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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 3章《近未来の翼》
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103話【五日目~刺さる視線~】



◇五日目~刺さる視線(しせん)~◇


 鑑定(かんてい)屋【ルゴー】。(ほこり)っぽい空気を()い、ゲホゲホと(せき)をして目を覚ます男。

 昨日(・・)客人(きゃくじん)のせいで、今日は店を()めておくつもりだ。

 今日だけではなく、近日中だが。


「はぁぁ……また七面倒(しちめんど)くせぇ事に巻き込まれちまった……」


 葉巻(はまき)に火を付け、ぷふぅぅぅ――と()かす。

 朝から不愛想(ぶあいそう)葉巻(はまき)()う男。

 この店の主人であるマークス・オルゴは、災害(さいがい)にも似た女、ローザに頼まれて、二人の人物を(かくま)うことになった。


「……あああ~。マジでめんどくせぇぇぇぇっ!」


 自室で愚痴(ぐち)るのは、ローザを恐れているから――ではなく。





 昨日、突然やって来たローザが「貴方(あなた)にも()がある」と言いくるめられて、反論する間もなく決まってしまったからだ。

 ローザが来てから(しばら)くして、空から四人組のお客が()って来た。

 ローザが言った通りサクヤだったが、彼女はついて早々に気絶(きぜつ)してしまい、微細(びさい)は聞けずにいる。

 しかもローザは、それを見届けるなり「(ほこり)(ひど)いから帰るわ、サクヤをよろしく」と言って帰ったのだ。

 暴君(ぼうくん)にも(ほど)がある。





 マークスは二階に上がっていき、角の客室(きゃくしつ)のドアを強く叩く。

 昨日の客人(きゃくじん)たちは、部屋に入るなりぶっ倒れて寝てしまった。

 軽く挨拶(あいさつ)()ませていたが、ローザの言う《理》を()る為に、起こしに来たのだ。


「――おい、そろそろいい時間だぞ!起きろ、約束通り(・・・・)、手伝ってもらうからな!?」


 マークスの大きな声に、(あわ)てたようにドアを開けたのは、ルーリア・シュダイハ。

 子爵家の娘でありながらメイドらしいが、どうゆう事だ?と、マークスには理解できなかった。


「ちょっ!まだサクヤが寝てます!起きちゃうでしょう!?」


「お(めぇ)の声も十分でけぇよ!」


 ルーリアはバッ!と手で(おお)うが、一歩遅かった。


「……もう起きている、大丈夫だよ……ルーリア、気を使わせてすまぬな……」


 一つしかないベッドからむくりと起き、具合が悪そうに(つぶや)く。


「ほらぁぁぁぁっ!」


 ルーリアはマークスの顔に指をさす。


「俺じゃねぇだろ!もう起きてるっつったろがぃ!!」


 マークスは指をさすルーリアの指を取りひん曲げる。逆方向に。


「――いたた、痛い痛いっ!」


 その声に、床で寝ていたボルザ・マドレスターも()きた様で。


 「……おざます」と、まだ半分以上寝ていた。

 この男はルーリアのおまけのような存在で、身体だけを見たら警備隊(けいびたい)や騎士に居てもおかしくない風貌(ふうぼう)だったが、どうやらかなりの小心者らしい。


「おいサク、ヤ……もういいのか?」


「ん?……ああ、大分(だいぶ)いいようだ。|【鑑定(かんてい)師】殿もすまなかったな……」


「お、おう……」


 サクヤは、昨日ここに連れられてきた瞬間(しゅんかん)気絶(きぜつ)した。

 ローザが来た時に(すで)に嫌な予感(よかん)はしていたが、まさかサクヤが天から降ってくるとは思わず、あんぐりと口を開けたせいで、まだ(あご)が痛い。


「【鑑定(かんてい)師】殿……メル殿とローザ殿は……?」


 気絶(きぜつ)したサクヤは、そのままルーリア達と共にここに()まっていたが。


「あん?……帰ったよ。エドガーが帰ったって聞いたら、お前を運んできた緑の奴が飛んでいきやがってな……文字通り……」


「――!メル殿が!?こ、こうしてはおれん……」


 毒が再び回っているのかと思わせるほど血相(けっそう)を変えて、サクヤはベッドから飛び出す。


「――だ、ダメだよサクヤ!裸っ!!」


「うむっ!?」


 サクヤは、肩に大怪我(おおけが)をしている。

 その治療(ちりょう)のため、服を()がせていたのだが。

 肩付近(かたふきん)と首もとに包帯(ほうたい)を巻いただけの艶姿(あですがた)に、女の子らしく(さけ)ぶかと思って耳を(ふさ)ごうとしたマークスだったが。


 「気にしてられぬ!!」と、男前な発言をして、(まど)から飛び出そうとする。

 まさかの行動に、必死に止めるルーリア。


「ダメダメダメダメダメダメ!(つか)まるから!サクヤもこの人も!」


「なんで俺なんだよっ!!おら馬鹿サクラ(・・・)!大人しくしろやっ!!」


 (つか)まりたくはないので、サクヤの腰を(つか)んで引っ張る。


「――なっ!?どこを(さわ)っているか!この助兵衛(すけべえ)めっ!――それとわたしはサクヤだ!何度も間違えるな【鑑定(かんてい)師】殿!ワザとか?ワザとなのか!?」


