第一話
俺は生まれてからずっと、独りだった。森の大樹のそばに、生まれて間もない頃に捨てられていた。
俺の住む国、ジャーツィに立ち聳える森の大樹は生命樹と呼ばれ、命の源とされ、全ての命は生命樹から放たれてまたその命は生命樹に還るという伝承がある。
しかし、魔王がこの世界を支配していた頃に生命樹は魔力で汚染されてから、魔獣が止まる事なく生み出されている。今では悪魔の木とされ、人々から恐れられる存在となっている。
そのことが原因なのか、俺は小さい頃からいじめられていた。
「逃げろー!魔獣ユークが襲ってくるぞー!」
「キャー!助けてー!」
「あははは!!」
「僕は魔獣なんかじゃないのに…」
俺はいじめられることが悔しくて、ギルドに入団することにした。
だが、ギルドでも俺に対する周りの反応は変わらなかった。
「あいつが噂の魔獣の子か…」
「しっ、聞かれたら何されるかわかんねえぞ」
「私怖いわ…」
そんな時、同じくらいの歳の女の子に声をかけられた。
「君がユーク?私はアルス。よかったら私の相棒になってくれない?」
アルスは魔法使いの家系に生まれ、それが理由でギルドに入れられたらしい。しかし、彼女には問題があった。
「私、魔法が使えないの。サラブレッドのはずなのに、おかしいよね。だから私昔からいじめられてたんだ。おちこぼれだとか…私が言われる分にはよかったけど、妾の子なんじゃないかって…親もバカにされたの。そんなの、悔しいじゃん」
俺は喜んでアルスを相棒に迎えた。
それから数年が経ち、現在に至るわけだが…
「アルス、そっちに行ったぞ!!」
「了解!こっちでなんとかする!」
俺たちは今、超大型魔獣と戦っている。それも過去最大級のやつだ。
「この蛇やろう…!!」
アルスは持ち前の腕力で大振りの斧を振り下ろした。魔獣の体は縦に真っ二つに裂けた。
「やったか?!」
「ユークそれはフラグ…!」
どうやら俺は見事にフラグを回収したらしい。二つに裂けた魔獣はそれぞれに再生した。要するに分裂したってわけだ。
「そんなのってアリ!?」
「目の前で起きてるんだからアリってことだろ!」
「んなこと言ってないでなんとかしてよ、ユーク!」
「しゃーない…あの力、使ってみるか…」
俺は立ち止まり、二匹の魔獣を正面に見据えた。
「炎の精霊フランメ、我に力を貸し与えたまえ…!!」
赤い光の玉がどこからともなく現れ、俺の言葉に呼応して炎を吹き出した。魔獣はその炎に焼き尽くされ、跡形もなく消え去った。
「ふぅ…結構しんどいな、これ…」
「ユー…ク…?今のなに…?」
「え?あぁ、最近急に使えるようになったんだ。精霊を呼び出して戦えるみたいなんだが、俺って精霊使いの才能があったんだな」
「すごいじゃん、そんな力を使えるなら、すぐにでも幹部クラスになれるんじゃない?」
「今のところ一日一回が限度だ、そんな力を戦力として数える程、うちのギルドはアホじゃねぇよ」
数日後…
「ユーク、お前は今日からSクラスだ」
「それって幹部ってことじゃん、やったねユーク!」
「ちょっと待って…一応理由を聞かせてほしい」
「先日の超大型魔獣の討伐という功績を称えてのことだ。不満か?」
俺はてっきり、精霊のことで昇格したのかと思っていた。だが、それなら俺も断る理由がない。何より、うちのギルドはアホじゃないってことに…
「それと、お前の精霊の力を是非戦力に加えたいと思ってな」
アホだった。
ギルドではDからA、そして幹部クラスのSの五段階でクラス分けされ、クラスが上がるごとに任務のレベルが上がっていく。任務のレベルが上がるということはそれほど強い魔獣と戦うことになる。
