表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 3章《近未来の翼》
110/383

99話【サクヤの意地】



◇サクヤの意地(いじ)


 【下町第五区画(メルターニン)】の草原を抜けて、【下町第四区画(アル・フリート)】へとやって来た二人だったが、(あん)(じょう)、シュダイハ家の傭兵(ようへい)や騎士達が待ち()せをしており。

 サクヤは(けわ)しい顔で、ルーリアを背負(せお)りながら屋根を()けていた。


「――ぐっ……お、重っ」


 身軽(みがる)さが売りのサクヤだが、約1.5倍の体重を背負(せお)って素早く動くことは(かな)わず。

 玉の汗を流しながら、なんとか屋根と屋根を移動する。


「おっ――と!危、ない……!」

<ローザ殿!聞こえるかっ!?――返事をせぬかっ!この牛乳(うしちち)女っ!!>


 先程から何度も(こころ)みてはいるが、やはり【心通話】は使えない。


「くそっ……さっきの【魔眼()】のせいか……!」


 ここまで逃げて来る(さい)にも、何人かの敵に【魔眼】を使用した。

 その消費と、元々全快(ぜんかい)していない魔力のせいで、精神力がなくなってしまった。“魔力切れ(マジックダウン)”だ。


「しか……サクヤっ!もういいよ、私を降ろして逃げてっ!」


 ルーリアはサクヤの(なび)く赤いマフラーを(つか)んで、自分を降ろして逃げろと言う。


五月蠅(うるさ)いっ!黙っていろ!」


 サクヤにも意地(いじ)があった。


『【忍者】!その人絶対に助けてっ。シュダイハ家に何かあったのかも知れない……』


(あ奴(サクラ)がわたしを(たよ)ったのだ……絶対に(たが)えてたまるか!)


 サクラに対して、サクヤは『任せておけっ』と(みずか)ら言った。

 それを(やぶ)ることは、忍としても、仲間としても出来ない。

 更に、特別な思い(・・・・・)もある。


(――もう、絶対に……(うば)って(たま)るかっ!)


 脳裏に(うつ)る幼い自分達(・・・)に、サクヤは(ちか)った。

 しかし、おいそれと見逃すほど、追手(おって)達も(あきら)めはよくない。


「――いたぞぉぉ!こっちだ!」

「矢を掛けろっ!上だぞ!!」

「馬の奴は回り込めっ!!出口は固めろよ!」


 物騒(ぶっそう)なことを簡単に口にする追手(おって)達に、サクヤは舌打ちをする。


「ちっ!あ奴等(やつら)、民の事はお(かま)いなしかっ……こんな群衆(ぐんしゅう)の中で弓矢など……くそっ!!」


 サクヤは屋根を走りながらも、袖口(そでぐち)から苦無(くない)を取り出し投げる。

 苦無(くない)は、下を走る馬の足に刺さり、乗っていた傭兵(ようへい)がドスンと落馬する。

 馬が倒れたすぐ(そば)には、乳幼児(にゅうようじ)ほどの子供を(かか)える母親がペタリと座り込んでおり、もしも馬が倒れなければ、親子ごと()かれていた事だろう。


「……サクヤ、貴女(あなた)……!」


 サクヤが親子を助けた事に気付いたルーリアは、こんな状況でも視野(しや)の広いサクヤに驚く。


「死なれても目覚めが悪かろう!……むっ!?――ルーリア!あの集団(しゅうだん)はなんだ!?」


 一屋根(ひとやね)を飛び()えて、第四区画の中心部、【噴水広場】に降り立ったサクヤとルーリア。エドガー達とグダグダな報告会(ほうこくかい)をした場所だ。


 サクヤは(すで)に肩で息をしていた。魔力はとうに()きて、純粋(じゅんすい)な体力だけで行動をしている。

 エドガーには(けっ)してできない芸当だった。


「あれは……警備隊だわっ。この【下町第四区画(アル・フリート)】の警備隊よっ!」


 助かったと、ルーリアはサクヤの手を取る。


「……」

(くそ、もう【魔眼()】が見えん……)


