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街に売りに出かけよう

一晩かかって作ることができたミサンガの数は三十個だった。徹夜するわけにもいかなかったので、眠気の限界まで頑張って、だが。


 作ったミサンガはいつも双子たちが花売りに使っている籠に入れた。値段設定は一つ150ぺズにしようと思っている。考えている客層は富豪よりの平民の子供。私が日雇いの仕事で出かけるとき、少し裕福な平民たちの住む地域では「お小遣いに200ぺズ貰った‼」という会話がよく聞こえてくるから、子供のお小遣いで買える値段にしておいた。前世でもそれくらいで売っていたという記憶もある。


 朝食もとりおわり、街に出かける準備を済ませた私達はまず川に出かけた。簡単に顔や手の汚れを落とすためと、ネルが自分の髪型を確認するためだ。

 

 自分の髪を確認したネルはすごくご満悦な様子だった。町に出かけてもこれなら恥ずかしくない‼というほどだ。しかし実際には私達はフード付きの濃紺のローブを着て町に出かけるので残念なことに、街でネルの髪型を見ることはできない。


 フード付きのローブを着る理由としては、自分たちの継ぎ接ぎだらけな服を少しでも隠すためと、人攫いに攫われないためだ。残念なことに、ここらへんではガラの悪い奴らというものはたくさんいる。近所に住んでいた少し顔立ちの整っていた子供が町に出かけて帰ってこなかったという事もある。私の髪は老婆のようだといわれるが、実際ここらへんでは滅多に見ない髪色で、双子は幼いけれど、身贔屓とかを抜いてすっごく美形で可愛いと思う。だから、念には念だ。用心することに損はない。


 「それじゃあ、いこっか」


 三人で手をつないで街へと向かって歩き出す。濃紺のローブを着た三人に視線が集まらないわけではないけれど、双子はいつも同じ格好で街に来ているので、「貧民の子供」というのは分かっているらしい。


 いつもなら貧しい平民が暮らす地域で花を売っているけれど、今日はさらに進んだ裕福な平民たちが住む地域が目標だ。


 街を歩いていけば行くほど地面や建物が綺麗になっていき、道を歩く人々の装いも綺麗になっていく。あちこちから甘いにおいや焼き立てのパンの匂いが流れてきて、朝食を食べたばかりだというのに、その匂いに食欲がそそられた。


 貧しい人の少ない地域ではあるが、やはりちらほらと貧民の子供が花を売っていた。しかし道行く人は目もくれていない。路地裏を覗けば暗く、奥の方では子供の教育に良くない光景があった。


 小奇麗な装いの子供が多く見えるようになった辺りで止まって、道の端っこの方でミサンガを売る準備をする。


 「ここにするの?」

 「うん。ここら辺がいいかなって」

 「いつも僕たちがお花売ってるところとぜんぜんちがうね」

 「こっちは貧しい、私達みたいな人が少ないからね」


 それじゃあ始めようか、そう双子にいうと、頷いた双子は声を揃えて客引きを始めた。


 「「糸で作られた腕飾りはいりませんかー‼」」


 幼いゆえに高い声は賑やかな街でもよく通る。すぐにいくつかの視線が集まった。


 「一個150ぺズでーす」


 私も負けじと声を出すと、華美ではないが、ちゃんとした服を着ている少女たちが三人集まって来た。


 「わあ、綺麗‼こんなのみたことない」

 「ねぇ、皆でお揃いで買わない?」

 「いくら?」

 「150ぺズです」


 反応がいい。これはこのまま買ってくれそうだ。そう思って私はもう少し勧めてみることにした。


 「こちらの腕飾り、ミサンガというのですが、二種類ありまして、ねじれたものと平らなものの二つあります。色違いでもそれぞれ用意していますので、お嬢様方三人、同じ種類でそれぞれ違う色のミサンガを選んでいただいて、色違いのお揃いという事も出来ます」

