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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 3章《近未来の翼》
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107話【決闘~開始前~】



◇決闘~開始前~◇


 期日が早まってしまった決闘を、一日早めたのは、【リフベイン聖王国】の第一王女セルエリスだ。

 参加している出場者の中に【召喚師】エドガーの名を見つけて、その命令を下したという事はだが、その事実は、本人、そして妹王女のローマリア、最後に。出場者達しか知らない。

 その結果、ロヴァルト家側は(あせ)戸惑(とまど)った。

 しかしそれが(こう)(そう)し、エドガー達は結束を強めたと言える状況を得た。

 もう、期日が短縮(たんしゅく)されたと言う事実は、エドガー達には関係なくなっていたのだった。

 そして、エミリアの結婚を()けた決闘は本日、行われる。





 ~宿屋【福音のマリス】~


「――ん、んん~っ!ふぅ……」


 大きく背伸(せの)びをして、サクラは気分よく()(みが)く。

 (かばん)から取り出した、【日本】で使っていた歯ブラシ。愛用品だ。

 右手でシャコシャコと奥歯を(みが)きながら、(かがみ)を見て左手で前髪をさっさっ!と流す。


「んひ、ひょうおはっひい!」

(よし、今日もばっちり!)


「……終わってからにせいよ」


 隣で顔を(あら)っていたサクヤが、(あき)れながら言う。


「お(ぬし)、大丈夫か?……昨日(・・)あれだけの魔力を使っておいて、(あま)り寝ていないのではないか?」


 何故(なぜ)無性(むしょう)に心配してくるサクヤに、ペッ!とうがい水を()き出し、サクラは答える。


「いやもう、全然オッケー!体力も魔力?もバッチリよ」


 昨夜(さくや)、今日の戦いの為に、サクラは(かばん)から色々と取り出していた。

 その結果“魔力切れ(マジックダウン)”を起こして(たお)れる様に眠ったのだが、それはエドガーには内緒(ないしょ)だ。

 本来ならば、魔力の回復に(とぼ)しいこの国で、一夜にして魔力が回復することはない。

 では、何故(なぜ)サクラが全快なのか。

 それは、約一名の赤いお姉さんしか知らない事だった。


「……そ、そうか?……ならいいが、頼むから無理はするなよ。いつでも変わるからな」


「は……はいはい、あんがとっ!」

(なーんで、こんなにあたしを心配してんのかな、この【忍者】は……)


 サクヤに手をひらひら()りながら、サクラは食堂に向かっていった。

 ()れた顔を見せない様に。


 残ったサクヤは。


「……あれだけ戦いには消極的(しょうきょくてき)であったのに、あれではまるで……別人ではないか」


 一人ボソッと(つぶや)くサクヤ。

 だが、この一言が、サクラの戦い方を(あらわ)すことになるとは、思いもせずに。





 エドガーとローザは【召喚の間】で最終確認をしていた。


「よしっ……特に持っていくものはないし、後は会場……騎士学校に行くだけだね」


 そう言うエドガーに、赤い剣を消滅(しょうめつ)させローザは近づくと。


「――大丈夫?」


「ん?……ああ、作戦(・・)の事でしょ?……大丈夫、分かってるよ。でも……少しでも可能性があるなら……頑張(がんば)るよ」


「……そう」


 昨日の会議(かいぎ)で、とある結論(けつろん)が出ていた。

 それは、エドガーにとっては(つら)くなることかもしれない。

 会議(かいぎ)でそれを言われた時、正直心に()さるものがあったが。

 今更だ。と、エドガーは受け入れた。


「……エドガー」


「ん?なに……?」


「今、キミの力はかなり高まっている。多分、メルティナとの契約効果でしょう……きっとあの火炎弾も……使えると思うわ……でも――」


 決闘とは銘打(めいう)っていても、殺し合いではなく対戦。試合だ。

 観客(かんきゃく)も入るらしいので、威力の高い《魔法》や技は危険の他ならない。


「大丈夫。使わないよ……使わなくても、勝つ。勝つから……」


 ローザは心配している訳ではないが、もし、万が一暴走(ぼうそう)制御不能(せいぎょふのう)になったとしたら、エミリアの負けが近付く。


「ありがとう。ローザ……僕やエミリアの事、真剣(しんけん)に考えてくれて……」


「……べ、別に、私は……サクラも、私の剣を使わないって言うし……エミリアも、その……いろいろよっ」


 (めずら)しくしどろもどろになってそっぽを向くローザは、少しむくれた横顔をエドガーに見られるが。

 そのエドガーが笑顔で見ていたことに、ローザは安堵(あんど)した。


「……ほらっ、行くわよエドガー……」


「うん!」





 【貴族街第一区画(リ・パール)】、ロヴァルト伯爵(てい)

