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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 3章《近未来の翼》
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94話【心遥かに、願いは空に】



心遥(こころはる)かに、願いは空に◇


 気を取り直した二人は。転がったサクラの椅子(いす)を直して元の位置に戻すと。


「じゃあ、話しを続けるよ?大丈夫?」


 エドガーの言葉に、椅子(いす)へ座り直したサクラは「うん!」と、気合を入れて(うなず)く。

 今度はキチンと、前を向いてエドガーの話を聞こうと思った。

 後ろ向きにならない様に、背筋(せすじ)を伸ばして。


「さっきは、僕も言葉足らずだったよね……ごめん」


「ううん。あたしも悪かったから……」


 柱の影からちらりと見えるサクヤのポニーテールが気になるが、気にしない様に心掛けようと思う。

 ローザに(いた)っては隠れるつもりはなさそうで、(かべ)()りかかってる。

 いつからそこにいたのだろうかと、内心疑問(ぎもん)(いだ)くが、一瞬(いっしゅん)だけローザと目が合って、サクラはビクつく。

 またヒステリックになったら、もう一度殴られるかも知れない。


「決闘の話だけどさ……僕達は人数が足りない。でもサクラが出なくてもいい方法もある……そう言いたかったんだけど……本当にごめん。誤解(ごかい)させたんだろうね」


「……うぅ。そうかも」


 自分の勘違(かんちが)い。

 早とちりしたんだと気付いて、恥ずかさが増していく。


「僕がさっき言った「出なくてもいい」は、サクラが出なくても大丈夫な方法の事だよ、それはいくつかあって。一つは、マークスさんに(すけ)()(たの)む事……」


「【鑑定(かんてい)師】さん……?」


「そう……でも、多分見込みはない。マークスさんは王家御用達(ごようたし)の【鑑定(かんてい)師】だから、危険な戦いに参加するなんて、王家は許可しないと思うんだ。後、ローマリア殿下(でんか)が許可できないと思う」


