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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 3章《近未来の翼》
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115話【―バフォメット―】

誤字修正しました、報告感謝いたします。



◇―バフォメット―◇


 セイドリック・シュダイハの手の上で、紫黒色(しこくしょく)のオーラを禍々(まがまが)しく放つ不思議(ふしぎ)な《石》。

 【魔石(デビルズストーン)】。

 その脅威(きょうい)を知るエドガーは、真っ先にその《石》の危険性(きけんせい)()いた。


「――な……何でその《石》を貴方(あなた)が!!……セイドリック・シュダイハ!それはダメだ!絶対に使用してはいけないっ!」


 天に(かか)げた剣を元に戻し、場外ギリギリまでシュダイハ陣営に近づくエドガー。


「なんだぁ……【召喚師】……貴様も知っているのか、この【神の()】を……」


 セイドリックは(すで)に、《石》の光を(ひとみ)(うつ)していた。

 恐らく、《石》を用意した時点で魅了(みりょう)されていたのだ。


「セイドリック様、それは……その《石》は……一体」


 セイドリックの異常な(まなこ)に、フェルドスは(おび)えて後退(あとずさ)る。

 しかし、セイドリックはそんなフェルドス・コグモフを(ゆる)さない。


「何をしているんだフェルドス……駄目(だめ)だろう?敵に背を向けちゃあ……」


「……は……はぃ……セイドリック様……」


 セイドリックのその異様な雰囲気(ふんいき)に、嫌だとは言えずにエドガーを向くフェルドス。

 しかし、その行動を待っていたと言わんばかりに、セイドリックはニヤリと口元を(ゆが)める。その背に、丁度いい傷(・・・・・)があるではないか、と。

 それに気づき(さけ)んだのは、ローザだった。


「――エドガー!!《石》を破壊(はかい)しなさいっ!!」


「――分かってる!!」


 当然、エドガーも気付いていた。

 セイドリックがフェルドスを(にえ)とする前に、【魔石(デビルズストーン)】を破壊(はかい)しようと前に出る。


 しかし(さけ)ばれたのは「エドガー・レオマリスの場外負け!」と言う一言。

 だが、それに異議(いぎ)を申し出るほど、エドガー達【福音のマリス】は馬鹿(ばか)じゃなかった。


「――負けなら負けにすればいいっ!そんなことを言ってたら、皆死にますよ!!」


 切迫した(さけ)びも、審判(しんぱん)の老人は無視を貫き通す。

 エドガーも、こんな老人に付き合ってはいられないと、セイドリックに声を(あら)げる。


「セイドリック!その《石》を()てるんだ!」


「キヒヒっ!遅いんだよっ!――【召喚師】ぃぃぃぃっ!!」





「――行くわよっ!サクヤ、サクラ!!」


「うむ。分かっている……のだが、()が……」

「わ、分かったけど……何なのアレ……(ひたい)が、《石》が(うず)くよ……」


 《石》の共鳴(きょうめい)に、苦しそうにするサクヤとサクラ。

 サクヤは左眼を、サクラは(ひたい)を押えて苦しんでいた。


「くっ……共鳴振動(きょうめいしんどう)ね……」


 二人の異世界人は、エドガーの援護に行こうとするも、苦しさに(ひざ)をつく。


「……き、気持ち悪……」

「ぬ、うぅぅ」


 《石》の共鳴振動(きょうめいしんどう)は、眩暈(めまい)()き気を与えていた。

 一般人には何もなくても、《石》を持つ者には、相当の苦しみが与えられていた。


「――ちっ……私はともかく……初めて邪気(じゃき)を持つ《石》に干渉(かんしょう)されれば当然、か」


 ローザは、最悪一人ででもと思っていたが。


「ローザ!!」


「――エミリア!?」


 “悪魔”に、【魔石(デビルズストーン)】に恐怖感(きょうふかん)(いだ)いていたエミリアは置いていこうとしたが、エミリアは(すで)に突撃体勢になっていた。


「大丈夫!私も行くっ!もう決闘とか言ってられる状態じゃないよ!」


貴女(あなた)、平気なの!?」


「へ、平気じゃないけど……私は【聖騎士】(仮)だもの……」


 足は(ふる)え、構える槍は切っ先を(みだ)している。

 しかし、エミリアの視線(しせん)はセイドリックが持つ《石》をしっかりと見据(みす)えていた。


 そして今まさに、セイドリックがフェルドスを(にえ)にしようと、《石》を()り上げた瞬間(しゅんかん)