 姿見(すがたみ)を見るエミリアの姿は、騎士学校の制服でも、私服でもない。

 赤い装飾(そうしょく)のブラウスにジャケット。

 極薄(ごくうす)の赤い糸を何層(なんそう)にも重ねられたプリーツスカート。

 ジャケットの上には軽装の鎧。

 両肩と胸を守るナイトアーマーだ、それも赤い装飾(そうしょく)(ほどこ)されている。


「……着やすい……しかも軽い……」


 昨日ローザが用意してくれたこの衣装を(まと)い、エミリアは戦いに(いど)む。


「エミリアお嬢様……アルベール様の準備、(ととの)いました……何時(いつ)でも出られますよ」


 コンコンとノックをして、メイドの一人フィルウェインがエミリアを呼ぶ。


「ありがとう、フィルウェイン」


 バサリと青いマントを(ひるがえ)して、エミリアは部屋を出る。

 と、部屋の外にいた人物に驚く。


「――!……お母様っ!?」


 そこには、車椅子(くるまいす)に乗った母ミランダが、エミリアを(むか)えてくれた。

 車椅子(くるまいす)を押しているのはナスタージャだった。

 いないと思ったら、母を連れて来てくれていたらしい。


「エミリア……立派(りっぱ)ね、お母さん嬉しいわ」


 エミリアは母に合わせる様に(ひざ)をついて、手を取る。


「いってきます、お母様……私、自分の未来を切り開きます……」


 普段は寝室から出ることはない母ミランダだが、娘の結婚が()かっているこの状況に、(むち)を打って出てきたようだ。


「ええ。頑張って……私の可愛いエミィ。お母さんは、貴女の帰りを、待っていますからね」


 娘を()きしめる母の(あたた)かさに()れ、エミリアは向かう。


「はい。お母様……行ってまいります……フィルウェイン。ナスタージャ……お母様をお願い」


「はい」

「はいぃ」


 そしてエミリアは()り向かずに、それだけを言って歩み始めた。




 外には、王城から(むか)えが来ていた。

 (もよお)し物の主役なのだし、当然と言えば当然か


「遅いわよ、ロヴァルト妹」


 馬車の中から顔を出すのは、ノエルディアだった。


「ハルオエンデさん!昨日はありがとうございました!お陰で元気出ました」


「……別に……私は殿下(でんか)の命令を聞いただけだし……ほらっ!早く乗りなさいよっ!ロヴァルト兄も!」


 馬車のドアを開けながら、()れて顔を赤くするノエルディア。


「兄さん……父様は……?」


 エミリアは、この場にいない父を気にする。


「ああ、父さんは先に向かったよ……騎学長に挨拶(あいさつ)するとかでな」


 決闘の会場となるのは騎士学校【ナイトハート】だ。

 提供者(ていきょうしゃ)の騎士学長に挨拶(あいさつ)をするのは当然だろう。


「そっか……少しでもいいから、話したかったけど……しょうがないね」


「信じてんだろ。父さんもさ、お前がしっかり勝つってな」


 エミリアは「そうだといいね」と言いながら馬車に乗り込む。


「……あれ、兄さん?」


 馬車に乗り込まない兄に、エミリアは首を(かし)げる。


「あ~悪ぃ……先行ってくれ。俺はちょっと……別件(べっけん)がだな……」


「……」


 兄を見つめるジト目のエミリアには、思い当たる(ふし)があった。

 しかしそれを言ったりはしない。野暮(やぼ)なことはしないのだ。

 それで兄にやる気が出るなら、それに()したことはないし。


「……じゃあ、先に行くね。遅刻(ちこく)しないでよっ。メイリンさんによろしくねっ」


「――分かってるっ!!」


 こうして、エミリアは騎士学校に向かった。





 【王城区(ブリリアント)】中央、【リフベイン城】。

 豪華絢爛(ごうかけんらん)な部屋で、ドレスを(まと)う少女。

 どう見ても十代前半、下手をすればそれ以下に見えるこの少女。

 【リフベイン聖王国】第三王女、ローマリア・ファズ・リフベインだ。

 数人のメイドに付かれて支度(したく)をするその姿は、どう見ても着せ替え人形の様。

 げんなりとしながらも、されるがままのローマリアは、姉である第一王女・セルエリス・シュナ・リフベインに言われたことを思い出す。




『……随分(ずいぶん)と面白い事をしているようじゃない……マリア』


 一昨日(おととい)、エドガーとエミリアの出かけ先に()り込んだローマリア。

 ノエルディアが急いで探していたのは、このセルエリスからの呼び出しがあったからだ。


