


 その存在(そんざい)が。オーラが。

 彼女を形成(けいせい)する何かが――瓜二(うりふた)つだった。


『質問……?あ、貴女(あなた)って……新しい異世界の人……だよね?』


 エミリアは、メルティナを見据(みす)えている。

 その仕草(しぐさ)も、本当に似ていた。


『イエス。ですが質問するのは当機(とうき)です。質問に質問で返さないでください』


『――あ、ごめんなさい』


 少し怒気(どき)が込められたセリフに、エミリアは「たはは」と笑う。

 そんなエミリアは、話をするならと、重ねられた木箱に座り込んだ。

 その座り方すらも、操縦席(そうじゅうせき)に座るティーナ・アヴルスベイブに――そっくりで。


『マス……いえ、エミリア・ロヴァルト……質問を続けます』


 一瞬(いっしゅん)マスターと呼びかけたが、寸でで止まりエミリアを呼ぶ。


『何ですか?』


 メルティナは、「ティーナ・アヴルスベイブを知っているか」「エドガー・レオマリスはどんな人物か」などを質問した。

 しかし、当然(とうぜん)ティーナ・アヴルスベイブを知ってはいなかったし、勿論(もちろん)本人でもなかった。


 なにせ体格が(すで)に違う。

 ティーナは二十一歳だった。身長や体重も全然違っていた。

 どちらかと言えば、ティーナ・アヴルスベイブを()して身体を構成(こうせい)した、今のメルティナの方が似ている。


 二つ目の質問、エドガーについては、メモリーから(けむり)が出るのでは?と思うほど惚気(のろけ)られた。

 別に恋人ではないようだが、エドガーをかなり(した)っている事だけは120%(つた)わった。


収穫(しゅうかく)は無し……無駄(むだ)でしたか。ですが――本当に似て……⦆


 マスターに似た少女を見ながら、メルティナは空に飛び帰ろうとする。

 しかし、エミリアが。


『――あっ!そうだ……』


 エミリアは、ポンッと手を叩いて木箱から降りる。

 やはりその仕草(しぐさ)も、そっくりだった。


『ねぇ……メルティナさん……私達――』


 目の前が、目に見えて明るくなった。

 システムは正常で、何のエラーもない。

 ただ、このエミリアのセリフは、メルティナにかけられていた《マスター》と言う(かせ)()くには十分だった。


『――私達……友達になろうよ(・・・・・・・)――』


 その後、メルティナは何も言わず、逃げる様にエミリアの前から姿を消した。

 エミリアは()(ぎわ)に。


『ごたごたが片付いたら、ゆっくり話そうね~!――約束だよ!!約束したからね~!』


 メルティナに掛けられたその言葉は、自動的に記録されていた音声ファイルを再生させる。

 それは、人工知能【M・E・L(メル)】が、初めて声を掛けられた時の言葉だった。


『戦争の為に(つく)られたあなただけれど……私とあなたは、友達になれる気がするの……ううん――なりましょう……友達に……』


『――マスター……マスター……マスター……!!』


 迷子になった子供のように、(マスター)を探すメルティナは、そのまま翌日を(むか)え。

 今朝ローザに受けた【心通話】の内容を忠実(ちゅうじつ)に守り、戦いの間、ずっと上空でエドガーとエミリアの観察(かんさつ)を行っていたのだった。





 上空でエミリアを(かか)えるメルティナを確認して、エドガーとローザは安堵(あんど)する。

 それと同時に、高く舞い上がっていたバフォメットは――ドスゥゥン!!と墜落(ついらく)してきた。


「メ、メルティナさん……どうして彼女が……」


「空で待機とは言ったけれど……まさかエミリアを助けるなんて」


 ローザも予期(よき)していなかったようなメルティナの行動。


「エドガー・レオマリス。聞こえていますか?」


 上空にいるとは思えないメルティナの大音量の声に、キーーーンと耳鳴りを起こす。

 メルティナは内蔵機器(ないぞうきき)であるスピーカーから声を出していた。

 エドガーは驚きつつもエミリアの安否(あんぴ)をまず確認する。


「――!?メルティナさん!ありがとう!エミリアはっ!?」


