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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 3章《近未来の翼》
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109話【決闘~そう言えば、妹~】



◇決闘~そう言えば、妹~◇


 戦いの為にわざわざ(つく)られた舞台(ぶたい)は。

 四角形の石が何十個もつなぎ合わされたもので、丁寧(ていねい)研磨(けんま)されている。

 大理石(だいりせき)に近いのではないかと、サクラは思っていた。

 四方には木で作られた観客席(かんきゃくせき)が三段で用意され、(すで)に満員だった。

 大半の客は王家が用意した貴族であり、下町民はあまり見られない。圧倒的アウェイだ。

 それでも、たった二日で用意されたとは思えない出来に、エドガーは感心(かんしん)していた。


(凄い(つく)りだ……けど)


 (つく)ったのは下町の職人(しょくにん)、しかし客は貴族。感謝も、(ねぎら)いの一つも無いのは、いかがなものだろうと思った。





 どこにでもありそうな前置きや挨拶(あいさつ)が終わり。

 舞台上に出場者が入場して並び立つ。


「……」


 下町の職人(しょくにん)二徹(にてつ)(つく)り上げた舞台(ぶたい)を、ロヴァルト陣営とシュダイハ陣営、計八人(・・)が並びっていた。

 シュダイハ家が五人、ロヴァルト家が三人だ。

 そう――三人だった。


(に、兄さん……っ!)


 ぎりりと歯噛(はが)みするエミリア。

 兄アルベール・ロヴァルトが到着(とうちゃく)していなかったのだ。


(ど、どうしようエド……)

(どうするって言われても……アルベールを待つしかないんじゃ……)


 ひそひそ話で会話するエミリアとエドガーに、隣の陣営からクレームが。


「そこっ!開催(かいさい)挨拶(あいさつ)中に随分(ずいぶん)余裕(よゆう)じゃないか……」


 真面目そうな男、フェルドスに指摘(してき)されて、二人はピシッと背筋を伸ばす。


「へぇ……本当に余裕(よゆう)じゃないか。だけどどうかな、どうやらそちらは二人も足りないみたいだけど、どうしたのかなぁ?……いないのは、ああ……エミリアの兄上様じゃないかな?つまり君たちは、今いる三人すべて勝たないといけないんだよ?くくく……それが分かっているのかな?」