 動き出したのは、エドガーと同時。

 エミリアは、自分の不利(ふり)承知(しょうち)舞台(ぶたい)に上がった。


 当然、会場は騒然(そうぜん)としている。

 エドガーが敗北を宣言(せんげん)されただけでも会場が()きだっているのに、主役であるエミリアが勝手に舞台(ぶたい)に上がっていったのだ。

 それも、槍を構えて。

 見ている側からすれば、セイドリックを(みずか)ら倒しに行こうと、乱心(らんしん)したのでは?と(とら)えられる。

 しかし、不穏な空気を感じ取るものもいた。


「……ねぇ、あれ、やばくない?」

「う、うん……どうしたんだろう、エミリア先輩」

「……絶対におかしいわ!リエっ!」

「そうだね……でも、この歓声だと、私達の声なんて届かないよっ」


 騎士学生の後輩達はこの異常に気付くも、自分達の無力に(なげ)く。

 そして舞台(ぶたい)に近い者達は、その《石》との戦いに、身を投じていく。


「――はあぁぁぁぁっ!!」


「――エミリア!……ったくもう、猪娘(いのししむすめ)っ!!」


 飛び出したエミリアを追うように、ローザもその手に剣を(つく)り、舞台(ぶたい)に上がった。





「――セイドリック!!」


 エドガーが場外から出て、【魔石(デビルズストーン)】を破壊しようと剣を()るう。

 だがしかし、エドガーの赤い剣を(はじ)く――【光のカーテン】。

 その持ち主は、シュダイハ家側のもう一人の参加者。

 傭兵(ようへい)ナルザ・ベターバルだ。


「なっ……あなたはっ!!」


 この状況(じょうきょう)が分からない模様(もよう)のナルザは、逆にエドガーが馬鹿(ばか)な行動を起こしたと勘違(かんちが)いをしていた。

 しかし、随分(ずいぶん)と楽しそうに言う。


「がははっ!いいねぇ!試合なんてめんどくせぇ!このままやっちまうか!!」


 【光のカーテン】を解除(かいじょ)して、弓を構える。


「――くっ……」


 そして――フェルドスは。


「あ、ああ……セ、セイドリックさ、ま……」


 フェルドスの背、エドガーが斬った背中の傷口には、【魔石(デビルズストーン)】がめり込み、ドクンドクンと血管(けっかん)を浮き出させていた。


「……しまっ――」


 引き金になったのは何だっただろうか。

 おそらく、シュダイハ陣営にいたメイド達の悲鳴だっただろう。

 フェルドスの背中に突き刺さる瞬間(しゅんかん)を目の当たりにしたメイドの一人が、恐怖(きょうふ)悲鳴(ひめい)をあげた。


「――き、きゃあああああああああああっ!!」


 ざわざわと、エミリアの方に注目がちだった観客(かんきゃく)視線(しせん)は、自然と悲鳴(ひめい)の方へ(うつ)ろう。


「な、なんだ……?」

「シュダイハ陣営がなんかやったのか?」

「もしかして……【召喚師】?」

「【召喚師】が、対戦相手を殺したのか?」


 《石》を背中に突き立て、フェルドスは倒れている。


「――エドっ!!」

「――エドガー!」


「エミリア……ローザも……ごめん、間に合わなかった……」


 謝罪(しゃざい)するも、エドガーは後悔(こうかい)するのは後だとしっかりと理解している。

 倒れるフェルドスを見て、エドガー達は予感(よかん)する。

 あの時戦った、“悪魔”――グレムリンとの戦いを。


 そして残念なことに。

 その予感(よかん)は、的中してしまう。


「ぐ……ぐぅぅ……ぐぅぅぅぅっ!」


 フェルドスは苦しそうに(うな)る。

 しかし、それはエドガーが斬った傷の痛みではないと、流石(さすが)観客(かんきゃく)達も理解したのか、ざわめきは増し始めていた。


「――キヒヒ。さあ、フェルドス立てぇ!【召喚師】を肉塊(にくかい)に変えてしまえぇぇ!!」


 セイドリックの宣言(せんげん)に、いよいよ異変(いへん)を確信した会場の観客達。

 それと同じく、特別審判員(しんぱんいん)審査員(しんさいん)も、異変に気付いてきていた。





「ちょ……っと……審判(しんぱん)さん……」


 舞台下(ぶたいした)呆然(ぼうぜん)としていたソイドに、フラフラのサクラが声を掛ける。


「き、君は……一体何なんだこれはっ!何が試合だっ、俺はこんな事――」


「いいから……早く音声拡大“魔道具”(それ)(さけ)んで……観客(みんな)に、逃げろ……って」


 苦しそうに壁に寄りかかりながら、それでも何とか助けになりたいと、ソイドの持つ音声拡大“魔道具”(マイク)で呼びかけろと、サクラは言いに来たのだ。


「……な、何をだ……」


「――死にたくなければ、今すぐ逃げろって……」


「いや……しかし――」


「――早くしてっっ!!」


 サクラの剣幕(けんまく)にソイドは押され、手に持つ音声拡大“魔道具”(マイク)を口元に運び、そして。


 会場に、ソイド・ロロイアの声が木霊(こだま)した。

 選手紹介の時よりも大きく、切迫(せっぱく)した様子で、音声拡大“魔道具”(マイク)をハウリングさせながら。


『み、皆様ぁぁぁ!逃げてください!!()り返します!今すぐに逃げてください!!命を落としたくなければ!――今すぐ逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』


 ソイドの叫びの後、一拍(いっぱく)静寂(せいじゃく)