「大丈夫です。外傷はありますが……【メディカルキット】で(いや)します」


 エドガーは【メディカルキット】が分からなかったが、メルティナが(いや)すと言ってくれたことで、治療(ちりょう)してくれたんだと分かった。


「ありがとうございます!メルティナさん!出来れば……そのままエミリアと逃げ――っとぉ!!」


「ーーギャバ、ギャハハハ!【ショウカンシ】!!ギャハハハ!」


「……セ、セイドリック……なのか?」


 バフォメットが落ちて(けむり)舞う中から現れたのは、既に異形(いぎょう)と化したセイドリックだった。

 口元をエミリアの血で()らすセイドリックは、エドガーを攻撃してきて、会話が遮断(しゃだん)される。

 しかし、メルティナもエドガーの言いたいことを理解していた。

 大音量のスピーカーから、エドガーに向けて返事をする。


「……ノー。約束を果たすため……その依頼(オーダー)は聞けません」


「そ、そんな……!」


「――ギャバアアアア【ショウカンシ】ィィィィ!!」


「クッソぉ!なんなんだよ!いきなり!」


 セイドリックの標的(ひょうてき)はエドガーに変わったのか、執拗(しつよう)にエドガーを攻撃し始める。

 一方で、メルティナから叩き落されたバフォメットは、黒い翼を振動(しんどう)させて再飛翔(さいひしょう)しようとする――しかし。


「――させないわよっ!【炎で覆う柱(ブレイズ・ピラー)】!!」


 前回【大骨蜥蜴スカル・タイラント・リザード】に使用した時とは違う、自身を守る炎ではなかった。

 炎柱(えんちゅう)は、バフォメットの足元から発生して、その全身を焼く。


「ルオォォォォォォ!!」


 ローザは、引火しない大理石の舞台(ぶたい)に感謝する。

 しかし、バフォメットも獲物(えもの)が上空にいることを忘れてはおらず、右腕から不思議な液体(えきたい)を出して攻撃する。


 物凄い(いきお)いで、液体(えきたい)ではなく直槍を投げたのではないかと思う(いきお)いだ。

 しかし、ローザの知識の中にもそれはあった。


「――溶解液(ようかいえき)ね!そんなものは、当たらなければ――なっ!?」


 ローザの後ろには、アルベール達がいた。

 このまま()ければ、確実に直撃する。


 何故(なぜ)そこにとは思わない。

 エドガーもローザも気付いていた、アルベールは、メイリンとサクラ、サクヤを(かば)いながら、ナルザと戦っていたのだ。


「くっ……あの傭兵(ようへい)……しぶといわねっ!」


 ローザは、バフォメットが発射した溶解液(ようかいえき)を、大剣を猛回転させて(ふせ)ぐ。

 いろんな場所に飛び()りそうだが、大剣に(まと)った炎が、それを蒸発(じょうはつ)させていた。





「【メディカルキット】使用……治療(ちりょう)完了まで60秒と予測……」


 メルティナは、【クリエイションユニット】から(つく)った【メディカルキット】をエミリアの腹部に使用した。

 傷は深いが、傷もなく治るはずだと計算(けいさん)が出ている。


「……エミリア・ロヴァルト。失礼します」


「――()っ!」


 メルティナは、エミリアの傷口から血液(けつえき)採取(さいしゅ)する。

 最後の確信を持たせる為に。


検査(けんさ)開始……データベースから、ティーナ・アヴルスベイブの遺伝子(・・・)情報をロード……終了。続いて、エミリア・ロヴァルトの遺伝子(いでんし)情報を照合(しょうごう)します……――……完了しました」


 結果は。


検査(けんさ)結果……100%……本人と一致(いっち)……しかし、両親や微細(びさい)なデータは照合率0.1%……つまり、この(むすめ)は……」


 (みちび)かれたメルティナの答えは。


「この娘、いえ……正確にはロヴァルト家の人間は……ティーナ・アヴルスベイブの――子孫(しそん)……そしてエミリアは、転生体(・・・)だと認識(にんしき)します」


 非科学的な論理(りろん)だ。

 しかし、それが一番しっくりくる。


 今日まで考え出した予測(よそく)は。

 元の世界でティーナ・アヴルスベイブを逃がした未開惑星(みかいわくせい)

