第二話
「俺の名前はサタン、近いうちにお前を殺すものだ」
サタンと名乗った男は俺を指差してそう言った。
「俺を殺す…?」
「だがまだ時ではない。時が満ちれば、お前は俺の手で殺す。今回は挨拶に来ただけだ」
「待て、なぜそんなことを…何を企んでる!?お前は何者なんだ!?」
「まぁそう焦るな。すぐにわかるさ」
サタンはそう言い残し、消えた。ハウンドとスレイプニルもいつの間にかいなくなっていた。
「なんだったんだ…あいつ…」
「ユーク、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ。とりあえずギルドに戻ろう」
俺たちはバッカスに魔獣は消えたとだけ話し、ギルドへと戻った。
「おう、おかえり。どうだった?」
「それが、ちょっと良くない状況になったみたいで…」
「良くない?何が起きたんだ」
俺はガルズの森で起きたことをこと細かに説明した。
「スレイプニルにサタンと名乗る男…その男に殺すとまで言われたのか、そりゃ良くないことだな。もしかしたらそいつは魔王の眷属かもしれんな」
「魔王の眷属?でも、魔王は封印されてるんじゃ…」
「あぁ、伝承ではその際に魔王の眷属も封印されたはずだが…誰かがその封印を解いたのかもしれんな」
「それじゃ、魔王は…」
俺は封印が解かれたと聞いて、魔王が復活するんじゃないかという不安が脳裏をよぎった。
「安心しろ、魔王の封印は絶対に解かれることはない。そのための俺たちギルドだからな」
「でも、魔獣を従えるほどってことは、Sクラス以上になるんじゃ…」
「あぁ、だから世界中からSクラスの戦士を招集しようと思っている。そしてSクラスのユーク、お前に頼みがある」
「頼み…?」
ジャンは部屋の隅にいた秘書に目配せをした。しばらくすると秘書は小さな箱を持ってきた。
「それは?」
「これはうちのギルドに代々伝わる地図でな、これには世界に散布する武具の在り処が記されている。その武具は神器と呼ばれ、魔王に対抗する唯一の手段とも言われている。それを探して手に入れて欲しい。何が起こるともわからん、これはSクラス任務だ。心してかかれ」
「あの、Sクラスってことは、私は待機…ですか…?」
そういえばアルスはまだAクラス、ということはSクラスの今回の任務には同行出来ないという事になる。アルスはずっと俺と一緒にいたから寂しいのだろう。
「そのことなんだが…本来なら初のSクラス任務には先輩のSクラスが補佐として付いていくのが決まりだ。今回の任務には俺が同行しなきゃならんが、見ての通りこの場を離れるわけにはいかない。そこで、アルスに頼みがあるんだ」
「それって、もしかして…!」
「あぁ、お前には俺の代わりにユークに同行してくれ」
ジャンの言葉を聞いたアルスは、まるでおもちゃをもらった子供のような笑顔になった。
「よかった、一緒に行けるって!」
「あ、あぁ、そうだな」
まぁ、正直ずっと一緒にいたから、連携は取りやすいから助かる。
「そうだ、忘れるとこだった。ヤパンから一人応援を頼んでいるんだ。多分明日には来ると思うから、合流次第出発してくれ。それじゃ、今日のところは解散だ」
「ヤパンから?どんな人だろう」
俺は気になりつつもギルドから出て自宅へと帰った。
その日の夜…
俺は晩御飯を済ませて早めに寝ようとしていた時だった。家の扉をノックする音が聞こえた。
「こんな時間に誰だろ?はーい」
「ごめん、ユーク。寝てた?」
「いや、起きてたけど…どうしたの?」
玄関を開けるとアルスがいた。何やら元気がなさそうだが。
「明日からさ…一緒に行けるのは嬉しいんだけど、やっぱり不安で…」
「そっか、そうだよな。アルスはこの国から出たことないもんな」
「それはユークも一緒でしょ?」
「まぁ、そうだな。つまりそういうことだよ」
俺は意地悪に笑ってみた。アルスは俺の意図をすぐには理解できなかったみたいでぽかんとしていた。
「俺もジャーツィを出るのは初めてだ。だから俺も不安だよ。でも、アルスが一緒だから大丈夫かなって、なんとなくそう思ってるんだ」
「ユーク…そっか、ありがと。なんか元気出たよ」
「おう、じゃあ早く帰って明日に備えて寝よう」
「うん、また明日ね!」
アルスは元気よく帰っていった。
「俺も寝るか」
そうして、俺は眠りについた。
そして次の日、俺とアルスは朝からギルドに来ていた。
「なんだお前たち、こんな朝早くに。もしかして眠れなかったのか?」
「そんなんじゃ…それより、ヤパンから来るって人は?」
「それならさっき来てたが、どこに行ったんだろうか…」
「僕ならここにいるよ?」
突然後ろから声が聞こえてきた。俺とアルスは驚きながら振り返ると、そこには可愛い子がいた。
「えっと…ヤパンの人?」
「そうだよー、サトシっていいます!」
「サトシ、久しぶりだな」
「ジャンさん、久しぶりです!生きてたんですね」
どうやらジャンさんとサトシは知り合いみたいだが…えっ、サトシって…男!?
「見ての通りピンピンしているとも。あ、そうだ、こいつらがこの前話したユークとアルスだ」
「ど、どうも」
「初めまして!これから一緒に旅をすることになるんだよね。あ、ちなみに一応言っておくけど、名前の通り僕は男だからね」
「私女やめていいかな」