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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 3章《近未来の翼》
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91話【覆す為の条件】



(くつがえ)す為の条件(じょうけん)


 大きな麻袋(あさぶくろ)から、酸素(さんそ)を求める魚のように出てきた金髪の男。

 セイドリック・シュダイハ。

 【貴族街第四区画(サファラス)】を統治(とうち)する貴族子爵の息子であり、今回エミリアの結婚相手として元・大臣、ジュアン・ジョン・デフィエルに選ばれた人間。

 少し小太りの、勘違(かんちが)い野郎。(サクラの見解(けんかい))


「――むごぉ!むごごぉっ!?」


 口には布地(ぬのじ)()まされ、麻袋(あさぶくろ)の中にいたにも(かか)わらず目隠しもされていた。

 エドガーは「貴方(あなた)はっ!?」と言っていたが、本当に分かったのだろうか。


「えっと……セイドリック・シュダイハ……さん?」


「エド君、分かってなかったんだね……」


 「むごぉぉ」と何かを(わめ)いているが、首につけられた(なわ)を、メイド服姿のノエルディアがグイっ!と引っ張る。


「ふんぐぅっ!……」


 首に(なわ)が食い込み、一気に(だま)り込むセイドリック。顔は真っ青だ。


「そう。静かにしていなさい……この愚図(グズ)がっ……」


 ストレスが相当()まっているのだろうノエルディアは、セイドリックを家畜(かちく)を見るような視線(しせん)(だま)らせる。

 その(すじ)の人が見たら、大変喜びそうな視線(しせん)()えて。


「ノエル……一応彼は貴族だから、(ひか)えめにね」


 オーデインも迷惑をかけられた借りがあるからか、ノエルディアを止めようとはせず「ボディにしなさい」と、不穏(ふおん)なことを言っていた。


「「……」」


「どうしてその(くず)がここに……?私達への手土産(てみやげ)だって言うのなら、()ぐにでもありがたく焼却(しょうきゃく)するけれど……?」


 エドガーとサクラは、この状況に何を言おうかと思案(しあん)していたが、ローザは怒りが優先したのかド直球を口にし、本当に生ゴミを見る目でセイドリックを見下していた。


「ぬふううぅぅぅぅっ!!――んがおぅ!」


 ローザの威圧(いあつ)を戦場で一度受けているセイドリックは。

 ローザの声が聞こえた瞬間(しゅんかん)それを思い出したのか、身震(みぶる)いを加速させて逃げようとする。が、ノエルディアに首の(なわ)を引っ張られてすっ転んだ。


(だま)れと言ったでしょう!」


 静かにしていなさい。とは言ったが――ああ、足蹴(あしげ)りまでしている。


「……ははは……すみません」

「ローザさん……いきなりそれはないよ……」


 エドガーは王女に平謝(ひらあやま)りし、サクラは頭を(かか)えていた。


「そうだったわね……いくら本当の事でも。言い過ぎ……てはないと思うのだけれど。私は間違っていないでしょう……?」


「そ……そうだけどさぁ……」


 あくまでも()ではないと言うローザ。

 そんなローザやサクラのやり取りを見て王女は。


「ぷっ。はははははははははははっはぁ、はぁ、お、お腹が……流石(さすが)に言い過ぎだぞ……ロザリーム殿。まぁ――貴殿(きでん)のお立場から考えれば、それもそうなのであろうがな……」


「「「……」」」


 ローマリアの言葉には、何か色々なことが(ふく)まれているようにも感じられたが、気付いたのはローザ本人だけだった。


「いやしかし……はははっ……あはは。あ~笑った……しかしだな、この(くず)を……おっと。このセイドリック・シュダイハを連れてきたのは、エミリアの婚姻(こんいん)に関係があるからに他ならないのだ……ノエルディア」