 (まぎ)れもない事実(じじつ)だが、相手に言われると異常に腹が立つ。

 顔を(なな)めに(うつむ)かせ、目線だけをこちらに向けるセイドリックの嫌味に、エミリアは()みつく、というか舌を出して。


「――べーーーーーっだっ!!」


「――なっ!」


 エミリアの態度(たいど)に顔をひくひくさせるセイドリック。

 声を出そうとしたが、音声拡大“魔道具”から『ごほんっ!』と咳払(せきばら)いがされて、本当に背筋を伸ばした。





 【貴族街第三区画(ガーネ)】の会場である騎士学校まで、もう()ぐと言った地点。

 約束(やくそく)の時間に遅れてしまい、近道をしようとした結果。

 アルベールの前に、数人の男達が現れた。

 (うす)ら笑いを浮かべ、各々(おのおの)武器を持つ男達。


「なんだあんたら……」


 あからさまに不審(ふしん)集団(しゅうだん)に、アルベールは手を横に出して、隣にいた女性を(かば)う。


「ア、アルベール……」


「大丈夫だ、メイリン……」


 二人は逢引(あいび)き、ではなく一緒に会場に向かっていた。

 しかし何度か不審(ふしん)な出来事が起こり、不安視(ふあんし)しながらも慎重(しんちょう)に会場に向かっていて遅くなっていたのだが。

 会場直前まで来て、最後がこれだ。


「……そうか、やっぱりシュダイハ家の差し金かよっ……ちっ!」


 後ろからも数人現れ、舌打(したう)ちをするアルベール。

 完全に囲まれていた。


「アルベール、後ろっ!!」


「分かってるさ、俺から離れるなよっ!!メイリン」


 アルベールは剣を抜き、構える。


「……へへへっ……――やれぇっ!」


 一人の男が笑い、パチンと指を鳴らしたのが、戦いの始まりだった。





 開会式(かいかいしき)が無事行われ、エドガー達はチーム専用(せんよう)の席に座る。


「……どうしよう」


「お兄さんの順番を変えてもらう?」


 アルベールの出番は、一番手だった。


「もう無理だよ……時間がない。せめて開会式(かいかいしき)の前に分かれば……」


 懐中時計(かいちゅうどけい)を見ながら、(くや)しそうに答えるエミリア。

 もし不戦敗(ふせんぱい)になったら、それだけで一敗だ。

 それでなくても一人足りロヴァルト陣営なのだ、それだけで二敗になってしまう。


流石(さすが)にまずいわね……」


「も、もしかして邪魔(じゃま)されて……」


 エドガーの一言に、全員がピンとくる。


「……だからさっき、セイドリックはお兄さんを名指(なざ)しした……?」


 サクラは、シュダイハ家側の専用席を見る。

 出場者は事前通告(じぜんつうこく)していない。

 もしも、シュダイハ家側がエミリア陣営の出場者を完全に予測していたら、アルベールを邪魔(じゃま)することも容易(ようい)なはずだ。

 それでなくても主役の兄だ、出場者としての予想(よそう)は当てやすい。


「くぅ~……兄さんを無理矢理にでも馬車に乗せるんだっ――あっ!!」


「エミリア?」


 エミリアは顔を青くする。


「――兄さん……メイリンさんのところだ!……多分」


「――ちっ!」

<……メルティナ!上ね、聞こえていたら返事(へんじ)を……>


 ローザは()ぐに思考(しこう)を切り()える。

 戦えないメイリンが一緒にいれば、アルベールが彼女を守るのは必然(ひつぜん)

 妨害(ぼうがい)を受けている可能性(かのうせい)があるなら、命の危険(きき)もあるえる。


 ローザは《石》の反応を(たよ)りに、メルティナへ【心通話】を(こころ)みる。


<――イエス。聞こえていました……ですがローザ、これは交換(こうかん)条件に(ふく)まれますか?>


 上空にいるらしいメルティナは、ローザからの【心通話】受けると、先日()わしたローザとの約束を確認させるように告げた。

 ここで()める訳にもいかず、ローザは二つ返事で(うなず)く。


<――勿論(もちろん)よ、頼むわ!>


<……イエス>


 シュダイハ家の妨害工作(ぼうがいこうさく)の可能性を、ローザは舌打(したう)ちをして上を(にら)む。

 そんなローザを、エドガーは気にしていた。


「ローザ?」


「大丈夫よ。信じなさい……」


 その意味は、アルベールを、なのか、ローザを、なのか。

 訳も分からないまま、エドガー達は(うなず)くしかなかった。





 騎士学校の会場、その観客席(かんきゃくせき)で。

 一人、出場者の少年を(にら)む少女がいた。

 明るめの茶髪に、成長著(せいちょういちじる)しい体型。

 (にら)みつける少年と同じ目の色をした、少女。


(どういう事なのっ!?なんでお兄ちゃんがエミリア先輩と一緒に戦うのっ!?)


 少女リエレーネ・レオマリスは、騎士学校の先輩であるエミリア陣営を応援するために、学友(がくゆう)の仲間たちと一緒に見に来ていたのだが、思わぬところで兄を発見し狼狽(ろうばい)していた。