 それが、この星――【リバース】だとしたら。


 しかし初め、データは一致(いっち)しなかった。

 この星は、自分のデータにはない。

 だが、何年も何百年も、何千年も()っていたら――生態系(せいたいけい)容易(ようい)に変わる。

 自分のデータに無くても、それ自体が異常な進化、あるいは異常な退化をしていれば。

 データが一致(いっち)することは無いのではと。


 ティーナ・アヴルスベイブは、未開(みかい)の星に降り立った。

 一人(さび)しく、孤独(こどく)と戦いながら、現地の人間と出逢い。

 恋に落ちて、子を産んで――何百年も何千年も()っているのでは――と。


「また……友達になれるでしょうか……ワタシ達は……」


「――なれるさ!!絶対にっ!!」


「――っ!」


 メルティナの小さな(つぶや)きに、(さけ)びに乗せて、エドガーは言葉を(つむ)ぐ。

 どうやらメルティナの考えが、エドガーの【能力複製(スキルコピー)】で、サクラの【心内把握(しんないはあく)】とメルティナの【記憶領域増大きおくりょういきぞうだい】が合わさり、今の推測(すいそく)を聞かれていたようだ。


「つ、通信傍受(つうしんぼうじゅ)とは……いただけませんね……エドガー・レオマリス」


 メルティナはエミリアを(かか)えたまま、下にいるエドガーにスピーカーで返す。

 しかし、意外と嫌悪(けんお)はない。初対面時とは大違いだ。


「――あははっ!初めてあった時、メルティナさんも僕とサクラの会話を聞いていたじゃないか、お相子(あいこ)だよっ!」


 エドガーは、異形化(いぎょうか)したセイドリックの攻撃を()け防ぎ、笑いながら話を進める。


「メルティナさん……いや、メルティナ!エミリアはきっとまた君の友達になる。それは絶対言える、約束する!……彼女はそういう子だ!」


「……」


 メルティナは、腕の中で眠るエミリアの顔を(のぞ)く。

 傷は完治し、(やぶ)かれた服からは傷の()えた白い素肌(すはだ)が見えていた。


「エドガー・レオマリス。向かって左です……まず先に、あの一団を(おそう)弓使い(アーチャー)排除(はいじょ)するべきです」


「……あの一団って……アルベール達かっ!」


 セイドリックの攻撃を防ぎつつ、エドガーはアルベールやサクヤ達を見る。

 アルベールは、盾のおかげでナルザの弓を防いではいるが、サクヤサクラが動けない為、不動の盾と化していた。


「――おらおらぁ!出て来いよ黒髪のちびっ!!この前の借りを返してやるからよぉぉ!」


「クソ……コイツ……何本矢を持ってんだよ!!」


 矢を打ち続けるナルザは、腰、肩、脚に矢筒(やづつ)を掛けていて、エドガー達が戦っている間は矢を()くすことはなさそうだった。


「あ、兄上殿……わたしが行く……ううぇ!」


「お、おいこらっ!()くなよ!?」


「ふふふ……(あん)ずるな……大分(だいぶ)よくなった方ううぅうぅえええ~~~~~~っ!」


 ああ、無念(むねん)サクヤ。キラキラ補正だ。


「……ちょっと!【にん】じゃぇぇぇぇ~~~~~っ!」


 サクラにも、(もら)いキラキラが入ってしまった。

 二人はふざけてはいない、【魔石(デビルズストーン)】の共鳴(きょうめい)反応が、それだけ三半規管(さんはんきかん)にダメージを与えているのだ。


「――お前らなぁ!!」


「だ、大丈夫!?二人共!?ほら、しっかりして……(つか)まって……」


 アルベールはツッコミを入れて、メイリンは二人の背中を(さす)っていた。

 本当にいいお姉さんだ。





「……なんだろう、サクヤ達(あっち)を見てたら、なんだか全部うまくいく気がしてきたよ……!」


「――気が合うわね!――私もよっ!!」


 エドガーに返事をするついでに、ローザが大剣でバフォメットを()き飛ばす。

 (いきお)いが凄すぎて、バフォメットは騎士学校の外壁に突っ込んだ。

