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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 3章《近未来の翼》
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106話【互いを思って】



(たが)いを思って◇


 修羅場(しゅらば)と化した休憩スペースは、まさかのサクラが勝利して終わった。

 サクラは(かばん)から取り出した【激臭(げきしゅう)スプレー】を自分を(ふく)む全員に()きかけて三人を撃退(げきたい)した。


 意外にも一番ダメージを受けたのはローザだった。

 鼻を(おさ)えながら逃げようと扉に向かうも、いつの間にか閉まっていた扉に絶望(ぜつぼう)してダウン。

 サクヤは転げまわって目鼻をゴシゴシ(こす)る。

 エミリアは息を止めて我慢(がまん)していたが、サクラにくすぐられて一気に(にお)いを()ってしまい、気絶に近い形で倒れた。

 そして、悶絶(もんぜつ)する三人を見下(みお)ろして、ガスマスクを外すサクラ。


「ぷはっ!……どーよっ!あたしの勝ちぃぃ!!」


 取り出したのはスプレーだけでなく、防護(ぼうご)の為のガスマスクも取り出していた。

 消費(しょうひ)した魔力はそれほどでも無かった為、前に【スマホ】の充電(じゅうでん)を一気にチャージした時のように倒れる事もなかった。


「……サ、サクラ……エドにも効いてるから……それ」


「――え?……ああっ!」


 残念な事にマスクは一つで、休憩スペースとは言え、密閉(みっぺい)された部屋の中で使われたスプレーは、エドガーにもダメージを(あた)えていたのだ。

 当然と言えば当然だった。


「ご、ごめーーーん!!」




 サクラが謝罪(しゃざい)の意味も(ふく)めて取り出したアロマキャンドルを()ぎながら、エドガーは笑う。


「こんなに嬉しい事なんだね……誰かに認めて貰えて、一つの壁を乗り越えるのってさ……」


「……そうだねっ」


 サクラが一番に同意して、エドガーを見る。

 どうやら、サクラも壁を()えて行ったらしい。

 それが自分の様に嬉しいと、エドガーは不思議(ふしぎ)に思う。


(サクラが嬉しいってだけで……なんだか僕も嬉しいな、エミリアも……エミリア?……あれ、なんでエミリアいるんだ!?)


 ようやく冷静(れいせい)になったと思ったら。

 今度は、本来ここにはいない(はず)のエミリアが居ることに気付き、(あわ)てるエドガー。


「エミリア!?」


「――ふぇっ!?な、何?」


 アロマを()いでいたエミリアに、エドガーは肩を(つか)んで言う。


「なんでこんなところにいるんだよっ!今はエミリアにだってやることが……!!」


「ええぇ……い、今!?今なの?」


 肩を()さぶられながら、エドガーの問いに答える。


「落ち着いてってエド……私、この手紙貰って、殿下(でんか)のぉぉっおっおぉぉ……」


主殿(あるじどの)!?」

「エド君ストーーップ!!」


 サクラとサクヤに(つか)まれて、エドガーはエミリアから手を離す。


「あ!……ご、ごめん」


 クラクラする頭を(おさ)えながら。

 エミリアはエドガーの顔を見据(みす)え、ここに来た理由を()げた。


「私ね……自分がどうこうなるより、エドがローマリア殿下(でんか)(みと)められたことが嬉しくて……つい、来ちゃった」


「……え?」


 それだけ?それだけの為に、自分の人生が()かっている戦いが明日(おこ)われると言うのに、エミリアはそれを言いたくて来たと言ったのだ。


「――な、なんでっ!エミリアはこんなことしてる場合じゃ!!」


 エドガーは、怒りなのか何なのか分からないまま、(いきお)い任せで怒鳴(どな)る。

 しかし、エミリアはキョトンとしている。周りにいるローザ達もだ。


「――なんだよっ!皆、なんでそんな……!!」


 確かに冷静(れいせい)ではない。

 でも、周りの皆にそんな顔されたら、エドガーはどうしたらいいか分からなくなる。


「まったく……本当に()た者同士ね……あなた達(エドガーとエミリア)は。要約(ようやく)すると、エドガーは暢気(のんき)なエミリアの為に怒ってて」


暢気(のんき)って……」


 エミリアのツッコミを無視(むし)してローザは続ける。

 混乱(こんらん)するエドガーを(なだ)める為に。


「エミリアは……エドガーが誰かに(みと)められたことが自分の事よりも嬉しくて……」


 結局、二人は(たが)いの事しか考えていなかったのだ。

 特にエミリアは、何があってもエドガーの事はブレない。

 だがエドガーの場合は少し違う。エミリアを助けたいという思いは当然ながら強い。でも、そこに(いた)るまでの段階(だんかい)が多すぎた。


 ローザや、サクヤとサクラ、メルティナの事。

 メイリンやローマリア王女の事が続けざまにやってきて、処理(しょり)が追いつく前にエミリアが先に行動を()こした。


「エドガー……自分の顔を見なさい」


「……顔?」


 ローザはサクラを見る。

 サクラは「え?……あ、ああ。(かがみ)ね」と言いながら(かばん)から取り出す。


「はいっ、エド君……どうぞ」


 (かがみ)を受け取り、自分の顔を映す(うつ)