「あぁ~!はいはい……いいから落ち着けって!――ってぇな!()んなやっ!」


 名前間違いに腹を立てたのか、サクヤは(とど)まってくれた。


「サ、サクヤ……怪我人(けがにん)のくせに力ありすぎ……」

「無駄に疲れさせんじゃねぇよ……」

「お、俺は見てませんっ!!」


 ルーリアは()つん()いで、はぁはぁと肩で息をするほど疲れ。

 マークスは(あば)れるサクヤに(ほほ)()られて苛立(いらだ)ち。

 ボルザは裸のサクヤを見まいと、丸くなった毛玉の様になっていた。


「な、なんだこれは……」


「お前が引き起こしたんだろうがっ。エドガーにチクるぞ!」


 サクヤの頭をポカリと叩くマークス。

 そしてエドガーの名前が効いたのか、怪我人(けがにん)サクヤは大人しくなった。


「うぅ……主殿(あるじどの)ぉぉぉぉ!!」


 (むな)しく、忠犬(ちゅうけん)の鳴き声だけが、(まど)を通して空に響いたのだった。





 【福音のマリス】の庭で、エドガーはクシャミをする。


「――へっ!……くしゅっ!!」


「だ、大丈夫?エド君?」


 豪快(ごうかい)なエドガーのクシャミを心配するのはサクラだ。

 二人は今、庭の花壇(かだん)に水をやっていた。


「いや、うん。大丈夫……ははは……」


 ちらりと背後を気にすると、そこにはメルティナ・アヴルスベイブがいる。

 彼女は眼光鋭(がんこうするど)く、銀色の(ひとみ)をエドガーに向けて監視(かんし)していた。


「「「……」」」


 気まずい雰囲気(ふんいき)の中、エドガーもサクラも無言のまま水やりを続け、メルティナはそれを無言で見続けていた。

 花壇(かだん)の水やりだけではない。

 今朝の玄関(げんかん)前の掃除(そうじ)窓拭(まどふ)きも、エドガーのすることは全て見られていた。


 それもこれも、昨日の夕刻(ゆうこく)、【福音のマリス】にエドガーが帰宅した(さい)の事が起因(きいん)する。

 サクラとメイリンが先に帰宅していたのだが、メイリンは夕の仕事を終わらせてから、農家の父が迎えに来た。

 何でも、野菜が盗難(とうなん)されたらしく。

 警備隊(けいびたい)に届けを出すので手伝ってほしい。そういうことで、エドガーが帰ってきたころにはメイリンは(すで)に帰宅していた。


 その後が問題だった。

 一人きりで(さび)しく【スマホ】を見ていたサクラは、エドガーが帰った瞬間(しゅんかん)に【心通話】でローザにエドガー帰宅を(つた)えた。

 それが――メルティナにも聞こえていたのだ。


 【心通話】を聞いたメルティナは、その時マークスの店にいたのだが、文字通り空を飛んできてエドガーとサクラの前に立った。

 (じゅう)を構えるメルティナに、エドガーは汗を(つた)わすも。

 ()ぐに()け付けたローザのお陰で事なきを()たわけだが。


 その後、エドガーはローザから自室に連れて行かれ、「明日話す」とだけ言われて今に(いた)る。

 一体、夜にローザとメルティナは何を話したのだろうか。

 結局、今朝からメルティナが襲ってくることはなかったが、この様にずっっっっと見張られ続けていた。


「「……」」


 そして現在、エドガーとサクラはロビーにいる。

 昨日の反省(はんせい)でもある、帳簿(ちょうぼ)をチェックするためだ。

 が、本来こんなことをしている場合ではない。


 決闘は二日後。準備(じゅんび)相談(そうだん)も出来ていないのに、何を悠長(ゆうちょう)帳簿(ちょうぼ)をつけているのかと思われそうだが。

 エミリアが出した条件(じょうけん)でもある“魔道具”の使用。