 そこはエドガーの妹、リエレーネが勉強する教室だと、エドガーは大分後(だいぶあと)に知ることになる。


「……まずは、あの傭兵(ようへい)ね……私が行くわ。その後は“悪魔”を叩くから、エドガーはあいつを……」


 エドガーに、(まか)せてもいいと思った。

 ローザは素早く動き出すと、エドガーが返事をする前にナルザのもとへ向かっていた。


「……任せて。ローザ」


 ローザの言葉を背に受け、エドガーはセイドリックに向けて剣を(かま)える。


「ギャバババァァ……【ショウカンシ】……エミリアァァ!!」


「……そんなになってまでエミリアを……確かに、貴方(あなた)の思いは本物だったのかもしれない――でも、それは認められない、認めてはいけない思いだ!ここで終わらせる……その(ゆが)んだ執着心(しゅうちゃくしん)の向かう先は――地獄(じごく)だっ!!」


 エドガーが(かま)える赤い剣は、(おも)いを(まと)うように形を変えていく。

 赤、白、黒、緑と、四色の光を放ちながら、ドンドン形を変え大きさを変えて、エドガーの(おも)いを形にする。

 それは、ローザの使うような長剣でも、大剣でもない。


 【片手半剣(バスタードソード)】。

 片手でも両手でも(あつか)えるその剣は、片刃の剣。

 しかし特徴的(とくちょうてき)なのは、()の側にも同じ剣がついているという事だ。

 つまりは両刃剣(りょうじんけん)

 【片手半両刃剣バスタードツインセイバー】だった。

 【大骨蜥蜴スカル・タイラント・リザード】との戦いで、一時的に強化された時の剣とはまるで違う、完全に手に馴染んだ剣だ。


「――こ、これは……!!これなら……出来る!戦えるっ!――守れる!!」


 分離(ぶんり)、合体を可能にしたその剣を、エドガーはセイドリックに向ける。


「ギャハ、ギャハハハ……エミリア……俺は……オレは……本気で君をぉぉぉぉ!!」


 セイドリックは叫びながら突進する。

 【二股槍(スピアフォーク)】を突き出して、エドガーを――【召喚師】を打倒(だとう)しようと。


「――うおぉぉぉぉぉっ!!」


 エドガーは、大切な幼馴染を、友人を。

 新たに出来た仲間たちを。守れる力を求めていた。

 それは、(やいば)となって具現(ぐげん)した。


 そして、【召喚】にも近しいこの力で――みんなを守りたいと。

 エドガーの剣は、高熱を持ってセイドリックの槍を容易(たやす)く切断する。

 ローザの熱量(ねつりょう)は、生きている。


「はぁぁぁぁぁっ!!」


 瞬時(しゅんじ)に、()連結(れんけつ)部分を解除(かいじょ)して二刀流になると、思い切り()るい、セイドリックの両腕を斬り落とした。

 その二刀は、黒と白。サクヤとサクラの《石》の色だ。


「――ガアアアアアアアアアア!!」


 両腕を切断(せつだん)されてもなお(さけ)び、エドガーに()みつこうとセイドリックは向かってくる。


「――まだだあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 二刀の(みね)を片刃ずつ合わせると、その剣は合体して大剣となった。

 まるで機械の様に――メルティナの翼の様に(かがや)機工(きこう)()って。


 エドガーは、それをセイドリックに突き付ける。


「――ギャバ……ア……ア……アァァ……エ、ミリ……――ァ」


「……終わりだ」


 合体した大剣で(つらぬ)き、そしてもう一度分離(ぶんり)する。

 その瞬間(しゅんかん)に、セイドリックの身体は(はじ)け飛んだ。

 エミリアの名を呼び、異形化(いぎょうか)したセイドリック・シュダイハは、執着心(しゅうちゃくしん)を爆散させ、その命を()らせていった。


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