表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 3章《近未来の翼》
102/383

92話【四日目~サクラの心境~】

誤字修正しました。



◇四日目~サクラの心境(しんきょう)~◇


 昨日の話し合いの後半は、もう何が何だか分からないまま過ぎて行っていた。

 あたしがローザさんの代わりに戦いに出なければならない。

 会話の途中(とちゅう)でそう気づいて、何も考えられなくなった。

 そしていつの間にか王女様達は帰っていて、あたしは大浴場の湯船に(しず)んでた。らしい。


 【忍者】とメイリンさんが見つけてくれなかったら、死んでたかもしない。

 気が付いた時には、全裸でベッドに寝てた。

 丁寧(ていねい)にシーツは掛けられていたけど、普通そのままにする?


 どうせ【忍者】が、「大丈夫だろう」とか言ったんでしょ。

 あのメイリンさんが、年頃(としごろ)の乙女を全裸で放置(ほうち)するわけないもん。

 多分、多分ね。


 そして今、あたしは食堂にいる。

 流石(さすが)にお腹が空いて、こうして(かた)いパンを食べているわけだけど。


「……ど、どうしたの……?エド君」


 目の前で、あたしの“契約者”である同い年の少年が、ものすご~くにこやかに笑ってる。

 もうなんか――怖いくらい。


「いや……サクヤがさ、サクラが元気がないから……って」


 あの【忍者】――余計(よけい)なことを。後で電撃()びせたるっ。

 でも、エド君に心配されるのは――その、悪くない。

 やけに心配されてる気もするけど――って、なんか近くない!?

 いつの間にか隣に座るエド君は、あたしの顔を(のぞ)き込む感じで近くにいて。

 ああ、ドキドキする。【日本】にいた(ころ)も、男の子とこんなに近づいたことなんてなかったのに。


「な、なにエド君……近いよ、ちょっとキモイ」

(ああ!ごめんエド君……思ってもない事を……いや、近すぎなのはちょっとキモかったけど)


 顔を赤くし、あたしは席を立つ。

 何故(なぜ)かエド君も同じく立って。


「そ、そっか……あ!そうだサクラ!何かしてほしい事とかない?……なんでもいいよ?なんでも」


 いきなりどうしたのだろう。

 エド君が変なおっさんみたいなこと言いだして、何か本当に怖く感じるんだけど。


「――な、ないよ。あたし、行くね」


 あたしは逃げる様にエド君から(はな)れて部屋に戻った。

 閉められた扉は、多分思いっきり閉めたせいで、大きな音を鳴らしたと思う。


「はぁ~~。何やってんだろ、あたし……」




 ここは異世界【リバース】。

 【日本】じゃない。戦いなんて知らないし、ましてや人が、自分が死ぬかもしれないなんて、考えたこともなかった。

 でも、折角(せっかく)友達になった女の子(エミリアちゃん)が、無理矢理結婚させられて。しかも相手が()()な男ときたら、そりゃあ止めたいと思うよ。


 だけどさ、あたしは身体能力が特別高いわけでもなければ、《魔法》が使える訳でもないんだよ?数合(かずあ)わせで戦ったとしても、絶対に足を引っ張る事確定(かくてい)


「確かに、ここに来ることを決めたのはあたしだけどさぁ……」


 ベッドに寝転んで、考える。

 現実に嫌気がさして、異世界に逃亡(とうぼう)してきたあたしは、たぶん卑怯者(ひきょうもの)なんだろう。

 でも、誰だって簡単に死にたくはないだろうし、かと言って、あたしは誰かを傷つける勇気もない。


「ああ~!どうしようどうしようどうしようっ!――痛っっったぁ!!」


 ベッドの上でジタバタ手足を暴れさせて、ヘッドボードに手をぶつけた。


「……はぁ~」


 痛みを()えて、気分転換(きぶんてんかん)にあたしは廊下(ろうか)に出る。

 一階に下り、ロビーから厨房(ちゅうぼう)に向かって水を飲もうかと思ったのだが。

 そこにある窓から【忍者】の声が聞こえて、自然と耳を()ましていた。





 厨房(ちゅうぼう)の裏側にあたる、庭の広い空間で、サクヤはローザの《魔法》を見せてもらっていた。


「これが《魔法》か……確かに凄い。が、対処法(たいしょほう)はいくらでもあるのではないか……?」


 ボゥッ――と、右手の炎を消し去りローザは言う。


「その通りよ。今のだって、対処(たいしょ)は簡単……だけどね、戦場ではそんなに冷静(れいせい)ではいられないのよ。大体が戸惑(とまど)って、混乱(こんらん)して……考えが(およ)ぶ前に殺される。経験が(あさ)いものほど、これに(おちい)るわね」


