Можешь рассчитывать на меня 3
鏡に映してみると、色のせいか足がすっきりして見える気がした。
「お、似合う似合う」
誠君が隣に立って手放しで褒める。
そうして結局三足も靴を買ってもらった。
「誠君ありがとう、でもこんなに悪いな」
「悪くないない。桐絵によく似合ってるし、爺ちゃん枠最高だなあ。これから俺のことマコ爺って呼んでいいぞ」
誠君はずっと楽しそうなので、つい私もいい気になってしまう。
「マコ爺かあ」
それから二人で電車に乗り、私の住んでいる寮のある駅で降りると、小さなイタリアンレストランを見つけた。
店からはチーズの焼けるいい匂いが漂ってきて、急にお腹も空いてきた。
「ここ小ぢんまりしてるけど、なんかうまそうじゃない」
誠君が言って、そのお店に入った。
メニューを広げて一緒にあれこれ迷って、ブラッドオレンジジュースとサラダと、肉料理とパスタを注文して誠君とシェアして食べた。
運ばれたサラダやパスタを誠君が綺麗な手さばきで器用に取り分けてくれる。
右手の中指に銀の指輪をはめたその手に、私は目が吸い寄せられる。
見つめてしまったのがバレないかな、と思いながら言った。
「誠君、取り分けすごく上手だよ」
「昔やってたバイトのお陰だな。それに俺、割と女子力もある方なんじゃないか」
「ワインとかは飲まないの?」
「昔は飲んだ。でも今は普段酒はあまり飲まないんだ。飲みそうに見える」
「うん、強そうな気がしたけど」
「仕事の付き合いでは飲むけどね。桐絵悪い、タバコ一本吸っていいかな」
「いいよ。一本だけね」
そう言うと誠君はタバコを一本抜き出し、ジーンズのポケットから取り出した銀のライターで火をつけた。
少し目を細めて誠君はタバコを吸い、白い煙が立ち上る。その様子を私は見つめていた。
私、タバコって好きじゃない。
吸ってる人をかっこいいとも大人だとも思ったこと、ない。
良史亜はタバコを吸わない。
でも、こうして美味しそうに吸っている誠君を見てると、何だかずっと見ていたくなる。
「桐絵は寮で飯作ったりもするのか?」
「うん、休みの日に友達とお金出し合って、カレーとか鍋したり、たこ焼きもするよ」
「いいね、それ楽しそうだな」
そう言った誠君の長い指が口元に運ばれると、中指の指輪が鈍く光ってまた白い煙が流れる。
何だか、今日は誠君とデートしてるみたいな気がしてくる。
ただし私がそう思ってるだけでね、とすぐに自分に言い聞かせる。
これは錯覚だからねって。
「うん。でも今は夏休みだから、みんなほとんど実家に帰ってるけど」
帰る場所がない私は、部活で残ってる友達と過ごしたり、高校時代の友達と会ったりしている。
実家に帰るとか、お盆に家族揃ってお墓参りをするとかって、どんな感じだろう。
長いお休みはまだちょっと苦手だ。
大学の勉強が進んだら、病院でのアルバイトもできるから、これから長いお休みにはアルバイトをするつもりでいた。
白い煙の向こうから誠君は私の顔を見ていた。
「暇ならまた良史亜も一緒に飯食おうな。そうだ、今度車借りてドライブするか。真理が休みの時でも」
「えー、本当に。行きたいな。よろしく誠君」
嬉しくて遠慮なくそう言うと、誠君は優しい笑顔を向けてくれた。
食事の後店を出るとあたりはもう暗くて、寮の近くまで誠君は送ってきてくれた。
寮の建物が近づいたとき、視界の向こうの路上に、夏なのに薄手のコートを羽織った怪しい人影を見かけた。
中年の男の人みたいに見えるけど、寮の建物を撮影しようとするように携帯電話を向けている。
歩調を緩めた誠君が「何だ、あいつ?」と小声で言った。
その時横道から、髪が長くて白いブラウスと短めのフレアスカートを履いた女性が一人で歩いて来た。
男の人は女性にちょっと目を遣ると、携帯を覗き込むそぶりをしてやり過ごした。
でもその後ゆっくり歩き出して、女性の後ろをついて行った。
すごく怪しい。
誠君も唇を引き結んで、また静かに歩き出した。
そのまま道の曲がり角まで来た時。
「桐絵はここに居て」
そう言って急に誠君は一人走り出して角を曲がった。
ほとんど同時に角の向こうから女性の悲鳴が聞こえてきた。
驚いて私が走って角を曲がると、誠君がさっきの中年の男の人を羽交い締めにしている。
「なんです?私あの人に何もしてませんよ」
さっきのコートの男が目線を泳がせながら焦った口調でつぶやいた。
「こいつ何言ってんの?あんた、早く警察呼んで!」
誠君がフレアスカートの女の子に言っていた。
コートの男はどうやら変質者で、さっきの女の子に向かって露出したみたい。
コートの男は交番から駆けつけた警察官に連れていかれた。
「びっくりした。怖いなあ」
「マコ爺、変態一名確保。今日は俺がいたけど、桐絵は一人で夜遅く出歩くなよ」
そう誠君に釘を刺された。
春先から、時々変な人が出るとは聞いていたけど、今日初めて遭遇した。
もし一人だったら、と思うと怖くなる。
「ここは大学の女子寮って周りにバレているもんなあ」と誠君。
「うん。でも、気をつけるから」私はちょっと弱気に言った。