『……へぇ、決闘なんてまた古臭(ふるくさ)い事……』


 椅子(いす)(ひじ)を付きながら書類を読む、桃色の髪の女性。

 目が悪いせいか、目つきもかなり悪く見える。そしてなにより、怖い。


『マリア、このエドガー・レオマリスと言う男……どういう男か(ぞん)じているの……?』


『……エドガー、ですか?……エミリア・ロヴァルトの幼馴染、ですが……それがどうかしましたか?姉上』


 エミリアではなく、エドガーを注視(ちゅうし)する姉に、ローマリアも不思議(ふしぎ)に思うも、答える。

 セルエリスは書類(しょるい)に何かを書き込んでいる。

 インクを内蔵(ないぞう)した、“魔道具”の万年筆(まんねんひつ)だ。


『……ふぅん、やはり知らないのね――【召喚師】の事……』


 ローマリアが知らないと言うと、セルエリスは(うれ)しそうに()げた。

 それは、(けが)れないものが(よご)れる瞬間(しゅんかん)だった。


『――え?』


 【召喚師】がどういうものかを。

 どういう経緯(けいい)で“不遇”職業となったのを。

 何故(なぜ)国から(しいた)げられるのかを。




『……そんな……そんなものっ!!横暴(おうぼう)ではないですかっ!』


 セルエリスが告げた【召喚師】と言う“不遇”職業の真実に、ローマリアは(さけ)ぶ。


『そうね。それが正しい反応だわ……』


 ローマリアの怒りに、セルエリスは軽く(うなず)く。


『姉上は、それを知っていてそんな事を言っているのですか!?』


『そうね』


 セルエリスはまたも受け流す。

 ローマリアの意見をまともに取り合うつもりはないようだ。


『……それを私に言って……また、矯正(きょうせい)するおつもりですか……私の意思(いし)を!』


 ローマリアは、姉から過去にされた屈辱(くつじょく)を思い出して、涙目になりながらも姉を(にら)む。


『……まさか。可愛い妹に、そのようなことをするわけないでしょう……?』


 セルエリスは持っていた書類を手放すと、数枚の書類はひらひらと舞って落ちる。

 すかさず、(そば)にいた騎士が(ひろ)い上げる。


『――ヴェイン、その書類に私が記載(きさい)したことを、明日(あす)中に行いなさい、いいわね?』


『はっ。承知(しょうち)しました……セルエリス殿下(でんか)


 ヴェインと呼ばれた銀髪の騎士は、セルエリスの専属(せんぞく)騎士だ。

 隻眼(せきがん)で肌は黒く、()み込んだ髪は肩まで下がっている。

 (ちな)みに【聖騎士】でなく、セルエリスが見込んで騎士にした逸材(いつざい)、らしい。


『――?……姉上?記載(きさい)とはどういうことですかっ!?……この決闘は、私が――』


『――(だま)りなさい第三王女ローマリア……』


『――!』


 姉の威圧(いあつ)に、ローマリアは押し(だま)ってしまう。

 いや、その威厳(いげん)に、黙らせられたのだ。


(まつりごと)は……みんなで一緒に楽しみましょう……ねぇ、マリア』


 ニヤリと口端を吊り上げる姉の笑顔に、ローマリアは戦慄(せんりつ)した。



 そしてローマリアは自室に帰り。

 姉の笑った顔を脳裏(のうり)(きざ)みながら、ローマリアはあの手紙を必死になって書いた。

 姉に言われたことを、エミリア達が不利になる事を。涙を流しながら。

 だが最後に、一枚の紙切れに最大の抵抗(ていこう)(こころ)みたのだ。


 結果として、エミリアとエドガー達の決起(けっき)にはなったが、ローマリアは自分にのしかかる姉の威厳(いげん)は、やはり重いものだと再認識(さいにんしき)したのだった。





「……よし、行きましょうか……そろそろエミリア達も到着するだろうし、エドガー達も……」


 二日前の苦心(くしん)を思い出して憂鬱(ゆううつ)な気分になるが、そうは言ってられない。

 エドガーに(きら)われてはいないだろうか。

 ノエルディアが言うには「手紙は何事もなく渡されました、心配はいりません」との事だったが、何度か失敗しているノエルディアは信用ならなかった。


「自分で確認するしかないわね……エリス姉上がこれ以上何かしてくる前に」


 友達になれるかも知れない男の子と、将来のある未来の騎士に会いに。

 姉の事は最大限(さいだいげん)注意したまま、騎士学校へ向かう事にした王女だった。


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