「……はい」


 そう言われて、ノエルディアはセイドリックに()ませていた口布(くちぬの)を外す。


「ぶはっ……で、殿下(でんか)!な、何卒弁明(なにとぞべんめい)を!!」


 セイドリックは、口が自由になった瞬間(しゅんかん)に声を上げ、ローマリアに謝意(しゃい)(しめ)す。

 目隠しはまだされているのに、よく位置が分かったものだ。


「ほう……だがな……シュダイハ子爵子よ――誰が口を開いていいと言った……?」


 セイドリックを睥睨(へいげい)するローマリアの目には、明らかにエドガー達に対する感情とは別のものがあった。


「――いひぃっ!も、申し訳ございませんっ!何卒(なにとぞ)何卒(なにとぞ)お許しください!!」


 目隠しをされ、手も足も拘束(こうそく)されているのにも(かかわ)らず、器用に土下座するセイドリックは、それはもう滑稽(こっけい)だった。


「……さて、ロザリーム・シャル・ブラストリア殿……貴女(あなた)が、ここのエミリア・ロヴァルトと好意(こうい)の関係だというのは。あの戦いでよく分かったわ。その原動力が、そこのエドガーだという事もね……」


 ローザは目を(つぶ)り、王女の話をジッと聞いている。


「……そこで。エミリアの結婚を無効にする方法を私も考えた……それはもう一晩中(ひとばんじゅう)考えた」


 (こぶし)をテーブルに叩き付け、涙を(ぬぐ)仕草(しぐさ)をする。


「……で、殿下(でんか)

「アピール下手(へた)ですねぇ」


 二人の【聖騎士】の(あるじ)の演技評価は(えら)く低評価だった。


「う、五月蠅(うるさ)いわねっ!……とにかくよ、結婚を破談(はだん)にさせる方法を、一晩中(ひとばんじゅう)考えたのは事実。その案を聞いてほしいのよ、あなた達に……」


 ローマリアが言った「あなた達」の中に、エドガーも(ふく)まれているのだろう。

 王女と目が合った。


「それは分かったわ……でも、その条件にもよるわね。くだらない条件なら、私が暴れた方が早い……」


「――!……そうで、しょうね……」


 一瞬(いっしゅん)だけ(はっ)せられた超絶な威圧(いあつ)に、オーデインとノエルディアは身構(みがま)えて、ローマリアを(かば)うように手を出す。

 ローマリアも、気さくな話し方を忘れて王女の口調(くちょう)に戻る。


(副団長……マジでやばいですってこの人……!)

(分かってるよ、だから殿下(でんか)(みずか)ら来ているんじゃないか)


 小声で話し合う【聖騎士】二人に、王女は。


「ええい、退()きなさい二人共……!」


 両脇の二人を、両手で追いやる。

 二人の【聖騎士】は仕方がなく元に戻るが、気は()ったままだろう。


「そう威圧(いあつ)せずとも大丈夫なはずよ。エミリアが了承(りょうしょう)しているという利点もあるわ」


「……へぇ」


 ローザはエミリアを見る。

 そのエミリアは、ローザの視線(しせん)(うなず)き言葉を()べる。


「……うん。私も今朝(けさ)聞いた話だけど、私はそれが一番だと思うんだ……可能性って言うか、なんていうか。これが最善(さいぜん)で、自分の未来のためになると思う……だから協力して欲しい。エドにも、ローザ達にも……」


 エミリアは席を立ち、(いま)だローザに(おび)えるセイドリックを見て。


「セイドリックさん……私は、貴殿に決闘を申し込みます……私が勝ったら、婚約(こんやく)の話は破談(はだん)にしてほしいと思ってます……もし負けたら――(いさぎよ)(とつ)ぎます」


「――決闘!?エミリアと……その人が!?」


 何があっても協力はするつもりでいたエドガーだが、決闘には(おどろ)いた。


「……」


 そんな決闘を(いど)まれたセイドリックは、ローマリアとノエルディアに視線(しせん)彷徨(さまよ)わせている。(しゃべ)っていいかを聞きたいのだろう。


「ああ。よし」


(……犬じゃないんだから!)