「……であろうな。距離を取ろうとすれば燃やされて、近づけば斬られる。さぞ斬ってきたのであろう?」


「――まぁね。戦争(せんそう)が多い国だったから……特にね」


 サクヤは、座っている切り(かぶ)から足を投げ出し上を向いて(つぶや)く。


「わたしからしたら(うらや)ましい話だな……わたしのいた国も戦時中であったよ……でも、わたしは(いくさ)に出たことがない。なまじ知識(ちしき)はあるのだが、実戦は全然だからな」


 ローザはもう一度炎を出し、それを剣の形に(ととの)えると、サクヤに渡す。


「それであの【大骨蜥蜴(トカゲ)】と戦えたのなら、大したものだと思うわよ……――これで、どうかしら?」


「で、あるか?……――これは?随分(ずいぶん)と短いが……」


 サクヤが受け取った剣は、刃渡(はわた)り50センツ(cm)の短めの剣だった。

 ローザが使うにしては、リーチが足りない気もするが。


「これはまた……綺麗(きれい)な刀身だな。何か、不思議(ふしぎ)な……」


 真っ赤に(きら)めく刀身は不可思議(ふかしぎ)な熱を放ち、持ち主に(あたた)かさをくれている。

 (みね)は無く、所謂(いわゆる)西洋剣であり、サクヤからすれば使いにくいかもしれない。

 サクヤは、腰から小太刀(こだち)を抜き、見比べる。


「う~む。職人(しょくにん)が手打ちで(つく)るのと……遜色(そんしょく)ないな、見事だ!」


 むむむ、と目を細めて小太刀(こだち)を見比べる。

 サクヤは鍛冶職人(かじしょくにん)と、ローザが魔力で(つく)った剣を比べていた。

 時間を掛けて作られる一品と、魔力を()って一瞬(いっしゅん)(つく)られた剣は、全く遜色(そんしょく)のない作りをしており。

 むしろローザが魔力を()めている分、性能がいいだろうと思わせる。


「で、どう?……()()()が使うにしては、まだ長いかしら」


 サクヤはローザに剣を返し。


「いや、丁度よいかもしれない……?長すぎては(あつか)えないであろうし、短すぎても困るであろうしなぁ……落としどころとしては、妥当(だとう)だと思うが……――ふはっ」


 サクヤはついつい、長い剣に振り回される少女を想像(そうぞう)して笑う。


「――なに?どうかしたの?」


「いやなに。あ(やつ)が長い刀に()り回される姿が浮かんでな……見事に転びおったのだ、それが可笑(おか)しくてな」


「……そういうものかしらね。私には分からないわ」


 笑うサクヤを、ローザは微笑(ほほえ)ましく見る。

 ローザにとっての武器は、敵を倒せるかどうか、それ一点だけで、安全性や利便性(りべんせい)は求めていなかった。


 自分の使う【消えない種火】が(つく)り出す剣は、機能性などは度外視(どがいし)(つく)られていて、敵をたたき()せる為なら、何でもよかった。


 サクヤに「あ(やつ)の為に剣を作ってほしい」と言われた時、エドガーに渡した剣を初めは(つく)ろうとしたが、事前に却下(きゃっか)された。

 先ほどからも、実は何度も(つく)っていたのだが。

 今回の、剣としては短くナイフとしては長いこの剣がピッタリだと依頼者(サクヤ)は言う。


「ああ。これでいこう……当日はこれを(たの)む……本当は……戦わせたくなどないが……」


了解(りょうかい)よ……でも、貴女(あなた)も心配性ね……まるでお姉さんだわ」


 ローザは剣を消滅(しょうめつ)させ、感謝するように右手の《石》を()でる。


「――!……し、仕方がなかろう。死なれても目覚めが悪いしな!それだけだぞっ」


「……はいはい」


 ほんのりと(ほほ)を染め、そっぽを向くサクヤは。

 まるで危なっかしい妹を心配する――お姉ちゃんのようだった。





 厨房(ちゅうぼう)でしゃがみ込み。自身の身体を()き寄せる。

 (ひざ)(かか)える腕には力が込められ、外から聞こえてきた会話の内容が、自分の事だと()ぐに理解できた。


「……」


 サクヤとローザが、意外にも心配してくれていた。

 しかも、サクヤは自分のためにローザに(たの)み事までしてくれていた。


 それでも――怖い。

 死への恐怖(きょうふ)はそう簡単に(ぬぐ)えず、自分が殺されるかもしれないビジョンが何度も浮かび上がる。


『……死ねばいいのに』

『死ねば?』

『死んでくれないかな……』

『死ねよ』

『死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね』


「……っ!」


 頭を(ひざ)に打ち付けて、ギュッと身体を()きしめる。

 元の世界で受けた、思い出したくない事を、鮮明(せんめい)脳裏(のうし)に浮かべてしまう。

 ローザとサクヤの言葉を受けても、サクラの心には《死》と言うものが、こびり付いて(はな)れてくれなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