Ты знаешь, я всегда рядом 2
「ああ、ちょっとそいつの身分証とか押さえて写真とっといてくれる。どうもタチ悪いストーカー野郎みたいだからさ。こっちの身内に写真晒すから、今度同じことしたらやばいことになるよって、そう言っといて」
低く素っ気ない声で誠君は言った。
電話を切ると「桐絵、送るから乗って」と、また私の背中にそっと手を当てて、乗ってきた車の方に歩き出した。
相変わらず誠君の顔つきは険しく、いつもと別人みたいだった。
誠君たちの銀色の車は私でもわかるドイツ製の高級車で、中にはもう一人、夜なのにサングラスをかけた黒いスウェット姿の男の人がいた。
「誠さん、お疲れっす。大丈夫すか?」
「うん、そこの大学の寮までこの子送ってから行こう」
誠君はサングラスの人に言うと「桐絵、悪いけど俺、仕事行く途中だったんだ。桐絵の携番教えといて、あとで電話するから。俺が電話できなかったら真理から電話するから、真理のも教えとくよ」と言った。
それから、まだ気が抜けたようになっている私の携帯を「貸してな」と手にすると、自分と真理さんの番号を教えてくれた。
ハーフパンツの男の人も車に戻って来た。
「誠さん、あの野郎一応、放流しました」
「よし。じゃあ車出して。桐絵、ちょっとだけキモい写真見せるぞ。こいつの顔、知ってるか?」
誠君はさっきの男のらしい写真を見せて来た。
男の顔は誠君のパンチのためにちょっと腫れている。でも全然知らない人だ。
二十代くらいで面長で暗い感じ。
身長は高めだけど中肉で、鍛えた感じでもなかったな。けれどさっきは腕を回されて逃げ出せなかった。
「やっぱり知らない人」
「一応、こいつの名前とかも押さえたから。今日はこれくらいしかできないけど、ここら辺は時々通るし俺らもパトロールするから勘弁してくれよな。こいつのことはまた、ちゃんと話そう」
さっきまでとは全く違って、いつもの調子で誠君は言った。
「うん、ごめん。助けてくれて、本当にありがとう。みなさんも急いでるのにすみません」
「いいんすよ」
サングラスの人が言って、間も無く車は寮の前に着いた。
「じゃあ桐絵、遅くに出歩くなよ」
誠君が言うと、銀色の車はそのまま滑るように走り出して行った。
ぼーっとしたまま、私は寮の部屋にたどり着くと、抱きつかれた感触が気持ち悪くて、すぐにお風呂に入った。
その夜遅く日付が変わる頃になって、真理さんから電話がきた。
電話の向こうは音楽が聞こえて賑やかで、真理さんはキャバクラの仕事の途中で時間を作ってくれたみたいだった。
「桐絵ちゃん、誠に聞いたよ。怖い思いしたよね。怪我しなかった、大丈夫?」
「うん、平気。でも誠君たちが来なかったら逃げられなかったかもしれない。すごく怖かったよ」
「そうだよね。明日そっちに行くから会おうよ。学校の後で、ね」
「いいの真理さん、仕事は?」
「明日は遅出だから平気なんだよ。交番にも寄ってさあ、パトロール頼んでおこうよ」
「ありがとう」
「今晩寝れそう?もし思い出して怖くなったら、いつでも電話くれていいからね。仕事はもうちょっとで終わるし、私まだまだ全然起きてるから無理しないでよ」
「うん、本当にありがとう」
真理さんの言葉はすごく心強かった。
誠君は真理さんに私のこと頼んでくれたんだ。
やっぱり忙しかったんだなあ……それなのに。
心の中でまた誠君に感謝した。
次の日放課後に真理さんと会って、二人で近くの交番に向かいパトロールを頼んだ。
「友達が自分の名前を知っている怪しい男に後をつけられて、抱きつかれたんです。大声で叫んだら、近くを通りかかった人たちが助けてくれたけど男は逃げてしまって……」