「サクヤ……?」


 警戒(けいかい)()かないサクヤは片目を(つぶ)り、十五人前後の集団の兵士達を見て()べる。サクヤの顔は(けわ)しい。


「ルーリア……残念だが、助けてくれるわけではなさそうだ……行くぞっ!」


 警備隊の兵士は、全員が()ぐに剣を抜ける常体だった。

 後ろの兵士も、矢を(すで)に弓に(つが)えている。

 そんな奴らが助けてくれるとは、到底(とうてい)思えない。


「――えっ!?ちょっぉぉ……」


 再びルーリアを背負(せお)い直して、サクヤは()ぶ。

 警備隊の兵士たちも、失敗したと言わんばかりに()び上がるサクヤを見上げていた。




「はぁ……はぁ……っく、はっ……」


 サクヤの体力も限界(げんかい)に近い。

 一人ならば瞬時(しゅんじ)(だっ)する事が出来ても、一人増えただけでここまで(つら)いものだとは、サクヤは想像(そうぞう)もしていなかった。

 何件かの家を()び、警備隊の兵士達とは多少の距離(きょり)を置いたが。

 とうとう、サクヤにも限界(げんかい)がきてしまった。


「――ぐっ……!!」

「――きゃっ!!」


 脚が上がらずに、サクヤは屋根瓦(やねがわら)(つまず)き、二人はそのまま倒れる。

 ガシャァァン!と(かわら)は割れて、ルーリアは投げ出される。

 サクヤに(いた)っては受け身も取れずに顔から落ちた様で、(ひたい)や鼻から血を出していた。


「……ぃつっ……!サ、サクヤ!」


 ルーリアはサクヤに()る。

 だが、それと同じくして屋根には四方から梯子(はしご)がかけられ、傭兵(ようへい)達が(のぼ)りあがって来た。待ち()せをしていた奴らだ。

 このタイミングを狙っていたのだとしたら、少しは頭の回るものがいるらしい。


「……に、逃げろ。ルーリア……わたしは、()て置け……」


 身体を動かせずに、突っ()したままルーリアに言うサクヤ。


「出来ないよっ!サクヤ……!立って!――きゃっ」


 サクヤを立たせようとするルーリアだったが、(くず)れ割れた(かわら)に足を取られ、バランスを(くず)(たお)れる。

 この家の持ち主らしき人物が下で傭兵(ようへい)達に文句(もんく)を言っているのが聞こえるが、傭兵(ようへい)達はどうやら金を(はら)っているらしい。

 それほどまでにルーリアを(つか)まえたいようだ。

 シュダイハ家は、今回は随分(ずいぶん)用意周到(よういしゅうとう)だったようだ。


「……ぐ、ぐぅっ……」


 残った体力を振り(しぼ)って、なんとか起き上がるサクヤだが。

 うっすらと開けられた左眼の【魔眼】は光を完全に失い、それこそ《石》のようになっている。

 鼻から()れた血が口に入り、鉄の味を広げていく。


「……サクヤっ」


「――お~お~!頑張るじゃねえか……お(じょう)さんよぉ……」


 屋根に上がってきた男の一人が、ルーリアに(せま)る。


「――……ボ、ボルザ?……ボルザなのっ!?……ど、どうして貴方(あなた)がっ!?」


 屋根に上がってきた男に、ルーリアはかなり動揺(どうよう)している。

 ボルザと呼ばれた男は首をゴキゴキと鳴らし、()り上げられた短髪を()(むし)ると。


「ええ。ルーリアお嬢さん……オレですよ。ボルザ・マドレスターです……随分(ずいぶん)と久しぶりですね……それより、ご当主(とうしゅ)がね、今戻ればまたメイドとして屋敷(やしき)にいてもいいとおっしゃってますよ?戻らんのですか……?戻れば、そのガキは助かるかもしれませんぜ?――クハハハっ」


 ルーリアとサクヤを見下(みお)ろしながら、ボルザは笑う。


「――ほ、本当っ!!?」


 聞きたいことは沢山(たくさん)あったが、「助かる」という言葉に反応し、思わず(さけ)ぶルーリア。しかし、サクヤは。


「……噓八百(うそはっぴゃく)に決まっているだろう。ルーリア……周りを見ろ、下もだ」


「――!」


 (すで)に二人の周りは囲まれており。

 下も、隣の家も包囲(ほうい)され、屋根にも傭兵(ようへい)がいた。

 騎士達は居なくなっているが、何か規約(きやく)の様なものがあるのだろう。


「……ボ、ボルザっ!なんで!貴方(あなた)がなんでそんなことをするの!?」


「いやはや……そんなに凄まれてもね、お(じょう)さん……決まっちまったもんは、しょうがありゃしないでしょう?」


 ボルザ・マドレスターは、シュダイハ家の使用人だった男だ。

 当然シュダイハ家の内情(ないじょう)も知っている。


「でも、貴方(あなた)は……!父様に……」


 ――殺された、はずだ。


「……ええ、死罪(しざい)になりやしたよ……お(じょう)さんに手ぇ出したのがバレてね……でも、ご当主(とうしゅ)は俺を殺さなかった。それどころか、娘に手を出すとはいい度胸(どきょう)だっつって、俺に店の管理(かんり)を任せて下さったんです……感謝しかありゃあしませんよ」


