113話【決闘~休憩2~】
◇決闘~休憩2~◇
この会場で、先程の試合の状況を把握していた人物は、ローザとサクヤの他にもう一人、上空にいた。
メルティナ・アヴルスベイブは、【解析】したサクラのデータを見比べる。
【解析結果】
・サクラ/【女子高生】
・【高揚】
|LV:22
|HP:2366/2366
|MP:398/398
|STR:151
|INT:422
|VIT:128
|MEN:189
|AGL:206
・【叡智の閃き】
・【ハート・オブ・ジョブ】
・【鞄/スマホ】
・【ジュエルスキル・朝日の雫】
これが試合前のサクラのステータスだ。
そして、これが直前のデータ。
【解析結果】
・サクラ/【軍人】
・【H・O・J】
|LV:22
|HP:2366/2366
|MP:398/398
|STR:151(+1377)
|INT:422(+411)
|VIT:128(+231)
|MEN:189(+231)
|AGL:206(+570)
・【叡智の閃き】
・【ハート・オブ・ジョブ】
・【鞄/スマホ】
・【ジュエルスキル・朝日の雫】
体力と魔力は変わらないが、それ以外の基本ステータスが異常に上昇されている。
「()内は……あの【古い銃】の威力でしょうか……それとも……スキルの上昇効果?」
攻撃力だけを見れば、異常な数値だ。
メルティナよりも高いのだから、それが窺える。
サクラのステータスにそれ以外の大差はないが、まるで人が変わってしまったような口調に、いきなり素人とは見えなくなった動き。
「検索完了。あれは、軍人の動きと断定」
ステータス表記に書かれている様に、メルティナの検索結果も同じ。
下にいる少女は到底軍人には見えないのだが、メルティナの【解析】は間違いない。
「初めて見たときは完全に一般人だと認識していましたが、考えを改めなければならないようです」
メルティナが“召喚”された時、現場にいたサクラは完全に【少女A】だった。
だが、今の戦闘を記録したメルティナには、サクラがただの女の子には見えてはいない上に。
記録にも【軍人】の戦闘として記録した。
「次は……エドガー・レオマリスですか……彼の能力は……」
メルティナは次の試合の出場者、エドガーを【解析】する。
「解析……完了しました……――これは」
【解析結果】
・エドガー・レオマリス/【召喚師】
・【契約の証】×4
|LV:13
|HP:2209(+4400)/2209(+4400)
|MP:247(+200)/247(+200)
|STR:172(+440)
|INT:210(+440)
|VIT:147(+440)
|MEN:152(+440)
|AGL:129(+440)
・【召喚/異世界召喚】
・【契約の証】×4
・【能力複製】
・【炎熱操作】・【心内把握】・【危険感知】・【記憶領域増大】
・【???】証不足。
・【???】証不足。
・【???】証不足。
エドガーのステータスは、平凡以下だった。
だが恐ろしい事に、異常なまでの補正がかけられていた。
「……これが、異世界人の主の……効果……」
発動状態であろう【契約の証】は、異世界人四人分の効果を上掛けされているようで、全てのステータスに上乗せされている。
更には能力の多さ、そして不明度の高さだ。
「……【能力複製】ですか。契約している人物、その能力の劣化版……と推測。各順に、ローザ、サクラ、サクヤ、当機と予測……それ以外にも、表記不明なものが複数。証不足。と書かれているという事は……契約者の数で増大されると推測できます」
もし、エドガーが更に沢山の異世界人と契約するようなことがあれば、どうなってしまうのか。
「……くっ……」
ザ――ザザ――ザザザザ――
メルティナの脳裏に浮かぶ、エドガーを囲む沢山の人間達。
女性だけではなく、男性もいる。
その中には、当然のようにメルティナも居り。
まるで古参のメンバーと言わんかのように、成熟したエドガーの傍にいた。
「――ぐ……今のは……なん、なのですか……?」
メルティナは【解析】の画面を切断し、見えたビジョンを否定するかのように、頭を抱えて浮遊する。
そんな中、戦闘を終えたサクラがエドガー達のもとに合流して行った。
◇
歓声に包まれる舞台に、救護班とみられる騎士達が大勢集まり、血溜まりに沈むカリーナ・オベルシアの治療に当たる。
カリーナはまだ生きていた。銃によってダメージを受けたのは、手足だけだったのだ。
まるで熟練の狙撃者の様に。
狙った的を外さなかったサクラの銃撃が、かなりの腕だと分かった。
サクラは、服部少佐は、急所を狙わなかった。
手足数十か所は打ち抜いたが、命は奪わなかったのだ。
鍛えられた身体を持っているのなら、あのまま黙っていても、命に別状は無い筈だ。
「……任務完了……これより帰還する……」
まだ口調の変わらない少佐は、カリーナ・オベルシアが運ばれていくのを見届けてから、エドガーの待つ待機所へと向かった。
「――サクラ!」
「サクラぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「サクラ……よくやったわ」