 わなわなと(ふる)える手で、木製の手摺(てすり)(つか)んで眩暈(めまい)我慢(がまん)する。

 先程から何度もそれを()り返していた。

 もしかしたら見間違いかもしれない、いや、そうに違いないと考えて。

 自分にそう言い聞かせて、何度目かの顔を上げる。


「……――いるぅぅぅぅっっっ!!」


 つい、(さけ)んでしまった。

 会場は(すで)一杯(いっぱい)で、多少の大きな声でざわつくことは無かったが。

 隣にいた友達の三人は(おどろ)き、声を上げた。


「――わぁっ!?」

「ど、どうしたのっ?リーちゃん!」

「ビビ、ビックリすんだろぉ!?」


 上から。レイラ、ピリカ、ラルンの三人は、リエレーネ・レオマリスがおかしくなったと思っただろう。


「ご、ごめん……」


 やはり、間違いではなかった。

 兄がこの場にいると言う不釣(ふつ)り合いな状況(じょうきょう)で頭がいっぱいなのに。

 ――更には。


「ねぇ、リーちゃん……あの赤髮の人(・・・・)ってさ、財布(さいふ)の人……だよね」


「――えっ!?」


 ピリカの一言に、リエレーネは度肝(どぎも)を抜かれてしまう。


「……ほ、本当だ!……おっぱいの人」


 リエレーネが以前、屋台(やたい)広場で財布(さいふ)を無くして困っていたお姉さんを助けたのだが。

 まさかその人が会場にいるとは。

 しかも兄や先輩と仲良さげに話している(実際(じっさい)切羽(せっぱ)詰まってる)。


「うおっ!ホントだ、あのねーちゃん、エミリア先輩と知り合いだったのか!?スゲー!」


 ラルンは楽しそうに笑う。


「でも、出場者じゃないわよ?さっきの開会式(かいかいしき)にいなかったもの……」


 レイラは冷静(れいせい)に言う。


「それで、リエは何で馬鹿(ばか)みたいになったんだ?」


「――ばっ!?」


「こらラルンっ」

「ダメでしょラルンちゃん」


 学友の痛烈(つうれつ)な一言に、リエレーネは(かた)まる。


 レイラとピリカが口を(ふさ)いで(だま)らせてくれたが。

 リエレーネは確実(かくじつ)にダメージを受けていた。


「……うぅ、あれ。私のお兄ちゃん……」


 泣き顔になりながら、エドガーを指差(ゆびさ)す。


「ええっ!?あの男の人!?」

「私は知っていたけれど……」

「し、【召喚師】、だよね……」


 ラルン以外は知っていたようで、然程(さほど)(おどろ)いてはいなかったが。

 ピリカはちょっと怖がっているようだった。


「ご、ごめんね……お兄ちゃんが……」


 兄を|恥じる訳ではないが。

 その兄から「自分の事は話すな」と言われ続けてきた妹の立場上、何故(なぜ)(あやま)ってしまった。


「何でリエが(あやま)んの?」

「リエが(あやま)ることないわ」

「リーちゃんが悪いわけじゃ……ないよ」


 ラルン、レイラ、ピリカの順番(じゅんばん)でリエレーネをフォローする。

 この三人だって分かっている。

 リエレーネは【召喚師】ではない、その家族だ。


 【召喚師」は侮蔑(ぶべつ)しても(かま)わないが、その家族は対象外と言う(ゆが)んだルールだ。

 だからといって、【召喚師】であるエドガーを侮蔑(ぶべつ)するほど、四人の友情は(くさ)ってはいない。


「……うん。ありがとう」


 物凄く(ゆが)んで(いびつ)になった国のルールに、リエレーネは笑って誤魔化(ごまか)す。

 そんなリエレーネだが、一番(いちばん)兄エドガーを奇異(きい)の目で見ていたとみられたピリカが、何故(なぜ)か顔を赤らめていることに、妹は敏感(びんかん)察知(さっち)する。


 ――熱視線(ねっしせん)というものだ。


「……ピ、ピリカ?」


「……」


 ラルンとレイラもそれに気づいて、ピリカの正面で手を()ったりするが。

 完全に熱に()かされていた。


「だめだこりゃ……」

「リエのお兄さんを見てるわね」


「……(うそ)でしょ?」


 ピリカと兄の接点(せってん)などないだろう。

 単に一目惚(ひとめぼ)れ?だが、ピリカは【召喚師】を知っていた。

 【召喚師】と知って恋に落ちる?(いな)!断じて(いな)だ。


「ピ、ピリカ……?お兄ちゃんを知ってるの?」


「――ふえぇっ!?ちち、違うよっ!?私はね、エドガー先輩を見てたわけじゃなくて……その、えーっと、違うのっ!!」


「……(うそ)でしょ……?」


 どうやら確定のようです。

 先輩と呼んでる時点で、一応エドガーが騎士学校の先輩である事を知っている。

 ピリカは初めからエドガーを知っていたのだろう。

 かつ、【召喚師】であることを知っていながら熱視線ねっしせんを送るほどだ。


(うそ)でしょぉ~……」


 しかも残念(ざんねん)ながら、視線(しせん)を送る先の兄エドガーの周りには、エミリアを始め、赤髪の女性に、黒髪の少女が二人いる、どれも仲がよさそうに見える。


「……ははは、(うそ)だぁ……」


 自分が帰省(きせい)しない間に、いったい兄は何をしていたのだろうか。不思議(ふしぎ)でならない。

 四度目の「(うそ)だ」を(つぶや)き。

 エドガーの妹、リエレーネの目の前は、真っ暗になったのだった。


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