 ノエルディアがセイドリックに(しゃべ)る許可を出す仕草(しぐさ)が、完全にペットを(あつか)うご主人様のようで、サクラは心の中でツッコむ。


「ああエミリア!ほ、本当に結婚してくれるんだねっ!?――ああ!嬉しいよっ」


 セイドリックは壁に向かって(しゃべ)る。


「……私はこっちですけど……」


 真剣な空気を(こわ)すセイドリックに、エミリアは(あき)れる。


「……はぁ……ノエルディア。目隠しを取ってやりなさい」


 雰囲気(ふんいき)がぶち(こわ)しの中、ローマリアはノエルディアに指示(しじ)する。


「……はい――ふんっ!」


 ノエルディアはセイドリックの目隠しを後頭部から思いッきり外す。

 その(さい)髪の毛を一緒に巻き込んでいたのか、ブチブチっ!!となって、セイドリックは悶絶(もんぜつ)していた。


「ぐっっ!!……あ、エミリア!そこにいたんだね!」


 痛みにめげずに、涙目でエミリアを見据(みす)えるセイドリック。


「聞いていましたよね……?セイドリックさん……決闘を――」


「ああっ!勿論(もちろん)だよ!受ける、受けるとも!……日取(ひど)りはいつだい!?今、今かな!?」


 どこまでもエミリアを気に入ったのか、興奮(こうふん)して芋虫(いもむし)の様に()いつくばりながらエミリアに近づこうとするが、ノエルディアに止められた。


(しゃべ)る。見るは許可(きょか)したが、誰が近づいていいって言った!おらぁ!?」


「――むおぉぉぉっ!エミリアぁぁぁ!」


 セイドリックを見るエミリアの目は、半分死んでいた。

 こんな男に(とつ)ぐ可能性があることに対し、本当に絶望(ぜつぼう)していたのだろう。

 だがそれと同時に、自分の運命を変えられるかもしれないと聞かされて、やる気も満ちているようだ。


「……それは理解したわ……協力もする。でもエミリア、私達は何を手伝えばいいのかしら?」


 テーブルに両手を乗せ、手を組ませるローザ。

 どこかの指揮官(しきかん)のようだった。


「……うん。それはね――」


「待った。それは私から説明するわ」


「……殿下(でんか)……」


 エミリアの言葉を(さえぎ)り、ローマリアが言を(はっ)する。


「……決闘の(あん)を出したのは私よ。何とか姉上の許可(きょか)()ることができた……王女である私が直接、王家の(いん)を使って上書きする勅令(ちょくめい)になるわ……つまり」


「――つまり。条件(じょうけん)が多いのね」


 同じ王女だからか、ローマリアの言いたいことを()ぐに理解したローザ。


(いん)を重ねて出して、結婚の書簡(しょかん)の効果を()りつぶすつもりなのでしょう……けれど、それには条件がいくつも発生する……ま、公式な決闘になるという事ね……」


「……その通り、流石(さすが)ロザリーム殿……(いん)にも(くわ)しいのですね」


 (ほほ)から汗を()らし、ローザの視線(しせん)を流さず受けるローマリア。


条件(じょうけん)は、私が出す(もよお)し物として出すこと。それで結婚を()けた決闘をしてもらう……場所は、騎士学校【ナイトハート】。時間は、本来の婚姻(こんいん)が予定されていた日……四日後です」


「が、学校……」


 エドガーは(つぶや)く。


「どうかしたの?エド君……」


「あ、いや……何でもないよ」


 少し挙動不審(きょどうふしん)なエドガーを差し置き、ローマリアは続ける。


「姉上から出された条件(じょうけん)は三つ。一つは観客(かんきゃく)を入れる事、二つは団体戦(だんたいせん)とする事……三つ目は、エミリア側が負けた場合、即座(そくざ)婚姻式(こんいんしき)を行う。これだけは王族のメンツを保つ為の物ね……情けない話になるけど、これが取り付けた内容よ」