真理さんが切り出してくれた。
男の見た目とか色々聞かれたけど、誠君が車で見せてくれた写真が記憶にあって役に立った。
誠君たちは男に『軽く説教』したけど「そこら辺は私は知らないから」と真理さんは言ってスルーした。
その後「お茶しようか」と真理さんは言って、一緒に街に出てカフェに入った。
「桐絵ちゃん、このこと良史亜には言ったの?」
そう言われてキュッと胸が痛んだ。
「それはまだなの。また心配かけるし、それを考えたら、なんかうまく話せる気がしなくて」
私は正直に言った。
「でも、黙ってるのはかえって良くないよ。かと言って良史亜の性格からしてLINEとかで収まる話じゃなさそうだ」
「うん。あの……真理さん、良史亜に話すとき一緒にいてくれない?」
「桐絵ちゃん、叱られそうで怖い?私はいいよ。でも良史亜って熱いし厳しいことも言うけど、結局誰よりも一番優しいからだと思うよ。桐絵ちゃんの方が付き合い長いから、その辺りはわかるでしょ」
「わかってはいるの。でも今回は誠君が来てくれなかったら本当にまずかった。だからなんかレベルが違うって気がする。だから、……」
言ってて自分で混乱してきてしまった。
また良史亜を心配させてしまう。
でもそれ以上に私が気にしているのは、彼が自分を責めることだった。
「いいよ、桐絵ちゃん動揺しないで。それなら誠も一緒の方がいいんじゃないの?」
「ありがとう、真理さん」私は頭を下げた。
それにしても気になることがある。
「誠君て、どうしてあの時あそこに居合わせたんだろう?すごい車に乗ってた」
銀色に光る高級車を仲間の人に運転させていた誠君。
「それはさ、色々話すと私が誠に説教されちゃうけど。誠は仕事であちこち回ったり、人に会ったり夜中でもしてるの。行動範囲が広くなったから、あの車も最近手に入れて仕事で使ってる。誠もあれですごく桐絵ちゃんのこと気にしてるんだよ。だから運命が味方した、そう思っていいんじゃないかな」
運命が味方したの、か。
こんな風に助けられるなんて、すごい偶然だよね。
「けど、私ほんとは誠に今の仕事、あんまり深入りしてほしくないんだよなあ」
そう真理さんが言った。
私、誠君の生活って全然知らない。
あの時も、見た目怖そうな二人の男性と一緒だったし。
知りたい、誠君のこと。
真理さんは、いつから誠君のこと知ってるのかな。
「あの、真理さんと誠君ていつから付き合っているの?誠君て前は違う仕事してたの」
「付き合い出したのは、誠が良史亜のとこで暮らすようになった頃から。だけど、その前から知っていたの。誠って超売れっ子のホストだったから」
「え、ホストだったの?」
女性の相手をして、お酒を付き合ったりするホストを誠君がやってたの。
自分のことマコ爺なんて言って、飄々と笑ってる誠君が。
「そう、有名な人気店のナンバーワン。イケメンでみんなが会いたがる、話したがるって有名だった。誠が働いてた店に私も行ったけど、その頃はもう簡単に指名できるような相手じゃなくて、ものすごい売れ方してた。時計に車にマンションまで、なんでもプレゼントされてたよ」
そうだったの。
誠君はかっこいいし、でも近寄りがたくなりそうな気持ちをさらっと優しく払ってしまうのを私はわかっている。
良史亜の家から送ってもらったあの日のことを思い出した。
気さくで一緒にいると自然と楽しくなって、それでいてどこか憧れる気持ちにさせられる誠君。
それって、女の子の扱いに誠君が慣れているからなの?
「でも誠は急に引退しちゃって、車とかも全部売っちゃって、しばらく消えてしまったの。それで、私が次に会えた時はもう今の仕事に関わるようになっちゃってたんだよね」
そう残念そうに真理さんはいった。