ボツ百九十話 ぶら下がり着ぐるみ人間族
ラビとお散歩した。
ラビが四つ葉のクローバーを見つけた。
よい畑になりそうだった。
葉っぱが萌える城なしの下層だが、はしっこの方には林もある。
いや、元は森だったんだとは思うが、一部しか削り取れ無かったので林レベルの規模になった様だ。
人の手が加えられているようで、見渡しがよく奥の方までよく見える。
手前には小屋があって粗な脇には伐採した木がつまれている。
どうやら木こり小屋の様だ。
林に用事があるわけでは無かったけれど、この小屋が見えたので、もしかしたらローミャの人を連れてきてしまったのかと思い寄ってみた。
「扉が少しだけ開いているな」
「中に誰かいるのです」
「おや、やっぱり人がいたか」
ピッピ、ピクピクと動くラビのお耳が気配を感じ取った様だ。
「はあはあいっているのです!」
「なんだそりゃ? 中にいるのは変態か!?」
「来るのです……」
いや、来ないでくれ。
そう祈るも、タシッ、タシッ、タシッとこちらへ足音が近づいてくる。
「ラビは少し下がっていてくれ」
「分かったのです」
「見える!」
ラビを下がらせると俺は【風見鶏】を発動させて変態の襲撃に備えた。
タシッ、タシッ、タシッ……。
ピタッ。
止まった。
扉の真後ろに奴はいるっ……!
だが、直ぐには出てこない。
5秒……。
10秒……。
あれ? 出てこないな。
もしかして変態では無く普通の人で、外に俺たちの気配を感じて何者か伺ってるんだろうか。
城なしが色々しでかしたから普通は警戒して出てこないよな。
まあなんで、はあはあ言っているのかは気になるが……。
普通に挨拶するか。
取り合えず扉をノックするところから始めてみようと裏手を扉の前に掲げた。
その時だ。
バンッ!
と、勢いよく扉が開かれた。
「うおっ……」
思わず声が漏れたがバックステップで回避。
直後。
「「グオォォォ!」」
中から現れた獣、オオカミが唸りながら俺に飛びかかってきた。
当然、食われる気はないので、叩き落とそうと翼をを振り上げるもあることに気づき俺は動きを止めた。
ガブリ!
とても痛い。
喉に食い付かれた俺はそのまま押し倒された。
アグアグと何度も牙を首に食い込ませてくる。
「ご、ご主人さま!?」
「俺は大丈夫だから離れてておくれ!」
ラビが悲鳴を上げてこっちにこようとするので慌てて止めると、その声で刺激してしまったのか、オオカミは俺の首に食らい付いたままブンブンと頭を振るう。
やたらめったら暴れ狂うものだから、頭をしこたま地面にぶつけてクラクラするがじっと我慢。
俺は一切手を加えずされるがまま。
それは何故か?
「「うー……」」
答えはこのオオカミがオオカミであると同時に人間だったからだ。
しかもラビよりも幼い子供だ。
顔はオオカミそのものだし、手足を地に付けている姿もオオカミだ。
だが、立ち上がった時の姿は人のものだったのだ。
手のひらやそこから肩にかけてまでの内側部分、そして、お腹の辺りには毛がない。
オオカミ人間と言えば分かりやすいかも知れないがそれは正しくない。
何故ならこの子には──。
「うー……」
「グオォォォ……」
──頭が二つあるからだ。
一つはオオカミの頭でもう一つは人の頭。
しかし、それは横に並んでいる訳ではなく、縦に並んでいる。
着ぐるみのパジャマを想像すると近いものになるだろう。
後ろがオオカミの頭で、前が人の頭。
そんな体をしているので、四本足で立っている時はそのまんまオオカミに見えるのだ。
俺はこの子を着ぐるみ人間族と名付けた。
まあ、ともかくそんな分けなので翼を叩きつける分けにはいかない。
怪我をさせない範囲で抵抗しようにも力は子供のモノでは無く、オオカミのものなので俺には大した事は出来ない。
ならだからされるがままにして暴れ疲れて落ち着くのを待とう。
俺はそう考えた。
そして、その考えは効をそうしてこの子は暴れるのをやめた。
ただ予想外の事も起きた。
「「う……。うぅ……」」
疲れても、噛みついたまま放してくれなかった。
放してもらえるまで待とうにも、さすがに視察に時間を掛けすぎてそろそろ見世物小屋のみんなの家をどうにかしないとまずい。
そんな分けで、首を噛ませたまま戻る事にした。
「ぶらぶらしているのです……」
「放してくれないからぶら下げておくしか他に仕方がない」
「そっちじゃないのです」
そっちじゃない?
不思議に思いラビを見やるとラビの視線は下の方。
なるほど。
この子はどうやら男の子らしい……。