表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 3章《近未来の翼》
113/383

102話【少年の葛藤】



◇少年の葛藤(かっとう)


 【貴族街第二区画(ダイディア)】。

 待ち合わせの場所から馬車で移動をし、収監所(しゅうかんじょ)【ゴウン】の近くに来ていたエドガーとエミリア、そしてローマリア王女。

 エドガーは、サクラとローザから受けた【心通話】を、今もオンにしている。

 サクラからは『【忍者】がヤバい』と、ローザからは『メルティナを向かわせる』と、報告(ほうこく)を受けた。

 何がやばいのか、メルティナって誰!?と言ってる(ひま)もなく。

 自分でなんとか自己解決させたエドガーは、何も出来ない自分に(いきどお)っていた。


 何があっても対処(たいしょ)できるように、と思ってはいたが。

 エミリアとローマリア王女を二人きりで残してもおけず、ローザからたまに来る【心通話】で状況(じょうきょう)把握(はあく)する事が精一杯(せいいっぱい)だった。


 そして唐突(とうとつ)に。


<エドガー……聞こえるかしら>


「あっ!……ああ、ごめんエミリア、何でもないよ……」


 (おどろ)いて声を出してしまい、()り返ったエミリアに謝る(あやま)


<ローザ……どうなった?>


 ショッピングの邪魔(じゃま)をしない様に、後方で荷物(にもつ)持ちをするエドガーは、エミリアと王女を見ながらローザと【心通話】をする。


<安心していいわ。サクヤは無事に回収したらしいわよ……後シュダイハ家の娘もね……サクラのおかげね>


<サクラの?>


<ええ、あの子が私に知らせなければ……サクヤはどうなっていたか分からないわ。サクヤは【心通話】も使えない状況だったみたいだから>


 サクラは、サクヤと別れた後に【スマホ】で確認しながらメイリンと帰路(きろ)に向かったらしいが。

 サクヤが向かっていた方角(ほうこう)に何人もの男達が(こぞ)って向かっていることに気づいて、ローザに【心通話】を入れたらしい。

 そのおかげで、ローザが新たな異世界人の女性、メルティナの協力(きょうりょく)()て、サクヤを助けに行ってくれたらしい。


<でも良かったよ……あの人……メルティナさん?……が協力(きょうりょく)してくれて>


 エドガーに敵意(てきい)を持っていたと思っていたが。

 ローザとは上手くいっているらしい。それだけでも少しは安心材料にできた。


<私はこれから【鑑定屋(ルゴー)】に向かうわ。シュダイハの娘を保護(ほご)して貰う為にね……【鑑定(かんてい)師】を少し(おど)……説得(せっとく)すればいいでしょう>