 エドガーは――泣いていた。


「……え、あれ……?」


 言葉では怒っていた。エミリアがここに居ていいわけはないと。

 やるべき事があるんだと、自分に言い聞かせて。


「……なんで」


 心では、嬉しかったのだ。

 ローマリア王女が、会ったばかりの王女が、王家の中で不憫(ふびん)があるだろうあの方が。

 自分を(みと)めてくれたことが。

 そして何より、エミリアがそれを喜んでくれたことが。


「僕は……泣いて」


 泣いていることを指摘(してき)されなければ、きっと気付かない程の自然な涙。

 もし指摘(してき)されなかったら、ただエミリアに怒鳴(どな)()らして、最低なまま戦いに(いど)まなければならなかった。


 エミリアもローザ達も、エドガーが泣くほど嬉しかったのだと、途中(とちゅう)から気付いていた。気付いてくれていた。

 だから、キョトンとしていた。いや、キョトンと感じたのはエドガーだけで、本当は皆、(やさ)しい気持ちになっていたんだと気付く。


「……ほら、涙()いて」


 ローザがエドガーの頭を()でながら、指でエドガーの(ほほ)()いてあげる。

 もう完全にお姉さんだった。


「――ありがとう……ローザ。皆も……エミリアも、ありがとう」


「うん!!」


 もう、(なや)む必要は無い。

 ――無くなった。


 当人のエミリアが、こんなにも開き直っているのに、サポート役のエドガーが(まど)(なや)んでいたって、どうしようもない。

 (たと)えローザが戦えなくても、絶対に勝って見せると、エドガーの心は決まった。


 全力を()くして、最善(さいぜん)の結果を()る。

 それがエドガーの為であり、エミリアの為だと――決意(けつい)して。





 その後。会議(かいぎ)はスムーズだった。

 ごたごたが一切無かったと思わせるくらいに、スムーズに終わってしまった。


「こんなものかな……何か言いたいことあるー?」


 書記(しょき)になっていたサクラが、書いたメモを見ながら質問(しつもん)するが、誰も手を()げる人はおらず、明日の作戦は決まった。


「……終わりね。後はエミリア、貴女(あなた)がお兄さんに(つた)えなさい……」


了解(りょうかい)だよ。私、あっちの会議(かいぎ)すっぽかしたからね……あははっ」


 笑い事ではないが。

 この会議(かいぎ)で決まったことが最優先(さいゆうせん)だ。


 何故(なぜ)ならば。

 ――サクラが、戦いに出るからだ。

 エドガーの視線(しせん)を受けて、サクラは胸元で(こぶし)(にぎ)る。


「サクラ。こんな事、本当は無責任には言えないんだけど……」


 エドガーの言葉に、サクラは笑顔で。


「――大丈夫。もう変に考えるのは止めたから……あたしは、偉大(いだい)な【召喚師】に()ばれた……異世界人だからねっ!」


 二ッと笑って、エドガーに(こた)える。

 現状(げんじょう)、参加メンバーは四人。

 エミリア、アルベール、エドガー、サクラだ。

 サクヤには、我慢(がまん)してもらった。

 痛手だが、無理をさせるつもりもない。それはエミリアが申し出てくれたことでもあり、エドガーは有難(ありがた)承知(しょうち)した。


 サクヤの肩の(きず)は深く、即座に効く治療薬(ちりょうやく)がない以上、自然に治癒(ちゆ)するのを待つしかない。

 どうやら毒も完全に(なお)った訳ではなさそうなので、本当に無理はさせられなかった。

 本人は大変不服(ふふく)そうだったが、エドガーとローザに言いくるめられて渋々(しぶしぶ)納得(なっとく)した。


「よしっと……じゃあ、私は帰るよ。怒られてくる、えへへ……」


 だから、笑い事ではない。


「エミリア……」


「ん?なぁに?」


 小首を(かし)げるエミリアに、エドガーは顔を赤らめながら。


「――あ、明日……頑張るから。その……えっと……が、頑張ろう!」


「……あはは、なにそれ~……うん。頑張ろうねっ」





 エミリアは【福音のマリス】に、【貴族街第一区画(リ・パール)】の屋敷(やしき)から走って来ていた。

 帰り、途中(とちゅう)まで送ってくれたサクラと分かれて、帰路(きろ)を急いでいたエミリア。

 しかしふと、誰かの視線(しせん)を感じて(いぶか)しみ、住民を巻き込まない様にと路地裏(ろじうら)に入った。


「――誰っ……!!」

(もしかして……!シュダイハ家の差し金……!?)


 エミリアは厳戒態勢(げんかいたいせい)を取り、追って来た人物を(とら)える。

 暗がりの中、カツン――カツン――と金属音を鳴らし、現れたのは。


「あれ?……貴女(あなた)……もしかして……エドが言ってた、新しい――」


 会議(かいぎ)途中(とちゅう)からいなくなっていたらしい、新たな異世界人。

 緑の髪に、銀色の(ひとみ)。所々に付けた金属の装備。

 見た目や性格などの詳細(しょうさい)は少しだけ聞いていたので、近づいてきた人物がその異世界人だと、気付けた。


「イエス……質問(しつもん)があります」


 異世界人メルティナ・アヴルスベイブ。彼女がエミリアの前に立つ。

 自身のメモリーとシステムが、絶対に正しいと――信じて。


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