ボツ百九十一話 着ぐるみ人間族の秘密
木こり小屋見つけた。
はあはあ言ってた。
ぶらぶらした。
ラビが気にして仕方がなかったので貴重なアイテムBOXから、原始人ちっくな毛皮のジャケットとパンツを出して着せてからみんなのところに戻った。
「さて、住居を用意するとするか」
「どこに作るのです?」
「なんか他にも出てきたら困るから林の反対だな」
ここは城なしの根元。
生活用水に使えと言わんばかりに石の根から水が吹き出している。
水道管を破裂させた様な雑な仕事だ。
しかも吹き出しているのは魔女ドリンクだから生活用水にもならんわ。
でもまあ、城なしは魔女ドリンクと竜の血の影響で元気になりすぎてしまったようなので仕方がない。
すぐ脇の石の根からは──。
ボコォッ……。ボコォッ……。ボコォッ……。
──狂った様に壺を産み出しているし。
何度見ても凄まじい勢いだ。
しかも一つ一つが畳二枚分のデカさでゴロンゴロン転がっている。
「ご主人さま。おうちは作らないのです?」
「目の前にたくさんおうちは転がっているじゅないか」
「壺をおうちにするのです? でも、重そうなのです」
もちろんとてつもなく重い。
転がしてなんとかならないこともないが、シュリに頼んで助っ人を手配してもらう手はずになっている。
「ムガー!」
おっと、さっそく来たようだ。
「イッちゃん! クララちゃん連れてきたわよ……。って、きゃあああ!? イッちゃんがオオカミさんに食べられてる!?」
「いや、向こうの林で噛みつかれたんだが放してくれなくてな」
「どうしてそんなに冷静なの? 人はオオカミさんに喉を咬まれたら死んじゃうのよ!?」
いや、人じゃなくてイズカイツバサ族だって言ってたじゃないか。
ともかく、ジュリが少し取り乱しているので、優しく丁寧にいきさつを説明した。
「まあ。そんな事があったの。それは大変だったわね」
「まあな。もしかしたらこの子も見世物小屋の一員なのかと思ったんだけどその様子じゃ違うようだな」
「ウチの子じゃないわ。それにその子は……。ううん。何でもないわ」
いや、そこまで言っちゃたら絶対何かあるだろう。
「あっ、そうだ。レニオにどんな種族なのか見てもらおうか」
「ダメよイッちゃん! それはダメ! あっ……」
「ジュリ?」
「えっと、ごめんなさい……」
「なあジュリ。ジュリはいったいこの子の何を知っているんだ?」
さすがに気になって仕方がないのでジュリを問い詰めた。
ジュリは困った様に目を一度そらすも、やがて観念したのかまっすぐ俺の目を見て話始める。
「イッちゃん。その子は異種族じゃ無くて人間なの」
「えっ? こんなに誰よりも獣人らしい見た目なのにか?」
「改造人間なのよ……。人にそんな姿にされたの。魔物と戦わせたりや戦争で使うために!」
あー。
なんか重たい話が出てきた。
てもまあ。
「改造人間ってカッコ良くて良いんじゃないか? しかもオオカミだろう? 最高じゃないか」
「イッちゃん!? この子は……!」
「なあ、ジュリは何でこの子を哀れむんだ?」
オオカミ男に憧れるってのはよくある話だろう。
それを考えれば悲観する話じゃあない。
俺は断然鳥派だが。
まあ、頭が二つあるのは想定外かも知れないが些細な問題だ。
「そりゃあ、何か酷そうな過去がありそうだけど、そんなもんはどうにもならんだろう」
「でも……」
「愛でるなら女の子の方が良いんだけどな。一人ぐらい男の子がいても良いだろう。この子の面倒は俺がみるよ」
過去はどうにもならんくてもこれからの事はいくらでも変えられる。
俺のところにいれば少なくとも、野放しにするよりはましな未来になるだろう。
そう、ジュリに言って聞かせると。
「イッちゃん……」
「なんだ? これじゃあ納得いかないか?」
「イッちゃん……。イッちゃん! イッちゃん! イッちゃん!」
肩を掴まれ興奮ぎみに揺すぶられた。
首に噛みついた着ぐるみ人間族の子もぶらぶらゆれる。
一体なんだって言うんだ。
「凄いわイッちゃん! 理想的だわ。イッちゃんは改造人間でも受け入れるのね。私じゃそこまでは届かないわ……」
「たまたま環境が整ってただけで別に凄いとかそう言う話じゃあないだろう。それなしで俺の10倍の人数を抱えているジュリには遠く及ばないぞ」
「私は失敗しちゃったから……」
おっと、地雷踏み抜いた。
まったくそんな風には見えなかったんだが今の状況を気にしていたのか。
「別に失敗って分けでは無いだろう。運が悪かっただけだよ。それにテントも出店もまた作れば元通りじゃないか」
「イッちゃん……」
「それまで俺にできる事は何でもするからさ」
あんまり、気の効いたことは俺には言えないのでこれぐらいで我慢して元気になっておくれ。
「イッちゃん! そうよね。イッちゃんがいればなんとでもなる気がする! やっぱり私と結婚しましょう!?」
立ち直り早っ!
そして、また結婚の話に戻るんかい。
やんわりとしたお断りの言葉を考えねばと思ったところでラビが俺の腕を引く。
「ご主人さまおうち……」
いかん、すっかり忘れてた。