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あなたは教えてくれた

作者: 夜月紅輝

 私が気づいた時には、あなたはそばにいてくれたらしい。

 まん丸お目目で、まん丸フェイス。その愛らしさは時には私以上に他の人を魅了していたという。


 らしいというのは、私にはその時の記憶がないからだ。


 私とあなたはまるで一緒にいることが当たり前のようにそばで寄り添っていたらしい。

 時には、あなたのやんちゃ癖で私が大泣きすることもしばしば。

 謝ることもせず、ただ可愛らしく頭を傾げるだけ。


 あなたは私が机の角にぶつかりそうになった時、私の前に割って入って守ってくれたらしい。

 他にも知らない人には可愛らしい声ながらも、必死に追い払おうとしてくれたらしい。


 あなたは私の良き「守り手」だった。




 私は覚えている古い記憶では、あなたとずっと外を走っていた。

 私が自由に気ままに外を走るとあなたは私を追いかけてくる。

 そして、勢いそのままでごっつんこ。

 私は押し倒されるままに顔をぺろぺろとしてくる。


 私がボールを投げれば、あなたはそれを取りに走る。

 そして、持ってくるかと思いきや、それを見るとすぐに視線を送ってくる。

 まるで私がいくのだとばかりに。


 そんなあなたに私は呆れることもせず、そのボールに向かっていく。

 そして、再び投げ、あなたが追いかけ、私がボールを拾いに行く。


 あなたは私の良き「遊び相手」だった。




 私の少し前の記憶では、大きくなったあなたは泣いている私にそっと寄り添ってくれた。

 私が好きな人に振られ、落ち込んでいる時にあなたは何も語らなかった。

 けど、私が泣き止むまでずっとそばにいてくれた。その温かさは今でも覚えている。立ち直れたのはあなただったから。


 私は自暴自棄になっていた。

 あんなに必死に勉強したのに、高校の第一志望に合格しなかったから。

 まるでその時の努力が全て無駄だったかのように感じて、酷く荒れていた。


 その時は家族すら私に近寄って来ようとはしなかった。

 けど、あなたは違った。

 私があなたに暴力を振るえないことを知っていて、ゆっくりと近づいてくる。

 その口にはリードを咥えて。


 私は気分転換にでもなればと思い、あなたと一緒に外へ出るといつも私のペースに合わせて歩くあなたが突然走り出す。

 そのリードに引かれて私も一緒に走り出す。


 いつまでも、どこまでも私が疲れて暗い感情が無くなるくらいまで。

 私が疲れて思わずリードを話した時、あなたは立ち止まった。そして、凛々しい顔つきで「ワン」と一つ吠える。


 私はその時の笑いが込み上げた。なんでかは分からない。

 けど、あの時は笑えてきた。急に自分の気持ちが小さいように感じて。


 あなたは私の良き「理解者」だった。


 私が一番覚えている記憶では、あなたはもう走らなくなった。

 それどころか、寝たきりが多くなった。

 けど、何がそんなに嬉しいのかしっぽはゆっくりと振り続けている。


 私はあなたが弱っていくのをずっと見てきた。

 ずっと見てきたのに、何もしてやれなかった。何をしたらいいかも分からなかった。


 そして、せめてやっていたことはあなたの美しい毛並みを撫でてやることだけ。

 それすらも、あなたのためにやれているか分からないけど、これが私に出来る精一杯。


 だから、お願い......死なないで


 私は顔をくしゃくしゃにしながら、涙を流していく。

 人の目を気にすることもなく、うわずった声をしながら。

 それでも、あなたは答えることはしない。

 ただ、先程よりも嬉しそうにしっぽを速く振って―――――安心したような顔で突然動かなくなった。


 私はその時、しっかりと「死」を理解した。


 だからこそ、これまでの記憶がより尊く思えて、あなたとの出会いを感謝した。


 ありがとう、私に出会ってくれて。


 ありがとう、私を守ってくれて。


 ありがとう、私を理解してくれて。


 ありがとう、私に命の尊さを教えてくれて。




 今の私は今日もセミがうるさい声で鳴く、うだるような暑さの中で、車が忙しなく動く交差点。

 私は青空を見る。雲一つない晴天だ。

 私はしっかりと前を向いて歩いているよ。


 そして、私もしっかりと伝えるよ。


「ママ、青になったよ!」


「そうね。それじゃあ、行こっか」


「キャン!」


 私は左手で息子の手を握りながら、右手にははしゃぐ子犬のリードを持っている。

 そして、一緒に歩き出す。


 自分の子供にもあなたが教えてくれたことを。




 イギリスのことわざにはこのようなものがある。


「子供が生まれたら犬を飼いなさい」


 子供が赤ん坊の時、子供の良き「守り手」となるでしょう。


 子供が幼年期の時、子供の良き「遊び相手」となるでしょう。


 子供が少年期の時、子供の良き「理解者」となるでしょう。


 そして子供が青年の時、自らの死をもって「命の尊さ」を教えるでしょう。

僕も犬の最後を看取ったんですよね。しかも、僕も物心着く前に、愛犬はいてくれて。


そして、今も心の中には元気にはしゃぎ回っています。


犬は大事な家族だと思います。そして、大切なことを教えてくれます。


だから、どうか多くの人に犬の(ネコももちろんですが)大切さを理解して欲しいと思いました。


これで、殺処分が減ればとかはささやかな願いですけどね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 合間にくる、イギリスのことわざになぞらえた一文がいいアクセントですね。 音読したくなるような、リズムを感じる作品でした。
[良い点] 愛する家族の一員と過ごした日々の記憶が懐かしさとともに思い出されるように丁寧な言葉で綴られた作品で、作者様の愛情が伝わり心を打たれました。
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