 それを有効に活用するために、資金(しきん)が必要だった。


 端的(たんてき)に言えば、“魔道具”を買おうとしているのだ、エドガー達は。

 ローザが出場できない以上、勝てる確率(かくりつ)は少しでも上げたい。

 シュダイハ側がもし、サクラが(かばん)から取り出した物を「それは“魔道具”ではない」と主張(しゅちょう)した場合に(そな)えての購入検討(こうにゅうけんとう)だ。

 そのためにサクラに協力してもらって計算(けいさん)しているのだが。


(……しゅ、集中できない……)


 メルティナの視線(しせん)は、返しのある(とげ)の様になってエドガーの背中に刺さっている。


<エド君……正直言って、かなりやりづらいんだけど……>

<うん。僕もだよ……>


視線(しせん)が気になるのであれば、こうしましょう」


「「――!!」」


 メルティナはそう言って、エドガーの隣に座る。

 そして(とげ)視線(しせん)は、エドガーの横顔だ。


「よ、余計(よけい)にやりづらいんですが……というか、あたしの【心通話】……聞こえるんですか?」


 この聞こえるんですか?は、エドガーとサクラのチャンネルの会話を。と言う意味だ。

 エドガーとサクラは今、どれだけの資金(しきん)を“魔道具”の購入(こうにゅう)()てられるかを計算していた。

 非常にやりにくいが、メルティナには関係ない事だった。

 だが、()えるエドガーに対し、サクラは我慢(がまん)限界(げんかい)が来ていた。


「……メルティナさん、だっけ?……いい加減、目的(もくてき)を教えてくれませんか?あたし達だって(ひま)じゃないんです、やる事あるんですから!」


「……ノー。だから見ているだけです。この行為(こうい)がそれらの支障(ししょう)になっているとは考えにくいと思われます。あなた達の集中力の問題でしょう」


 確かにもっともな反論(はんろん)だった。

 実際(じっさい)メルティナは見ているだけであり、エドガーとサクラが気にしなければいいだけと言われれば、反論(はんろん)しようもない。


「だ~か~らぁ!それだけで邪魔(じゃま)なんですよっ!メルティナさんは、一度あたしとエド君を殺そうと……したかは分かりませんけど、似たようなことしたでしょ!?」


「……イエス。その通りです。ですが、今当機(とうき)がこの少年を監視(かんし)しているのとは、関係ありません」


 肯定(こうてい)に、エドガーは一瞬(いっしゅん)だけ身構(みがま)えるが、メルティナは()ぐに訂正(っていせい)する。


「それに、今はそのつもりはありません。ローザが昨晩(さくばん)、時がたてばチャンスをくれると確約(かくやく)しました。数日後にエドガー・レオマリスを見定(みさだ)めるチャンスをくれると……」


「えっ!ローザさん、何を勝手に……」


「……僕を、見定(みさだ)める……?」


「イエス。当機(とうき)の目的は、“契約者”エドガー・レオマリスを当機(とうき)(マスター)としてふさわしいか……それを見定(みさだ)めます。それまでは、直接的な関与(かんよ)はしないと約束しましょう」


 真っ直ぐな視線(しせん)でエドガーを見据(みす)えるメルティナの(ひとみ)は。

 冷たく、何処(どこ)までも見通(みとお)してしまいそうなものだったが。

 その奥に、何かエドガーを(ため)しているような。けれども(さび)しげな、不安そうな心意(しんい)がこもっているように、エドガーは感じた。


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