将棋と豚骨ラーメン
今日は将棋と豚骨ラーメンの共通点について語ってみたい。
将棋に序盤、中盤、終盤があるように、豚骨ラーメンの食べ方にも序盤、中盤、終盤がある。
将棋の序盤とは駒組みのことだ、戦う前に王様を囲うことをいう。豚骨ラーメンの食べ方も同じだ。狭義の意味で言えば、麺を食べる前にスープを啜ることを言うし、広義での序盤といえば、一玉目を食べ終わるまでを意味している。
一玉目を食べ終わったら、ラーメンとして終局ではないのか? と思う方もいるかもしれない。だが、豚骨ラーメンは替え玉を前提に作られているラーメンだ。麺が細麺なのも、直ぐに味が浸透するようにとの意味が込められている。
コース料理なら食前酒、もしくは、前菜と思ってくれればいい、豚骨ラーメンの一杯目とはそういうものなのだ。
さて、君は一玉目を食べ替え玉を注文する。なんなら、食べ終わる前に注文してもいい。その方がインターバル無しに二玉目に突入できる。ここからが中盤戦だ、序盤の駒組みを活かすように、麺の硬さ、トッピングを巧みに指しこなし、対局者(胃袋)との間にリードを広げていくのだ。
私のおすすめは、替え玉は硬め、トッピングは高菜だ。硬めを注文する理由は提供までに出てくる時間が短いこと、そして歯ごたえを楽しむためだ。
トッピングが高菜な理由は一つだ。まろやかで濃厚な豚骨に高菜の辛さを加えることで、化学反応が起きるんだ。そう、あたかも、女子生徒と指先が偶然触れた男子高校生のようなね。君はそのとき知るだろう。少しの刺激がこんなにも人生を豊かにするってことを。
君は二玉目も完食した。将棋だと中盤を制したところだ。終盤戦に突入する覚悟はいいかい? 満身創痍な胃袋野郎に教えてやるといい、腹八分目で辞めるなんて冗談じゃないとね。残り九割二分も空いているんだ。そこに美味しい食材を放り込まない手はない。
そうは言っても僕も鬼じゃない、終盤戦に麺は必要ないんだ。ラーメンの二大要素が何かわかるかい? そう、麺と、もう一つはスープだ。
僕たちはスープを再び味わうときが来たんだ。最序盤に指した一手、スープの味見をしただろう。あれがここで活用されるってわけさ。
でも、ボブ、僕のスープは高菜の野郎にぐちゃぐちゃにされちまってる。辛くて味もわかりゃしないよ。君はそう思うだろう? そこで卓上にあるマストアイテムの出番ってわけさ。準備はいいかい? 一度しか言わないからよく聞いておくんだよ。
紅生姜さ、赤く染まったジンジャー野郎をスープの中に投入するのさ。
なんだい? ジョージ、卓上に紅生姜がないだって? そんな店は豚骨ラーメン屋ではない。君は今すぐ会計を済ませ、中州まで歩き屋台の暖簾をくぐるといい。フェイクとは違うトゥルースの重みを知ることが出来るはずさ。
脱線した、話を元に戻すとしよう。紅生姜をスープに入れたところだったね。
ここで君は数学の真理に辿り着くのさ、豚骨×高菜×紅生姜=美味い! ってね。
スープを飲み干したら対局は終了さ。観劇なら幕が閉じた後だし、将棋なら、頭を下げた後さ。
後は会計をするだけ、君は黒いプラスチックの板に挟まれた伝票を持ってレジに向かう。思い出の詰まった席に別れを惜しみながら。食べ物の詰まった胃袋に満足を得ながら。
感想戦のように今日の対局を振り返るんだ。どうだ? ラーメンを食べて幸せになっただろう? 俺に言えるのはここまでさ、君が良き豚骨ラーメンライフを送ってくれることを祈っているよ。
次に君と会うのは駅のホームの立ち食い蕎麦屋だろうな。
それじゃあ、しばしのお別れだね。アデュー! また会おう!!
これを読み終えたとき、君のお腹が嬉しい悲鳴を上げてくれることを願って。