 しかし、その静寂(せいじゃく)はフェルドスの狂気(きょうき)の声で破られる。


「――ぎゃああああああああああぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあっ!!」


 フェルドスの背中に刺さった【魔石(デビルズストーン)】は、何度も明滅(めいめつ)()り返し、やがて全ての姿をフェルドスの体内に押し入っていった。

 そして――変貌(へんぼう)は開始されてしまう。





 特別観覧席(かんらんせき)では、セルエリスが(いきどお)っていた。


「――何のつもりなのかしらね。王家の(もよお)しを台無しにして……挙句(あげく)の果てには、逃げろ?――あんなもの(・・・・)、どうせ()ぐに忘れると言うのに」


 惨状(さんじょう)を目の当たりにしても、セルエリスは(いま)だに冷静(れいせい)見下(みお)ろしている。


「姉上……【聖騎士】の導入(どうにゅう)を!許可(きょか)をください!!あのままでは危険な気が……――っ!?」


 ローマリアの危惧(きぐ)(むな)しく。

 フェルドスの変貌(へんぼう)が始まった。


「……な……なんなの……」


 筋肉と言う筋肉が盛り上がり、人間の大きさなど優に()えた巨躯(きょく)になったフェルドス。

 全身からは黒い体毛がわさわさと生い(しげ)り、顔は(すで)に人外だ。

 山羊(やぎ)の顔に角を生やし、背中からは黒い翼が現れた。


「――あ、姉上……き、騎士を……【聖騎士】……を……」


 ローマリアは、窓を(のぞ)きながら勇気を出そうとするも、ぺたりと座り込んでしまう。

 セルエリスは、忌々(いまいま)しいものを見る様に言う。


「……ちっ、この国に(よこしま)な物を持ち込んで……まだ早い(・・・・)と言うのに!――行くわよヴェイン、城に帰る」


「――はい。こちらに……」


「あ、姉上……?姉上……姉上ぇぇぇ!!」


 セルエリスは、ローマリアを置いていった。

 妹など初めからいないも同義(どうぎ)だと言うように、ローマリアを一度も見ることなく、セルエリスは(きびす)を返して()っていった。




 残され、へたり込むローマリアに、(あせ)ったような声がかけられる。


「――ローマリア様!……いた!居ましたよ!副団長!!」


「ナイスだノエル!急いで撤退(てったい)するぞ、命令には(さか)らえん!」


「ですけど、いいんですか!?ロヴァルト兄妹達をほっといて」


「仕方ない。私達は国を王女を優先する……ロザリーム殿達に任せるしかないだろう」


 セルエリスが()った後、()ぐにノエルディアとオーデインがやって来た。

 茫然自失(ぼうぜんじしつ)のローマリアを(かか)えて、【聖騎士】二人は騎士学校を後にする。

 去り(ぎわ)のセルエリスに、そう命令されたのだ。

 妹を頼むと、しかし、戦いへの参加は認めないと。




 舞台(ぶたい)の上で、エドガー、ローザ、エミリアの三人は変貌(へんぼう)したフェルドス・コグモフと向き合っていた。


「これはまた……大層(たいそう)ご立派になったわね……」


「……本当だね……」


 ローザの記憶にあるもの。

 それは、“悪魔”バフォメットだ。


 山羊(やぎ)の頭部に黒い翼。

 男女両有(りょうゆう)の身体。

 確認するまでもなく、胸元は大きく(ふく)れている。

 黒い体毛で(おお)われれてはいるが、下半身も同義(どうぎ)だろう。