 「色違いのお揃いだって」

 「私欲しい‼」

 「でも、糸ならすぐ切れちゃうんじゃない?」

 「確かにこちらのミサンガは糸で出来ていますが、肌身離さずつけておいて、ミサンガの糸が切れた時願いが叶うとか。ミサンガはお守りなんですよ」

 「願いが叶うの⁉私これにする‼」

 「ねぇねぇ、買おうよ?私みんなで色違いのお揃いをしたい‼あ、私はこの色」

 「そうだね、値段も高くないし。私はこの色にするわ」


 少女達三人がそれぞれ気に入った色の平結びのミサンガを手にし、「「150ぺズになります‼」」といったネルとニルに代金を渡した。


 「「「お買い上げありがとうございました‼」」」


 少女たちが去っていく後姿を見ながら私達は声を揃えてそういった。その後も次々とお客さんがやってきて、娘にあげる、や、恋人とお揃いで、と、思っていた以上に大盛況であっという間にすべてのミサンガが完売となった。


 「申し訳ありません。本日の分はすべて完売となってしまいました。明日も売りに来るので、その時足を運んでいただけたらと思います」


 そう買えなかった人達に言って、私達は早々にその場から退散した。家への帰路の最中、私達の顔からは笑顔が消えない。


 「すごい‼すごいよお姉ちゃん‼ぜんぶうれちゃった‼」

 「たくさんおきゃくさん来てた‼」

 「うん、そうだね‼明日はもっといっぱい作っていこうね‼」


 大勝利だ。まさかあんなにミサンガが人気になると思っていなかった。前世では自分で作るのが当たり前みたいなものだったし、一時期流行ってはいたけれど、それももうだいぶ前のこと。でも確かにあっちでも流行っていたのだから、願いが叶うとかそう言われたら、娯楽の少ないこの世界でも人気が出る可能性は大いにあった。


 とにかく素晴らしい。今日もまだ昼にすらなっていないのに、この短い時間で150ぺズ×三十個の4,500ぺズも稼ぐことができた。一日の平均の稼ぎ、500ぺズの九倍もの値段だ。信じられない。冬支度に当てるお金、3,000ぺズの分を引いたとしても1,500ぺズ残る。ベンスに渡す残り300ぺズをとっても1,200ぺズ。今の私達の所持金70ぺズと合わせたら1,270ぺズ。私達にとっては物凄い大金だ。嬉しすぎてにやけがとまらない。


 「ネル、ニル。今日はちょっとだけいいパン食べよっか」

 「「いいの⁉」」

 「うん‼二人も売り子頑張ってくれたんだし」


 私達は帰りにパン屋で一つ50ぺズのいつもより少しだけいいパンを買った。いつもの10ぺズのパンは石のようにかたいけれど、50ぺズのパンは昨日のパンの売れ残りとして売っていたもので、カビも生えてないし、何より嬉しいのは多く食べることのできる長いフランスパンだったことだ。


 ほくほく笑顔で家についたら私は今日稼いだお金、(冬支度代、ベンスにあげる代、パン代を引いたもの)1,120ぺズを裁縫箱の一番下に隠した。ベンスに見つかればすべて酒代として当てられてしまうからだ。裁縫箱を触りたがらない、多分存在すらも忘れているだろう裁縫箱にしまっておくのが一番見つからないだろう。本当は貯金箱を買いたいところだが、下手に今日稼いだ分でお金を使ってしまえばもしもの時に困るだろうから、もう少しお金に余裕が出来てからにしようと思う。


 時間はまだ昼前くらいだろう。太陽の位置がそこまで高くない。私はネルとニルに留守番を頼んで日雇いの仕事に出かけることにした。


 「ネル、ニル、夕方には帰るようにするけど、もしあの人が帰ってきたらこの800ぺズを渡してね。機嫌が悪いようだったら何も声をかけずにそっとしておいて。あと、身に着けているミサンガ、見つからないようにね」

 「うん」

 「わかった」


 ベンスの話をした途端、表情を曇らせた二人。私は不安な気持ちを覚えたが二人を安心させるように微笑んで頭を撫でた。ベンスがいつ帰ってくるか分からない。ただ、大体三日か四日で帰ってくることは分かっている。この前ベンスに渡せたのは500ぺズだけだった。だから打たれたのだが、いつもより早く帰ってくる危険があった。だから早く日雇いの仕事を終わらせて帰ろうと思う。


 「それじゃあ行ってくるね」


 二人に手を振って、私は日雇いの仕事に出かけた。



現代社会ではそこまで絶対売れないですけどねぇ。

売れたらいいのに……。

次回はルリアの日雇いの仕事場のお話です



誤字、脱字とうあれば報告してくださると嬉しいです!!

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