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二百六十三話 拐われたユン届けられた脅迫状

 お姫さまが語りだした。

 いつもどおり狂ってた。

 城なしはリッチマンだった。



 ともかく競馬場の準備はだいぶ進んだ。


 残った仕事は城なしで開くレースに参加することを決めてくれた馬や騎士を迎え入れる事ぐらい。


 これならきっとユンも俺と一緒に来てくれるだろう。


 来てくれるよな……?


 考えてもわからないし直接聞いてみるのが良かろう。




 そんなわけでユンを探したのだが、城なしを隅々まで見て回っても見つからない。


 ふーむ、街に出ているんだろうか?


 街にまで探しに行くとすれ違いになりそうだし、動かない方がいい。


 俺は待ちを選択し何をして時間をつぶそうかと考えいた。


 そこへ「ちょっとアンタ」とユンのお母さんから声を掛けられる。


 はて? ユンのお母さんが俺に何の用だろう。


「ユンを見なかったかい? おつかいをさせようと思っているんが捕まりゃしないんだよ」


「いや、見ていない。俺も探しているんだ。急ぎなら俺がおつかいを引き受けようか?」


「マンガルの勝手がわかっていないと、おつかいの中身を伝えるのも面倒だ。だからアンタには頼まないよ」


 まあ俺は異国の人間だしそう言うのもあるわな。


「ああそうだ。明日の朝には帰るからね。アンタも必要な物があれば仕入れておきな」


「あっ、いや俺は……」


「ん? ああそうか。アンタとはここでお別れだったっけね」


 ただユンのお母さんが、俺が今回かぎりの助っ人だった事をど忘れしていただけかもしれない。


 だが、その言葉はそこに俺の居場所があるような気がして安心する。


 しかし、明日か。


 この口ぶりからするとユンはお母さんに俺との話を伝えていないようだ。


 俺が伝えるべきか?


 うん、まあ、一応俺は大人だし俺が伝えるべきだ。


 だが、何と言えば良いのだろうか。


 一度城なしが空を飛べばユンの家族とは二度と会えないかもしれない。


 ならば言うべき言葉はお嬢さんを俺にくださいか?


 なんだか結婚するかのようなセリフだがこれで合っている気がする。


 そうだこれで間違っていない。


 後は勇気をだして口に出すんだ。


 お嬢さんを俺にくださいと言うんだ。


 俺は結婚を前に挨拶に来た男のように覚悟を決めて口を開いた。



「おひょうひゃんを俺にください!」



 しこたまかんだ。


 お嬢さんがおひょうひゃんになってしまった。


 どことなくニュアンスが和尚さんに似ている。


「なに言ってんだいアンタは?」


「いや、これはだな……」


 この発言に至った経緯と言いたかった事をユンのお母さんに詳しく話した。


 娘が欲しけりゃアタイを倒してからにしな、などと言い出すぐらいは想定していたのだが、返ってきた言葉はあっさりしていた。


「そんなのはアタイが決めることじゃあないだろう」


「いや、でも……」


 たしかにそれはユンが決めることではあるだろうが、まだ保護者の判断が必要な年齢なのではなかろうか。


「でもでも、だってでもないよ。決めるのはアンタだろう?」


「俺!?」


 予想外の発言に思わず叫んでしまった。


 ユンじゃないんかい。


「馬は騎士を選び、騎士が馬の走る道を決める。アンタにはわからんかもしれないが騎士と馬ってのはそういうもんだよ」


「馬の意思は汲まないのか? それじゃあ、一度ペアになった馬は騎士には逆らえないじゃないか」


「酷いようなら騎士をからだが拒絶するよ」


 ああ、騎士が騎士でなくなるのか。


 しかし、それにしたって、これで良いのだろうか。


 俺はしばし考えに老けた。


 が、そこにラビがやって来て俺の思考を止める。


「ご主人さまご主人さま。ご主人さまにってこんなのもらったのです」


「ん? 俺宛に? 手紙の様だが……」


 手紙なんて初めてだ。


 誰からだろう? レースに出たし、ファンレターとかラブレターだったりするのかな? もしくは逆に果たし状とかね。


 さあ、どれだろう。


 ガサリ……。


 まあどれでもないだろうなと思いつつも、ワクワクしながら俺は手紙を広げてみた。


 すると。


『ツバサ、話ガアル。娘ヲ無事ニ返シテホシクバ、ココヘ一人デ来イ』


 まさかの脅迫状。


 読みにくいカクカクした字は筆跡隠しか。


 下の方には地図が描かれている。


 しかし、物品や金品の要求がない。


 と言うか娘って……。


 チラリとラビを見る。


「どうしたのです?」


 義理の娘は無事である。


 視線を落としてラビの抱える狂竜を見る。


「すー?」


 実の子供も無事である。


 そもそも狂竜は男の子だ。


 んー? 二人とも無事だが……。


 あと思い当たるのは、シノやツバーシャぐらいだがどちらも拐われるようなたまじゃない。


「イタズラ……。なのか?」


「あっ、あとこれももらったのです」


「ん? 手袋? しかも方っぽだけか?」


 指ぬきの革手袋だ。


 しかも手のひらの下部に鉄が張られたもの。


 どこかでこれを見た気がするんだがどこだったか。


 その答えはユンのお母さんが知っていた。


「おや? なんでアンタがユンの蹄鉄ていてつを持っているんだい?」


 どうやらこの手袋も蹄鉄と呼ぶらしい。


 そして、手紙と一緒にこれを渡されたと言うことはユンが拐われたと言うことだ。


 なんてこった。


 拐われたのはユンだったのか!

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