「ロ、ロロ、ローザ……どうしよう……怖い、怖い……けど!」


 エミリアは(ふる)えながらも【勇炎の槍(ブレイジング・スピア)】を構える。


「エミリア……下がって――いえ、協力しなさい。貴女(あなた)の力が必要よ……」


「うん。頼むよエミリア!一緒に戦ってくれる?」


「――!!」


 ローザとエドガーからの、要請(ようせい)に。

 エミリアの恐怖心は一気に()き飛んだ。


「ふ、ふふ……初めから言ってよ!!頼りにしてるってっ!」


 完全に“悪魔”への恐怖がなくなった訳ではないが、勇気をくれる槍と、頼りにされていると言う思い込み(・・・・)が、エミリアを奮起(ふんき)させた。


「――二人共!来るよっ……完全に僕達(ねら)いだ!」


 静かにフェルドスを――いや、バフォメットの変体(へんたい)を見ていたエドガーが(さけ)ぶ。


 エドガーは、本当はエミリアには戦ってほしくなかった。

 けれど、サクヤとサクラが《石》の共鳴(きょうめい)()っている以上、戦力が足りない。

 広いとはいえ、ここは街中。ローザは全力で戦えないのだ。


 その為に、二人は【心通話】で相談(そうだん)した。

 エミリアは最大限(さいだいげん)守ると。

 しかし、そのエミリアに協力してもらわなければ、乗り切れないと判断した。

 だからエドガーは、エミリアに声を掛けた。

 「頼む」と――「一緒に戦ってくれ」――と。





 (あん)(じょう)、セイドリックの意思が反映(はんえい)されたバフォメットの意識は、エドガーに向いていた。

 大きな身体をエドガーに向けて、動き出す。

 黒い翼はバサバサと音を鳴らすだけで、空を飛ぶ気配(けはい)は無い。


 エドガーは一人で、ローザはエミリアを(ともな)って反対側に回り込む。

 (すで)に会場の観客(かんきゃく)は無く、ソイドの避難指示(ひなんしじ)と、騎士学生の少女達の誘導(ゆうどう)によって、避難(ひなん)を開始していたのだ。

 それだけは(さいわ)いだ、と内心で(つぶや)くと、エドガーは火球を発射する。


「はぁっ!!」


 切っ先から生まれた炎の魔力が、バフォメットの腕に直撃(ちょくげき)するも、バフォメットは悠々(ゆうゆう)とする。


「――効いてないっ!?……いや、威力(いりょく)か……!」


 バフォメットの右腕による反撃をジャンプで回避する。

 街中な以上、全力の火球は使えない。

 それはローザもエドガーも同じ。

 それに、前回の失敗もある。

 魔力の使い()ぎで倒れたら、本当に終わりだ。


「ローザ!エミ――っ!?」


 ローザは、傭兵(ようへい)ナルザと対峙(たいじ)していた。

 そしてエミリアは。


「キヒヒ……エミリアぁ……僕の女神ぃ」


「セイドリック!こんな事もうやめなさいっ!!こんなことをしても、私は貴方(あなた)の物にはならないわっ。正々堂々(せいせいどうどう)と勝負を……」


「――黙れ!黙れ黙れ黙れぇぇ!!」


「――っ!」


 セイドリックは、【聖騎士】時代からの得物(えもの)、【二股槍スピアフォーク】をブンブン振り回すと、エミリアに肉薄(にくはく)してくる。

 エミリアはそれをガードして鍔迫(つばぜ)りの状態になるが、【勇炎の槍】から炎が発生してセイドリックを襲い、炎はセイドリックの顔に直撃する。


「ギャハハハハァァ!エミリアァァァァァ!!」


「――なっ!!」