俺はAからSに昇格したわけだが、実のところSクラスは俺を含めて三人しかいない。その一人がここの長であるジャン・ドイールだ。もう一人はずいぶん前から不在にしているらしく、会ったことも名前を聞いたこともない。
「それにしても、この国ってSクラスの任務なんてほとんどないんでしょ?年に一回あるかどうか…」
「あぁ、だからその間はAクラスに同行することになるらしい。だからこれからも変わらずアルスと組んでていいって言われたよ」
「それじゃ早速なんだけど、さっき依頼を受けてきたから行こうか!」
「今度はなんだ?また超大型魔獣だとかいうんじゃねぇよな?」
「ギクッ…」
「はぁ…受けちまったもんは仕方ない…行くしかないか…」
こうして俺は毎回アルスが受けてきた依頼について行くのであった。
今回の依頼は森に現れた超大型の魔獣を討伐してくれ、との話だったが、情報がそれしかなく、どんな魔獣なのかもわからない状態だった。
「その森っていうのはこの先にあるんだよな?」
「そうみたい。ガルズの森ってところで、今まで魔獣はいなかったのに最近になって急に現れたって。そのボスが今日倒しに行くやつなんだけど…」
「情報が少なすぎるんだよなぁ…だいたい、本当にいるのか」
俺たちは情報収拾のために、ガルズの森がある村、ニーべ村に立ち寄ることにした。
ニーべ村はジャーツィの南にある小さな集落で、今まで魔獣の被害がなかった分、他の街や村に比べて平和でのんびりした村だ。
「こんなところに本当に魔獣が出るのか?」
「魔獣が出るのはこの先の森だよ。でも、確かに近くの森で魔獣が出るっていう割にはのどかすぎるというか…」
「君たち、今魔獣がどうとか言ったかい?」
腰の曲がったおじいさんが俺たちに声をかけてきた。
「えぇ、そうですが…」
「よかった、わしはこの村の村長をしておるバッカスじゃ。君たちが魔獣を倒しにきてくれたギルドの人じゃろ?詳しいことはわしの家で話そう」
村長のバッカスの家で、俺たちは今回の依頼内容の詳細を聞くことにした。
「それで、依頼にあった魔獣ってのはガルズの森にいるんですよね?目撃者は?」
「わしがこの目で見たんじゃ。あれは間違いなく魔獣じゃった。おそらく伝承に聞くスレイプニルという魔獣ではないかと思うのじゃが、いかんせん遠くから見ただけじゃからの…伝えられるのはこのくらいじゃ」
「スレイプニルって、馬みたいな姿をした魔獣よね?足が速くて、その存在は幻とも言われてるほど珍しい魔獣だって聞いたことある」
「それが今回の標的ってわけか」
「その通りじゃ。よろしく頼まれてくれんかの?」
俺たちはバッカスから正式な依頼を受け、森に入ることにした。
その森は果物の木が多く、生き物にとって住みやすい森だろうというのが率直な感想だった。
「確かに、そこら中爪痕だらけだな。見た感じハウンド系の魔獣が多いみたいだが…」
「ユーク、構えた方がいいかも…来るっ!」
アルスの言葉に俺は身構えた。その時、森の奥からハウンドが歩いてきた。
「こいつ、戦いの意思がない…魔獣、だよね…?」
「油断するな、魔獣は突然襲いかかってくる。隙を見せたら一発だ」
俺たちはハウンドと睨み合っていた。体感5分ほどだろうか、膠着状態が続いていた。
「…ねぇ、いつまで続くの…?」
「いや、だって…」
その時、ハウンドが動き出した。というより、何かに道を譲るような仕草だった。そして、そこに目標のスレイプニルが現れた。
「出てきやがったか…!」
「待って!まだ何か来る…」
「そっちの嬢ちゃんはどうやら気配察知能力に長けてるようだな」
スレイプニルの陰から何者かが現れた。それは人のような姿をしていた。だが、明らかに人ではなかった。
「誰だ…?」
「これは失礼。俺の名前はサタン、近いうちにお前を殺すものだ」