「――そ、そんなっ……どうして……私は……貴方(あなた)が居なくなって……」


 ルーリアは真実(しんじつ)にショックを受ける。

 シュダイハ家は、どこまでも快楽街(かいらくがい)(とら)われているらしい。


「……娘に手を出した男を、腹心にしたわけか……」


 ルーリアの反応を見る(かぎ)り、このボルザと言う男とは真剣(しんけん)だったのだろう。

 だが、それすらも父に利用されたというわけだ。シュダイハ家が取り仕切る快楽街(かいらくがい)を広げるために。


「やはり……ルーリアを置いては行けんな……わたしは、まだ――っぐ!がぁぁぁぁ!!」


「――サクヤ!!」


 サクヤは立ち上がろうとした。しかし、隣の屋根にいる傭兵(ようへい)はそれを待たずに矢を掛けたのだ。その傭兵(ようへい)の男は、サクヤが先程苦無(くない)で落馬させた男だった。

 ()けることも出来ず、肩に突き刺さった矢には、強力な毒が()られていたようで、倒れたサクヤには意識(いしき)がなかった。


「サクヤ!サクヤぁ!!」


 ルーリアはサクヤを(かか)えて、肩の矢を抜こうとしたが、紫になる(はだ)を見て、()ぐに毒だと判断する。


「……ボルザっ!解毒剤(げどくざい)は!?あるんでしょう……!?」


「……解毒剤(げどくざい)?ありやせんよそんなもんは」


 笑みを浮かべて、倒れるサクヤとルーリアを見下げるボルザは、近づいてルーリアの傷ついている腕を取った。

 痛みに、ルーリアは(かか)えていたサクヤを(はな)してしまい、ドサリと(かわら)に落ちた。


「――ああっ!サクヤ……はな、離してっ!ボルザ!貴方(あなた)……許さないっ……許さないっ!」


 ルーリアは、憎悪(ぞうお)を乗せた視線(しせん)でボルザを(にら)む。

 涙で(にじ)(ひとみ)には、笑みを浮かべるボルザと死に(ひん)するサクヤが(うつ)る。

 しかし天を(あお)ぐサクヤの口元が笑っている事に、ルーリアもボルザも、周りを取り囲む傭兵(ようへい)達の誰もが、気付く事はなかった。





 空を(ただよ)緋色(ひいろ)噴出色(ふんしゅつしょく)は。

 深紅(しんく)の魔力を(おお)っていた。

 その魔力は自身の緑色の魔力(・・・・・)ではなく、分け与えられたものだった。

 天空(そら)()ける影は、雲を突き抜けて上空で停止する。


<レーダーにて確認。次の指示(しじ)を……>


<待ちなさい――ええ、分かっているわ。場所はもう把握(はあく)した……大丈夫よ。落ち着きなさい……ちゃんと間に合わせるから。ええ、貴女(あなた)は安心して、メイリンと一緒に帰って来なさい……――準備はいいわね?>


 同時に二人と会話していたと見られる女性の声が、脳内回路(のうないかいろ)から直接聴こえる。

 (ちゅう)に浮く影は答える。


<イエス。システムの起動(きどう)は完了しています>


<そう。なら……力を()してもらうわよ……?食事の礼ってことでね。対象(たいしょう)は真下の、黒髪の少女サクヤ……そして隣にいる女性。いるわよね?……その二人よ。いいわね?>


 《石》の反応だけしか(たよ)りに出来ない為、二人目の対象(たいしょう)がいるかは分からないようだった。


了解(りょうかい)しています。情報提供(ていきょう)の礼を(ふく)めて――ターゲットを救出(きゅうしゅつ)します>


<私の魔力を分けたのだから、しっかりと(はたら)いてもらうわよ……メルティナ(・・・・・)


<イエス。情報分は(はたら)かせていただきましょう――ローザ……>


 そうして、人工知能【M・E・L(メル)】。いや、異世界人メルティナ・アヴルスベイブは、助けるべきターゲットが倒れる場所に目安(めやす)を付けたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