エドガー、エミリア、ローザが、戻ってきた少佐に労いの言葉を掛ける。
だが、その少佐さんは。
「――いえ、私は任務を遂行しただけです……ローザさんの足元にも及びません」
と、何故かローザを謙遜し始めていた。
「そ、そんなことより……その口調はなんなの……?」
「そうだね……サクラらしくないと言うか……」
「いいじゃないっ!勝ってくれたんだよ!?喋り方なんて気にしなくてもいいよ~」
エミリアだけはサクラの口調を気にせず、嬉しさ余って抱きつこうとする。
だが、サクラはそれを手で制した。
「――いえ、この勝利はまだ一歩。エミリアさんの為……頑張りましょう」
「……」
「……サクラ?」
「さ、さん?……ええっ!いつものように“エミリアちゃん”って言ってよぉっ!」
ローザは眉頭を押さえて上を向く。
エドガーは、余りにも違うサクラの様子に困惑し。
エミリアは、自分をちゃん付けで呼ばないサクラに、ようやく疑問を持ったのだった。
「――やれやれ……もうよいだろう?……サクラよ、その憑依を解かぬか……」
今までメイリンとアルベールの所にいたサクヤは「やれやれ」と言いながらサクラに近づきそう言った。
「憑依……?」
「はい、主殿。今、こ奴はサクラであってサクラではない。そんな気がするのです……ならば、呪いか憑依……自己暗示の類かと思ったのです。主殿……サクラの額の《石》も、主殿の額の紋も……微かですが光っていますし……」
サクヤの言葉に、エドガーは注視する。
実際、サクラの《石》【朝日の雫】は零れる様に微かに光を放っていた。
よく見なければ確認することは出来ないほどに、本当に微かだが。
それはエドガーの《紋章》も同じで、同じくらいに微かに光を放っていた。
「……本当だ……よく気付いたね、サクヤ」
ふふん!と胸を張るが。
「――うっ!……いた、たた……」
肩の傷が痛むのか、サクヤは傷口を押さえて蹲る。
「だ、大丈夫!?サクヤ……」
「……は、ははは……平気だぞエミリア殿。なに、心配はいらぬさ」
エミリアの心配そうな声に、サクヤは気を張って強がる。
「……ほれ、サクラ!」
早くしろと、急かすサクヤ。
「……解除方法を把握していない……私は、もうこのままの可能性がある」
自分の能力の解除方法が分からないらしいサクラは、内心不安なのだが口調は軍人そのもの。
しかし、もう一生このままなのかと、心なしか思い始めた時。
「サクラ!……元に戻って!……僕は元の、普通のサクラが好きだよ」
「「「……!!」」」
「す……す、好きぃ!?な、何をいきなり……もう、エド君ってば――あ。戻った……」
サクラは元に戻った。
どうやらエドガーの天然発言のおかげのようだ。
「……エド~」
「主殿……わたしにも……」
「エドガー……」
「え……あれ?……なにこの雰囲気」
異世界人三人とエミリアに睨まれるエドガーを、観客席の端から優しく見守る二人。アルベールとメイリンだ。
「……良かったね。アルベール」
「ああ、本当にだ……俺はもう、信じる事しか出来ないからな……」
敗北後、一人悔しさを飲み込んでいたアルベールも、恋人となったメイリンのおかげで立ち直ったようだ。
しっかりとサクラの戦いを見届けて、メイリンは思う。
「……やっぱり、あれは夢じゃなかったのね」
「……ああ、ごめんな……メイリン」
「ううん……いいの。むしろ安心してるわ……」
アルベールは、隣にいるメイリンを見下ろす。
反対に、メイリンはアルベールを見上げて。
二人は目を合わせながら。
「――安心?」
「……うん。エドガー君のおかげで、その……私は、アルベールと」
メイリンの言いたいことが瞬時に伝わって、アルベールは照れる。
が、メイリンから視線は逸らさない。
「俺と、何?」
「……もう!意地悪っ」
「はは、冗談だって……はははっ」
「うふふ……」
二人は笑い合う。
メイリンのあの記憶は、まだ完全に思い出したわけではない。
エドガーやエミリア、ローザの活躍でアルベールと結ばれたことは、嘘偽りのない事実。
少しずつ。一歩ずつ。確かに歩いていこうと思ったメイリンだった。
「「……」」
それにしても、この二人。
よくもまあこれだけの視線がある中で、二人の空気を作れたものだ。
「――!?あ、エ、エド……エミリアも」
「あ!い、いつから……?」
アルベールとメイリンの二人は、エドガー達に見られていた。
兄のそういった状況をまじまじと見たエミリアは、顔が真っ赤だ。
「サクラが元に戻って直ぐだよ……声かけても無視するから」
「わ、悪い。そ、それよりも……次はエドだぞ……分かってんのか!?」
誤魔化すように、アルベールは舞台を見る。
メイリンは俯いて真っ赤になった顔を隠しているが、近くにいるローザやサクラにからかわれていた。
次の試合の準備が進められる舞台上では、巨大な砂時計を元に戻す騎士達。
カリーナ・オベルシアの血溜まりを掃除している騎士達などが、せっせと仕事をしていた。
「……うん。分かってるよ」
全て分かっている。
どれだけ頑張っても、例えエドガーが対戦相手を倒したとしても。
【召喚師】であるエドガーの勝利は――絶対に訪れないという事も。