 セイドリックは、(すで)に人外の(いき)に入っていた。

 《石》に長時間干渉(かんしょう)されて、精神はもう人間ではなかったのだ。


「――貴様(きさま)っ……いつからあの《石》を……!」


 ナルザをぶっ飛ばして、ローザがエミリアとセイドリックの間に入り込むように斬り込む。


「キヒ……キヒヒヒ……エミリアァァァァァァァ!!」


「――ちっ……駄目(だめ)ね……心がもう死んでる(・・・・)


 引退したとはいえ、【元・聖騎士】。

 セイドリックの槍術は見事だった。

 それは、《石》に魅入(みい)られて自我(じが)を失くしたからかもしれない。

 もしくは、エミリアに対するその執着心(しゅうちゃくしん)か。


「ローザ……それって、この人はもう……で、でも、あの《石》は“悪魔”にっ!」


「時間のせいでしょう。この男は、きっと前から【魔石(デビルズストーン)】に触れていたのよ、そのせいで、遠隔操作(えんかくそうさ)にも似たような状態になっているんだわ」


 (たと)え生きている間にエドガーが《石》を破壊(はかい)したとしても。

 セイドリックの心はもう死んでいる。助からないのだ――もう。


「キヒャァァァアァ!!エミリアァァァァ!」


 セイドリックだったものは、エミリアに再肉薄(にくはく)しようと接近する。


「――は、早っ……いっ!!」


「――くっ!」


 エミリアに迫るセイドリックを迎撃(げいげき)するローザ。

 しかし、意外なほどに俊敏(しゅんびん)なセイドリックを、ローザの大剣は(とら)えられなかった。


 あれ程に強いローザが苦戦している。

 魔力だって回復している筈だ。

 しかし、こんなにも動きが(にぶ)っている事に、ローザ自身が一番自覚があった。


「コイツ……!だいぶ()われてるわねっ……人の動きではない――っぐぅ!」

(魔力が足りない(・・・・)――サクラの回復やエミリア達の装備に回したのが裏目に出たっ!)


「ギャハハハハッ!!」


 セイドリックは【二股槍(スピアフォーク)】を投げる。


「――なっ!!」


 槍はローザの肩をかすめて、エミリアに迫っていく。


「エミリアっ!逃げ――」


 高速で迫る槍は、完全にエミリアを(とら)えていた。

 エミリアは何とか槍で(はじ)く。


「くっ――このっ!!――ぐぅぅっ――うぐぅっ!?」


 が、(はじ)いた槍の(いきお)いを全て殺すことは出来ず、横っ腹を()かれた。


「エミリア!」

「――エミリアぁ!!」


 ローザの牽制(けんせい)で、セイドリックは跳躍(ちょうやく)する。

 しかしセイドリックは空中で有り得ない軌道変更(きどうへんこう)をすると、エミリアの背後に着地した。

 腹部の痛みによろめく、エミリアの真後ろに。


「キヒヒ……キヒヒ……エミリア。エミリアァァァァァァァァ!!」


 エミリアが気付いた時には、セイドリックは自分にくっ付いていた。

 そして、()(はら)うことも出来なかったエミリアは。


「――っ――ぁ……」


 ――ぐしゃっ――ぐじゅっ――

 ぼたぼたと、大理石の舞台(ぶたい)を濡らす鮮血(せんけつ)

 それは、エミリアの血だった。

 (けもの)のように変貌(へんぼう)した(きば)を持つセイドリックが、槍をかすめ傷付いたエミリアの腹部に、()みついていたのだった。


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