没 百五十一話 お芋買いにきた
ラビがカレー言語魔法を使った。
ラビがもっとカレー言語魔法を使った。
悪いやつはアラーム時計になった。
アラーム時計は人寄せにはなっても営業の妨げになる。
だから、ツバーシャとラビに店番をお願いして、俺とシノは人気の無くて犯罪が起きそうなところにアラーム時計を設置してきた。
きっと防犯の役にたってくれる事だろう。
その帰り道。
「ただでさえ客が来なかったのに、あいつらのせいで余計に客足が遠退いてしまったなあ」
「いやいや、どのみち素人商売なんて大抵上手くいくものじゃないのじゃ」
「あー。どんな商売でも軌道に乗るのに三年は掛かるって聞いたことがあるわ」
まあ、軌道に乗らなくても小銭が稼げれば良いのだが……。
はてさてどうしたものか。
俺とシノは頭を悩ませる。
そんな時だ。
「止まれー! 頼むから止まってくれー!」
「昨日、ドラゴンがビュンビュン飛び回っていたせいでピリピリしているんだ」
「お前が街に入ったらパニックになる! ホント、お願いだから止まって?」
おや?
何だか騒がしいぞ?
「何かあったのか?」
「うわっ、主さま……。アレを見るのじゃ」
「アレ?」
頬を引きつらせるシノの指さす先には、ピンクの巨人。地球外生命体さんだ。
しかし、不思議なことに服を着ている。
黒服だ。
ピシッとアイロンでも掛かってそうな清潔感。
いったい、地球外生命体さんはどうしてしまったのか。
そんな地球外生命体さんの足にはたくさんの兵士がしがみつき、ズルズルと引きずられている。
いったい、地球外生命体さんは何をやらかしてしまったのか。
まあ、何でもいいか。
「取り合えず、他人のフリをしておこう」
「それが良さそうなのじゃ」
関わったら面倒なことになるのは間違いない。
チラッ。
あっ、いかん目があった。
ペコリ。
あっ、会釈した。
なんて礼儀正しいんだ。
それでも、巻き込まれたくは無いので、会釈だけ返すと見なかったことにしてお店の方へと戻った。
が……。
「ムガー」
なんと地球外生命体さんは俺たちのお店にやってきた。
もちろん、たくさんの兵士を引きずったままだ。
兵士たちは、地球外生命体さんの説得を続けている。
「よ、よーし、そのまま動くなよー」
「大人しく、引き返して街の外へ出ていくんだ」
しかし、地球外生命体さんは我関せず。
俺を見ながら、芋を指さし身ぶり手振りでなにやらジェスチャー。
「ええーっと、芋が欲しいのか?」
「ムガー」
「しょうがないなあ。でも、少しだけだぞ? これは売りモノだからな」
干し芋を数枚ほど掴んで地球外生命体さんに差し出す。
「ムガムガ」
しかし、地球外生命体さんは受け取らず首を横にふる。
更には両手を広げて見せた。
「えっ? もっとたくさん寄越せって? いや、だからこれは売りモノで──」
なんとか地球外生命体さんに分かってもらおうと奮闘していると、兵士が横やり入れてくる。
「おい、芋ごときくれてやれ。そいつの機嫌損ねたらどうなるかぐらい分かるだろ!」
「むっ。芋ごとき……。だと……?」
ちょっとイラッときた。
「ああ? 気にさわったのか? まあいい。どうせ、はした金だ。それなら、ウチで買い取るから全部くれてやってくれ」
「断固拒否する!」
「はっ? 同じことだろう!?」
知らん。
芋をバカにする奴らなんて滅びてしまえばいい。
にらみ合う俺と兵士。
「ムガムガ」
地球外生命体さんは、そんな俺と兵士の間にさっと右手を差し込み、ふるふると首を振った。
そして、反対側の手をポケットに突っ込み小さな皮袋をつまみだすと俺によこす。
「ん? えっ? お金じゃないか」
「ムガー」
「そうか、芋を買いに来てくれたのか。それなら話が早い。これだけあれば、全部持っていって構わないぞ」
ウエストポーチから大きな布を取り出して、それで芋を包んであげる。
「ムガ!」
すると一つお辞儀をして包んだ芋の山を両手で抱えた。
そして、地球外生命体さんは再び兵士を引きずって歩き出した。