 一度出したものを取り下げる訳だ。それはメンツもそうだろう。

 それを帳消(ちょうけ)しにする為、決闘は許可(きょか)するが婚姻式(こんいんしき)即座(そくざ)にしろ、ということだ。


「……即座(そくざ)に……」


「負けたら、お(しま)いなんだ……」


 エドガーとサクラは負けた場合の事を考えてしまっているのか、どうも覇気(はき)がない。

 ただ一人、ローザは別だった


「……団体戦(だんたいせん)という事は、エミリアを(ふく)めた三人か五人が妥当(だとう)ね……それ以上の人数は、こちら側が不利(ふり)になる」


「ええ。五人がいいと思っているわ……【聖騎士】は出られないけど」


 ローマリア王女は(うなず)く。

 【聖騎士】は出られないという事は、王女は味方できないという事だ。

 それを()まえての五人――エミリア、アルベール、ローザ、サクヤ、エドガーが出ればいいという事だろう。


「だが……条件(じょうけん)はまだあるの。これは三つの条件(じょうけん)とは別口なのだけど……双方の側から一つずつルールを出す、と言うものよ……」


 ローマリアはエミリアに視線(しせん)を移し、(うなが)す。


「はい。殿下(でんか)……私は、“魔道具”の使用許可(きょか)を求めます」


 本来、この国の決闘と言うのは、力と力、技と技を(きそ)い合い勝敗を決めるものだ。

 血生臭(ちなまぐさ)い殺し合いではない。

 しかも、《魔法》や“魔道具”には(うと)国柄(くにがら)なため、原始的な戦いが主流(しゅりゅう)だった。


「ええ。それは許可(きょか)しましょう。だけど、調達(ちょうたつ)は自分達でするのよ……?」


「はい!ありがとうございます!!」


 エミリアは胸に手を当てて敬礼(けいれい)する。


「……ではシュダイハ子爵子……そちら側はどうする?」


 どうやら待ちわびていたらしいセイドリックは、(しば)られている手足を器用に使い、どうにかして立ち上がると、決め顔で言う。


「では王女殿下(でんか)!……私は、そこの赤髪の女!その女の参戦(さんせん)を禁止とさせて(いただ)きたい!!」


「――なっ!?」

「くっ……」


 エドガーは(おどろ)き、エミリアは歯嚙(はが)む。

 王女達は無言だが、(おそ)らく想定(そうてい)はしていたのだろう。


「それくらいはさせて(いただ)きたいですね……彼女が出てきたら、私の一敗は確定だ……それはそちらが有利過ぎと言うものではありませんか?」


「……一理ある……どうか?ロザリーム殿……」


 席に着いたまま、ローマリアはローザに顔だけを向けて問う。

 相変わらず手を組んだままのローザだが、返答する。


「――(かま)わないわ。私は出ない……そうしないと、決闘なんてしないって言い出すのでしょう?」


「クフフっ……そうだね。まぁ、最初から決闘なんてしてやる義理(ぎり)はないけどさ、王女殿下(でんか)(もよお)し物と言われれば仕方がない……出てやるさ。ただし、やはり君の参加は(みと)めない!」


「いや、ちょっと……」


 エドガーは何かを言いたそうに前に出るが、ローザに(せい)される。


「大丈夫よ……勝てばいいのだから」


「……ローザ」

(……そうじゃないんだよ、ローザ……そうじゃないんだっ)


 エドガーの不安は、ローザが出られない事ではない。

 ローザが出られないという事は、もう一枠「サクラが出るしかない」という事なのだ。


 エドガーは、サクラを視界(しかい)にいれる。

 やはりサクラも気付いている。ローザの代わりが、自分だけだという事に。

 顔を真っ青にし、身体を(ふる)わせるサクラは、死を()けた戦いが自分に迫っていることを自覚して、もう何も考えられなかった。


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