仕事場
定期更新できない……(´+ω+`)
私の日雇いの仕事場はだいたい決まっている。貧乏な平民が住む地域を少し行ったところ。裕福でもなければ貧しくもないような平民たちが多い所だ。そこの鍛冶屋が私の行きつけの仕事場だった。
「親方様親方様、何か仕事はありませんか?」
「ああん⁉毎日毎日きやがって、付いてこい‼」
カンッカンッと鉄を打つ音と、炎の音が響く鍛冶屋はいつも熱い。男たちが汗を垂らしながら必死に鉄を叩いている。その中を親方のあとをついて歩いていくと、またあの貧民の子供か、ともはや慣れたという視線を向けられた。
ここの親方は強面で893にしか見えない顔をしているが、こうやって来るたびに何かと仕事をくれる、私の中ではいい人に部類される人だ。言葉と顔が怖すぎて他の貧民の子供も近寄りたがらないし、大体仕事がある、賃金も悪くない。ほんと、日雇いで稼ぐには素晴らしい条件だと思う。
「おら、今日はここの掃除をしろ。言っとくが、俺が満足できるくらいに片付いてなけりゃぁ金はねぇからな‼」
「ありがとうございます親方様。精一杯この場所を掃除させていただきます」
深々と礼をしたら早速指示された部屋の片づけに取り掛かった。
鍛冶職人たちの休憩部屋だろうか。汗臭いし、食べかすや汗を拭いたのだろうタオル、脱いだ服などが散らかっていて、気分的には運動部の部室の掃除を言い渡された気分だ。
とりあえず、床に散らばっているものの片付けに取り掛かった。タオルや衣服はどけて、食べかすを箒で履いていく。木の床なので木目から掃けば掃くほど埃が出てきてあっという間に部屋に埃が充満した。耐え切れずに窓を開け、外気を吸うと順番が逆だったという事に気づき後悔した。
掃き掃除が終わったら、床を拭く前に落ちてたものの選別に入った。小物は一か所にまとめて、選択が必要だろう物などを分けていく。まとめ終わったら、また掃き掃除をして、床にゴミがないことを確認したらそのゴミを捨てて、床拭きに取り掛かった。
床拭きをしているとローブが邪魔になったのでローブを脱いで、髪は適当に団子に結った。床もピカピカにしたら、鍛冶場で鉄を打っていた親方に服やタオルを洗濯していいか尋ねた。聞いたときになぜか驚いたような鍛冶職人たちの視線が集まり、よくよく考えてそういえばローブを脱いで仕事をしたのは今日が初めてで、この髪のことはこの人たちは知らなかったなと思った。私の髪に釘付けで手が止まっていた職人たちを親方が叱咤し、私は選択する許可を貰った。
洗濯も終え、干す作業も終えると次の作業に取り掛かる。濡らした布で、とにかく部屋中を拭きまくった。もうこれでもかというくらい。腕がパンパンになるまで部屋中を磨き終わると、とうに昼を過ぎていたみたいで、親方の奥さんの作ったお菓子をおやつに鍛冶職人たちが食べている姿が目に入った。
最後の仕上げにこまごまとしたものも磨き、それが終わるとふうっと息を漏らした。窓もガラスも床も家具を全部これでもかというほど磨いてピカピカにしたし、掃除をしている最中はずっと窓を開けていたからか部屋の汗臭いにおいも消えたように思う。
「頑張った~」
達成感に満たされていると、洗濯物のことを思い出して洗濯物を見に行った。
今日は夏の風が強い日だったので干してまだ五時間ほどだと思うが、洗濯物はすっかり乾いていた。取り込んで、丁寧にたたむ。洗濯物には全部名前なのだろう文字が書かれていたけれど、読み書きができない私にはどれが誰のかは分からなかったから、とりあえずたたんで、畳みおわったものはまとめておいた。
「親方様、終わりました‼」
日が沈みかけ始めたころ、ようやくすべての掃除を終えた私は鍛冶場の親方に声をかけた。相変わらず怖い形相のまま部屋の確認に来ると、親方はしばらく部屋を見回したのち、「まあ、及第点だな」と言った。とりあえず満足していただけたようだ。
「ありがとうございます‼」
部屋が思ったよりも広かったので時間が物凄くかかってしまったが何とか夕方までに終わらせることができた。パンパンになった腕をさすりつつ、がんばったなぁと思って笑顔を浮かべていると、親方様の手が私の頭に置かれた。びっくりして顔を上げると、ニヤリと笑った親方様のだいぶ怖い笑顔がそこにあった。
「おまえ、そんな見た目だったんだな。なぜ隠す」
「珍しい髪色ですから。人攫いに遭わないためです」
「なるほどな。確かに。人攫いには気をつけないといけない見た目だ。この鍛冶場でもあまりその姿はさらさない方がいぞ」
男が狙う。そう親方が言って、ちらりと後ろの方を見ると、鍛冶職人たちの視線がこちらに向いているのが分かった。ちょっと肉食獣のような目で怖い。
「あいつらには俺からよーく、お前に手を出さないように言っとくが、あんまり油断すんなよ」
ほら、今日の分だ。そういって親方様は私に800ぺズも渡してくれた。
「こんなに⁉いいんですか親方様‼」
「あぁ、嫁さんがこれくらい渡してやれとな。それくらいいい働きぶりだったようだぞ。お前のことを気に入っていた」
「ありがとうございます‼」
私は親方と、部屋の扉の向こうにいた親方の奥さんにお礼をいった。ふくよかな体系の優しそうな雰囲気をしている親方の奥さんとは話したことがないが、奥さんはにこやかな笑顔で手を振ってくれている。
「お前、確かまだちっちぇガキが二人いるんだったよな。大変だろうが、ここに来たらこんな仕事ならいくらでもくれてやる。お前の仕事は丁寧だからな。また来いよ」
その親方の言葉に驚いて、私は一瞬ぽかんとしてしまった。鍛冶職人たちもグッと親指を立てて笑っているものだから、この鍛冶場の温かさに涙が出そうだった。
「ありがとうございます‼ありがとうございます‼」
ひたすらにお礼をいって、親方に今日はもう帰りなと言われたので感謝の気持ちを胸に抱きながら、私は大急ぎで帰路についた。
親方様は子供がいないのですっかり働き者のルリアちゃんを娘のように思ったようです。
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