Ты знаешь, я всегда рядом 5
パーティの日から、あわただしく毎日が過ぎて年末になった。
真理さんは福岡の実家に帰省し、良史亜と誠君と私は、良史亜の部屋で年越しをすることになった。
「僕と誠で準備するから、鍋でもして年越し蕎麦も食べよう」
電話で良史亜が言った。
「うわあ、楽しみ!私も一緒に準備したい」
嬉しくて気持ちがはしゃいだ。
大晦日に駅で待ち合わせた良史亜と誠君もテンションが高い。
「一応大掃除も済ませた」と誠君。
良史亜も携帯を手に「リスト作ったし、買い物行こう」と、三人で商店街に繰り出した。
鍋の材料やお餅や、お蕎麦だのお菓子の買い物をする。
部屋に向かう途中で誠君の携帯に電話が入り「ちょっとだけ、人と会ってくる」と抜けて、私と良史亜は先に部屋に戻った。
2LDKのアパートの部屋は、玄関扉にちゃんとしめ縄飾りを掛けてある。
室内は片付いてサッパリしていて、ちょっと広く感じる。
律儀に鏡餅も飾られて、正しいお正月ぽい。
「誠さあ、福岡の真理ちゃんの実家に遊びに来ないって言われたのを断ったらしいよ」
「そうなの?どうしてなんだろ」
暮れからお正月にかけて実家に呼ばれるって、やっぱりお付き合いが深いっていうことなんだよなあ。
そう考えずにはいられない。
「仕事の関係で今はここを離れられないって」
「えー、真理さん残念がってたでしょう」
「そりゃ例によって軽く怒ってた。さすがに誠も手土産持たせて空港まで送ってフォローしてたよ」
「彼氏としてそこは当然だよ。真理さんいつも誠君に優しいもん」
私が言うと、良史亜も笑ってうなづいた。
「誠君、お正月とか関係なくお仕事あるんだね」
「多分動かなくて済むと思う、とは言ってたよ」
キッチンで鍋の支度をしながら良史亜と話した。
「良史亜は会社、三が日お休みにしたの?」
「そうだよ、今年は休日にした。だから初詣も行こうね」
いつも忙しい良史亜が、今日は特別に余裕を感じる優しい口調で言って私はまた嬉しくなった。
少しして「あー、寒みー」と言いながら誠君も帰って来た。
「いやあつい買ってきちゃった、お土産」
何かの包みを持っている。
「それって、もしやお寿司?」
「そうそう。年末だし、こんくらい贅沢しようぜ」
誠君はニコニコした。
鍋も整い、ご飯を食べながらバラエティー番組を見たり紅白歌合戦を見たり、お喋りしたりで夜は更けていく。
本当に二人の兄さん達と兄妹で過ごしているみたい。
テレビのカウントダウンに合わせてジュースで乾杯し、三人で新しい年を迎えた。
「明けましておめでとう」
その後も楽しくってみんな勢い付いて、結局夜中に近所の神社に向かい初詣に出かけた。
「寒いねえ」
「結構並んでるね」
そう言いながらお参りの人達の行列に加わり、二時頃アパートに戻って来た。
「桐絵はこっちの布団で寝なさい」
良史亜が奥の方の部屋に布団を敷いてくれた。
誠君と良史亜は居間に置いた炬燵ともう一組の布団で休むという。
「寒くないか?」
「うん、大丈夫」と良史亜に答えた。
「じゃあ、桐絵おやすみー」
隣の部屋から楽しげな声で誠君が言って一瞬胸がキュッとなる。
「おやすみ誠君、良史亜おやすみ」
ちょっとの間ドキドキしていたけど、急激に眠気がやって来てそのまま眠ってしまった。
一月の半ば過ぎの日曜日。
これから住む部屋の候補を絞って、良史亜といくつか内覧した後で彼の部屋に来た。
「誠も、来週にはここを出ることになったよ」
「ついに引っ越しちゃうんだ」
「もっと中心街寄りのとこにね」
「良史亜は誠君が出た後も、ここに一人で暮らすの?」
「うーん、どうかな。もともとは一人だったけど、二人から一人になると、ちょっと寂しい気もするね。僕も会社の近くに引っ越そうかな。移動も楽になるし、桐絵に何かあってもすぐに行けるように」
背を向けてキッチンでコーヒーを淹れていた良史亜はそう言うと、マグカップを運んで来てくれた。
私たちはローテーブルを挟んで向かい合わせに畳の上に座った。
この部屋は駅から少し離れた住宅地にある。
昼下がりの今は近くの公園で子供が遊ぶ楽しそうな声がする。
窓越しに、お父さんやお母さんと一緒に散歩しジャングルジムやブランコで遊ぶ子供達の姿が見えた。
幼かった頃の私にも良史亜にも無縁だった、安らかで優しい世界が窓の向こうにある。
小さい頃の私は良史亜を実の兄と思い込んで、いつも付いて回ったっけ。
そんな私を良史亜は一度も邪魔にすることはなくて、遊んでくれたし手をつないで一緒に歩いてくれたな。
いつからか、手をつなぐことはしなくなったけど、兄妹のような距離感は変わらない。
古い記憶を辿りながら言葉もなくローテーブルに向かってコーヒーを飲んでいた。
やはり無言の良史亜がコトンとテーブルにマグカップを置いた。
「僕は桐絵のそばに居たい。守りたいといつも思ってる」
そう呟くように優しく良史亜が言ったので、私は目をあげて彼を見た。
良史亜も、やはり昔のことを思い出していたの?
「けれど今の僕にはなかなか、それができない」
言葉をつないだ良史亜は静かに右手を伸ばすと、私の左頬に触れた。
頬に触れた良史亜の手はマグカップの熱の余韻で温かい。
その指が私の髪をすくって後ろに梳いた。
そうしながら少し寂しげに揺れるような良史亜の瞳が私の目線を捉えると、胸の鼓動が急に速まる。
私はぎこちなく言った。
「そんなこと、……ないよ。良史亜はいつも私のこと考えてくれてるもの」
「桐絵、違うんだ。ほんとうは僕は、……」