「……肩入れしてると思われるからだね」


 ローマリア王女が、王家と少しとはいえ、(かか)わりがある人物の(すけ)()を許可する訳がない。出来ないのだ。


「そうだね……そして次だけど、サクラを大将(たいしょう)にする事……」


「……あたし?」


「うん。サクラを大将(たいしょう)にして、先に三勝してしまえばいいんだ……」


 可能性はなくはない。だが、相手のメンバーが分からない以上、確証(かくしょう)のないことをすることはリスクがある。

 反面、最終的にサクラが勝たなければならない状況(じょうきょう)が出てくる可能性だってある。


「でもさ……多分大将(たいしょう)はエミリアちゃんじゃないと(みと)められないんじゃない?」


「そうだね……その可能性が高い。セイドリック・シュダイハが(みと)めるとは思えないし……副将(ふくしょう)にしたとしても、一敗したら出番が来てしまうからね」


 逆を言えば、三敗すれば出番こそないが、その時点でエミリアは結婚させてしまう。


「そこでね……エミリアが言い出した条件(じょうけん)だよ。覚えてる?」


 指を(あご)に当てて、考える。

 本当は考えなくても出てきてはいたが。


「……えっと、確か。“魔道具”の使用許可(きょか)……だよね?」


「うん。だから、サクラの(かばん)……そこから取り出したものを、“魔道具”ってことにすれば、何でも持っていける……個数に制限はないからね」


「いや、でも……」


 サクラは、極力(きょくりょく)【地球】のテクノロジーを持ち込まないようにと思っていた。

 だがそれは、異世界で与えられた能力を切り捨てているも同義(どうぎ)であり、自分の力を自分で下方修正(ナーフ)しているみたいなものだ。


「何かないかな……役に立ちそうなもの。自衛(じえい)するものでもいいよ……この(あいだ)使っていた、【電気棒】でもいいし」


 エミリアを助けるために取り出して使った、【ロングスタンガン】の事らしい。

 エドガーも、無理にと言っている訳ではない。

 それはサクラにも分かる、言葉も声も優しいし、サクラに気を遣っているのが分かる。

 でも、(つた)わってくる必死さは、エミリアを助けたいという思い一心なのだ。


 だからあの時だって、怖いけれど騎士や傭兵(ようへい)と戦ったのだ。

 しかし、その時はローザもサクヤもが守ってくれていた、一対一の決闘とは訳が違う。


「……むぅ」


 エドガーの真意(しんい)が深く(つた)わって。

 エミリアが大事だ、と言うのが分かってしまい、自然とむくれっ面になってしまう。


「えっ?……なに?その顔……どういう感情!?」


 初めて見るサクラの表情(かお)に、エドガーも(おどろ)いている。

 子供のように(ほほ)(ふく)らませ、何かに対していじけているような、そんな顔。

 しかしサクラは、()ぐに表情(ひょうじょう)を戻すと。


「……分かった。いいよ。あたしの世界の武器……色々使ってみても」


 サクラの世界、【地球】の近代兵器。この世界には異質のテクノロジーだ。

 エドガーがエミリアを助けたいという想いは、サクラにも痛いほど(つた)わっているし、サクラだってエミリアを助けたいという想いは同じなのだ。

 ただ、自分の度胸(どきょう)覚悟(かくご)のレベルが低すぎるだけだと、サクラ本人は思っている。


「いいの?……って言うかさっきの顔は何!?凄く気になるんだけど!」


「……だけど、条件(じょうけん)があるよ……あたしの世界の武器は、多分この世界からしたらオーバーテクノロジーだから、もしあたし以外の人間が使用したら……世界が変わっちゃう。【忍者】は(さわ)ったら(しび)れてたりしたけど、他は分からないからね」


 (いじ)られたくないのか、完全にエドガーの話をスルーして話を進める。

 ペラペラと言葉を並べて、(ふく)れた顔を隠す。


「え、無視……!?」


「――もうっ!いいから……!!」


「いたっ!」


 意外としつこいエドガーの腕をポカッと叩き、サクラは立ち上がる。


「ローザさんにもお礼言わなきゃ……エド君、ちょっと待ってて!」


「――ええっ?サクラっ!?」


 もの凄く痛かったが、ローザが(なぐ)ってくれなければ今も混乱(こんらん)して、勝手にエドガーの言葉を悪く取っていたかもしれない。

 最悪の場合、エドガーに何を言ったか分ったものではない。

 こんなことで嫌われたら、本当に異世界に来た意味も無くなる。


 サクラは、一階廊下(ろうか)の曲がり角にある柱に()りかかるローザと、隠れているサクヤのもとに小走りで()()り。


「ローザさんっ……さっきはありがとうございました。(なぐ)ってくれて」


「――!?……フフっ……人聞き悪いわね……(なぐ)ってないわよ、ビンタよビンタ」


 ローザは一瞬驚(いっしゅんおどろ)き、笑いながらも(なぐ)ってはいないと否定(ひてい)する。


「ええっ!あんなに()き飛んだのにっ!?メチャクチャ痛かったんですけど!」


 サクラは椅子(いす)から転げ落ちるくらいは()き飛んでいたが。


「――確かに、(なぐ)ってはいなかったが……ものすっごい飛んでいたな」


 柱からひょこッと顔を出すサクヤも、目撃者(もくげきしゃ)として証言(しょうげん)する。


「……(ギロリ)」


「――いっ!」


 ローザに(にら)みを効かされ、サクヤは逃げる様に柱の影に戻った。

 そんなサクヤにも、サクラは聞こえるように。


「【忍者】もさ……多分見ててくれたんでしょ……サンキュ」


 ササっと話をすると、エドガーのところに戻っていくサクラ。何だか(かろ)やかだ。


「……少しは元気になったみたいね」


「だなぁ。しかしローザ殿……あの平手打(ひらてう)ちは(ひど)かったぞ……炎をまとった平手打(ひらて)ちなど、初めてみた……」


 エドガーとサクヤしか知らない、目撃談(もくげきだん)


「仕方がないでしょ……あの子、そうとう心が弱っていたわ……」


 ローザがここから出て行った時、まさかサクラを(はた)きに行くとは思わなかったが。


「何か意味があったのか?そういえば、火傷(やけど)などはしていないみたいだが……」


 あれだけの炎を()りばせながらビンタをしたはずなのに、火傷(やけど)どころか火花(ひばな)すら()らなかった。

 サクラがその光景(こうけい)を知ったら、どう思うだろうか。

 不思議(ふしぎ)に思うサクヤの視線(しせん)は、ローザが行った事を知りたいと言う欲求(よっきゅう)()め尽くされてローザを|射抜《》いぬく。


「……わ、分かったわよ。そんなに見なくてもいいでしょう……その眼やめなさいっ」


 【破邪炎掌ヒート・エンシュライン】、それがその技の名前だった。

 正式には、破邪(はじゃ)の《魔法》だ。それは戦闘には使えず、呪いや病気を倒す(いの)りの様なものだった


「この炎は(いや)しの炎よ……悪い気や不安(ふあん)な気持ちを(はら)ってくれる、燃えない炎よ……使い方は本来の目的とは違うけれど、今のあの子(サクラ)には必要みたいだったから……(てのひら)に乗せて使ってみたわ……」