<マークスさんの所に?……いや、そうだね。それが一番いいと思う。頼むよ>


 ローザの考えを理解して、エドガーはローザに(たく)す。

 不審(ふしん)な一言は()えてスルーして。


<……ええ。任されたわ……キミも、王女の御守(おもり)をしっかりなさい。帰ったら、ゆっくり話しましょう>


 どことなく(うれ)しそうに、ローザはエドガーの頼みを了承(りょうしょう)する。

 頼りにされた事が(うれ)しかったのだろうか。


<うん。ありがとう>


 【心通話】を切り、「ふぅぅぅ」と息を()安堵(あんど)を浮かべる。

 一呼吸(ひとこきゅう)置くと、エドガーはエミリアと王女の近くまで歩み()る。


「――エド!これもお願い、あとこっちも!」


 と、エミリアは箱入りの高級品(こうきゅうひん)を、()って来たエドガーに渡す。


「エドガー!これも頼むわねっ!」


 王女も、結構大きめのケースをエドガーに押し付ける。


「――ちょっ……エミリア、おう……じゃなくてマリーちゃんも……買いすぎだよっ!?」


 ローマリア王女を往来(おうらい)の場で名前呼びするわけにもいかず、妥協案(だきょうあん)でマリーと呼ぶことにしたのだが、まだ()れない。


「それに、【貴族街第二区画(ダイディア)】に来たのはマリーちゃんが……」


「――わかってるわかってる、少しだけだからっ!」


 エドガーに最後まで言わせず、食い気味に言葉を遮断(しゃだん)する。

 随分(ずいぶん)楽しそうにショッピングをする王女だが、本来の目的は、収監所(しゅうかんじょ)【ゴウン】を見に行くことだった。


 あの日、城を抜け出してまで炎上する【ゴウン】を見に行こうとしていたローマリアは、他国の暗殺者(あんさつしゃ)に襲われて、願いは(かな)わずに終わっていた。

 そのおかげ?で、エミリアという大粒(おおつぶ)の素材を見いだせたので、その場は我慢(がまん)していたのだが。

 エミリアが二人きりでエドガーと出掛けると小耳に入れ、また抜け出してきていたのだ。


「ごめんねエド。少しだけ付き合って……?」


 横からひょいッと顔を出して、上半身を(かたむ)けエドガーを見上げるエミリア。

 そのエミリアが、とても可愛(かわい)らしく見えて、エドガーは何も言えなかった。




 予想外の大荷物(おおにもつ)に、エドガーは重ねられた荷物(にもつ)で顔を隠している。


「いやー買ったわね。満足だわぁ……」


「良かったね。マリーちゃん」


 まるで姉妹の様に仲良くするエミリアとローマリア王女。

 しかし、そんな平和は長く続かず。


「――やっと見つけましたよぉぉ!!」


 と、突然現れて、大声を上げるメイド。

 ――ではなく、【聖騎士】ノエルディア・ハルオエンデだった。


「げ!ノエルディア!?どうしてここにいるのよっ……!」


 本気で(おどろ)くローマリア。

 咄嗟(とっさ)に逃げようとするが、さすがは【聖騎士】。

 ノエルディアは素早い動きで回り込み、王女の退路(たいろ)()った。


「ふふふ……殿下(でんか)、よくも(だま)してくれましたね……おかげで私は、また団長と二人きりで書類整理(しょるいせいり)ですよ……!」


 汗だくで、(あご)から(つた)う汗を(ぬぐ)うノエルディア。

 如何(どう)やら本気で怒っているらしい。

 (ちな)みに、荷物(にもつ)のせいでエドガーには見えていない。


「ハルオエンデさん……まさか、殿下(でんか)は無断で……?」


 エミリアの疑惑(ぎわく)視線(しせん)が王女の背中に刺さる。

 ギクリと肩を()らすローマリア。そこにトドメとばかりにノエルディアが言う。


「そうよ。私を(わな)()めて城を抜け出したのよこの人はっ!」


「ひ、人聞きの悪い言い方をするんじゃないわよっ!」


「――でも事実でしょう!?」


 必死になるノエルディア。

 余程(よほど)嫌だったのか、騎士団長と二人きりが。


「……お、王女殿下(でんか)……」


 エミリアのドン引きのオーラを感じ取り、ローマリアは「ちがっ!」と言いかけるも。


「――ローマリア殿下(でんか)、セルエリス様が……お呼びなんです。お戻りを」


 通行人は運よくいなかった。

 (こうべ)()れて(ひざ)をつくノエルディアは、完全に【聖騎士】の一員であり、王女もふざけている訳にはいかないと気付かされる。


「……姉上が……分かったわ……戻る」


「――はい。ロヴァルト妹、悪かったわね。デートの邪魔をして」


 エミリアは「ででで、デートってわけでは……」と(あせ)っているが、内心はどうだったのだろうか。

 ノエルディアに続いて、ローマリアはエドガーに。


「……エドガーも、すまなかったわね。その荷物(にもつ)は……そうね。明日にでも取りに行かせるから、悪いけどあなたの家に置いておいてくれる?」


 突然の王女殿下(でんか)謝罪(しゃざい)に、視界(しかい)が箱で()まって、何の状況も理解できていないエドガーは「は、はぁ」としか言えず、訳も分からないままに、本来の予定だったエミリアとの話は、進まなかった。




 帰路(きろ)に向かう最中(さいちゅう)の馬車で、考えることが山積(やまづ)みのエドガーにエミリアが。


「今日はありがとう、エド。楽しかったよ……」


 笑顔を見せるエミリアに、エドガーも笑って返す。


「僕もだよ。まぁ、目的は達成できなかったけどね……」


「あはは、そういえばそうだね。大変だ~」


 まるでそうは思えない様にエミリアは笑う。

 その横顔に、エドガーは言いかけた言葉を逡巡(しゅんじゅん)する。


「……うん。大変、だね……」


 言い出せなかった。今起きている事を。

 サクヤが、怪我(けが)をして決闘に出られないかもしれない事。

 メルティナと言う新しい異世界人が(まね)かれた事。


 いずれは知る事ではあるだろう。だが。

 エミリアは【異世界召喚】の当事者(とうじしゃ)の一人でもある、きっと知りたいはずだ。

 だが、今エミリアが置かれている状況(じょうきょう)は、人生を左右される事柄(ことがら)だ。

 簡単に言えることではなく、今日だってエミリアが少しでもリラックス出来るように(はか)らうつもりだった。


 エドガーに、それは出来たか。答えは――(いな)だろう。

 自分の事ばかりで、エミリアが王女と買い物をしている(さい)

 何をしたか、何を言ったか、まるで覚えていない。


 【心通話】がいつ来ても対処(たいしょ)できるように、脳内で(いく)つもの事象(じしょう)をシュミレートした。

 その中に、エミリアを楽しませている自分の姿は皆無(かいむ)

 出てくるのは傷付くサクヤ、泣きじゃくるサクラ、そして失望するローザ。


 どれも乖離的(かいりてき)信憑性(しんぴょうせい)はない。エドガーの勝手な思い込みだ。

 それは今もそう。何度も同じ光景(こうけい)が目に浮かんでいる。


 ()れる馬車の天井(てんじょう)を見つめるエドガーは。

 何度も何度も考えを(めぐ)らせていて――肩にポスンと乗るエミリアの頭の感触(かんしょく)を、とうとう知ることはなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