「つ、使ってみたとは……なんとも挑戦的(ちょうせんてき)な言い方なのが気になるが、言わばお(はら)いであろう?」


 柱に寄り()いながら、ローザの技を自国の行事(ぎょうじ)(たと)えるサクヤ。


「ええ。成功してよかった……うん、本当によかった」


「い、意外と無責任(むせきにん)なのだな……ローザ殿」


 遠い目をしながら、他人事(たにんごと)のように言うローザに(あき)れるサクヤ。

 そんなローザが見ている先を、サクヤも見つめる。二人が見るのはサクラとエドガーだ。

 先程からの疑問をエドガーはサクラに聞くが、サクラは絶対に答えなかった。


「ま、こんなものでしょう」


「ああ。そうだな」


 元気のなかったサクラが、ああして笑っているだけで、少しは道が開けたように感じた。




「お待たせっ」


 ローザの元から戻って来たサクラは、何故(なぜ)かさっきよりも元気になっていた。


「もういいの?」


「うん!」


 満面の笑みだった。

 エドガーも笑って「そっか、所で」と返す。


「――よ~し!やるぞ~!!よしよし、まずはどうしようかなぁ……?」


「いや、さっきの……」


「さあエド君!頑張ろうね!」


 無性(むしょう)に元気になっているサクラは、拳を胸元で(にぎ)り意気込む。

 不思議(ふしぎ)とから元気にも見えるが、本人が前向きになってくれたのだから、そこは良しとしよう。


「はぁ……分かったよ。もう聞かないから……」


「ならよしっ」


「――サクラ、さっき(かばん)を使うのに、条件(じょうけん)がなんとか……って言ってたよね、あれはなに?」


「ん……?あ、ああ。そうだね!」


 エドガーの言葉にサクラはニコッと笑うが。

 笑顔で誤魔化(ごまか)しても分かった。絶対忘れてた。


「……で、条件(じょうけん)って……?」


 サクラは椅子(いす)に座り「そうだなぁ」と考え、一拍(いっぱく)置いて手を打つと。


「そうだっ!あたし、エド君の“召喚”……見てみたいなっ!」


 【召喚師】エドガー・レオマリス。

 (あるじ)のはずの少年の(わざ)を、サクラは見たことがなかった。

 単純(たんじゅん)に、出会ってからの時間が(あさ)いというのもあるが。


「“召喚”……?そんなのでいいの?」


 エドガーも、別段(べつだん)嫌そうな顔はせずに許可(きょか)をする。


「うんっ!それがいい。それがいいよっ」


 サクラは一人で納得(なっとく)する。どうやら決まったようだ。

 エドガーの“召喚”は、恐らく強化されている。

 三人の異世界人との契約で、最大魔力はかなり上昇しているし、なにより【異世界召喚】と言うエドガーにしかできない事もある。


 以前は、通常の“召喚”に使っていた時の魔力量を、今のエドガーは(すで)に上回っている。

 もう、パーツ一つ一つを“召喚”するだけでは。

 スタミナ、魔力ともにそうは切れないはずだ。そうならない自信も付いている。

 問題は、先日の戦いから日が()っていない事だけだ。


「うん。分かった……じゃあ【召喚の間】に行こうか。あそこの方がやりやすいからさ」


 【召喚の間】は、サクラとサクヤが初めてこの世界に来た時にいた場所。

 サクヤは訓練(くんれん)などで何度か行っていたはずだが、サクラはあの日以来だ。


「オッケー!行こう」


 二人は移動を開始する。

 地下にある【召喚の間】に。




 【消えない種火】は、不吉なものを受け付けない破邪(はじゃ)の《石》だ。

 邪悪(じゃあく)を打ち(はら)う力は、今サクラに披露(ひろう)したように不安なども()ってくれる。

 エドガーを()き寄せながら眠ったのも、実はその力だったりする。

 そんな《石》が()()()()()()反応に、ローザは手を打たねばならない。


「……サクヤ」


「ん?なんぞ……?」


 地下に向かったエドガーとサクラを見送りながら、ローザは何かを(いぶか)しむように()げる。


「気を()っておきなさい……嫌な予感(よかん)がするわ。もっと(くわ)しく言うのなら、エドガーとサクラを見ておきなさい」


「……また不穏(ふおん)なことを言ってくれる……」


 二人を見送るローザは、天窓(てんまど)から空を見上げて(つぶや)く。


「……変なものを“召喚”するんじゃないわよ……エドガー」


 残念ながら、ローザの不安は的中(てきちゅう)してしまう。

 ――新たな異世界人と言う、来訪者(らいほうしゃ)の“召喚”で。


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